episode8〜大聖女の道〜
本日二回目の投稿です。
最後まで読んで頂けると幸いです。
こうして、ルクナの自室へと案内されたアルネ。
そこで、国王から願い承った事の真意を説明する事にした。
「アルネ、疲れてないか?」
「大丈夫よ。それより、国王が言っていた探している者達って、種族達の事だったのね? 詳しく教えてくれない?」
「あぁ… 俺も… いや、俺達もわかっている事は、少ないんだ。種族とは、俺達含め様々な種がある。今わかっているだけでも、4種。それに、デイルの種族が加わると… 5種になる」
「て事は、あの島の種族は、今まで知られていなかった… ? 新種!? すごい大発見! じゃあその種族の名は、アルネ族と命名し… 」
「断る」
その言葉を遮ったのは言うまでもなく、本人であるデイルであった。
「えー! 何でよー!? とっても名誉な事じゃない? 何てったってこの大聖女様が… 」
「違う。あるんだ」
「ん? ある? どういうこと?」
アルネは首を傾げた。
「ちゃんと俺達の種の名がある」
「そうなのか?」
ルクナが、その事実に反応する。
「あぁ、パストゥールだ」
「パストゥール… 族?」
「それって… 神のもとへと導く者という意味か!?」
アルネとルクナが顔を見合わせながら、驚く。
(そうなの?)
「まぁ昔はそう呼ばれていた時もあったな」
「昔は?」
「ある時を境に、その力を発揮していないからな」
(これは… すごい種族を見つけてしまった… 父上が手放さないぞ… )
「うーん、なんかよくわからないけど、種族って結構いるのね? で、その種族達を探してどうするの?」
「この世の均衡を取り戻す。その為に、俺達は何年もの間、彼らを探し続けている」
「取り戻す? 均衡? 一体どういう事?」
「それは、数年ほど前から起こり始めていた」
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1年程前…
ある森にて。
獲物の仕掛けを見に行こうと、その森に足を踏み入れた狩人がいた。
彼はその異変に、すぐさま気が付いた。
地面に転がる動物達の死骸が、辺り一面に広がっていたのだ。
ある海岸にて。
網の仕掛けを見に行こうと、その岩場に足を踏み入れた漁師がいた。
彼はその異変に、すぐさま気が付いた。
水面に浮かぶ魚達の死骸が、辺り一面に浮かんでいたのだ。
その異様な光景は、瞬く間に国王の耳へと入った。
そしてすぐに、各地にいる聖女達に助けを求めた。
しかし、彼女らだけでは手に負えなかった。
事の重大さが、国中を恐怖へと脅かしていった。
民達は震え、そして怯えた。
「神が何かをしようとしているのではないか?」
「精霊様がお怒りじゃ」
これらの言葉から、国王にはある事が頭によぎった。
「精霊… ? そうだ… この世のどこかにいるという、大聖女様に助けを乞うてみよう」
それから、すぐに国王からの命が下った。
「早急に探せ!」
しかし案の定、この大陸の何処を探しても、大聖女様は見つからなかった。
そして、長年に至る航路の研究の成果を、説き示す事にした。
この世の果てと言われる島へと調査団を出す決意をしたのだ。
だが、その航路はまだ未完成。
無事その場所に、辿り着くかどうかの保証はなかった。
迷う時間が惜しい。
行くしかない。
希望が少しでもある限り…
国王にはある懸念があった。
約10年程前にその場所へ行ったという、1人の公爵家の者の件だ。
彼が辿り着いていたかどうかは、この時は不明のままであった。
しかし、この航路が1番信憑性が高く、研究の航路にも1番近かった。
そして何より、彼の目的も同じだった。
大聖女と呼ばれる者が、その島に居るかもしれない。
ならば、今もいる可能性が1番高いこの場所へと… 望みを持って。
聖女は男性を毛嫌いする傾向がある。
現に、この国にいる聖女は全て未婚のままであった。
ある聖女を除いては。
唯一15年程前に、この国で1人の聖女がある男と恋に落ちたと聞いた。
その者は子を身籠った。
しかし、誰もその姿を見た者はいない。
女児なのか男児なのか… 本当に生命が誕生したのかさえもわからない。
聖女は、その大きな身体を抱え、姿を消した。
最後に見たと言う者によると、たった1人で小さな船らしき物に乗り、霧の中に消えたという。
その方向が、この世の最果てと呼ばれる… その島の方角であった。
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「なるほどねぇ。じゃあ、その聖女が産んだのが、もしも女の子だったら… 」
「それが大聖女の誕生だ。つまり、アルネ、お前だ」
「そうね。私の事ね… ん? 私!? それ私っ!! 今! もんのすんごい事聞いた気がする! 私の生い立ち! ぎゃっ、すごい!」
「そう… だな」
ルクナはどう反応して良いのか、わからなくなっていた。
