第九話 本気のストーカーって案外見つかりやすい
「…………名前はカミにする」
歩いているとカノンが言った。たぶんあの子供狼の名前だろう。しかし……。
「それは、なんかダメと思う。狼にはちょっと荷が重いと思う」
「…………なぜ?」
なぜって、そりゃ。それじゃ、神だよ。確かに狼の神様はいるけどさ。今はまだ、子供だ。いずれは大きくなるにしても、それはないと思うのですよ。
「壮大すぎるよ。これから、飼うのならもう少し、親近感が湧きそうなのがいいんじゃないかな?」
「…………そう」
カノンはうつむいて考える。頭の中では一体どんな名前が挙がっているのだろうか。
「しっかし、あれだよな~。まさか、モンスターが人になつくなんてな」
ケインが言った。
「確かにそうだな。モンスターを倒して仲間にしたって話はあるけど、こういう事例はないんじゃないか」
掲示板を調べてみるが、やはり僕達のような事例はなかった。掲示板で言ってみたら、珍しいとか何とか言われたな。まあ、いいか。こういう、人の仲間になったモンスターはかなり役に立つ。主人には忠実で、戦闘では一緒に戦ってサポートしてくれたりする。今は子供だが、成長すれば頼もしくなるだろう。
「ないな。検索してみたけど。こんな感じだ」
「なるほどな」
モニターをリンクさせ、ケインに見せる。ケインは上から下まで、ざっと見てモニターを閉じた。
「で、名前どうするんだ?」
「今、カノンが決めてるよ」
「さっきのもあるから、お前が考えたらどうだ?」
それもそうなんだけど、嬉しそうにしてる(見た目は無表情でわかりにくい)カノンを見たことはない。まあ、短い付き合いだけど。だから、尊重してあげたい。
「ふ~ん、まあ、お前がそう思ってるなら、いいけど」
「まあ、いまは進みながら考えるのが一番だろ」
「だな」
グレイ山脈まだ、まだまだ、遠いんだからな。
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一日目は結局野宿となった。まあ、キャンプ用具は持ってきてたから、安全に野宿できたから、良いけど。やはり、朝が弱いカノンは中々起きなかった。
「アルト、気づいてるか?」
カノンを何とか起こそうとしていると、ケインが神妙な顔で言う。
「ああ」
向こうにある茂みから誰かがこちらの様子を伺っている。
「あれって、あの人だよな」
「たぶんな」
そっと、そちらの方を見る。何もないように見えるが、よく見ると、あの辺りだけ、風が吹いてもいないのに、木葉がはためいている。つまり、あそこだけ人為的に風が吹いているということ。風を利用して、光を屈折させて擬似光学迷彩をやっているのだろうが、よく見ればわかる。
「あの人だな」
「お前もそう思うか」
というより、あんなことが出来てかつ、僕達についてきて利益があるのはあの人くらいしかいない。
「ああ、ティアさんだな」
まったくあの人は何をやっているんだが。大方、ルイさんが言ったのだろう。それ以外に考えられる人は居ないし。あの人とケイン以外には何も言わずに出てきたからな。ケインはここにいるから除外できるし。もうルイさんしかいない。あの人、余計なことを。
「なあ、良い機会だ、脅かそうぜ」
「おいおい、僕たちじゃ無理だって」
物凄いやってみたいけど。
「そういいつつ、本当はやりたいんだろ」
「まあな」
「よし、じゃあ、やろうぜ」
僕達はあのティアさんに一泡吹かせるため、行動を開始した。