第7部隊隊長・リヒト
ユキナ達がラセツとの協力、後に「人鬼協定」などと大層な名前を付けられる会議をしていたころ、ユキナの姉兄であるナツメとアキラは、所属している「レイン帝国第7部隊」の隊員として鬼との戦争に出向いていた。
「よく間に合ったな、お姉ちゃん。」
「あぁ。私も自分で驚いている。まぁ弟を一人戦場へ向かわせるわけにもいかないし、ここに来るのは当然だな。」
私はユキナ達を各出現場所に向かわせた後、変装を解いて全速力でここに来たのだ。
「ユキナは大丈夫そうか?上級の鬼が出たそうだが…」
「問題ないよ。」
空から華麗に落ちてきた隊長が、私達にそう告げる。
「なんで分かるんだ?」
「さっき見てきましたからね。ナツメさんとアキラさんの大事な妹の活躍を。」
仮面の女…隊長は何とでもないかのようにそういった。
『はぁ!?』
「いやーかっこよかったですよ?仲間を守りながら敵と戦い、ここぞというところでランク2に覚醒!なんとびっくり鞘から刀を抜いてなくて、それに気付いたユキナは刀を抜いて一撃で敵を真っ二つ!最高でしたね!」
なんだろう?楽しみにしてた映画のネタバレをされた時よりも、好きな物語のネタバレされた時よりもウザいネタバレをされたんだが…
「はぁぁあぁあああ⁉私達に急いで来いって要求しておいて自分はユキナの観戦をしていたんですか!?キレますよ私も!」
「別にキレてもいいですよ?空しくなるだけですから。」
ボコボコにしてやろうかなこいつ…いや、ボコボコにされるだけか。
「もういいですよ…それで、今回の作戦は?」
私は切り替え、今行っている任務について聞くことにした。隊長は拡声器を取り出し、100人もいない隊員達に向かって喋りだす。
「皆分かっているだろうけど、少数精鋭の遊撃隊である私達が駆り出されるってことは、今人間側はかなり不利な状況にあるということ。このままだと軍学校の生徒や、一般人も戦場に行かされる可能性が高い!私達第7部隊の役割は遊撃!臨機応変に私に任せてほしい!ただ私の後ろを付いて来い!この戦、勝つぞ!」
『おぉぉおお!』
隊員達の雄叫びが上がる。鬼達は知ることになるだろう。滅多に出撃しない、「第7部隊」の恐ろしさを。強過ぎる故に、非常時以外の出陣が禁止された部隊。初陣以降、2回目の実践である彼らの目に不安は無い。知っているのだ。「隊長に任せておけば必ず勝てる」と。
一通りの指示を出した隊長に私は声をかける。
「大丈夫なのか?あんな作戦で。」
「問題ないですよ。あれでちゃんと勝てるようになってます。」
隊長は器用に仮面を付けながら飲み物を飲んでいる。
「何飲んでんだ?それ。凄く変な色してるぞ?」
「飲んでみます?意外と美味しいですよ?」
隊長はそう言ってそれを私に差し出す。
「いや、いい。おなかを壊したら大変だからな。」
「そんな変な色ですかね?」
そう言いながら隊長は飲み物の中身を覗いた。
「今って例の話をしても大丈夫か?」
「大丈夫ですよ。私とナツメさんしかいないので。」
「そうか。なら聞くがお前のことを何と呼べばいい?普段から隊長呼びするのはどうにも変な気がしてな。」
「んー、そうですね。「リヒト」でいいですよ。」
リヒト…そういうことか。
「分かった。それじゃあリヒト、今回も頼むぞ?」
「了解です。絶対に勝たせて見せますよ。」
そうして、私達は出撃した。