ベルゼの能力
朝になると、アカリがベットから転がり落ちていた。もふもふのぬいぐるみを抱いて気持ちよさそうに寝ている。
パジャマも布団ももふもふで暑くないのだろうか…?
「アカリーそんな体勢で寝てると腰痛くなるよー。」
アカリの体を揺すると、アカリは眠そうにしながら起きた。
「おはよう…今何時?」
「7時」
それを聞くと、アカリは軽く体を動かし始めた。
「今日は何する?」
「しばらくは憑依系のやらないとやってけないわよね。となると特訓したいところだけど今日は一月九日。四月から学校行かないといけないから色々準備もしないといけないのよね。」
学校か…この国では貴族は十五歳になると王都にある軍学校に行かないといけない。私達は田舎の貴族だからほかの貴族と関わる機会がほとんどないし、礼儀とかそういうのがよく分からない。
「私達マナーとか良くはないもんね。」
「えぇ。だから色々やらないといけないんだけど…それはそれとして実力もないといけないから困ったものよね。」
貴族は結構実力社会であり、それは強さだけが指標じゃないものの、少なくとも田舎貴族である私達はある程度強くないと困ったことになる。
そんな話をしていると、お姉ちゃんが部屋に入ってきた。
「おはよう。まぁ色々やらないといけないことがあるわけだが、実力あれば大体どうにかなるし、特訓するぞ。」
チカライズパワーの権化のような考えだけど、学園を首席で卒業したお姉ちゃんが言うんだから、間違いない。
私たちは朝食を食べて特訓ルームに向かった。
「憑依は二人ともできるんだったよな?」
運動用の服に着替えながらお姉ちゃんが聞いてくる。
「うん。顕現って奴ならできたよ。」
「上出来だ。じゃあ特訓を始めよう。」
しっかり準備運動をし、特訓を始めた。
「まずはユキナ。確か刀だったよな?とりあえず練習メニューまとめといたから、これ一通りこなしてくれ。」
「はーい。」
まずはー素振りか…
「次はアカリ。剣は使えるだろうし、私から一本とれるか、ユキナが終わるまでまで一対一な。」
「はい!」
~一時間後~
小休憩を挟みながらも、私は淡々とメニューをこなし続けた。
「終わったー!」
なるほど。刀ってこう使うのね。
「早かったな。とりあえず1か月くらい毎日やれば、かなり使えるようになるはずだ。ほらアカリ!いつまで寝てんだ!」
アカリはもう満身創痍だった。
「死ぬ…姉貴マジで強い…」
「まぁ無理もよくないか。アカリは少し休んでろ。次はユキナとやるから。」
「はい。」
アカリがふらふらと離れた。
さて、アカリがぼっこぼこにされるお姉ちゃん相手に、私はどこまでやれるのか・・・
「憑依。」
やるだけやってみるの精神で、気楽にいこうと思う。
「じゃあ、行くよ。」
私は一気に踏み込み、お姉ちゃんに近づく。そして、刀を振った。
「速いな。だが…」
お姉ちゃんは模擬剣で私の刀を受け止め、剣の柄のとこで私の顎を打った。
「踏み込みが甘い。」
「いったぁー!」
やっぱりお姉ちゃんは強いな。とあらためて思う。
「ほらっ。」
お姉ちゃんが私に何かを投げる。鞘に入ったナイフだ。
「それも使っとけ。」
「いいの?勝っちゃうよ?」
「構わないぞ。」
私は右手にナイフをもち、左手に刀を持つ。
「いくよ!」
お姉ちゃんの攻撃を刀で防ぎながら、距離を詰めていく。
ナイフの間合いに入ると、刀でお姉ちゃんの武器を弾き、押し倒しながら首にナイフを突きつけた。
「…参った!憑依無しじゃナイフ持ったお前に勝つの無理!」
「よし!」
「ほんとユキナってナイフ上手いわよね。」
休んできたアカリが戻ってきた。
「好きで得意な事だからね。」
「それじゃあ次は私と1対2だ。もちろん、私が1な。」
憑依。とお姉ちゃんが唱えると、白い光が走り、武器が現れた。
「これがランク2の顕現ってやつだな。」
お姉ちゃんの手には、黒いもやがかかっていない、白と金の槍が握られている。
「ほら、来な。」
私とアカリは同時にお姉ちゃんとの距離を詰める。──が、ドカッとぶつかった。
