episode59〜シレーヌ族〜
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蔓薔薇によって、磔にされたシレーヌ族の男を救出したアルネ達。
彼は、ピアンの兄であるという。
名はオロン。
ヴィカが手当てをしている間、ピアンは兄との再会をゆっくりと噛み締めていた。
兄オロンのもとへと導いてくれた、シレーヌ族の者とも話すピアン。
そしてそれをアルネ達に伝えるように、丁寧に訳をした。
『オロン様を助けて下さり、ありがとうございます。それにピアヌリーネ様まで連れ戻して下さり、何とお礼を申し上げたら良いのか…
私の名は、テティス。オロン様にお仕いしている者です。そして、私共、シレーヌ族一同は、貴方様をずっと探しておりました。
ピアヌリーネ様、良くぞご無事でお戻りになられました。先程から思っておりましたが、私共の言葉を話す事ができないようですね? えぇと… 水の中なら… 』
(水の中?)
すると、ヴィカの方から低く、そしてとても美しい男性の声が聞こえた。
「その必要は… ない」
「え… ? 今の声は… えぇと、オロンさん? 私達の… ユマン族の言葉が話せるんですね? それよりまだ… 傷がっ… 」
アルネがそう言うと、その痛々しい身体をゆっくりと起こしながら、オロンは言葉を交わした。
「大事無い」
彼はそう言うと、ピアンに目を向けた。
「… ピアン… 会いたかった… 」
オロンが、その身をゆっくりとピアンへと近づける。
「どんなにこの時を待ち望んだか… 」
そして、ピアンを愛おしそうに、その傷だらけの腕で抱き寄せた。
ピアンは恥ずかしさと嬉しさで、涙が溢れた。
彼女の心と身体は、これ以上ないほどの温もりで埋め尽くされる。
しかし、すぐさま負傷したその身体を労るように、優しく離した。
「あ、あの… 兄様、まだ傷が… 」
その言葉に同じくオロンの身体を診ていたヴィカが驚き、不思議な顔をしていた。
「ん? え… 」
「大事ない。傷ならもう… 」
そう言って、オロンはその傷だらけであったはずの身体を、ピアンへと示した。
流れていた血は既に止まっており、その深かった傷も浅くなり始めていたのだ。
その光景を側で見ていたルクナが、口を開いた。
「聞いたことがある… 人魚の血肉には不老不死の効能があると… 」
その言葉に、オロンは何故かルクナへと鋭い目線を送った。
(ん? 何だ?)
ルクナは、咄嗟に一歩下がった。
「傷の治りが早くて、良かったですわ。兄様… お会いできて嬉しいです。長い間、心配させてしまい、申し訳ございません… 」
「あぁ… 本当にどんなに心配した事か… 」
そう言って、ピアンの髪を優しく撫でるオロン。
ピアンは嬉しそうにしながらも照れた。
「… して、その者達は?」
ピアンに対する目とは少し異なった表情を浮かべながら、アルネ達一同を見るオロン。
(シレーヌ族としての警戒心か?)
ルクナはそう思いながら、ゆっくりとその口を開こうとした。
しかし、それを制したのはピアンであった。
’ここは私が’
そう薄い声でルクナへと伝えた。
そのやり取りに少しばかり怪訝な顔をしたオロンであったが、ここまでの経緯や呪いから解放してくれたアルネの事などを話すと、少し気が柔らかくなった。
気持ちが落ち着いたところを見計らって、ピアンが再度ルクナの耳元に近づく。
「ごめんなさい… シレーヌ族は、この得意な体質のせいで、悪い人達に狙われる事が多くて… 兄様はとても警戒心が強くなっているの。頂きに立つ者としては特に… 」
ルクナの耳元で、そう囁くピアン。
それに納得したかのように、ルクナは頷いていた。
しかし、何だかまだオロンが、ルクナの方へと鋭い目線を向けているような気がした。
(さっきからこの突き刺すような視線は、一体何なんだ?)
それは、ルクナだけが感じていたわけではなかった。
その視線は他ヴィカ、ネネルト、ハルザ… 要は、アルネ以外の男性陣に向けられていたのだ。
そして、オロンはルクナから目を逸らさずに、ピアンに何やら耳打ちをした。
ピアンはそれに応えるように、力強く首を横に振った。
そしてチラリとアルネの方へと目線が流れると、軽く頷いた。
心無しか、少し顔が赤い。
オロンは次々に彼らへと目を向けていったが、ある時を境にピアンが何かを言い放つと、満面の笑みになった。
最後の方には、顔を真っ赤にしていたピアンだった。
(ん? 何だ?)
