episode61〜塞がれた入り江〜
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こうして、シレーヌ族のオロン達と共に、他の民達がいるという、入り江へと向かったアルネ達。
その一部が見え始めた所に差し掛かると、道の途中で何かが跳ねているのが見えた。
水場のない場所で、ビッチビチと魚が跳ねている。
『あー! またポワソ様ったら! 勝手に出たらダメだと何度言ったら… 』
言わずとも、ピアンがテティスの言葉を訳してくれた。
(ん? どう見ても魚… だよな?)
アルネはその跳ねる者を、不思議そうに目を細めて見た。
『その声は… テティスかっ!? オロン様はっ!?』
そう言いながら、ポワソと呼ばれる者は、その身を跳ねさせながら、こちらへ向いた。
((しゃ、喋った!!))
アルネ達は満場一致でそう思いながら、驚いた。
『ポワソ… 今戻った… とりあえず、水中へ』
ピアンの訳により、オロンの言葉がわかる一同。
(やっぱり… 聞き間違いじゃなかった… て事はこの魚ちゃん… シレーヌ族?)
アルネはそう思いながら、まじまじと凝視した。
そしてテティスがその身を、摘んだ。
尾鰭の部分を指先2本で。
(えぇ… その持ち方は… 合ってるのか?)
ルクナはシレーヌ族の在り方が、少しわからなくなった。
そして、そのまま彼らの後に続く一同。
塞がれた入り江であるのか、広場のような場所に出た。
暗いながらも、洞窟よりは少しばかり明るい。
天井の隙間から所々に、月明かりが漏れている。
光がキラキラと、入江の水場に反射している。
その情景に、ルクナが思わず言葉を漏らす。
「美しいな… ここが、塞がれた入江… しかし、本来なら… 」
(そうね… 本来ならもっと、広大な海で暮らしてるはず… )
アルネは、その言葉を飲み込んだ。
そこには様々な生き物達が、狭々しく暮らしていた。
オロンの姿を見ると、岸の方へと集まり声を上げた。
本来ならば、広大な海原に居るはずの海の民達である。
彼らを静まらせ、声を掛けるオロン。
(これは酷いな… 100年近くもこの状況下で暮らしていたのか… )
デイルやノギジも同じ希少な種族の仲間として、気の毒な想いを心に留めた。
挨拶を済ましたオロンは、少し奥ばった場所へとルクナ達を案内した。
おそらくここが、王族の現在の居場所だろう。
「オロン、先程のポワソと言う者は、魚類に見えたのだが… その… 陸の上でも話ができるのか? えら呼吸なんじゃ… 」
「基本はそうだな… でも、彼は完全な魚ではない。私と同じ、シレーヌ族だ。今はその姿というだけで… ルテュも同じだ。完全な亀ではない」
(今は… ?)
「例の100年前の起こった出来事によって、彼らの生活は一変した。その体と共に、ポワソは魚、ルテュは亀の姿となり、普段はその姿でしか生活できない。しかし、ある一時の条件が起こった時に、元の姿へと戻ることができるんだ。それに加え彼らの努力の甲斐もあって、喋れる事ができるようになった」
(喋れる魚と亀… )
「そのある条件とは?」
「それは、月が満ちる時だ。その時のみ、2人はシレーヌのその姿へと戻る… 」
「月が満ちる時か… 確かにここから月が見えるな… 」
(また満月絡みか… )
「オロン、もうひとつ聞きたいのだが、水の中でなら、シレーヌの言葉がわかるというのは本当か?」
「あぁ、誠だ。試してみるか?」
そう言いながら、冷たそうな入り江の海水を親指を立てて、ニヤリとするオロン。
「… またの機会にしておこう」
ルクナには、今その勇気はなかった。
「ふふ、冗談だ。それでルクナ達はこれからどうするんだ?」
「そうだな… まだ決まってはいないが… 」
そう言いながら、何か考え込むようにするルクナ。
(どうしたのかしら? ルクナ… )
アルネは、その表情を横目に見た。
「狭くて暗いが、先がまだ決まっていないのなら、ここに何日か場所を用意するが? ルクナ達が良ければ… 」
オロンの誘いに、静かに首を横に振るルクナ。
「いや… 気持ちはありがたいが、とりあえず今日にはここを出ようと思う」
「え? ルクナ?」
アルネは、ルクナの少し訝しむような表情を感じていた。
(そんなに急がなくても… 何か… あるのかしら?)
