episode7〜謁見〜
最後まで読んで頂せると幸いです。
その日、初めて見る光景に、アルネは心を踊り狂わせていた。
「素敵… ルクナ、あれがあなたの故郷… 」
「あぁ、そうだ。俺が生まれ育った国… 光りが集まる国とも言われている。この辺だと、まぁまぁ大きな国になるな」
「またまたご謙遜を。らしくないですねぇ」
そう言うのは、2人の会話を聞いていた側近ヴィカであった。
「ん? ヴィカ? どういう事?」
「我が国は隣接する国の中でも、一番大きな国となっております。そして、更には聖女を生み出した最初の国とも言われているのです」
「光りが集まる国… 素敵ね。でも、聖女を最初に生み出したってどうやって?」
「大聖女はこの世にただ1人と言われておりますが、聖女自体は、今やどの国にもおられます。意外と多いのですよ。しかし、根源とも言われていたこの国にも、大聖女は存在しなかったのです。そうなると、我が国にその所有権はない。よって、見つけたその国に、主導権が握られると言うこ… 」
「おい… 口が過ぎるぞ?」
ルクナは、ヴィカのその口を塞いだ。
ヴィカは言い過ぎたと思い、その身を下げた。
「所有権って… 大聖女がって事よね? そんな…私は物なんかじゃないわ」
「申し訳ございません… 」
謝罪をするヴィカに、ルクナは同情の余地もない。
「その通りだ。それは十分にわかっている。だから、お前をあの島から出して良いものかとも迷った。しかし、アルネ自らが外の世界を見てみたいと申し出た時には、その選択が揺らいだんだ」
「あぁ、それで ’守る’ って言ってくれたのね?」
バツが悪そうにしながらも、顔を少し染めるルクナ。
アルネは話を続けた。
その思いを届ける為に。
「まぁ、力を貸さないって言ってるわけじゃないのよ? ただ… その使い方がわからないだけ。もし大聖女として期待を持たれても、私がそれに応えられるかもわからないから… ’使えたら使う’ 程度にしといてくれないかなぁ? ね?」
「もちろんだ」
「要は、この存在を、あまり世間に知られなければいいわけよね?」
「そうだな… すまなかった。そう言うつもりで、アルネを迎えるつもりではないと言う事は、わかって欲しい」
「ふふ、わかっているわ。それよりも、あなたの国に着いたら、街を案内してね! 全部よ全部! 隅から隅まで、ぜぇんぶ見たいんだから!」
「あぁ、約束する」
和かに返事をするルクナを見て、ヴィカが少し口を挟んだ。
「え? ちょ、全て… ですか? どれほど広いとお思いですか? ルクナ様。あまり出歩き過ぎるのも… 」
その言葉に、ルクナはいつもの彼女に戻った。
「心配しないで。秘策があるわ」
「ひさく… ? 目に見えるこの秘策の事ですかね… 」
「ふふ」
そう言いながら、ルクナはウィンクをバチリと送った。
そんなルクナを見て、ヴィカは、その変化を感じ取っていた。
(それにしても… 大変嬉しそうにお見えになる。ここ数ヶ月間、会わなかっただけで雰囲気が何だか… )
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そして、遂に1ヶ月半程の船旅も終わり、ルクナの母国、光りの集まるその国へと到着した一行。
その土地に足を踏み入れる。
しかし、その瞬間にアルネ自身に、何が起きるかわからない。
この警戒心を解くまでは、安心できなかった。
じっと見守るルクナ。
しかし、その心配には及ばなかった。
「あぁ、久しぶりの土! 最高! 素敵! じゃ、まずどこに行く?」
(問題なさそうだな… )
「そう焦るな。はやる気持ちもわかる。しかし、まずはこの国の最高権力者に挨拶しに行く」
「ん? て事は… 」
「城だ。街の中心に都。更にそれらに囲まれて、大きく佇んでいるのが、我が城、リュミエール城だ。まずそこに行く」
「お城… え!? まさか王様に挨拶しに!? 今から? 生国王… 」
「そうだ」
「あぁだからか… なんかちゃんとした格好してる」
「当たり前です」
ヴィカが強めに突っ込む。
(いつの間に着替えたのよ… )
「お前は… まぁいいか。とりあえず、後で服は好きなだけ用意しておこう」
(この国の服… ふふ、お母さんのような服が着れるのかしら?)
