ベルゼとの出会い
ジリリリリリリr
目覚まし時計の音で、私はベットから起き上がる。
「……眠い」
そんなことを言っていると、部屋のドアが勢いよく開き、誰かが荒々しく入ってきた。
ま、誰かは想像がつくけど。
「起きろー!」
部屋に入ってきたお姉ちゃんが、抵抗する私から結構強引に布団を引っ張った。
私はベッドから引きずり出される。
「まだ時間あるでしょ…?」
「早く準備して損はない。それに、私が楽しみなんだ!」
「そんなに急がなくても、逃げないよ。」
「今から逃げ始めるかもだろ!」
「はいはい。」
抵抗虚しく、私は着替えて自室から出た。
今日は「祝福の儀」というものが行われる日だ。祝福の儀とは、簡単に言うと今年十五歳…つまり成人になる者に、教会で「憑依霊」と呼ばれる霊を授け、契約する儀式のこと。憑依霊についてはまた後で説明するとして、私は今年十五歳。お姉ちゃんはこれを楽しみにしてるわけだね。
食卓でご飯を食べていると、お父さんがハードボイルドな感じを醸し出して私の対面に座った。
「お前も一人前の人間になる。レイナ家の人間として、これから──」
「よし、ご飯食べたな?行こう!」
そういってお姉ちゃんは私を引っ張った。
お父さん、何か言おうとしてますよー?
確かにご飯は美味しくいただいたけど、なんか話そうとしてましたよー?
てか服が伸びちゃうんだけど…もう伸びきっちゃってるけど…
「お父さん、なんか言おうとしてなかった?」
「気にしない♪気にしない♪」
支度を整え、私達は外に出る。
「あっアカリ!」
玄関を開けると、家の前で親友が待っていた。
アカリは、私の幼馴染で、昔からよく遊んだ仲だ。一緒にオフロに入ったことも、お泊りしたこともあるよ。
「…遅い!30分遅れ!毎回毎回毎回毎回遅れて!私じゃなかったらブチギレてるわよ!」
そう言いつつも、アカリはぷんぷんに怒っていた。
おかしいな、かなり早めに起こされたはずなのに、集合の時間に三十分も遅れてる。
「ごめん。次は五分におさえる。」
「ったくしょうがないわね。早く行きましょ。姉貴も来るんですか?」
アカリは、お姉ちゃんを姉貴と呼んでいる。
お姉ちゃんはアカリにも「お姉ちゃん」と呼んでほしいみたいだけど、人のお姉ちゃんを「お姉ちゃん」と呼ぶのが恥ずかしかったらしい。
「あぁ。お前たちがどんな憑依霊を授かるのか楽しみだからな。」
「そうですか。じゃあ終わったら使い方教えてくださいね。」
「もちろんだ。」
私達は町へ向かった。
「やっぱ町はいいわね!田舎とは違うわ!」
アカリが、町を見渡しながら言う。
「田舎っていうか町外れなだけだけどね。」
しばらく歩いていると、時計を見たアカリが少し速く歩き始めた。
「後三十分だし、早めに行きましょう!」
三十分前行動って……私がおかしいだけなんかな?早すぎて逆に迷惑になんない?
かなり早めに来た私たちは、憑依霊について復習することにした。
憑依霊というのは、霊の中でも人と共に生きる霊のことで、敵対している霊は「鬼」という。人間は、憑依霊と契約することで、鬼と戦うことができる。
憑依霊は、精神力が高い人間、つまり心が強い人間につきやすく、精神力が高い人間ほど憑依霊も強い。
憑依霊と契約して最も変わることは、「憑依」ができるようになること。憑依するとその憑依霊の能力を武器に具現化させ、戦衣を身に纏うことができる。
憑依霊は様々な種類がいて、元神だったり元人間だったり色々あるらしい。
「こんなとこだね。」
お姉ちゃんの詳しいけどめちゃめちゃ長い説明を聞いていると、いつの間にか三十分たっていた。
「そろそろだし、入ろっか!」
「そだね。じゃあお姉ちゃんまた後で!」
「おう、行ってらっしゃい。」
中に入ると大昔の勇者の銅像が祭られていて、同い年の人がたくさんいた。まあほとんど知らない人だけど。
「結構いるんだね。」
「そうね。確か百二十人とかじゃなかったかしら。」
そんないたのかよ…いや、王都とかみたいな都会と比べたら全然少ないのか…?
「端っこ行かない?」
そんなことを言うとアカリは呆れた顔をする。
「私達は貴族なんだし、堂々としてればいいのよ!私達が端にいたら、皆困っちゃうでしょ?」
そういえば貴族だったね私達。いや自覚はあるしそうあるべきだとは思ってるけど。
それはそうと、人混みは苦手なわけでして…
そんなことを考えていると、司祭っぽい人が銅像の前に現れた。
「皆様、よく集まってくれました。貴方達はこれから沢山のことを経験し、生きていくでしょう───」
ながーい。
ひまー。
アカリなんて半分寝てるし。何聞かされてんだって感じ。知らないおっさんがそんな長々と私達のこれからの人生について語ったって、何も残らんっての。
しばらーく話を聞いていると、遂に本題に入ったらい。
それらしい儀式と詩と共に、目の前に憑依霊が現れた。
見た目は私と同じくらいの少女で、深紅の髪に王冠を乗せ、紅いマントを身に纏っている。その雰囲気は幼いようで、百戦錬磨を生き抜いた武人にも思える、不思議な感じがする。
「君が私の契約者か。よろしくね、ユキナ。」
「えっと…よろしく…?」
人見知りを発揮して口ごもっているうちに、その霊は私に憑いた。
えっと…?こういうのってこんな軽く進んでいいの…?契約っていうくらいだから、色々あるんじゃないの?具体的には出てこないけど。
「私はベルゼ。君のことは結構気に入ったから、仲良くしてね。」
「…ナ…キナ…ユキナ!」
気がつくと、目の前にはアカリの顔があった。
「うおっ、どしたの?」
「どしたの?じゃなくて、途中でボケっとしてたから起こしたのよ。」
周りを見るとさっきまでいた人たちはいなくなっていて、アカリだけだった。
いつの間にか祝福の儀は終わったらしい。
「早く戻りましょ!姉貴が待ってるわ!」
教会を出ると、お姉ちゃんがソワソワして待っていた。
「二人とも、無事に憑依霊を授かれたみたいだな。」
すぐにでもベルゼを紹介しようと思ったけど、まだいまいち呼び方も分かんないし、後にすることにした。
「言いたいことも教えたいこともいっぱいあるが、まずは───」
お姉ちゃんは私達に歩み寄ると、ぎゅぅううっと、私達を抱きしめた。
「大きくなったな、二人とも。私はお前たちの成長が嬉しい。」
お姉ちゃんのハグは、普段バカ騒ぎしてることからは考えられないくらい包容力があって、なんかむずがゆくて、恥ずかしいような、そんな感じだった。
「さて帰ろうか。多分まだ準備が終わってないが、盛大に祝おう。」
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