episode3〜お迎え〜
新連載始めました。
最後まで読んで頂けると幸いです。
そうして、ルクナがこの村に来てから、3ヶ月の時が経とうとしていた。
「そろそろか… 」
夕焼けの空を見ながら、そう呟くルクナ。
風の音で上手く聞き取れなかったアルネは、もう1度聞き直した。
「え?」
「そろそろ… 迎えが来るはずなんだ」
「迎え? この島に? いやいやいや、来れるはずないわよ!? だってここは… 」
そう言いかけたアルネ。
11年前の記憶が甦そうになり、一瞬言葉を詰まらせた。
しかし、何かに勘付きながらもルクナは、言葉をゆっくりと解き放つ。
「この島は… 航路の絶たれた島… たまたま流れ着く事でしか来れないと言われているのは、周知の上だ。更にはその場合の生存率も不明。つまり、ほぼ不可能… だった」
「だった?」
「そうだ。現に俺がここに辿り着いているからな。それに… 」
ルクナは急に口を噤んだ。
(それに、アルネの両親が、本当に俺の国の者だとしたら、更にその生存率は上がる。しかしどうやって… )
そう思いながらルクナは、更にある話をし始めた。
「10年程前の事だ。ある男が、この島の航路を攻略しようとした」
(10年前… ? 10年… え? それって、まさか… )
「その男が乗っていたという船も、その後転覆したと聞いた。その男がこの島に辿り着いたかどうかは… 」
「ジール… その男の名は、ジール… 違う?」
その強い眼差しが、ルクナへと向けられた。
「ジール? … ジーラナンドか!? そうか、辿り着いていたんだな… しかしここにいる間、この村でジールに出会う事はなかったな? 今、彼はど… 」
「死んだわ」
「え? 死んだ?」
「そう、死んだわ。突然ね。よくわからないけど… 本当に突然だった。海岸の丘の下で、息を引き取ってたって聞いたわ」
「突然死んだ? … そうか… 奴は… 」
「ん?」
「ジーラナンドはその時、何か言ってなかったか?」
「え? 何かって… えぇと… 私、ほとんど話さなかったから… 」
アルネはその時のジールの様子を、覚えている範囲で話した。
(奴の目的はやはり… しかし、その者を見つけ出すことはできなかった… ということだな。それもそうだ。奴は ’この血筋’ ではない。見分けるには… そして、おそらくこの村に何かをしようとして、何らかの災いをもらったか… いや、憶測に過ぎないな… 誰か真実を知る者がいれば良いのだが… )
ルクナは深く考えに耽った。
そして、アルネは自身のある決意を示した。
「ねぇルクナ… 私も連れて行って」
「え… 」
「もし… 本当に迎えが来たら、その時は… 私も一緒に連れてってくれない… かな?」
「… 本気か? ここに船が辿り着けたとしても、国へ帰るにも、その路は決して簡単ではない。それに、この島にも無事に戻って来れるかの保証もないんだぞ?」
「ええ… 大真面目よ! 道が険しい事はわかってる… わかってるの! でも… それでも、あなたの国へ行ってみたいの! 両親の事が何かわかるかもしれないし… それに何より、広い世界を見てみたい!」
アルネの真っ直ぐなその目は、ルクナへと強く向けられていた。
しかし、すんなりと彼に届いたわけではない。
「少し… 考えされてくれ」
「… わかったわ。期待して待ってるから」
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その夜、深い色の海の見える丘で、座りながら頭を抱える人物が1人。
(本当に… 連れて行っていいのか? この島から彼女を出しても… 良いものなのか?)
彼はどのくらいの間、そうしていたのかもわからなくなっていた。
(もし本当に連れ出したとして、それが村の者達の怒りに触れたりしたら… いや、逆に彼ら自身には影響は無いのか? 彼女無しでも… 彼らは… しかし、何よりアルネが望んでいる… )
「あぁ… どうしたらいい… 」
「どうしたの? 何をそんなに悩んでいるの? 悩む種が深いなら聞くよ? 禿げる前に」
(お前の事だよ!)
