episode5〜タナマ村の真実〜
最後まで読んで頂けると幸いです。
ある晩、夕飯を食べ終えたアルネは、日課となっていた仕掛け網の準備をしに、いつもの所へと向かった。
網を深い海へと投げ出す。
静かな潮風が、アルネの長い髪をなびかせる。
「気ぃ持ち良い!」
その声に反応を示した者がいた。
「アルネ、今日も例の仕掛けか?」
「うん! とても綺麗な海ね。暗くて良く見えないけど、周りに光りが一切無い分、星達と月が反射して見え… る… あ… 」
「どうした?」
「あ、ううん… 今日って満月だったのね… 私、初めて見るから… 」
「え? 何故?」
「それがねぇ、いつもおばあちゃんに止められてたからなのよ。ほら、前に言った事あるでしょ? 夜は色々と危ないからって。あれ、本当は満月の夜は、外に出るなって言われていたからなの… てか見るなって… 今思えば何でだダメだったんだろう? 今初めて目にしたけど、特に何も… 」
「ん? 満月を見るな? どういうこ… え? ア… ルネ?」
アルネの方を見るルクナは驚きのあまり、瞬きをすることさえ出来なかった。
その髪は少しずつ伸び始め、身体からは煌々と光を発していたからだ。
「ルクナ?」
「… まさか… そんな… 本当に? アルネ、君は… 」
「え? 何? どうしたの?」
(やはり気が付いてないのか… )
「何か変だとは思っていた。村の者達には不思議な… しかし、実際にこの目で確かめるまではと思っていたが… 今ここで確信した。君は… 」
「え? な、何よ!?」
「アルネ… これから言う事を、落ち着いて聞けるか? いや、聞いて欲しい」
「ルクナ… ?」
「アルネが育ったあの島… 村には… 最初から人間と呼べる者は誰もいなかった」
「… どう言う意味?」
「人間という存在は、あの村にはいなかったんだ… お前を、除いてはな」
「何を… 言ってるの? 急にどうしちゃったの!? 冗談はやめて!」
「冗談ではない。彼らは… おそらくお前が創り出した者達だったんだ。あの場にいた… 村人だと思っていた者達全ては… 人間ではなく、精霊だ」
「精… 霊? 私が創り出したって何!? 言っている意味がわからないよ!」
「君はおそらく… いや、もうひとつ… この目で確かめる必要があるな… 」
「確かめる… ? そうだ! デイルッ… デイルはどこ!?」
そう言って、デイルのいる方へと走り出すアルネ。
すぐに船首の方が騒ついているのがわかった。
突然、光り出したというデイル。
その姿を隠そうと、縮こまるように隅の方で身を固めていた。
その姿はいつもよりも、ふた周り程小さくなっていたのだ。
そして耳には丸みがなく、先に角が付き、鋭く伸びていた。
ついにその真の姿を見たアルネ。
目を疑うしかなかった。
しかし、その場にいたのは、間違いなくデイルであった。
「う、嘘… そんな… デイル? デイルなの?」
「アルネ… 月を… 見たのか? その真実を… 」
いつもとは違うその声色からは、更に真実へと繋がる言葉が出てきた。
「デイルまで… 何で… あなたまでそんな事言うの… ? その真実って一体何なの!? いつから… 」
「俺は… いや、俺達村の者は、お前の生み出した命だ。お前が側に居なければ、存在できない。その姿を維持できないんだ」
「私が… 嘘… 本当なの? なら… 今頃村には… 」
「あぁ… 誰もいない… しかし、精霊としては存在しているから… 」
「誰も… いない?」
アルネは静かになり、誰もいないその村中を瞬時に想像してしまった。
そのせいで頭の中の、何かが切れるような音がした。
それからはもう、何も届かなかった。
「アルネ、聞いてくれ… 」
「… じゃあ… 今まで、私… ずっと1人だったの?」
「アル… 」
「ずっと… ずっと… ?」
これまでの記憶が、走馬灯のように蘇る。
幼い頃から過ごしたあの村での…
タナマ村で過ごした日々が、全て自分の創り出したモノだと知った今。
アルネの耳には、何も入る余地はなかった。
更には、バラバラと何かが崩れるような音が聞こえた。
「ずっと… ずっと」
身体の感覚を感じる事が出来ないほど、1点を見つめるアルネ。
どう声をかけていいのかも分からず、周りの者はその手を伸ばす勇気がなかった。
「ずっとずっとずっと… !! そん… な… 私はずっと… 1人だった… あの場には、最初から誰も居なかっ… た… う… ゔぅ… ゔわぁぁぁぁぁ」
泣き崩れるアルネ。
しかし、そこにゆっくりと近づき、その身体を抱きしめるひとつの影。
ルクナがその胸に受け止める為の行動だった。
今の彼には、こうする事しか出来なかった。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
またまた突っ走って書きたいように書いてしまっているので、文章が乱れていることもあるかと思います。
何かお気づきの点があれば、いつでもメッセージお待ちしております。
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