しかし、ルクナはいつもの微笑みに戻すと、丁寧に礼を述べた。
「すまない。気持ちだけ受け取っておく。シレーヌ族がこんなにも生存していた事にとても嬉しく思う。このような場所に押し込めれるように暮らしていたとは… とても心苦しいが。
こちらも塞がれた入り江の解放に手を貸したいところなのだが。しかし、急ぎ確認したいことがあってな。また無事に再会出来ることを願う」
そう言って、硬く握手を交わした。
こうしてアルネ達とシレーヌ族との間に、新たな繋がりが生まれた。
しかし、ルクナはその確信のない嫌な違和感を感じていた。
(なんだ? この感じは… あの場所に似ている… )
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こうして、アルネ達はシレーヌ族とここで別れる事となった。
ピアンとも再会を願って、熱く抱擁を交わす。
「アルネ、本当にありがとう! わたくし… 本当にあなたのおかげで… 」
涙を浮かべるピアン。
「ううん… もとはと言えば、ハルザなの」
「え? ハルザさんが? どういうこと?」
アルネはハルザが幽谷の滝で、泥人形だったピアンを拾い上げた時の事を話した。
出来る限りの汚れを落とし、それでも綺麗にはならなかった人形であるピアンを手放す事なく、月華山まで連れてきた事。
その全てを明かした。
「そうだったのね… 」
そう言うと、ピアンはハルザにお礼を言いに近づいた。
2人は何やら話すと、再びピアンがアルネのもとへと戻ってきた。
「ふふ… ハルザさん… 素敵な方ね」
その頬は、何だか乙女の色に染まっていた。
(え? まさか… 嘘でしょ… あれ? でも心に決めた人がいるんじゃ… ? いや、でも新しい恋に切り替えることも… あり得るっ! 他種族間、これはまさに… )
’禁断の恋!’
アルネは、声にならない声でそう叫んだ。
その表情は、いつも以上に管理がなされていなかった。
ピアンが少し不思議そうに首を傾げながら、アルネの手をそっと持ち上げ、その上に何やら光沢のある美しき物を乗せた。
「アルネ、これを… 」
「これは… 貝殻? とても綺麗ね! くれるの?」
そう言いながら、アルネはそれを天に掲げた。
「この貝殻は、シレーヌ族の涙から出来ているのよ」
「え? この貝殻が?」
「えぇ、 ’ラルム’ と言って、これから暗明で変わる塗料ができるの。でもね、出せるのは王族のみで… その私だと思って… 持っててくれたら嬉しいな… って」
(けっ、健気っ!!)
その愛らしい姿に、アルネは沸騰した。
そしてその外れた蓋から、涙も溢れる。
思いっきりピアンを抱きしめると、その頬に両手を当てて言う。
「一生大切にするわ!」
その頬にキスをすると、更に強く抱きしめた。
その様子を見たルクナは、ある事を思い出し少し複雑な気持ちになった。
(あ… あれ? 以前俺も同じ様な… あれ? あの時のキスは… ん?)
