第二十二話 真実
「じゃあ、まずはあなた達の一番疑問に思っていることに答えるね~」
俺達が一番疑問に思っていることそれは狭間さんがここにいること。百年前の人のはずなのにここにいる理由。
「私は普通の人間とは違うの」
「それってどういう意味ですか?」
「そのままの意味~」
それじゃあ普通の人間ではないということ。だけど普通の人間にしか見えない。
「えっとみんなミッシングリンクって知ってる?」
「いえ」
確か習った気がするのだが覚えていない。
「ヒヒヒ、ミッシングリンクとはね生物の進化を例に乱暴に要約してみると「種族A」~「種族C」に進化する過程で劇的な変化が発生しているんだけどね、その劇的な変化の中間に位置すると推測ができる「種族B」があるよねえ。それがどのような存在であったか、また、そもそも種族Bという存在があったのかどうかすらまったく不明な状態の事や、別パターンとして、「種族C」という存在は確認されているんだけど、それ以前の始祖がどのような形態であったのかが不明なケースなどの事を指すんだよ。ヒヒヒ、わかったかい?」
「なるほど」
人形師にしてはわかりやすい説明だった。伊達に長く生きてはいないな。
「それでそれがどうしたんだ?」
「私は人と神のミッシングリンク。つまり、神は人間が進化した最終形であるならばその人間と神の間にある存在が私たちミッシングリンク。ミッシングリンクには特殊な能力が備わっている」
「神だってそんなのいるわけないじゃないですか」
この科学が全てを証明した時代で何を言っているのだろうか。
「そうだね。私もこれを発見したときは信じられなかっただけどね。でも、私の存在がその証明」
「じゃあ、その能力とやらを見せてくださいよ」
「もう、見せてる」
何を見せているんだ? 何も見せていない。
「私の存在。このグローリアの存在自体が私の力の証明」
「どういうこと? このグローリアの存在自体が証明って?」
アリアが聞く。
「私の力というか体質なんだけど私の脳はね限りなくコンピュータに近いのそれで私自身がコンピュータに接続できる力。まあ、今の世の中じゃ全部機械があれば出来るけど。その機械も私の能力の応用で作られているんだけど」
「…………」
「信じられないよね。私以外のミッシングリンクが生まれないようにしてしまったからもう、私以外のミッシングリンクはいないからこれ以上の説明と証明は不可能。まあ、信じてくれなくてもいいよ~。次に進むから」
狭間さんはそのまま話を進めた。誰もが疑うなかの中人形師だけがニヤニヤと笑いながら聞いていた。まるで全て信じているかのように知っているかのように。
「それでね、私は体を機械に繋げて生きながらえているの」
「機械に?」
「うん、機械に出来ることを人間がするのはおかしいと思うし~」
基本駄目人間だこの人。一体この人みたいな人と付き合ってた人って一体どんな人なんだろうか。きっといい人だったんだろう。なんとなくそう思う。
「私が生きてるのは、とある理由から。100年位前、まだ私が生身で生きていた時代。その時代で隼人君が六道家が発端で起きた事件があった。それは解決したけど大きな問題が残ってしまったの。隼人君の選択によって」
「何があったんです?」
「ねえ、みんなはこのグローリアオンラインって何だとおもう?」
唐突に聞いてきた。俺の問いに答えずに。
「えっと、ゲームでありもうひとつの現実と俺は思います」
戸惑いながらも俺は答えた。このグローリアはゲームでありながら俺たちの中ではもうひとつの現実となっていた。
「そう、このグローリアオンラインというのはもう一つの世界なの」
「世界」
「うん、ここはね、もう一つの世界。ここで私たちはとある計画を進めているの」
計画って。何を進めているんだ。まさか……。
「心配はいらないよ~。むしろこれは人間のための計画~。私たちが100年前に発見したとある存在。それは人間を遥かに超えた知性と人智を超えた力を持っていた。その存在を私たちは神と名づけた」
「神だってそんなわけ」
そんなオカルトがありえるわけがない。
「あるの。ゼロ領域と呼ばれる世界の狭間、心の世界、夢の国とも呼ばれる空間には私たちの想像が及ばないものがいるの。あたなたちには説明しても理解できないし説明も出来ない。だから、神の存在をあの人以外誰も説明できない」
「そんな、その人が嘘をついている可能性だってあったはずでしょう」
狭間さんが首を横に振った。
「ううん、ないよ。あの人は私たちには嘘はつかないよ絶対に」
狭間さんはそう言った。よほどその人を信頼しているようだ。
「そしてその神は人間を滅ぼすことを知った」
「人間を滅ぼす?」
そんなことがありえるのか?