ルクナはつい、感情を剥き出しにするところであった。
(危なかった… 俺とした事が… )
少し呼吸を整えると、遠くを見つめながら口を開いた。
「… あ、いや… それにしても、珍しいな? こんな夜に出歩くなんて」
「あ… うん。夜は色々と危ないからって、あばあちゃんに外には出歩くるなって、止められていたから」
(本当はちょっと違うけど… )
「アルネ、この島から出た事はあるのか?」
「そうね、素潜りの時に、少しだけ沖合に行った事はあるわ」
「沖合に? どのくらい先だ? まぁ素潜り程度ならそんなには… 」
「うーん… 暗くてよく見えないかもしれないけど、あそこの島くらいの所までかな」
そう指差すのは、遠くの方に小さく見える、通称 ’ななこぶ島’ であった。
「え? あそこ… ? まで? あんな所まで行ったのか!? 素潜りで!?」
「うん! そうだよ? まぁまぁの距離よね! さすがにちょっぴり遠かったかな? あの時はまだ10歳とかだったからねぇ。まぁ、島には降り立たなかったけど」
(ちょっぴりっていう距離じゃないだろ!? てか10歳の時って… 恐るべし野生児… )
「つまり、あの距離を往復、陸に上がらずに行ったってことか? 休む事なく?」
ルクナは自身の顔が引き攣っているのが分かるほど、引いていた。
「あ、ううん、途中にちっさな岩場があったから、そこでひと休みはしたよ」
(ななこぶ島か… あそこはもはや島というよりは、大陸に近い場所… )
「そうか… なら、島から出る事自体は、影響がないんだな?」
「影響? あ! もしかして、昼間の私のお願いの事で悩んでたの?」
「それしかないだろ… 」
「ふふ、そうねぇ… 私がこの島を出たとしたら、間違いなく皆が寂しがっちゃうわね!」
(観点が違う… しかし… )
「問題はそこだよな… はぁ… 」
ルクナはこれまでにない大きな溜息を放った。
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そして、悩みに悩んだルクナ。
その答えが確定する前に、その時が来てしまった。
村中が騒めき始める。
アルネ達もその騒ぎを耳にすると、急いで海岸の丘へと走って行った。
その先には、今まで残骸でしか見た事がなかった大きな船が、その姿を保ってこちらへと向かっていた。
「来た… 本当に… 」
アルネは、それ以上の言葉が出なかった。
「無事に辿り着いて良かった」
ルクナは安堵の言葉を漏らした。
その船は、少しの汚れはあったものの、傷のようなものはほとんどなかった。
船が岸へと到着すると、立派な渡し板が降ろされ、足場ができた。
船内から身なりの整った男達が、次々と海岸へと足を踏み入れた。
海岸には、村の全ての者が集まっていたと言っても過言ではなかった。
その中にいたある人物を見つけると、男達は一直線に向かって行った。
そして、その人物の前でひざまづく。
「ルクナリオ様、ご無事で何よりです。遅くなり申し訳ございません。只今、お迎えに上がりました」
その言葉に、天女のような笑顔で応えるルクナ。
「えぇ。よくここまで辿り着けたわね。大義だったわ。皆、無事かしら?」
「……… 」
「ん?」
「… ルクナ様、誠にそのような姿で足を運んでいたのですね… 」
「あら? そうよ? だって… ふふ、まぁ良いじゃない、こっちの方が」
「成果が表れているのであればの話しですが… まぁ良いでしょう。して、その娘が?」
その従者らしき男は、アルネの方をチラリと横目で見た。
「あぁこの子? … ふふ、大事な連れよ。大切に扱ってね」
「… 連れ? ん? この方では… ?」
その言葉に軽く首を振って、微笑みで返したルクナ。
(いや、こんなちんちくりんが… そんなはずがないか。それにしても、あのルクナ様に女の連れ? どんな女性より自分の方が美しいからと、今までそんな素振りが一切なかった… あのルクナ様が? この娘、一体どんな巧みな技を… )
彼は幼い頃からのルクナリオの側近であるという。
名はヴィカルダ。
通称ヴィカである。
そして、特に島の者はヴィカルダらを拒む事なく、受け入れた。
アルネはこの事により、更にその想いは強まっていった。
再度、例の話を持ちかけようと試みた。
しかし、その前にルクナの方からその決断を口にしたのだ。
「アルネ、話がある… 」
「うん、何でも聞く! お手伝いもするし、足手纏いにもならないようにす… 」
「行こう」
「え?」
「アルネがここで、私の助けになってくれたこの恩は、一生忘れない。ここで出会えたのも何かの導きかもしれない」
アルネの肩は、小刻みに震え始めていた。
少し俯き加減のその顔に、微笑みを映すルクナ。
「あら? 嬉しくないの? … ふふ、それに、何があっても私が守ってあげるわ。だって、この先の路を見たいんでしょ? そして、真実を知りたんで… 」
その瞬間突然、ルクナの身体に衝撃が走った。
「ありがとう! ルクナ!」
そう言って、アルネはその身体に抱きついたのだ。
「大好きっ! 恩にきるわ!」
そして更に、その頬へと喜びのキスをした。
「… っ」
ルクナは、驚きのあまり声が出ない。
「こうしてはいられないわっ! 急いで準備をしなきゃ!」
その場には、顔を真っ赤にしたルクナが、その1番熱くなった部分を手で抑えながら佇んでいた。
それをじっと見つめるヴィカ。
その視線にルクナは思わず、素が出てしまった。
「…… 何だよ」
「いえ… とても楽しく過ごしておられたのですね… 」
「違っ… 」
「いいんですいいんです。誠にお元気そうで何よりでした」
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そして、従者達の船旅の疲れを癒すためにも、3日程この島で過ごさせてもらう事にした迎えの一行。
特に不自由なく過ごす事が出来たという。
身体の疲れもようやく取れた頃、そろそろ出発する日となった。
海岸には、アルネの旅の支度を待つ、ルクナの姿があった。
「随分と早かったな」
「うん、元々そんなに荷物はなかったから… おばあちゃんの形見と少しの服だけね」
「そうか… 村の者と挨拶は済んだのか?」
「うん! 3日もあったからね! 皆とても悲しがってたけど、ちゃんと理解してくれたよ。それに… 」
「ん? どうした?」
「それに、私… 絶対またここに戻って来るから! 絶対に!」
「あぁ… そうだな」
少し涙ぐむアルネの表情に気が付かないふりをしたルクナは、優しく頷いた。
そうして、別れを最後の最後まで、噛み締めたアルネはその先の船へと乗り込んだ。
見送りする村の者達に、千切れんばかりに大きく手を振るアルネ。
その村の者達を見てヴィカは、ある感情を隠せずにいられなかった。
「ルクナ様… この3日間、いや、この島に来た時から、ある違和感がずっとありました。それに不自然なことも多々… これはやはり… 」
「あぁ… 後で説明する」
ヴィカ達は、その人の姿ではない村の者達を見ながらそう話していた。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
またまた突っ走って書きたいように書いてしまっているので、文章が乱れていることもあるかと思います。
何かお気づきの点があれば、いつでもメッセージお待ちしております。
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