『いったぁー!なんでかぶってくんの!』
アカリと綺麗に衝突し、ずっこける。
「何やってんだか。」
「私が左から行くから、ユキナは右から行きなさい!」
「了解。」
今度は衝突せずにお姉ちゃんに近づき、同時に攻撃を仕掛ける。
しかし、攻撃はどちらも当たらず、カウンターを喰らって普通に負けた。
「憑依のメリットってわかるか?」
暫く模擬戦をしていると、お姉ちゃんがそんなことを聞いてきた。
「分かんない。」
「だよな。憑依ってのは、憑依霊の能力を武器として使うんだよ。他にもあるが、私なら単純な攻撃能力が上がる。こんな風に。」
お姉ちゃんは模擬剣を軽く殴る。すると剣は粉々に砕け散ってしまった。
「まずは、憑依霊と色々話してみろ。自分の能力を知るところからだ。」
そういわれたので、ベルゼに聞いてみることにした。
「ベルゼ?」
『どーしたの?おはよ』
眠そうなベルゼの声が聞こえてくる。
「おはよう。ベルゼについて色々聞きたいんだけど、いい?」
『もちろん。何が聞きたいの?』
「んーとね、まずは能力かな。」
『私の能力?ふっ、聞いて驚くがいい!…簡単にまとめると三つあってね?』
まとめると、大体こう。
一つ目が「暴食」。異空間に食べたものを飛ばすことができる能力。
二つ目が「超回復」。憑依すると回復能力が上がるけど、暴食で異空間に飛ばした攻撃のエネルギーを消費してさらに上げることができる能力。
三つ目が「決壊」。自分の中の何かを代償として能力のリミッターを解除することができる能力。
「多くない?」
『凄いでしょ。でも「暴食」しかランク1じゃ使えないから、覚えることは少ないよ。使い方は簡単で、結界を食べたいものが当たる場所に置くだけ!もちろん取り出せるよ。あ、でも顕現された武器は食べれないから気を付けてね。」
「結界?」
『イメージすれば出てくるよ。練習すれば慣れるから大丈夫。まだ話したいけど、そろそろお姉ちゃんが待ちくたびれてくるんじゃない?』
お姉ちゃんのほうを見るとちょっといじけ始めていた。
「そだね。じゃあ始めるよ。」
私はベルゼとの会話を終わらせる。
「終わったよー。」
「何かわかったか?」
「まぁ、なんとなく?」
「よし、なら始めよう。」
私は構えを取り、思考を始める。
結界を張るイメージ。いめーじ。いめぇじ。すると、目の前に結界が展開された。
「できた…。」
しかし、すぐに消えてしまう。
難しいな。イメージし続けるって結構大変。
「行くぞ。」
お姉ちゃんが物凄いスピードでこっちに来る。繰り出された攻撃を体を逸らして避ける。次に来た攻撃を刀で弾く。ナイフで反撃するが、躱されてしまう。
攻撃のやり取りと繰り返していくうちに、私は一つ気付いたことがある。
やっぱこの刀、切れ味悪くないか?
ばこんっ、ばこんっと、どう考えても刀が当たったものじゃない音が鳴る。
どーしたものか…このままだと普通に負ける。経験差が桁違いだからだ。そこで、私の頭に一つのアイデアが浮かぶ。
憑依すると回復能力が上がるとベルゼは言っていた。つまり、自分の体を刺してでた血で目くらましができるのではないか?
早速、私は自分の左腕をナイフで刺す。
「な…」
それを抜き、お姉ちゃんの目にかける。
「いっっったあぁぁぁあぁ!」
左腕から血がどぼどぼと滝のように流れている。が、すぐに血は止まる。が、痛い。左腕が使い物にならないので、普通にお姉ちゃんを殴る。
「ユキナ…お前…クレイジー過ぎるだろ。てか体は大事にしろ。」
お姉ちゃんが何事もなかったかのように立ち上がっていった。結構ショックだったのは内緒だ。
「えっちょっどうしたのよ!左腕!めっちゃ痛そうよ!」
帰ってきたアカリがすごい勢いでこっちに来て言う。
「少しナイフで刺しただけだよ。気にしないで。」
「気にするわよ!包帯とか持ってくるから!ちょっと待ってて!」
そういってアカリは廊下を全力ダッシュして行った。
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