episode45〜鉄の矢〜
たくさんの作品から見て頂き、ありがとうございます。
最後まで読んで下さると、嬉しいです。
「アルネッ! こっちだ!」
その声に引っ張られるように、アルネは足を走らせた。
アディに腕を引かれ、岩場のあるその下へと身を隠した。
その時アルネは、アディから伸びる長い矢が目に入った。
肩からは、血が滴っているのがわかる。
「ア… アディッ! 矢がっ… 」
「あぁ、このくらい大した事ない… それより… 」
そう言いながらその矢を一気に引き抜くと、傷口を抑えた。
「ダメだよ! ちゃんと止血しないとっ」
そう言いながら、アルネは持ち歩いていた布で肩の傷を抑え始めた。
「… っく… まさか、お前があの島の出身だったとは… というか、あの島に人が住んでいたなんてな… お前だけか?」
「え? えと、その島からデイルも一緒に来たわ。でもユマンは私だけ… のはず」
「やはりあの生意気なやつもか… てことはお前らはキティール島で生まれた?」
「え? あ、うーん… 多分違う」
「違う? どういうことだ? 言っている意味がわからん。お前ら… 一体何者なんだ? 本当に大聖女なんだよな?」
アディは少し険しい顔をしながら、アルネを見つめた。
「ええと… よくわからないの… 私は物心ついた時にはその島にいたから… 」
こうして、アルネはアディに自身の生い立ちを簡単に話した。
「そうか… ではデイルは精霊族だという事だな? しかもお前が創り上げた種族」
コクリと頷くアルネ。
「えぇ。私自身もまだ知って間もないの… 実感もないし… それより、さっきの矢は一体何!? 随分重いわよね? 鉄のように見えたけど… さっき ’ここで’ って言っていたけど、その島の名を口にした事が何か関係しているの? 矢はどこから降ってきたの!? 何故突然… っ」
「落ち着け… いや… 突然空から鉄の矢降って来たんだ。落ち着けるはずもないか。あれは… おそらくお前達2人を狙ったものだ。アルネと小僧をな… 」
「私達2人を? 狙って来たのは、あの場所にいた誰かなの? いや、てか私達の他に誰かいたかしら? そんな気配… 」
「あの場所には居ない。居るのはその遥か上にある場所にいる者だ」
「上!?」
「あぁ」
「それって… まさか空?」
頷くアディ。
「マジかっ! あそこから空にまで私達の声が聞こえたって事!? 耳良すぎじゃない!? てか、何故私達を… ん? 私達だけを?」
「あぁ、だからお前達が… 」
「てことは、私とデイルだけ離れれば、皆には降り注いで来ないって事?」
「え? あぁ、そう… なるな… ん? お前、変な事考えてないよな?」
「じゃあ、それを教えてあげればっ! 私達が離れれば… っ」
「待てっ! っつ… 」
「大丈夫!? 痛む!?」
「デイルとハルザが… 離れて行くのを見た。おそらく他の者達は、近くにあった洞窟に居るはずだ」
「本当っ!? そっか… なら良かった… でも、他の皆を巻き込んじゃった… 」
「いや… 知らなかったのだから仕方あるまい。この事を他に知る者は? … と言っても先程、大勢の者が知ったばかりだがな。それを聞いたところで意味がないか… 」
(さて… これからどうするか… )
アディは少し遠くを見つめた。
「でもアディ… 私、他の場所でもその話した事があるけど、その時は何にも起こらなかったわよ?」
「その理由は、この場所にある。月華山でなければ特に問題はなかったはずだ。しかし、彼女達のいるその場所は、空の上に浮いている。このちょうど真上にな… 」
そう言いながら、アディは人差し指を上に示した。
「彼女… 達?」
「あぁ、キティールという島だ。その名も女神達の楽園… ’悦びの島‘ 」
「え? ん? キティール島? 何言ってるの? その島は… 」
「2つ存在する。今は… だけどな」
「んあぁぁぁぁ!」
「… っ!? な、なんだいきなり!」
「混乱よ大っ混っ乱っ! キャパオーバー! 一瞬っ一瞬待って! 整理するから!」
アルネはそう言うと暫しの間、頭を抱えた。
(何なんだこいつは… あれ? なんか… )
アルネは思い立ったように、持っていた荷物から1冊の本を取り出した。
そして、それを大事そうに抱えると、目を瞑りそして一気に開いた。
その瞬間、アルネ自身と本が共鳴するかのように光り出した。
その姿に目が離せなくなるアディ。
言葉も出ない。
そして数分もしないうちに、アルネの目は開き、そして光りも消えた。
「ふぃ… オッケー! いいよ! 続けて」
「続けられるかぁ!」
アディはその状況に叫ばざるを得なかった。
「え?」
「何なんだ!? 今のは一体何なんだと聞いている」
「え? いや、だから頭の中を整理してたのよ?」
「整理の仕方が独特すぎるだろ? ちゃんと説明しろ」
「もうっ! うるさいなぁアディは! 小姑みたい! いへっ… 」
アディは、アルネの頬に痛みを与えた。
そのつねられた頬をさすりながら、アルネは渋々説明をした。
「この本は大聖女の為の物、いわば魔導書ね。その考えを映し出してくれるの。普段は側に置いておくだけで、自然に映し出されるんだけどね。頭で整理できないから、一気にここに記したってわけ。緊急時だったからね」
「その本は、そんな事が出来るのか。便利だな」
(頭の中の緊急事態って事か? 大して複雑なことは言っていない気がするが… バカなのか?)
