第十八話 雪山の魔女
あれから二日、カイトの行方はわからなくなった。私たちはガンツと別れ目的地であるユーニヴァスコノシェンツァに向かっていた。今は雪山を登っている。その上にあるという噂らしい。シュリは雪山の前で別れた。本人はついてきたがっていたが仕方ない。リュートたちはおいて来ている。上空からでは何も見えなかったから。カイトが死んだという記録はどこにもない。なのに連絡はつかなかった。
私たちを暗い雰囲気が包んでいた。リーナはリーダーとして振舞っているけど辛そう。うるさいティアだって今は静かだ。バカなトミーはいつもは見せない真剣な表情。コペイもしっかりしようと明らかに無理してる。サクヤだってそう、人形師もどこかいつもくらい雰囲気が更に暗い。ユウは子供だからわからないみたいだけど雰囲気が違うことは感じているらしい。そういう私も何かしてないと泣いてしまいそうだ。
「まだ、着かないの?」
山を登り始めて数時間。この山が見かけよりかなり大きいことはわかっていた。吹雪はまだだがそろそろまずいくらいだろう。
「かなり上ったはずですけどまだみたいですね。それに少し吹雪いてきました」
「そう、気をつけないと」
駄目だ、何か話題は何だろうか。この暗い雰囲気を変える。
「ん?」
「どうしたのサクヤ?」
「いや、何かの気配を感じた気がするのだが……?」
「ここには誰もいないはずよ」
ティアが周りを見ながら言う。私も周りを探ってみたけど何もなかった。
「ヒヒヒ、どうやらこっちで正解だったみたいだね~ヒッヒッヒ」
人形師が言い、背中にしょっていた棺をおろしてあける。中から四体の人形が出てきた。
「これで十分、さあ、お嬢ちゃんはこっちにはいってなさいヒヒ」
「うん」
ユウちゃんが棺に入っていく。それってどうなのよ。まあ、安全だと思うからいいか。
「さあ、お出ましだよヒヒヒ」
ドッ!!
雪が人型になっていく。私たちは雪の人形に囲まれていた。
「ふむ、どうやらこの先にあるものを守護しているのだな」
サクヤが腰の刀に手を添える。
「さあ~行くよ」
人形師が不気味にいい腕を振るう。それに伴って人形が動く。さながら人間サイズの人形劇だ。次々と人形師の人形たちが雪の人形を壊していく。
「アンタそんなに強かったんだ」
「ヒヒヒ、伊達に歳はとってないよヒヒ」
元が雪だから簡単に倒せた。私たちは前に敵の少ないところを突破しながら前に進んだ。
「ちょっと待ってください!!」
リーナが言った。
「どうしたの」
「おかしいです」
そうだ、それは感じていた。敵が弱すぎる。これでは守護できない。そして私たちがいる場所がどこだか気がついた。
「まさか!!」
私たちはいつの間にか谷の下にいた。吹雪いていたから気がつかなかった。そして上の方から轟音が響いてきている。
「これは不味いね~」
そう、雪崩だ。つまり私たちは完全に罠にはまったってこと。
「いいから逃げるわよ!!」
走るが逃げ切れない。
「くっ、みんな集まって!!」
「どうするのティア!」
「こうするの!!」
風の結界を張ったのと同時に雪崩がぶつかる。
「くっ!」
「ティア!!」
これは無理だ。結界も長くは持たないしティアが持たない。
「くっ!! もう、もたない!!」
風の結界が消え雪崩が迫ってくる。その時何かが前に現れた。
衝撃が私たちを襲い私たちは意識を失った。
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「うぅ」
どうやら私は生きているようだ。システムメッセージも何もない。目を開けるとそこには見知らぬ天井。
「ここは?」
「ああ、気がついたか」
体を起こすとそこにはトンガリ帽子にマント、そして杖。いかにも魔法使いというう格好をした女がいた。背は私と同じくらいだけど表所は笑っているがどこか機械的だ。
「誰?」
「この小屋の主だよ」
「あなたが助けてくれたの?」
「まあ、そうだけど礼ならあのちみっ子にいいな。あの子がいなければ死んでたよ」
ちみっ子? ユウのことかな。でも、一体どういうこと? とりあえず考えるのを保留してにする。
「とりあえず起きい、お前さんで最後だよ羽っ子」
羽っ子って。まあ、いい立ち上がり魔法使いについてリビングヘ。
「ユイさん!! よかった」
「リーナも無事みたいね」
「はい」
みんな無事みたい。無理をしたティアが少し気分が悪そうだけど。そして見知らぬ美形がいた。黒服で背中に棺を背負っている。
「誰? 格好からしてまさか人形師?」
自然に溶け込んでいたから見るまで気がつかなかった。
「ああ、しまった、帽子が飛んでいっていたよヒヒ」
帽子をかぶるといつもの人形師だ。なにそれ、お約束って言いたいの? 無駄じゃない。
「ああ、このことは内緒ねヒヒ、やぶったら……わかってるね?」
別に誰にも言わないわよ。解剖されたくないから。
「それより、ありがとうございま。助けていただいて」
「いいよネコ耳っ子。うちは何も特別なことはしてないし。さて、みんな大丈夫だな。もうすこし休んで行けと言いたいところだがユーニヴァスコノシェンツァに行くのなら今がチャンスだ。雪もやんでいるからね」
「そうですね。いつまでもお世話になるわけには行きませんし」
「え~、もう少し休みたい~。私気分悪い~」
ティアが駄々をこねる。というか結構元気じゃない。
「それだけ元気なら大丈夫だろう。某は行くぞ」
「む~、サクヤめ~。は~わかったわよ、いくわよ」
サクヤとティアが出て行った。
「ヒヒさあ、行こうかお嬢ちゃん」
「うん~」
なぜかユウと人形師が一緒に行った。なついてるわね。悪い影響を与えなければいいんだけど。
「さて、コペイ行くぞ」
「はい」
トミーとコペイも出て行った。
「じゃあ、ありがとうございました」
「ちょっと先行ってて」
「ユイちゃん?」
「ちょっとね」
「わかりました」
リーナが出て行った。
「アンタ何」
どうも人間じゃないような気がするしけどNPCとも違う。
「ただの魔法使いだよ羽っ子ちゃん」
「…………そう、一応助けてくれてありがとう」
「ここから出たら北にまっすぐ行けばいい」
「わかったわ」
魔法使いの小屋を出て言われたとおり北へ進む。しばらくして振り返ると魔法使いの小屋は見えなかった。まるで跡形もなく消えてしまったように。