「だけど、なんか… どれも違かったね。噂って怖いわ」
「ん? どういう事だ?」
「だって私は、男性だとか女性だとかで別に毛嫌いするとかないし。それに精霊である者達も、特に怒るような事なんてなかったと思うし… 少なくともタナマ村の皆は、何とも思ってなかったよ? というか、世界でそのような事が起きてるなんて、全く知らなかったし… ん? 私だけなのかな?」
「いや、アルネの言う通りだ。1年程前の事は、俺達村の者は何も知らない」
(10年程前の事は、アルネが無意識に怒って、その力を爆発させた事はあったがな… まぁ今回の件とは関係ないだろう… )
デイルはそう思いながら、アルネに賛同した。
「真実は違かった… という事だな」
ルクナが2人の言葉に、納得するかのように頷いた。
「んで… まさかとは思うけど、その大聖女が男嫌いだったらいけないと思って、ルクナが?」
更にこくんと頷くルクナ。
「女装したルクナ… リオが?」
「そうだが… 」
「そっか… その変態仮装には、色々と事情があったのね」
(いや… ルクナ様に関しては、本当はもっと根が深い… )
ヴィカは主人をチラリと見ると、そのまま言葉を飲み込んだ。
「ん? 待って? じゃあ何で今もそんな格好してるのよ? 別に私… 」
「趣味だ」
「へ?」
「女装は趣味だ」
「… 変態には変わりなかったのね」
「そこら辺にいる女子よりは、遥かに美しいだろ? それに、評判がいい」
「自身を隠さないその性格、逆に清々しいわ… それに何の評判よ… まぁ別に止めはしないけど」
(え? 止めないのか? 他の者は、止めるものばかりなのに… いや、1人いるか… )
そう思いながら、ルクナは笑みが溢れていた。
しかし、止めて欲しいと思う側近がここにひとり。
「それで、その大聖女様を探していたっていう理由が、精霊達を鎮めてもらう為って事よね? 世界の均衡が崩れ始めたから… あれ? でも種族達は? 何の関係があるの?」
「種族ももちろん関係している。先程も言ったが、この国の王は、種族が大好物だ」
「言い方… 」
「自分達とは、姿形も違うその種族達に興味が湧いて仕方がないんだと… もちろん彼ら種族は動物とは違う。知能も高く、意思疎通もできる者がほとんどだ。人間よりも知能が高い可能性だってある。身体能力も計り知れない。
ひとつ残念なのが、国王自身他種族に出会った事がない。まぁ、国王の熱心な研究の甲斐もあって、この国は、種族の知識においては世界一だ。時間も労力もその為には惜しまない。研究の為なら… 」
「… そんなんで、国の情勢って大丈夫なの? いるかどうかもわからない種族の為に… 国民の負担になってない?」
「そこは心配しなくとも大丈夫だ。なぜなら、研究には… 」
「でもほら、教育費とか… 」
アルネは辺なところが気に掛かった。
「直接教えているからな」
「ん?」
「国王が自ら教えている」
「…… ん?」
「えぇ… と、マクファ国王自身が文献を作り、皆の者に教えているんだ」
「待って… 時間や労力を惜しまないって… それってもしかして」
「あぁ、国王自身の事だ」
「国王様自身が言いたくて書きたくて教えたくて堪らないって事?」
「そう、知りたくて伝えたくて堪らないって事ですね」
ヴィカが追記した。
「まぁ… 簡単に言えばそう言う事だ。だから心配はない」
(あぁ… そういう事ね… これは思った以上に… 何というか)
「… 話が逸れたな。そこで、種族についてだが、簡単に説明する。先程も聞いたように、わかっているだけでも5種。俺ら人間もその中のひとつだ。人間と呼ばれる種族、それが ’ユマン族’ だ」
「えっ!? 人間も種族に入るの?」
「… さっきからそう言っているはずだが… しかし、俺達は自身の事しか知らない。見た事もない。自分達が主体にとでも思っているようだが、それは大間違いだ。全ての種があってこその世界だ。
知っての通り、生き物は人間だけではない。陸に生きし者、海に生きし者、その何種いるかもわからない生き物達の、各々の頂に立つ種族が存在する。
それが何百年か前には多々存在していた。しかし今はその影もない。本当にいたのかもわからないほどに… もしまだその姿があったとしても、影に隠れて出てこない。その理由がわからないんだ… 」
(なんか… ドキドキしてきた)
アルネは鼓動の音が、段々と大きく高鳴るのを感じた。
ルクナは続けた。
「その時からだ… 世界中の均衡が崩れ始めたのは。必ず… 何かが関係しているに違いない」
「うーん… ん? ちょっと待って? そもそもその居るかもわからない種族が、何で私達人間… つまりユマン族の他にいるってわかったの? 国王の研究にも、何かきっかけがあるわよね?」
「はい。それがこの文献です」
そう言うと、ヴィカはある古びた本をアルネの目の前に差し出した。
(うわ、何この本! すんごい光を帯びてるんですけど… 触れても大丈夫なのかしら?)