「そうよね! やっぱアディもそう思う?」
「でもそれ、他の奴に見られたらまずいんじゃないのか?」
「あぁ… うん… そうね、まずいわね… 読み取れればね」
「?」
「それで? そのもう1つのキティール島が存在するってどういうこと!? 女神達の楽園ですって!? なんじゃそりゃ!! しかも悦びのって! そんな楽園あるんなら… 是非行ってみたいっ!」
「おい… なんかまた変な妄想こいて、勘違いしてないか?」
「エ? ナニガ?」
(やっぱりな… )
「楽園や悦びといった名ばかりは良いが、実際は魔女だらけの島だぞ? それは、この世で最も残酷な場所だと言われている」
「言われている? 残酷なのに楽園? でも悦んでいるの? はて?」
アルネは、再び混乱の糸が絡まり始めた。
「あぁ、彼女らにとってはの楽園だからな。その悦びの島も、元々は地上にあった。そう… お前のいた島の場所にな。1つの島がある時2つに割れ、1つは上空へと放たれたんだ。奴らによってな… 」
「そう言えば、以前にライがそう教えてくれた事があったわ。元々は1つの球体だったって。そして、島が半分に割れ、下半分だけが残ったって。
おそらく、100年程前の大地震によって… まさかその上半分が上空にまだあったなんて… 」
「あぁ」
「それにしても上空にって… 一体どうやって浮いているのかしら?」
「詳しい事は、俺にもわからないが、恐らく女神と言われている奴らが、その力を使って上空に留まらせているんじゃないか?」
「そんな強大な力を持っているなんて… 相当な強者ね!」
「あぁ… そうだな。かなり厄介な輩だ。どうにか接触を図りたいが… 」
そして再び頭を抱え始めたアルネ。
すると、何か思い立ったかのように、アディは口を開いた。
「そ、そうだ! その本に、何か書いてあるんじゃないのか… !?」
そう言いながら、大聖女の魔導書をおもむろに開いたアディ。
しかし期待を込めた手はゆっくりと、速度を落としていく事になる。
そう、その期待はすぐに撃沈する事なるのだ。
そして、ついにページを捲る手が止まった。
「…… これは… 何か特殊な暗号か何かか? 大聖女にしか解読できない… とか?」
解読と言っている時点で、彼はそれを1ミリも理解できないでいた。
「え? そんな事ないわよ?」
「そうか… また、何か思い出したりしたら教えてくれ… 」
彼はそっと、その本をアルネへと返却した。
「それにしてもその悦びの島って、本当に残酷な場所なの? 私がいた島は、そんな所じゃなかったわよ? 誰か実際に見たの?」
「いやいやいや! お前! さっきの見ただろ! 実際に狙われたじゃねーか! これ見ろ! この傷!」
「あ、傷大丈夫? 結構痛む?」
「痛いわっ!」
(何なんだこいつ… 調子が狂う… 何でこんなに腹立たしいんだ)
「でも待って… その場所ってどうやったら行けるの?」
「は? それは… 月華…… お前、まさか」
「ふふん、やはりね! ’接触を図りたい’ ってさっき言ってたのは、女神達にって事もそうだけど、 ’誰かに’ って事でもあったのね。そう
その術を知っている誰かに… ね?」
「… っ」
「そうよ! 逃げてばかりなんていられない! 今からその場所へ行って、この馬鹿げた行為をやめさせなきゃ! ついでにその楽園という場所を見… 」
「本物の馬鹿か! お前は! 死ぬ気か! 何の準備なくあんな場所へ行ったら、一発で命を落とすぞ!?」
「… ねぇアディ?」
そう言いながら、アルネはクネリクネリと人生初となる摩訶不思議な動きをし始めた。
通常の者には、効かないその初心者の動き。
しかし、アディには十分それが効いていた。
「教えてくれない? その行き方を詳しく… ね?」
「… シ、シラナイ」
彼の鼓動は跳ね上がり、挙動不審に言葉を発してしまっていた。
「嘘! 下手くそ! 知ってるでしょ! ほらっ吐きなさいっよっ!」
そう言いながら、今度はアルネがアディの頬をつねる。
「いばばいっ… 」
(その前に喋れない)
「あら? じゃあ、そうね… この傷口にさっきの矢を戻してもいいのよ? ふふん」
「お、おばっ、やべぼっ」
(悪魔かこいつ!! 正気じゃねぇ! 楽園に行く前にここで殺される!)
