深海の生物、誰も知らない国のモノ
「だが、深海八四〇〇m以降は生物がいないとか書いてあるぞ?」
「あのねえ……」
何か言いたげにプーは眉を顰めた。そんなにあたしと話すのが疲れるのか。あたしは至って常識的なことを訊いたが、こいつにはどんな質問も面倒に感じるらしいな。
「生物だよ。ぼくは深海の生物。人間の形をしているけど、本来は深海色の生物なんだ。人間たちはぼくらの国には入れないから、ぼくらの国のことは知らない。当然、誰に話しても知らないわけだよね。あなたが知らないのも必然」
「そうか……それでどんな生物なんだ」
「それを訊くの?」
「なんだ。訊かれて困ることか?」
「いや……ぼくの姿はあまり口外しないつもりなんだけど。訊いても後悔しないのなら、教えてあげてもいいよ。後悔しないのならね」
「やらない後悔よりやる後悔派なんだ、あたしは。どんと来い」
胸を叩いてあたしのたくましさを披露する。だが、プーはあまり気にかけなかった。
あたしのことには興味ないのか? 嫌いなら仕方ないか。でも、好きと嫌いは紙一重ってよくいわれているだろう。だったら、こいつはあたしには無関心なのか? なんの興味も抱けないような人間なのか、あたしは。腹立つな。
「そう。なら紙とペンを用意して」
「そんなもん自分で用意できるだろうが」
紙とペンならそこら一帯にいっぱい転がっている。自分で取って描けるだろう。人に頼むことでもないような気がするが。
「ん」
プーは手を差し出す。あたしに有無を言わせないつもりだ。人をなんとも思わず使おうとするところとか、やっぱり王様だな。こいつ絶対、人使い荒い奴だ。
「ったく、仕方のない奴だな。ほら、描け」
あたしは紙とペンを取って、プーに渡した。プーはそれを受け取って、でかい机の上で絵を描く。色ペンまで使ってお絵描きの時間だそうだ。お子ちゃまだな。
「こ、こんな感じ……」
完成させると、プーは目を伏せて紙を突き出した。強引に渡された紙を見る。
青と緑と紫のような色が混ざった髪色と瞳。まさしく深海のような色合いをしている。