「ここに詳しく書かれております。この書に記されている事は、真実に近いとも言えるでしょう」
(しかし、これも誰も確かめる術が… )
「… そのようね。本当にこの本の中に、種族達が存在していた事が記されているのよね?」
(ん? そのよう? しかし、何故この本を開こうとしない? いや、触れようとさえもしていないな? これに何か感じるものがあるのか?)
「いや、これに全ては書かれていない。ここに書かれているものは、大方ユマン族の事だからな。他種族に関しては、最近分かったことの方が多いんだ。長年仕えている従者の1人にかなり詳しい者がいる。その者に聞いた」
「そう… その人にも実際に話を聞いた方が良さそうね… だって… 」
「ん? まぁ、そうだな。もちろん後で合わせる。しかし、今不在にしているようなんだ」
「あの方は、とてもお忙しいですからね。そう遠くないうちにお会いできるかと… 」
ルクナとヴィカは、顔を見合わせながらそう言う。
すると、アルネはある1つの疑問が浮かんだ。
「ねぇ… でも、おかしくない? もし、まだ存在するとしたら、何故誰も出会わないのかしら? 何故出会えない… 何処にもいない… ん? 姿を隠しているっ… ? 人間には見えないとか? え!? もしかして聖女にしか見えない!? とか!? あらやだ!」
(反応がいちいちうるさい人だな… )
ヴィカは少し疲労が溜まっているようだ。
「もしくは… 本当に滅びたか… だな」
その場に小さな沈黙が流れる。
「なんか… なんだか不安になってきた… 」
「え?」
「そんなに何百年も存在を明かしてない… 探しても一向に手がかりがないような、そんな大層な探し物を、私なんかがそんな簡単に見つけられるとは、到底思えない」
「そうだな… あまり気負いはさせたくない。しかし、全く進歩していないわけではないからな」
そう言うと、ルクナは真っ直ぐにその美しい瞳をアルネへと向けた。
「へ?」
「ここに居るだろ? 大きな進歩が… 」
その長い指は、アルネの顎へと滑り落ちた。
「それともうひとつ… デイルだ。パストゥール族。どの文献にも載っていない新たなる種族」
「デイル… 」
「そのおかげで、国王からは熱い視線が痛いがな」
デイルは、少し困ったように頭を掻いた。
「ふふ… しかしこれからが大変だぞ… 我が父は其方の事で夢中だ。よろしく頼んだ」
「げ… 」
そう言いながら、デイルは顔を歪めた。
「君達2人の存在が、今、この国、いや、世界中に奇跡をもたらし始めている。だから、この先、何年掛かろうとも、そう気を背負い過ぎなくとも良い。それに、これは勝手なこちら側のお願いに過ぎない。そもそもお前の目的は、この広い世界を見たい事だったろう?」
「… うん。そう… だった、そうだったわ! 大事な目的を忘れるところだった!」
「まぁ、この国で衣食住を用意する代わりに、少しは協力してもらうがな? ふっ… 」
「ご助力致します」
ルクナはその言葉に、ニコリと微笑んだ。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
またまた突っ走って書きたいように書いてしまっているので、文章が乱れていることもあるかと思います。
何かお気づきの点があれば、いつでもメッセージお待ちしております。
また、心ばかりの評価などして頂けると、励みになります。何卒よろしくお願いします。