「ありえるの。古の時代より生物は絶滅と繁栄を繰り返してきた」
「それが神の仕業とでも?」
「そう、神は生物が一定の文明を持つとそれを滅ぼし新たな生物を生み出し新たな文明を作り出すの。それはこの星の記憶が教えてくれているって隼人君は言ってた。この星には意思があって神はその意思を生かす存在なの。だから、人間はいずれ滅びる」
滅びるという宣言をする狭間さんはとても真剣だった。
「私はそれを止めるためにこのグローリアオンラインをもう一つの世界を秘密裏に完成させた。南雲君の助けもあったけど100年もかかちゃったけど。時間がないけどそれは順調」
「ちょっと待ってください!! それじゃあ、このグローリアオンラインはただの娯楽のために作られたんじゃないってことですか!」
「そう、このグローリアオンラインは言ったとおりもう一つの世界。人間の滅びを回避するには人間を守る神をつくり育てる必要があったから。それには人間を認識させてその思いに触れさせるのが一番だったから」
「それじゃ俺たちは知らされずに利用されたってことですか」
ただの娯楽だと思っていたけどそれは違った。これは壮大な陰謀だった。それに俺たちは知らず知らずのうちに加担させられていたのだ。
「それについては弁明しない。でも、人間を守るためだから。あなたたちにはキチンと報酬もあげる」
「…………」
どうしていいかわからない。誰かに言ったとしても誰も信じないだろし。
「そしてね。その作っている神というのはこの子」
狭間さんがユウを指す。
「まさか嘘でしょう」
狭間さんが首を振る。全員が驚く。だってみんなユウが人間だと思っていたのだから。
「この子は100年前、私が自作した既存のコンピュータとは理論から違うコンピュータを作ったときに偶発的に誕生した生命体それがこの子」
なんだ、それは。じゃあ、ユウはプログラムなのか?
「ううん。違うよ。プログラムじゃない。もっと別の存在。高校を卒業して南雲君の力を借りて隼人君たちと作り上げたゼロコンピュータを使って初めてその存在を固定できた存在。神にとても近い存在だと私は思ったの。自然に生まれた神と違うシステムによって作り上げられた神。誕生した理由も解析できた。この子はゼロ領域をシステム的に作り出した際に生まれたシステムの神」
「じゃあ、ユウは神なのか? なら、何であんなところにいたんだ。俺たちの前に現れたんだ」
「ここからが、本題。私がこうまでしてやっていることを話すことになる。この子はまだ、完全な神じゃない。まだ、何もしらない赤子。100年かけてまだ、これだけ。だから私たちはこの子に世界を任せることにしたの。このグローリアに住む全ての存在の管理とこの世界の管理をこの子に任せた。そうして人間を観察して人間の愛を絆を文化を、人間がすばらしいものだって知ってほしかったから」
だが、それでは俺たちの前に現れたことがよくわからない。
「あなたたちの前に現れたのは人間に興味を持ったから。もっと知りたいと思ったから。そして、この子は人間を理解した。ありがとうあなたたちのおかげで計画は第二段階へ移行した」
「ちょっと待て! それじゃ、ユウはずっと俺たちを騙してたってことなのか」
「違う。この子は自分のことを何も知らないから。そういう風にしたから。でも、それももう終わり。数百万年の時を生きた神の時代は終わりシステムの神の時代が来る。それはいずれ……だけど、私たちはそれまで生きてみようと思うの」
もう、なにがなんだか意味がわからない。だれか、説明してくれよ。
「ヒヒヒ、もう、ここまで来たのか早かったね~」
「人形師?」
「ヒヒヒ、悪いね。実はワタシは全部知ってたんだよ。彼女にワタシはこの世界の観測者としての役割を与えられていたからね。ヒヒ。君たちは実に面白かったよ」
「な!?」
「ああ、勘違いしてもらわないように言っておくけどワタシは君たちを騙していたわけじゃないよ。誰も聞かなかったから言わなかっただけだよ」
こいつ、いや、どうせ聞いていたとしても答えなかっただろう。
「彼をせめないであげて。ふう、こんなに長く話したのは久しぶりだな~。さてと、もう少し話しておきたいけどここまで。最後に一つだけ。このグローリアは所詮夢なんだよ。いずれ終わる日が来るの。本当に終わる日が……」
そして狭間さんが何かの制御版を操作する。
「君たちのこれまでの記憶を消させてもらう。そして、この子のことも忘れさせる。ごめんね。でも、ありがとう。この子をここに連れてきてくれて。本当にありがとう」
「やめ!」
やめろという前に俺たちの意識は闇へと沈んだ。
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「ヒヒ、本当によかったのかい」
「うん、彼がそうだとしても。私には殺すことなんてできないから」
「知らないよ。どうなっても」
「大丈夫。きっと」
人形師は笑う。
「その自信はどこから来るんだい?」
「信じてるから。この子を」
「そうかい。じゃあ、ワタシも帰るかね~ヒッヒッヒ~」
人形師は街を出て行った。
「ふう~、ごめんねみんな。私にはこれしか出来ないから」
狭間とユウは消えていった。
遂にここまで来た……。遂に本編終了まで漕ぎ着けました。
はい、次回エピローグです。
戦闘を期待していた読者の皆様本当に申し訳ありません。