#5 恋
ゲオルゲはいつも通り朝早く起きると朝食を食べて歯を磨く。
ーー次のニュースです。アーリア帝国総統のアドルフ・ヒトラー氏が先日午後死亡したと発表されました。
なんだと!?驚いてニュースを見る。
ーー総統代理として前より指名されていたマルティン・ボルマン氏が臨時的に就任し、政府の再構築、混乱の民衆をなだめるなど仕事に追われている様子です。植民地では反乱の機運が...
ついにあの巨人も死んだか。ヨーロッパを統一したあの男。誰もが憧れ、憎み、恐れた男が今死んだ・・・このニュースはゲオルゲに衝撃を与えた。言葉では表せないほどの。
学校に来るとニュースのことで生徒たちはがやがやしていた。
「おっ!ゲオルゲか。お前の国の総統が死んだらしいな。」クラスメイトの康二が言う。
「ああ、ニュースで見たよ。」
「大丈夫なのか?」
「ショックさ。俺たちアーリア人のヒーローが死んだもの。」
「そうか・・・まぁ落ち着いてるなら何よりだ。何かあったら俺に言え。いつでも相談相手になってやるよ。」
「ありがとう。」
チャイムが鳴ったので着席し、国旗にいつもの誓いの言葉を放ち、着席する。
瑞穂が話しかける。「ねぇ...ドイツの政府の要人には詳しいの?」
ゲオルゲは返事する。「少しはね。」
「興味があるんだ。教えてよ。」
「いいよ。」
休み時間になり、瑞穂に政府の要人について教える。
ーーまずドイツ政府内で一番影響力を持っているのがボルマン、ヒムラー、ゲーリング、シュペーア、アイヒマンだ。
ヒムラーは知っての通りSS全国指導者にしてブルグント国の指導者。神秘主義的傾向がありドイツ政府内からは軽蔑の対象になっているが親衛隊隊員からは人気がある。
ボルマンはドイツ政府内で最大の影響力を持ち、副総統に命じられたこともある。SSに入隊していた過去もあり、親衛隊大将を務めていたこともある。
次にゲーリング。空軍総司令官であり、ドイツ政府内の有力な政治家でもある。南イングラド戦では敵機500機を100機で撃墜。四か年計画ではとても早く計画を成し遂げている。
シュペーアはゲルマニア計画に携わっており世界恐慌時でもその有能さから仕事には困らなかった。総統が一番信頼していた建築家でもあり、ニュルンベルクのドイツスタジアムの計画に取り組んだのも彼だ。
アイヒマンはゲシュタポの代表者であり、総統の忠実な配下だ。大量のユダヤ人を始末し、総統から大きな信頼を得ていたが正直、この要人たちの中では影響力は最も低いと考えれる。
以上が総統からとても信頼を受けていた5人の男だ。
瑞穂はその知識量に呆然とした。これが政府からも信用された男の有能さか...
「その人たちと話したことはあるの?」
「ゲーリング氏とは一回だけ」
「すご!どんな感じだったの?」
「明るくて、家はとても豪華。美術館みたいな家さ。」
キーンコーンカーンコーン。休み時間が終わる。
瑞穂は家に帰るとまず風呂に入る。
シャワーを浴びて、風呂に浸かって、出る。部屋に戻ると窓から隣のゲオルゲの家の窓に長い棒でつっつく。
「なんだ?」ゲオルゲは言う。
「家の中入れて。ひま。」
「いいとも。」
「じゃあ窓から乗り移るね。」
そう言うと窓からゲオルゲの家の窓まで移動する。
「危なっかしいな...一応ここ二階だぞ...」
「だいじょーぶだって!一回も失敗したことないもん。」
「何しに来たんだ?」
「部屋を見たいの」
「ああ、いいとも。ここが部屋だ。」
見渡すと壁にはアーリア帝国財政管理委員会の名刺。
ゲーリングからもらったサイン入りの短剣。
親衛隊の黒服。
「パウルって親衛隊なの?」
「いや、死んだ兄の服だ。形見として取ってある。」
「そ、そうなんだ...」
「せっかくだしチェスでもするかい?」
「あ、うん!」
チェスをプレイする。ゲオルゲはチェスは2年ぶり。もうコツなんか忘れた。
「ゲオルゲは好きな人とかいるの?」
「好きな人はいないし付き合ったことはない。じゃあ君はどうなんだ。」
「い、いる...」
「誰?」
「それは...内緒...」
「えーーー。残念!」
「あ」ゲオルゲはチェスに負けた。
「イエ――イ!勝利いー!」
「はぁ...二年ぶりにやるから忘れちゃって...」
「あ、もうすぐご飯の時間だ!バイバイ!」
「バイバイ~」
ゲオルゲは一人で日本の和食を食べる。
好きな人はいない...あれは嘘だった。
瑞穂はいいやつだ。だから...好きだ。
初めてアーリア人以外を好きになった。いつかは嫌悪していたあの人々を。
ゲオルゲは静かにタバコを吸う。
一服。風と共に煙は去る。