愛されていないわけじゃない
そんなの、あたしは知らない。親がどんな思いであたしを育ててきたか、そんなのは知らない。
あたしを人形のように可愛がっているんじゃないのか。思い通りにできる玩具にしたいだけなんじゃないのか。ずっとそう思ってきた。あたしのために辛いこともできるとか、そんな素振りを一切見せなかった。ずっと抑えてきたのか。本当に? あたしに何不自由なく暮らさせるために、敢えて悪役を演じてきたのか?
「親ってね。黒江さん。子どもに無償の愛を捧げることができるんだよ。悪いことばかりが浮き彫りになっているかもしれないけれど、本当はそっちの方が大きいんだ。この子はみんなとは違う、だから不安で仕方がないって思う親もいる。でもそれがどうしたの。みんなと違うからって、自分の子どもは誰よりも愛しいはず。愛されていないと感じるなら、一度訊いてみるといい。何を言われても、あなたのことを気にしているはずだからね。もしあなたのことが憎くて堪らなかったら、あなたはここにはいないよ」
プーは大人なことを言う。実の年齢はあたしよりもずっと上なのか。だとしたらあたしはこいつを兄のように思っているのかもしれない。いつもならムカつくはずなのに、心がぽっかり温かくなって、目頭が熱くなって、どうにもできない感情が溢れ出しそうになる。
こいつならあたしのことを理解してくれるって、希望のようなものまで。
愛されていないわけじゃないんだ……あたしは。
そうか。それに気づけなかっただけだったんだな……。
「タオルが必要かな?」
「いや……大丈夫だ。あたしは人前では泣かないようにしてるから」
「そう。もう必要ないかな」
「何がだ?」
「内緒だよ。さあ帰ろうか、あなたの家に」
「ああ……ありがとな、プー」
あたしはコーヒーを飲み干し、コーヒーカップをテーブルに置いて立ち上がった。
プーも立ち上がって、ニコッと笑った。
「どういたしまして。ぼくはプーじゃないよ、黒江さん」
「お前こそ。黒江さんじゃないぞ。飛香だ」
「やだよ。名前で呼ぶなんて。面倒なことになる」
「なんだとっ!」




