鬼
教会を出ると、お姉ちゃんがソワソワしながら待っていた。
「どうだった?」
「問題なく進みました。見てください!」
そういって、アカリは憑依霊を召還する。
「我は上級憑依霊・スサノオだ!よろしくな!」
赤髪のロリっ子が出てきた。スサノオって男じゃないの?
「上級憑依霊か。なかなかいいのを引いたな。」
憑依霊には階級があり、下級、中級、上級に分けられる。
「ユキナは?」
私は、心の中で「召還」と命じる。が、出てこない。
「あれっ?」
ベルゼさん?もう一度、「召還」と命じる。しかし、何も起こらない。
「やり方わかるか?」
「分かるよ。でも出てこない。」
お姉ちゃんは眉間にしわを寄せて考えている。
「通常、憑依霊は主の命令に従うはずなんだけど…」
「まぁ出てこないもんはしょうがないでしょ。出てきた時に見せるよ。」
「そうだな。」
そうして私達は家に帰った。
「さて!無事に憑依霊を授かったことだし、今日は祝うぞ!」
家に帰ると祭りでもするのかというレベルで準備が行われていた。
「あと一時間くらいかかるし、色々試してきなよ。」
ということで、特訓ルームでいろいろ試すことになった。
「ユキナの家はこういうのあっていいわよねー。うちは見た目とか雰囲気とか気にするからこういうのないのよね。」
「お姉ちゃんが強いのもこういう環境だからってのもあるしね。まぁどうせ毎日来るんだし関係ないでしょ。」
特訓ルームに着くと、私たちは準備運動を始める。
「憑依ってどんなだっけ?」
「アンタって頭いいけど知識はないわよね。」
アカリが大分呆れた顔で言う。
「覚えられないんだよ。いらない雑学とかは覚えられるけどね。」
「こういうの真面目にやらないと、後で苦労するわよ…。憑依ってのは憑依霊を憑依させること。憑依にも段階があり、憑依霊の能力を武器として現す「顕現」。これがランク1ね。ランク2はさらに憑依霊の能力が装備にもなり、ランク1では黒い靄がかかっていた武器の靄が晴れる「武装」。そしてランク3「解放」。これは人によって全く異なる変化が起こり、その人の心に合わせて最適化される。これが憑依の全貌ね。」
頭ごちゃごちゃする。とりあえず、ランク1の「顕現」だけ覚えとけばいいか。
「早速やってみましょ。憑依!」
ぶふぉっと黒い光が周りを走る。アカリの手には真っ黒の武器?が握られていて、黒いマントを羽織っている。
「一発成功じゃんすごーい。」
「意外とできるものなのね…ユキナも早くやりましょ!」
まず召喚ができないのに憑依ができるものなのかな。とも思うが、試しにやってみることにした。
「憑依」
一瞬の静寂。その後、私の周りに黒い光が走る。
「できたよ…」
黒い刀?が出てきて背中にはマントがある頭には王冠が被せられている。ベルゼを彷彿させる見た目だ。
『ふにゃ?なんか憑依してる。』
憑依するとベルゼと脳内で喋れるのか。
「何でさっき出なかったの?」
『呼んだの?ごめん…寝てた。』
寝てたのか。なら仕方ないね!
「やっぱり私たちは天才ね!一発で憑依できる人なんてあんまりいないわ!」
アカリは嬉しそうにアホ毛を揺らして言う。
「意外といなかった?お姉ちゃんとか、お兄ちゃんとか。」
「一般的な話よ!早く色々試しましょう!」
私は刀を構える。
「よーい、ドンっ!」
私の刀とアカリの剣がぶつかり、どかっ、どかっ、と音が鳴る。
「刀って使いずらいね。」
私は刀を木の棒みたいに使いながら言う。
「剣は普段から練習してるけど刀は使ったことないものね。」
本当に使いずらい。太い棒で戦ってるみたいだ。
私とアカリは幼少期から剣を学んできたが、刀は少ししかやったことがない。当然、だんだんとアカリが優勢になっていく。
「やぁっ、はぁっ!」
調子が上がってきたアカリはガンガン攻めてくる。
きっっっっつ!マジでヤバイ。フェイントを混ぜたり切り方を変えたりして色々試しているが、中々掴めない。
そんなことを考えているとアカリが私の刀が打ち上げる。
「今日は私の勝ちね!」
「…負けたー。」
ただ一つだけ言い訳させてほしい。刀が使いずらかった!
