第十話 魅惑的な誘いは断ってもやってくる
さて、私ティアは現在、アルトを尾行中。あの、朴念仁に春が来たとか聞いたらいかなきゃいかんでしょこれは。それにしてもあんな子が好みとはねえ、ちょっと意外だったわね。朝弱いみたいだし、それにしてもあの二人は何をしてんの?
「ま、いっか、さてさて、この旅が終わる頃には進展してるといいな~。っと、またメールだ」
内容はわかってるから見ないけど。どうせ、カイトが戻って来いって言ってるの。こっちの方が面白いから、戻んないわよ~。
「ん? あれ、あの二人は一体どこに?」
ちょっと目を離した隙にいなくなっていた。テントはまだあるから、そう遠くには行ってないはず、だけど、この辺りにはいない。近くの川にでも、水を汲みに行ったのか?
「もしかして、気づかれた?」
あのアルト君も、ケイン君も妙に鋭いからな~。もしかしたら、気づかれたかもしれないな~。でも、まあ、大丈夫でしょ。私は今完全に消えてるんだから。見えるわけない見えるわけない。
「そんなわけない、ない」
その時何かが私の横を掠めた。
「!?」
それに気を取られて反応が遅れた。
「てやあああああ!!」
「うわあああ!?」
「って、ええええええ!?」
****
「うぐ……」
「きゅ~~」
隠れているティアさんにナイフを投げて気をそらすまではよかった。だが、そのあと飛び込んだら、まったくティアさんの反応が遅くて、勢いよく激突してしまった。
「うぅ~、いった~い!」
「つう、大丈夫ですか?」
「うん~。まあ、なんとかね~。これくらいでへこたれる体してないし」
そうか、それは良かった。怪我させたらどうしようかと思った。
「ほう……」
ん? 何だこの殺気は? 振り返ると、なにやらよくわからないオーラを纏ったケインがいた。明らかに何かキレている。何でだ? 僕は何かやったか? やったことといえば、ティアさんに突っ込んだことだが、それも作戦のうちだ何か問題があったのだろうか? 考えてみる。癖で、手を動かした。何かやわらかいものを掴んでいた。
「あん♪ もう、過激なんだから♪」
「うわああああ!?」
よくわかった。ケインがオーラを纏っていた理由がよくわかった。ティアさんの言葉で全部わかった。把握した。一瞬で飛び退きましたよはい。
「ご、ごごごごめなさい!! そしてケイン事故だ!! 断じて故意じゃない!!」
「恋じゃないだと、だったら遊びだったのか!!!」
「そっちの恋じゃない!!」
クソ、ダメだ。この様子だと、ケインはまったく話を聞きそうにない。
「? なに、ケイン君は私の胸触れなかったから怒ってるの?」
あの、ティアさん。この場でその発言はかなりまずいのでは。てか、僕にはわかりませんよ。
「そっか、なら、触る?」
「…………」
「…………」
時間が止まった。マジデ時間がとまった。いや、ただ単に、時間が止まったと思っただけなんだけどね。しかし、良いことにケインのオーラが収まった。
「どうするの?」
「…………」
ケインが黙っている。まさか、ここは行くのか。行ってしまうのか!?
「え、遠慮します」
ケインが顔を真っ赤にして言った。
「結局遠慮するんかい!!!」
どんだけ純情なんだよ!! いや、そうじゃない。別にさわることを強制しようとか言うんじゃない。だが、ね、ここまで来たらって、期待している人たちがいたかもしれないじゃないか!! てか、そのなりで純情キャラって気持ち悪いんだよ!!
「う、うるせええ!! こういうことには順序というものがなああ!!」
知るかあああああああああ!! 散々僕に言っておきながら自分はそれかこの野郎。ここで殺してやっても良いんだぞ。まったく。
「はあ~」
「まあまあ、私は純情君でも好きだけど」
「あなたは黙っててください!!」
ティアさんもさすがに黙った。これ以上話をややこしくしないでほしいよまったく。
「はあ、とりあえず、ティアさんは帰ったほうがいいんじゃないですか?」
仕事だってあるだろうし。絶対誰にも断りを入れていないはずだ。だから、帰ってもらわないと。こっちもあの人のテンションにはついていけないし、この人といるとたぶん金が飛ぶ。
「い・や♪」
「そんな可愛く言ってもダメです」
「むう、アルトは真面目だな~。真面目な君にはお仕置きだあ!!」
「むぐあ!?」
「アルト、てめえー!!」
「ふふふ、どう♪ 嫌でしょ♪」
なにやらカオスなことになっている。さて、今僕がどういうことになっているか。答え、ティアさんの谷間に埋もれてます。息苦しいやら、いい匂いやら。気が変になりそう。
「って、やめ、ぶは! ちょっ、ま!!」
「ほらほら~♪ 往生しなさい♪ ふふふ」
「うらやましすぎだー!!」
「なら、やってみる?」
「遠慮します」
ケイン!! どんだけだよ。変わってやるよ。というか変われ。死ぬ!! いや、気持ちいいけど! それとこれとは話が別だ。死ぬ。柔らかいけど!! でも、死ぬ、いい匂いだけど!! って違う!! そうじゃない。何とか離れないと!
「は、離し「ダメ~」むぐあ」
や、やばい、本格的に目の前が…………。ああ、僕の人生短かったな。………………。ってあれ? 死なない? どうして?
「ふふふ、可愛い後輩を殺すわけないじゃない♪ 魔法で酸素を送ってるのよ。というか、この世界ゲームだから、実際に私たちが酸素を吸って呼吸してるわけじゃないから、酸素が必要かというとそうでもなかったりするのよ。この辺りカイトに聞いてね」
何を言ってるのかわかるような、わからないような感じだったが。まあ、窒息しなくて一安心だ。って、よくねええ!! この状態が続くのが物凄いまずいじゃん! 離して欲しい。いや、離されたら離されたで、恋しくなるのかもしれないけど、けど!! 離して欲しい。
しかし、ティアさんは離してくれない。
「ん~、やっぱちがうのね~」
何がとは聞かなかった。というか、まるわかりだし。わからない人は番外編じゃなく本編を読んでね。