アルネは、異国の文化が楽しみで仕方がなかった。
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王座の前でひざまづくルクナ達。
その上方へと腰を下ろしていたのが、この国の最高権力者、マクファ国王陛下であった。
「マクファ国王陛下。このルクナリオ、只今この地へと戻って参りました」
「おぉ! よくぞ戻った! 何ヶ月も消息を絶っていると耳にした時は、身がよじれる思いであったぞ」
「しかし、私以外の者は皆… 大過なく… とは言えるものではございませんでした… 」
その責任の重さを全て受け止めるかのように、ルクナは俯き加減にその言葉を口にした。
「そうか… 落ち着いたら献花の儀を執り行おう。して、ルクナリオよ、本当にその島は存在したのか?」
「はい。海の果てにあると言われる幻の島… この目でしかと確認し、そして3ヶ月の時を経て、身を持ってその島で過ごして参りました」
「そうか。それは大義であった。では… そこにいるお方が… 例の… 大聖女… 様?」
(とてもそうは見えぬが… )
「左様にございます」
「遂にか… 遂に出会えた。本当に存在していたとは。しかしそれをどうやって証明した?」
「はい… 大聖女… 名はアルネと申します。その力は… 島全体の精霊を無意識のうちに ’種族’ としての形を成し、1つの村を創りあげておりました。それも、私共が普通の人間と見分けが付かぬ程の」
「何だと… それは誠なのか? 何というお力… しかも本人には、その自覚もなかったという事なのか?」
「全て、誠の事でございます。彼女自身もここ数日前に、その力の… 自身の正体を知ったばかりです。更にはそれ自体の大きさも把握してないゆえ… 」
そして、アルネの方に目線を向けると、国王は改まった。
「なるほど。其方、アルネと言ったな? いや、大聖女アルネ様。我が国に、遥々足を運んで頂き、誠に感謝致しまする。是非… 」
国王のその言葉に、周りも動揺が隠せないでいた。
彼が謙るような言い方は、滅多にしないからだ。
この国の最高権力者である以上、それはごく当たり前のことだった。
それを、齢20にも満たない程の娘に対して、このような接し方をしたのだから。
しかし、アルネ自身も慣れていないため、失礼を承知で国王の言葉を遮った。
「あ、あの… その呼び方やめて頂けませんか? 私、そんな大それた者じゃないので… それに私も礼儀とかもわからないので、お互い通常通りで… ね?」
アルネは戸惑いを隠せないでいた。
そのせいで、彼女の両目がおかしい方向を向いていた。
しかし、ルクナは少し笑いを堪えていた。
( ’ね’ … ふふ、国王に、ね? … って… ふふ)
「そうか、ではアルネ… と呼ばせてもらおう」
アルネはその言葉に、2回程続けて首を縦に振った。
「其方には、是非この国で過ごしてもらいたい。不自由はさせぬ。もちろん無理にその力を使わせようとも思っておらぬ。そして必ず、その身の安全を保証しよう。ただ… 」
(ん? ただ?)
「何でしょう?」
「助言を頂きたい」
「助言?」
「うむ… 詳しい話は、ルクナリオに聞いて欲しいのだが… それで良いか? ルクナリオよ」
「かしこまりました。父上… 」
「えっ!? 父上!? お父さんなの!?」
アルネのその声に、周りがビクつく。
(声が大きいな… というか、説明してなかったのか? それにしても、中々話が進まぬ… )
そう思いながら、後で説明しようとだけ思い、こくんとだけ頷くルクナ… と他の者達。
「それで、アルネ… ある者達を探し出す為の、助言が欲しいのじゃ」
「… 助言って、何だか難しそうですね… でも私やり方が… 」
(アドバイスって事かしら?)
「案ずるな。其方なら大丈夫だ」
(何を根拠に?)
