episode32〜ハルザの過去〜
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その場にいた全員が狼の面の男こと、アディティアの警戒を解かずにはいられない状況だった。
そんなの中、アルネとルクナ、そしてハルザの3人は少し離れた場所にいた。
(こいつ… 本当に俺達を、あのバジリスクから守ってくれてたっていうのか?)
少し離れた場所にいたゾルは、アディを横目に恐る恐るアルネ達の方にも目をやる。
しかしアディは、特に殺気を帯びることもなく、岩場に腰を下ろし、離れて話す3人を静かに見つめていた。
アルネが、アディの過去にあったという残虐な出来事について、ハルザと話がしたいと申し出たからだ。
「ハルザ… 私達にも、話したくないのかもしれない… 今はまだ、全ては話さなくてもいい。だけど、このままハルザが他の者に変に疑われてしまうのは嫌だから」
「… 疑われてしまう? その言い方だと、信じているんですか? 私のことを… もしかしたら本当に、残忍なのかもしれ… 」
「それはない! 信じてるよ! でも! 言葉が足りない! 信じてるからこそちゃんと… 何か要素が欲しい… 」
「… ふふ、わかりました。これから言うことは、本当に誰にも口外してない事です。もちろん国王様にも、ルクナ様もご存じない… 信じるか信じないかは… お任せします」
意外にも柔らかく笑うハルザの表情は、とても冷たく、そして美しかった。
それとは裏腹に、アルネは少し緊張した面持ちで頷いた。
「今から100年以上前の事です。そう… この世のあらゆる種族が滅びゆこうとした、あの日。
まだ10歳にも満たなかった私は、気が付いたらそこに居たんです。辺り一面のあの光景は、今でも脳裏に張り付いて離れることはありません。
あの場所が悪かったのか、それとも… あの時の私には、何が起こったのかわかりませんでした」
アルネの額から、ゆっくりと汗が滴る。
ルクナの方はというと、表情ひとつ変えずに耳を澄ましていた。
「おそらくその数日前、私と同じ様な容姿の者に、ある暗い場所に閉じ込められました。
今思えばあれは家族だったのでしょう。遠い昔過ぎて顔は覚えてませんが。とても、暗くて、足も伸ばせないほど狭い場所。
幼い私は… ひたすら泣き叫びました。それまでに経験した事のない不安と恐怖。堪える方法が分からなかった。もがき、悲しみ… そしていつの間にか眠りについては目が覚め… その繰り返しでした。
しかしどのくらいか経ったある時… 大きな地響きが起こりました。その反動で、閉じ込められていた扉から小さな光が漏れたんです。その時に扉がズレたことに気が付き、外に出ることができました。
しかし、遅かった… 何もかもが… 」
少し言葉に詰まり始めたハルザの肩に、そっと触れるアルネ。
その温もりに、再び話始めた。
「… 外に出た私は、それまでに感じていた悲しみや痛みさえも、忘れるほどでした。あまりの恐怖で感情が塗り替えられたんです」
「何を… 見たの?」
「一面に横たわる… 亡骸です。それも… あらゆる種族の… 」
アルネは、その言葉に震えが止まらなかった。
そして、その額の汗が、涙へと変わる。
「私は頭の中が真っ白になりながらも、生存者がいないかその足を前に進めました。その中に… 私を閉じ込めた者達を見つけて… お、俺は… 」
そう言いながら、ハルザはゆっくりと腰を床に下ろした。
アルネがその姿に、気持ちを動かそうとしたが、先にその身を屈めたのは、ルクナであった。
そして、主従関係なくその目線は平等になる。
「お前の家族は… 何かから助ける為に、その身を閉じ込めたのではないか?」
「わかりません… 」
(彼らはこれから何が起こるのか、わかっていたのかしら? それとも偶然?)
「そして私は、何が何だか分からないまま、更に生存者を探しました。しかし、誰1人としてその息が繋がる者がおりませんでした。
そこで… 私は、ある事を決意しました。
弔おうと… その場にいる全員… 時間が許す限り、1人1人を… 何日も何日もかけて… 何人、何十人、何百人っ… 何万人とその行為をしても、心が慣れることはありませんでした。
その光景が今でも夢に出てくるんです… 何万もの亡骸… 血を浴びた自分の… 私は… とんでもない事をしてしまったんではないかと… 選択を間違えたのでは… と… 」
その瞬間、ハルザの身体が温かい何かに包まれた。
そして、更にその温もりが折り重なる。
ハルザは目を見開いたまま、一滴の雫を溢した。
何故、溢れたのかはわからない。
初めの一滴は、その何かがハルザの沈みかけた心に触れたからである。
その一滴が流れたせいで、次々と涙が溢れ始めた。
ルクナが、その身でハルザを優しく包んでいた。
その上からは更に、アルネの身体が彼らを包んでいたのだ。
重なる温もり。
それは、ハルザが今一番欲しかったものかもしれない。
「辛かったね… たった1人で… 何万人もの亡骸を埋葬したんでしょ? 到底出来ないよ。感覚がなくなるのもわかる。でも感情は変わる事なく、それをやり遂げた。彼らの為に… 偉いよ、ハルザ」
アルネの頬に、大きな涙が零れ落ちる。
それ以上に、2人の腕に包まれた中で咽び泣くハルザ。
その感情を抑える事は難しかった。
遠くで様子を見ていたアディが、その変化に気が付く。
「ふぅ… 」
(さてこれからどうするか… )
アディは少し晴れないような顔をしつつも、ハルザに対しての脅威は既に打ち解けていた。
そしてその殺気が無くなったことに、ゾルも感じていた。
(あれ? 何があったんだ? 急に空気が変わったな?)
