第二話 再会
ギルド本部のある港街シュレイディークに戻ると同期のケインはもう戻って酒をがぶ飲みしていた。ケインは髪は金髪で顔もまあまあ、いいんじゃないかな。このグローリアで初めてあった人間。サバサバした性格でまったく細かいことを気にしない。カイトさんたちにも遠慮なく物を言う。ある意味大物なやつだ。僕の一番の親友でもある。得物は巨大な大剣。なというかどこかおっさんみたいな感じがするんだよな。
「よう、アルト遅かったじゃねえか。手間取ったのか?」
「そういうわけじゃないよ」
「じゃあ、なんなんだよ?」
「いや、それがさあ――」
ケインにカノンのこととモンスターに襲われていたことを話す。話し終わったあとそれは失敗だったと悟ったがすでに時遅し。
「お前!!」
声を張り上げるケイン。
「な、なに?」
「バカだ。お前はバカ野郎だ!!」
「おいおい、酔ってるのかよ」
酒樽がニ樽ほど空になっていた。おそらくケインが飲み乾したのだろう。つまり、かなり酔っているということ。というかよく飲めたなそんなに。
「なんで、口説かない!!」
「いや、普通口説くわけないだろう。それにそんな暇なかったし」
名前を聞いたらすぐにどっか行っちゃったし。
「それだからお前はバカなんだ!!」
「じゃあ、どうしろって言うんだよ」
とりあえず酔っ払いに関わりたくはないが聞いておく。今後の参考になるかもしれないし。
「引き止めろ!!!」
「…………」
「…………」
「それだけかよ!!」
確かにそれしかないがそれだけ言って黙らないでくれよ。
「ああ、引き止めてお茶にでも誘えばよかったんだ!! 可愛い子なら俺だってついていった」
「お前の本音はそっちだろ」
「そうだ!!」
無駄に男らしく言い切ったケイン。やれやれ。
「でもまあ、お前から女の話が聞けるとはなあ」
お前は僕のお父さんかよ。なんだその言い方は。
「まあ、がんばれそれなら脈ないし」
「お前は応援してるのか? それとも諦めさせたいのか?」
「諦めさせたい」
「おい」
「なぜなら、俺たちの中でお前だけ幸せになどさせたくないからな」
こいつら。なんて奴らだ。人の幸せくらい祝ってくれよ。
「イヤだ」
即答かよ。まあ、僕も脈はないと思うしいいんだけどね。でも、少し残念だったり。
「それでカイトさんたちは?」
「が~が~」
ケインはいびきかいて眠ってしまった。役に立たない。というか言いたいことだけ言って寝やがったよ。
「たっだいま~」
「あ、おかえりなさいティアさん」
「うん、ただいま~」
「カイトさんたちは?」
ティアさんが帰ってきたってことはそろそろ帰ってくるのかな?
「ああ、今日は帰らないわね~。クエスト受けてたし」
「ティアさんは帰りですか?」
「お酒飲みに来たのよ」
この人にとってそれはもう、どこにも行かないに等しい。きっとこのまま朝まで飲んでいるのだろう。
「アルトものむ~?」
色っぽく言うティアさん。
「い、いえ、遠慮します」
「そう、残念♪ 今度付き合ってね」
「は、はい」
たぶんそれは一生ない。まだ、このギルドに入りたてのころティアさんと飲んだことがある。あの時はなぜかカイトさんたちが全員断っていたから不思議に思っていたけど僕達はそんなこと知らなくて飲んでしまった。それからはほとんど記憶がない。気づいたらほとんど全裸でギルドの床に転がっていた。あとから聞いたのだがティアさんは限度がないらしく酒をいくらでものめるらしいから付き合ったら死ぬとのことだった。その教訓を生かし僕達はティアさんとは二度と飲まないと心に決めたんだ。
「じゃあ、また明日」
「ええ、また明日ね」
ギルド本部を出る。満天の星空が僕を迎える。
「綺麗だな」
現実の星と比べても遜色ない。本当にこのグローリアを作った人はすごいと思う。
「さてと、星なんて見てる暇はないな明日も忙しいんだし。宿屋で一日過ごそう」
本当はマイホームを買いたいのだがまだまだ金がぜんぜん足りない。それに今買うよりは建設中の王都が完成してからのほうがいい。それまでは節約しながら金を溜めないと。
「いつもの宿に行こう」
いつもの安い宿屋に向かう。
・
・
・
「はあ!? 部屋がいっぱい!!」
「わりいな。アルト。なんでか知らねえが今日は客が多くてなだははは、もうかってしかたねえ」
「勘弁してくれよ~」
今から探しても安くていいところは見つからないだろう。ギルド本部はいま近づきたくないし。さて、どうしよう。
「まあ、相部屋ならないことにはないんだが」
「本当か!!」
「まあ、まて、あちらさんが許可すればな」
「聞いてみてくれ!」
「なら、待ってろ」
よしこれで何とかなるかもしれないぞ。まあ、とりあえず悪いほうに考えておこう。そしたら駄目だったときでも大丈夫だから。あまり落ち込まないですむから。さて、どうなるか。
「いいってよ。一番奥の二人部屋だ。…………まあ、がんばれ」
「? まあ、わかった」
その言葉に深く考えずに僕は言われた部屋に向かった。ノックする。
「どうぞ」
「ん?」
女みたいな声てか最近どこかで聞いたような。とりあえず中に入る。中にいたのは森で出会ったあの少女カノンであった。
「な!?」
「……寝るならそこのベッドで寝て。私はもう寝る」
僕が驚いている間にカノンはさっさとベッドに入ってしまった。
「ちょっと!!」
カノンのベッドのそばに行こうとしたら見えない壁に阻まれた。セクシャルガードだ。
セクシャルガード。宿屋などの一室で男女が一緒に過ごすときは女性の半径1mにはシールドが張られて近づけなくなる。セクハラ防止策だ。女性が許可を出せばそのガードは解ける。これは女性用で男にはない。
「…………し、仕方ない。寝るだけだそう寝るだけ」
とんだ再会もあったものである。再会の喜びにすら浸れぬままベッドに入るのであった。