アルネにはその言葉の真意が、わからないでいた。
「そして… 先程からチラチラと見え隠れしているその者は… ?」
「申し遅れました。彼はその島に棲んでいた精霊のデイルです。アルネの力により、精霊族へとなった者の1人にございます」
「なんと! この地に… 我が国に精霊族を連れてきたというのか!?」
「はい… と言うよりかは、勝手について来… 」
「其方! 名は? もう少しこちらへ… 」
国王が高揚しているのが、その場にいる全員には、一目瞭然だった。
(食いつきが… アルネのそれとは違う… まぁ仕方ないか… なんてったって… 父上は… )
ルクナも父のその姿を久々に見た。
そして、自らのその身を王座から切り離し、デイルの元へと近づいて行く。
その手は、ゆっくりとデイルの頬へと伸びる。
「これが精霊族… なんと尊い… 」
デイルは少し… いや、だいぶ引いていた。
「国王か… 俺は ’あの村’ に仕えていた精霊だった」
すると、そのデイルの言葉使いに、近くにいた衛兵が口を出す。
彼はまだここに配属されたばかりの新人であった。
そう、何も知らなかったのだ。
「無礼者! このお方はっ… 」
そう声を張り上げる衛兵の言葉を遮ったのは、ルクナであった。
「よい。我々 ’人間’ と他種族の間に、主従関係はない。それぞれが、個々の独立した存在だからな」
仕切り直した国王が、再びデイルへと顔を向ける。
「そうかそうか! デイルとな! して何に由来しているのじゃ?」
(食いつきが半端ない… )
そう思いながら、アルネはルクナの顔をチラリと見た。
その姿に気が付いたルクナは、そっと近づいて耳元で囁く。
「父上は、種族が大好物なんだ」
「大好物!? それって食べっ… 」
「ふふっ、そんなわけないだろう… 種族に興味があり、それを生き甲斐にしている」
(種族マニアって事ね… )
「ん? て事は、もしかして探している、ある者達って… 」
その言葉に頷きながら、ルクナは応えた。
「あぁ、世界中にいるとされている種族達だ… 後ほど詳しく話そう」
ルクナ達の帰還の挨拶の場は、一気にデイルへと興味を持って行かれた。
(これは… )
(話が長くなりそうだぞ… )
(どうにか… )
そう思うルクナ含め従者達は、どうしたもんかという雰囲気を隠しきれないでいた。
しかし、その空気を一刀両断する者がいた。
それができるのは、この国においてただ1人と言っても過言ではない。
その美しい声色が、心地よく耳に流れた。
「ふふ… あなた… 今はその辺にしてはいかが? これから沢山時間がありますわ。楽しみは後に残しておいた方が、良いのではないかしら? ね?」
(うわっ! 激似じゃん!)
’おネエさん’ を知っているアルネだからこそ思った。
そのルクナと瓜ふたつの姿は、この国の王妃シェルヴィア、つまり彼の母親であった。
(ふっ… これか… なんか聞き覚えがあったのは… ふふ)
そして、ルクナはまた心が揺さぶられた。
その柔らかな言葉に、その場は安堵の空気となった。
それを目の当たりにしてしまったアルネは、口から本音が漏れる。
「これか… これが根源… 恐るべし遺伝… 」
「?」
ルクナはアルネのその独り言が、理解できなかった。
「父上ひとつ願い奉りたい事がございます」
「うむ」
「彼女自身も、その事実をつい最近知ったばかりゆえ… この件は、国民にはまだ内密に… 」
「あぁ、そうだな」
「時が来たら公に… それまでくれぐれも… 」
「わかっておる」
「…… 」
国王のその重い声と、軽やかな表情が相待っていなかった。
目がこちらを向いていなかったのだから。
そして、笑顔が溢れ出ていた事に誰しもが納得していた。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
またまた突っ走って書きたいように書いてしまっているので、文章が乱れていることもあるかと思います。
何かお気づきの点があれば、いつでもメッセージお待ちしております。
また、心ばかりの評価などして頂けると、励みになります。何卒よろしくお願いします。