すると、オロンの気が一気に緩み、その態度が一変した。
そのまま2人は何か話すと、完全に癒えたその身体を立ち上がらせる。
オロンがルクナ達の前まで来ると、忠誠を示すかのようにひざまづき始めた。
「南東に位置する彼の国の殿下と、お伺い致しました。これまでのご無礼をお許し下さい、ルクナリオ殿下」
「… いや、頭を上げて下さい。我々、他種族間では、主従関係はないはず… 同等でなければならない… そうではありませんか?」
そう言うと、オロンは顔を上げ、ニコリと笑った。
「そう… だったな… では、砕けた話し方で、失礼させてもらおう。こういうのは、永年、他種族と関わってないと、わからなくなるもんだな。
改めて、シレーヌ族の王家に属しているオロンミリアだ。オロンでいい。ここまで、妹のピアヌリーネを再び我々のもとへと送り届けてくれて感謝している。それに… 」
そう言いながら、ピアンへと目線を移したオロン。
「アルネ嬢… ピアンの呪いを解き放ったのは、其方だと聞いた」
「あ、い、いえ… そんな… たまたまそうなっただけで… 」
(あれは単なる実験だったなんて… 口が裂けても言えない… )
「それに加え、長年に渡る蔓からの解放… 其方のおかげだそうだな? 礼を言う」
「あ、それに関しても… 同じです… 」
(アレも一か八かだったなんて… まぁバニーちゃんの特性は知ってたから、結果オーライか… )
その歯切れの悪い返事に、従者達は思っていた。
(アルネ様のそれは、運も大きく関わってるな… )
「彼女は大聖女だ。見極める力や彼女自身の逞しい行動力が、そうさせた結果に繋がったんだ」
ルクナのその言葉に、デイルは目を据えながら思う。
(突飛な行動の方が多いがな… )
そして従者達は、更に思う。
(大聖女の力は関係なかった気が… )
「大聖女? 彼女がか? そうは… 見えないな… あ、すまない… 」
オロンの言葉に、従者達は共感の相槌を打つ。
「よく… 言われますので… 」
そう言いながら、アルネはその彼ら達を睨んだ。
「ふふ… そうだ。アルネ自身もその事実を知って間もないからな」
「大聖女か… 今回はユマン族が続いたんだな?」
その発言に、一同が驚きを隠せないでいた。
「どうした? ユマン族の大聖女は非常に珍しい。それが2回連続ともなると… かなりの… ん?」
「やっ… ぱり… きっと、どこかに大聖女だった女性がいるはず!」
「まだ生きていればの話だがな」
「確かに… 」
少し考えるように、空を見つめるアルネ。
しかし、ルクナは確認を怠らない。
「オロン、ひとつ聞きたいのだが、その件に関して、アンセクト族の長老も同じような事を申していた。大聖女はユマン族だけではない、むしろ少ない方だと。
初代大聖女はユマン族だったと聞いた。普通そこから、子がなされて、大聖女の力を受け継がれていくものかと思っていたが…
大聖女としての力を他の種族の方が多く担っていたとしたら、その力はどうやって受け継がれるんだ? それとも、多種族同士の… その交配が可能… なのか?」
「いや、それはないだろう… 秩序が乱れるからな」
「そうか… ではどうやって?」
「選ばれるんだ」
「選ばれる? もしかして… 神にか?」
「… っ… 神… そうだな… 結局は、神の思し召しに過ぎないのかもな… しかし、実際のところは、いつ、どうやって誰に選ばれるのかは、わからない。私も年若い身だ。詳しくは知らなんだ… すまぬな」
「いや、ここまで分かっただけでも助かった。礼を言う」
その言葉に、王子2人は微笑んだ。
和やかなムードの中、側で見ていたシュリが、そっとピアンに尋ねた。
「ねぇ、ピアン? 事が穏便に進んだようね?」
「えぇ。たった今、兄様にはルクナ様達が、ここから南東に位置するとある国から来た事を話したから。様々な種族達を探し、その途中で私の呪いを解いてくれた事などもね… 私達シレーヌ族にとって、脅威ではないという事も… 」
「そう… でも本当にそれだけ?」
シュリにそう問われ、ピアンは顔を赤くしながら動揺した。
「あ、えっ、えっと… その… ここにいる男性の方の中に… 私の想い人は居るのかいうことも… 聞かれたわ… 恐れながらも否定させて頂きました」
(なるほど… だからね… ん? でも私も? それに既に心に決めている人がいるんじゃなかったかしら? あれ? お兄さんはその事を知らない?)
そう、先程のオロンの睨むような行為は、敵視というよりは… 兄の目だったのだ。
オロンはこの場に連れてきた男の誰かが、ピアンの恋仲と疑い、確認していた。
もちろんシュリも例外ではない。
「ふふ、兄心ね」
シュリはニコリと笑い、そう言った。
(でも大丈夫なのかしら? 本当の事を知ったら… それにもしも本当にこの中から相手ができたとしたら… あぁ修羅場になるかもしれないわね… ふふ)
「全くよ! だって私には… はっ! そう言えば彼の姿がないわ!」
(あぁ… 面白くなってきたわ)
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