「準備できたぞー。ってもう憑依できたのか。流石だな。」
特訓ルームにお兄ちゃんが入ってきた。
私の家は五人家族で、お姉ちゃん→お兄ちゃん→私の順で生まれた。脳筋のお姉ちゃんと違い、お兄ちゃんは頭脳派で、すごく頭がいい。勉強はほとんどお兄ちゃんに教えてもらっている。
「今日はどっちが勝ったんだ?」
廊下を歩きながらお兄ちゃんが聞いてくる。
「アカリだよ。」
「そうか。お前らは武器何だった?」
お兄ちゃんが意地悪そうな顔をして言う。
「私が刀、アカリが剣。」
「よしっパーティーが終わったらお兄ちゃんが教えてあげよう。」
「あっ遠慮しときます。」
お兄ちゃんはスパルタな上教えるのが下手糞なのだ。お姉ちゃんに教えてもらった方がいい。
広場に行くと、たくさんの料理が並べられていて、ウチとアカリの家の人がたくさんいた。
「美味しそう。」
思わずよだれがじゅるっと出てしまう。
「そうね。」
アカリもよだれを垂らして言う。
「汚いぞお前ら。それでも貴族か?」
お兄ちゃんが嫌そうな顔をしながら言う。
「うるさい。おいしそうな料理が悪い。」
「やっと来たか。」
お姉ちゃんがお酒を持ってきた。
「今日の主役はお前らなんだ前に来い。」
お姉ちゃんは私達を連れて前の方に行く。
みんながこっちを見てくる。
「ほらっかんぱいだ。」
お姉ちゃんが小声で言ってくる。
『せーの、かんぱーい!』
『かんぱーい!』
私達は初めてのお酒を飲む。
「にがっっ。」
「だろうな。ほらっジュース持ってきたぞ。」
私はそれを一気に飲み干す。喉でじゅわっと鳴る。
「これ炭酸じゃん!喉痛くなるでしょ!」
「引っかかったな。今度こそジュースだ。」
私はしっかり確認してからそれを飲む。リンゴジュースだった。口に甘味が広がる。
「ふー。」
「何してんの…?」
「アカリはお酒苦くないの?」
「苦くないわよ。そんなことより、ご飯食べましょ!」
アカリは私の腕を引っ張り、料理があるテーブルに行く。
「何から食べようか。」
考えていると、アカリが私の口にスプーンを突っ込む。ひき肉と豆腐が混ざり、下がひりひりする。
「麻婆豆腐よっ!好きでしょ?」
「好きだけどさー、急に突っ込まれるとびっくりするでしょ。」
私は仕返しに目の前にあった唐揚げをアカリの口に突っ込む。
「あっっつ!はっはひふるの(何するの)!」
アカリが口をホコホコさせながら言う。
「人の口にご飯を突っ込んでいいのは突っ込まれる覚悟がある奴だけだよ?」
「何それ!」
唐揚げを飲み込んだアカリがツッコミを入れる。
「さっきのでノーカンだし、ご飯食べよ。」
その後、私達はパーティーを楽しんだ。
夜。今日はアカリがうちに泊まることになった。
「なんか変な音しない?」
トランプで遊んでいたら、アカリがそんなことを言う。確かに、耳を澄ましてみるとびゅろろろろんっびゅろろろろんっと音が鳴っている。
「何の音?これ。」
「分かんない。外からだね。」
私達は恐る恐る窓を除く。なんかよく分からない生物?が徘徊していた。
「なにあれ?幽霊?」
見た目は正に幽霊で、周りには人魂があった。
『あれは鬼だよ。』
ベルゼとスサノオが出てきた。
「鬼?」
「そう。数千年前、人間と戦争をした霊達の生き残りだ。」
「我ら憑依霊はその時に人間に味方した霊達だ。憑依霊が憑くと鬼が見えるようになる。」
聞いたことないな…言っちゃいけない決まりでもあるのかな?
「どうすればいいの?」
「今回は私たちが出なくても大丈夫だよ。君のお姉ちゃんたちがいるから。」
もう一度窓を見ると、お姉ちゃんが鬼と戦っていた。憑依はしていないが、すごく強い。
「ユキナとアカリもこれからはアレと戦うことになるから。準備しておいてね。」
鬼か…これまたとんでもない奴がいるもんだな…
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