「… っだぁあ! やめろ!」
アルネを引き離し、そのまま覆い被さるように地面へと押しつけた。
「キャッ! エッチ!」
「腹立つな… 何だそれ! はぁ… 確かに、行き方はわからなくもない」
「やっぱりぃー! じゃあっ… 」
「だが、すぐには行けないぞ?」
「え? 何でよ?」
「その楽園に行くには、お前の言う通り、月華蝶の力が必要だからだ」
「でもその月華蝶様との接触の仕方がわからないと… 」
「そうだ。今は月華蝶のみが、その場所に行ける。だからまた月が満ちるまで待つしかない。しかし、待ったところで、どう接触していいのかがわからない。行き詰まり状態って事だ」
「て事は… あと数日後?」
「あぁ」
「うーん、じゃあとりあえず、どうすればこの矢は止まる?」
「知らん」
アディはその顔を、ぷいっと横に向けながら言った。
「し、知らんってそんな無責任… ん? あれ? なんか苛立ってます? どうして?」
(こいつ… )
「チッ」
「うっわぁ… 今、舌打ちしたっしょ? 女の子に舌打ちする男はモテないぞー」
「お前なぁ… あ、そういえば、これ落としてたぞ?」
「あらやだ! 気が付かなかった! ありがとう!」
アルネはその耳飾りを受け取ろうと、手を伸ばした。
「おい、これ… 」
「これ? ふふふ、貢ぎ物って言ったらいいのかしら? 私にくれた素敵な子が… えっ! ちょっ、何するのよ!」
アディはその耳飾りを渡す手を引っ込め、観察するようにまじまじと見始めた。
「大切な物なんだから返してよ!」
即座に奪い取るアルネ。
「あいつから… ルクナリオから貰ったものか?」
「違うわよ! あんた私を何だと思っているのよ!? これはゾルからもらったの!」
(あいつ… 貢がされていたのか… いや、買収か? この女ならあり得る)
「コクシネルのあいつか… しかしこれは、使えるかもな… 」
「え? どういう事?」
「その貢がされていたゾルは、これについて何か言ってなかったか?」
「何だか鼻につく言い方ね… まぁいいわ、ええと確か、蓄光石で出来ているって。それと、この先端を押すと、突風が起こるとも言ってたわね」
「光る石に風か… 他には?」
「他にはえぇと、うーん、あと何点かありそうだったけど、それは秘密って言われちゃったのよねぇ」
「その残りの機能が知りたいな。よし、1つずつ試すか! それをもっかい貸せっ… 」
「ちょっ! 待って! 嫌よ! 本人に聞いた方が早いでしょ! もし危険な事だったり、一度ぽっきりしか使えない機能だったらどーするのよ!」
「俺の勘が当たってれば、それはおそらく… 」
2人が奪い合いをしている最中、突然少し大きな影が2人を覆い被さった。
「アルネ!? ここにいた! 無事か?」
そこには矢の襲撃が収まったのを確認してから、アルネ達を探しに来ていたゾルがいた。
その後ろには、他の者の姿も確認出来る。
「ゾル! それにシュリさんも! ルクナ達は!? 皆は無事!?」
「えぇ。皆、大事ないわ。アルネ達も無事で何よりね。あの矢のおかげで危うく串刺しになるところだったけど… でも皆がバラバラに散った後は、何故か1本も降って来なかったわ。一体誰が… と言うか、その矢はあなた達と、もう一方の方へと降り注いでいたように見えたけど? あれは確か、ハルザ達の方かしら?」
(ハルザとデイルは確かに一緒にいるはず… やっぱり、アディの言った通り、私とデイルを?)