アルネの喜びの表現が、勘違いをぶっ放し、この男をちょっぴり悩ませた。
それによって、彼の気持ちが真っ直ぐに開花した結果になったのは、結構な事であったが。
そして、再度その貝殻ラルムを見たアルネ。
「ふふ… 本当に綺麗」
「このラルムはね、身に付けているだけで加護が受けれるの。アルネの事を守ってくれる。この先、必ず… アルネ、無事でいてね。遠くからずっと祈ってる」
(嫁に欲しい… 種族間の大きな壁が邪魔ね)
それ以前の問題である。
「ピアン。私からもこれを… 」
「これは… 」
その手には丸みを帯びた月華糖が、ずっしりと袋に納められていた。
「え… こんなにいいのかしら? だって… あなたも… 」
「私は大丈夫よ! 月が満ちる時だけだもの。それにこの力は、思う存分使うって決めてるから! ふふ」
「そう? それなら… ありがとう。大事に使うわね」
「ふふ… 必ずまた会いましょう! 元気でね! ピアン!」
「えぇ! アルネもね!」
そうして、アルネ達は洞窟の外へと出る為に、その場を後にした。
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洞窟の外に出ると、すでに辺りは暗くなっていた。
テントを張れる場所を探すアルネ達。
その道中、アルネはルクナにある事を尋ねた。
「ねぇ? そんなに急ぐような確認事項なんてあった? もう少しあの場所で情報集めても良かったんじゃ… 」
ルクナの表情は、少し険しいものに変わっていた。
「…… いや… あの場所には、居たくなかっただけだ」
「え? どういうこと? 暗くてジメジメしてたから?」
「そうではない… ずっと感じていた… しかしそれが何かはわからない。あの違和感の正体は、一体何なんだ?」
「違和感? 何か変な感じなんてしたかしら?」
アルネが、考えるように空を見る。
しかし、アルネの顔色を見たシュリが、心配して声をかけた。
「アルネ? あなた… 少し眠った方が良いかも?」
「え?」
アルネはその言葉の意味がわからないでいた。
その為、顔色が悪くなっていた事に気が付かなかったのだ。
いや、洞窟の中は暗かった事もあり、その表情には誰しもが気が付かなかった。
そして、すぐにその場所は見つかった。
少し開けた場所。
その近くには川が流れていた。
素早くテントの準備をする従者達。
テントへと入ると、疲れが一気に襲ってきたアルネ。
眠気のせいで表情が浮かないのか。
そうではなかった。
(あの時からずっと様子が変だ… )
ルクナがそっと尋ねる。
「アルネ… さっきは、何を考えていたんだ?」
大聖女が女神達に対しての脅威的存在だと聞いた時の、アルネの様子がずっと気になっていたのだ。
「さっき? あぁ… うん、ちょっと走馬灯がね… 」
「え? 死ぬ間際に見る… あれか?」
「ふふ… 私ね、ずっと守られて生きてきたんだなって思って。小さい頃からずっと… お母さんが死んだのもきっと私を守るため。周りには精霊達しかいなかった。誰も近寄る事の出来ない島。
その時はそれが普通だと思ってたし、何も知らなかった」
その言葉に、真剣に耳を傾けるルクナ。
アルネを見つめる蒼い瞳は、いつでも真っ直ぐだ。
「それに別に不幸だったわけじゃない。楽しかったし、幸せだった。でも… でもね… それを知った今はなんか寂しくて悔しくて……… あったかい。これも、ルクナと出会ったからだね! ルクナがあの島から、連れ出してくれたから… 私… 気付けた… 皆の心も想いも… 気付けた… だから… これからは… 」
アルネの瞳には溢さずまいという程の大きな雫が、ギリギリのところで留まっていた。
しかし次の瞬間、それは大粒の涙となって流れた。
ルクナがその小刻みに震える身体を抱き寄せたからだ。
その想いごと、全て包み込むように。
一度流れた涙は、止めどなく流れ続けた。
「… っゔ… ゔぅ… うわぁぁあんっ… 」
抑えられない想いと声。
それが今、涙となって流れる。
「我慢しなくていい… せめて… 俺の前だけでは… それに、お前には皆がいる」
ルクナの言葉に、更に涙が流れた。
そのまま吸い込まれるように、眠りについたアルネ。
彼の腕の中で眠るその表情は、安堵しかなかった。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
突っ走って書いてしまっているので、文章が乱れていることもあるかと思います。
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