ラセツとの取引
数分ほどアカリの匂いを探して歩いていると、アカリとクロを見つけた。
「二人とも無事そうで良かったよ。」
「そっちもね。疲れたし休憩したいけどそんなこと言っている場合じゃなさそうよね。」
アカリが当然と言わんばかりに言い放つ。が、アホ毛が垂れてるので心配してくれていたことが分かる。
「そだね。ここには貴族の子供が沢山いる。そこが襲撃されたとなったら親たちが黙っちゃいないだろうし、そもそも襲撃される程人間側が追いつめられていることがかなりの問題だ。」
この襲撃についての憶測を共有していると、ガサッと音が鳴り、私達は一斉に振り向く。
「よぉ、3日振りか?」
音の出どころはラセツだった。逃げるか?いや、今の私なら多分殺せる。アカリもランク2に至っただろうし、ほぼ確実に勝てる。
さぁ、どうくる?
「頼む!俺の仲間を助けてくれ!」
ラセツは物凄い勢いで土下座し、懇願してきた。
「虫のいい話なのは分かってる!何でもする!俺の仲間を…家族を助けてくれ!」
『・・・』
「ちょっとタイム!会議会議!」
クロの提案で4人の会議が始まった。
「えーと?どういうこと?」
正直タイムが早すぎて何の話なのか分からない。
「クロ、タイムが早いわよ。詳しい話も聞かないで話し合うのは無理があるでしょ。」
アカリも同じことを考えていたようで、クロに文句を言っていた。
「そうはいってもさぁ、俺話聞いたら絶対助けたくなっちゃう気がするんだよ。わざわざ敵である俺たちに頼みごとをしてくるわけだからさ、相当な理由があるわけだろ?絶対助けたくなっちゃうじゃん。」
「しかし、この国を守る貴族として、鬼を助けるなんて論外じゃないですか?」
「それが分かってるからこそ、話を聞く前に協力するか決めようと思ったんだ。」
クロは最初の印象では悪い奴なのかなって思っていたが、トワの話と言い、今と言い本当は良い奴なのかもしれないな。と、思った。
「それでもやっぱり話を聞いてから決めるべきじゃない?得があるのは何もあっちだけじゃないだろうし、何でもするって言ってたからラセツって戦力をこっち側に寝返らせることもできるよ?」
「だが…」
「決定ね!とりあえず話を聞いて、それでもう一回決める。話によっては協力するのもあり、必要ないと判断したら私が断るわ!」
こうして短い会議が終わった。私達はもう一度ラセツのところに戻り、話を聞いた。
「私達も話を聞かないと決めれないし、まずは何があったか話してちょうだい。」
「分かった。あれはホントに少し前の話・・・」
ラセツの話を要約するとこうだ。500年前、所謂大戦の時代でぬらりひょんが討伐された後、鬼達は次の王の座をかけて争った。それから100年もすると、ある程度有力候補が現れた。「九尾」そう呼ばれたその鬼は、200年掛けて大半の鬼を支配下に置いた。残っていたのはラセツを王とする派閥で、数こそ少なかったが大戦に名を残した大物ばかりで九尾も邪魔に思っていた。200年以上抵抗を続けていたが、つい先日、人間達の横槍が入り、負けてしまったそうだ。仲間達が何とかラセツを逃がしてくれて、今に到るというわけだ。
「ラセツって見た感じ私達と同じくらいの年だと思うんだけど200年以上生きてるの?」
背丈はクロと変わらないし、口調というか雰囲気というか何というかがそんなに長い年月を生きた者には見えないのだ。
「いや、お前の認識で合っている。俺は確かに200年以上生きてはいるが、生まれたのは十数年前だ。精神的な年齢で言ったらお前達と大差ない。」
「どーゆーこと?」
200年以上生きているのに生まれたのは十数年前?なんかの謎解き?理論上可能だったけどできる技術が出来たのは最近みたいな?
「簡単に言えば、俺は肉体だけの存在だったんだ。なんでも大戦時代を終わらせた立役者が死ぬ前に作ったがどうとかで肉体だけの状態で仲間達に保護されていた。それが確か15年前、何かの拍子に俺が目覚めたわけだ。」
「なるほど…?」
よく分からないが、取りあえず私達と同い年ということにしておこう。
「そんなことは置いておいて、結局私達に何をしてほしいのよ?」
アカリが大事な事を聞く。そういえば今は交渉中だったね。
「九尾を倒すのに協力してほしい。ラセツ派は主に「人鬼共存」を目指して活動している。今戦っているのは九尾の命令だ。九尾は人間を滅ぼし、この世界を鬼だけの世界にしようとしている。九尾さえ倒せば俺が王となり、人間達と戦うことをやめさせられる。協力してくれないか?」
「ちょっともう一回会議するわね。」
私達はさっきの会議と同じようにして会議を始めた。
「協力してもいいんじゃない?その九尾さえ倒せば戦争は終わるんでしょ?ならそれが一番いいじゃん。」
「俺も賛成だ。鬼を一体一体倒すよりも平和的だし、聞いた感じその九尾って奴はどうにもきな臭い。戦争を望む奴が大勢の鬼をまとめる王になれるか?普通。少なくとも俺達の感性じゃ絶対にラセツの方が王に相応しいと思うんだが。」
「私も賛成ですね。ユキナさんやアカリさんの予測だと、このままじゃ人間が負けるのは時間の問題です。一発逆転の手として打っておいてもいいんじゃないでしょうか?」
私たちの意見を聞いたアカリが、うーん。と悩みながらも口を開く。
「そうね。このままじゃ敗色濃厚だし、九尾が全ての黒幕だっていうならそれを倒すのが一番手っ取り早い。ラセツに協力しましょう。」
ただ、とアカリは付け加える。
「協力するのは私達だけだわ。これを学校側や政府の人間はよく思わないでしょうし、最悪私達が処刑される。絶対に口外禁止。それが守れるならやりましょう。」
そうして、私達はラセツに協力することになった。
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