母さんと父
願いを叶える力を手に入れた俺は、健康体になった体が死ぬまで続くように願った。
若くて健康な体を望まない人間なんて居ないだろう?
俺だってそうだ、ましてやずっと病弱だったのだから。
それから俺は、金を望んだ。
金があればあの親類縁者全てが人でなしの家から母を連れて出て行ける。
金を手にした俺は母さんに「この家を出よう」と告げた。
「無理よ……貴方の体でこの家を出たら死んでしまうわ。それに、先立つものだって…」
「あるよ、母さん。それに俺はもう、体は健康になったんだ。今なら走る事も重たい物を持つ事だって出来る」
「けれど見付かったら何をされるか……この辺り一体はこの家の土地、ご近所も親類の人たちだわ」
「なら、もっと遠くへ逃げよう。それとも、母さんはこの家に居る事が幸せだと思っているの?」
「………」
母さんは黙り込んだ。
幸せな訳が無いんだ。実家の借金で無理矢理父と結婚させられ、女中のように扱われ。
時には殴られ、時には親戚連中に……無理矢理…。
……ああそうだ、母さんに酷い事をした奴らの下半身のものが全て腐り落ちてしまえばいい。出来る事ならゆっくりと、痛い思いをしながら。どうせあちらこちらで似たような事をしているんだ、使えなくなれば良い。
「少しだけ、考えさせて……色々と整理しなくちゃいけないもの…」
「分かった」
母さんの言葉に俺は頷いた。
本当は一刻も早くこんな土地から出て行きたかったけれど、母さんが一緒でないと。
けれど、そんな考えは捨ててしまえば良かったんだ。
「この、面汚しが!」
俺を殴り、蹴るこの男が父だなんて認めたくなかった。
常に母に暴言を吐き殴り付けるこの男が何よりも嫌いだった。
なのに、何で。
「コイツから聞いたぞ!家を出ようとしているとな!ふざけるな!金があるだと!?どうせうちの金をくすねたんだろう!」
父の後ろで母さんは俯いていた。
ねえ母さん、父さんに殴られて無理矢理口を割らされたんだよね?
ああけど何でだろう、今日の母さんは殴られたような気配が無い。それどころか、いつもより小綺麗だ。
「母さん…!」
「……ごめんなさい」
何故か謝る母さんを、父は乱暴に抱き締めた。
「出来損ないを産んだ胎だが、まだ子を産める年齢ではあるからな。妾を出し抜く為に自らが産んだ子供を売るその気概は認めてやろう」
そう言うと、父は母さんをその場で押し倒し…。
「ああ、そうか」
無理矢理婚姻を結ばされた相手であっても、母は女になれるのだ。
うっとりした顔で父にされるがままになる母を見て、俺は絶望した。
母は俺の母さんではなく、父に好きにされる為の女だったのだ。
狂っている。
この家は、この辺りの人間は全員。
だから男だろうが人の嫁だろうが何だろうが何を考えるでもなく安易に組み敷いて好きに出来るのだ。
目の前の狂った男女の姿をぼんやりと眺めながら、俺は下半身に感じるものに気付いて自分も同じ穴の狢だと気付いたのだった。