「そう… 良かった。あ! そうだ、ゾル! 良いところに! この耳飾りの効果を、もう一度ちゃんと聞きたいんだけど教えてくれない?」
「耳飾り?」
ここで、耳飾りの事を聞かれた事に驚き、思わず聞き返すゾル。
「うん! この耳飾り、蓄光石でできていて、突風を起こしたりできるって言ってたじゃない? 他の機能は何かな?」
「そうだな。確かにまだ伝えていなかったが… しかし今必要な事なのか?」
その言葉にコクンと頷くアルネとアディ。
「そうか… えっとそれは、居場所がわからなくするんだ」
(やはり… )
アディはその言葉を待っていたかのように、聞き入っていた。
「え? わからなくする? どうやって?」
アルネは質問を続ける。
「それを耳にするだけで、その者の居場所をわからなくできるんだ」
「透明になる… とかって事? でも私… 」
「あ、いや、姿形は変わらないんだが… 特定の者から、居場所をわからなくする事ができるってばあちゃんが… 」
「特定の者? おばあちゃんが? あれ? これはゾルが作ったものなんじゃ… 」
「えぇと、実はばあちゃんから貰ったものを、僕が改良して付け足したんだ」
(あの時のばあちゃんを思い出すだけで、鳥肌が… 死をも覚悟したくらいだ… )
「他にも同じのが、2つあるんだけど… どうやって、位置をわからなくするのかはわからないん… ん? アルネ?」
「あと2つ… 全部で3つ… 誰から身を隠すっていうの… ? 女神達から… ? 居場所をわからなくするための? そういう事… そっか! だから、さっき耳から外れて、彼女達に私の場所が… なるほどね! ふんふん」
考察をしながら、ぶつぶつと呟くアルネ。
「ゾル! お願い! あとの2つ! 私に譲ってくれない!? おばあちゃんの大切な遺品って事は重々承知! でも! 必要なの! お願い! お願い!」
(ん?)
アディは違和感を感じた。
「えっ? いや、でも他の2つは、全然手をつけてなくて、他の機能が付いてな… 」
「いいの! いいの! その亡きおばあちゃんの機能がとんでもなく必要なの!」
(亡き… って)
ゾルはアルネの必死な形相に圧倒されていて、その言葉に気が付いていないようだった。
「え? あ、う、うん、それはもちろん良いと思うんだけど… でもアルネ、俺やり方がわからないから直… 」
「本当!? ありがとう!! 今度おばあちゃんのお墓に… ん? やり方がわからないっ!? ぎゃーどうしよう!! 今すぐ必要なのにぃーー!」
(全く… 勘違いしたまま突っ走る癖… 悪い子ね)
もちろんそれに気が付いていたシュリ。
しかし、面白さ見たさに暫し様子を見る事にした。
「えと、直接聞いてみたら?」
「え… ? 直… 接?」
「アルネ… そのばあさん、勝手に殺すのやめろよ。多分生きてるぞ?」
アディが思わず突っ込む。
「え? そうなの?」
コクンと頷くゾル。
「あへ… えへへへへ… じゃあご挨拶しないと! んね!」
そう言いながら、慣れないウィンクをバチリと放つ。
(早とちりが多いわね、ほんと)
シュリはその目を彼女に向け、温かい心で見つめていた。
「シュリさん、お願いがあるの。その矢は私とデイルを狙ってる者から放たれているらしいの。だから、そのゾルのおばあちゃんを、ここに連れて来てくれない? 私達が外に出ない限りは、安全だと思うから」
(ん? アルネとデイルを?)
「お安い御用よ」
シュリは疑問が残る反面、すぐにゾルの祖母を連れてくる為に、その場を後にした。
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
突っ走って書いてしまっているので、文章が乱れていることもあるかと思います。
何かお気づきの点があれば、いつでもメッセージお待ちしております。
また、心ばかりの評価などして頂けると、励みになります。何卒よろしくお願いします。