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ある程度、感情を流したハルザ。
我に返り、冷静さを取り戻した。
(はっ… マ、マズい… こんな醜態を… )
「も、申し訳ございません! ルクナ様の前でこんなっ… アルネ様も、その… 」
「平気平気! 何なら個人的にこの胸も貸すわよ? … 泣きたくなったらいつでも… 」
「おっ俺が貸すっ… からっ… 」
アルネの言葉を遮るように、その前に両腕を広げたルクナ。
「え… ? ルクナ様の胸… に?」
「あ、いや、えっと… 」
思わず出たその言葉に、後が引けなくなっていた。
「あら? いくらルクナの方が男受けが良いからって、本物の豊かな胸には勝てなくってよ?」
「そうは思いませんが」
埒が開かないと思い、横入りするようにヴィカが出てきた。
「んっんなっ! 失礼ね! 折角の好意をっ… 」
しかし、更に収集のつかなくなってしまう事態となる。
「あらあら? 大丈夫よ? この先絶対に成長するかぁら。私みたいにね! 誰かさんがきっとそうしてくれるわ! うふふふふふふ」
「ん? シュリさん? それってどういう… 」
シュリの言葉に首を傾げるアルネ。
「でも… そう? それなら、その時まで待とうかしら? … いや! 待てないわ! 一体どうやったら… 」
アルネは前向きだった。
「ア、アルネ、その話はまた今度にしよう! それよりハルザ、この件に関して国へ戻ったら、国王に報告しなければならない。その際、秘匿していた事に対し、何らかの罰が下るかもしれないが… 」
「承知の上でございます」
「悪いようにはさせない。できるだけ援護はする。それと… 」
「… ? 如何されましたか?」
「… いや、またここを出た後に話すとしよう」
(ハルザ… 一体何者なんだ? あの大地震は100年も前の事… そう本人の口から出た以上… ハルザの年齢は100歳を優に超えている事になる… それなのにその見た目は、俺達とあまり変わらない… となると… )
ルクナはそう思うと共に、様子を伺っていたアディティアの事も気にしなければならなかった。
しかしその時、悩みの種が一挙に解決する事となる。
そのど直球な明るい声が、洞窟内に響き渡る。
「それじゃあハルザは、おじいちゃんだ? 何の種族なの?」
「え? 何故そん… あ… 」
「だってそうでしょ? こんなに美しいおじいちゃんいる?」
「あ… そうです… よね。100年前の話をしてしまった以上、流石に分かりますよね? 俺は… 」
しかしその瞬間、アディがゾルを抱えて、アルネ達の目の前に飛んできのだ。
「うわぁっ! びっくりした! 急に来ないでよ! な、何!?」
「全員をここに、集めろ」
「あ、え?」
唐突すぎるアディの予想外の言葉に、アルネは驚きを隠せなかった。
「今とても大切な話を… 」
「別にそれは後ででも良いだろう? そのうちわかるんだ。急ぎの話でもない。月華山へと行くんだろ? 術がないこともない。奴が起きる前に、アンセクト族達をここへ… 」
「随分自分勝手ね… はぁまぁ確かにそうね。また後でじっくり話すわ」
(それに、あまり公には知られたくな事もありそうだし… )
「それよりいいの?」
「何がだ?」
「あなたが1番ハルザの事、聞きたいんじゃ… 」
「先程の話なら全て… 聞かせてもらったからな… いや、本当に先程のが ’全て’ だったのかは、怪しいがな」
(ん? 聞こえてた? あの距離から!? しかも… 何だか納得してくれて… る?)
アルネは、事が明るくなり始めたことに嬉しくなった。
「ふふふ… 」
「何だ? … あ? いいから早っ… !?」
「ありがとう! アディ!」
そして思わず、アディにハグをした。
「ぬぁっ、はっ離せ! おいっ! 力強いな!」
「なっ… 」
ルクナは行き場のない声を出す。
(ルクナ様… 感情が段々抑えられなくなってきていますよ… あぁ大丈夫かな… )
しかしその光景を見ていたゾルが、堪えきれずに噴き出した。
「ぷっ… ふふ、あ、す、すまん! つい… ゔぅん! 仲間は既に、ライが声を掛けている。あとは俺が全員を、ここに連れてくれば良いんだな? すぐに呼んでくるからよ! 待ってろ!」
そう言ってゾルは、その場から姿を消した。
「ゾル、頼んだわよ! さぁいよいよね! 後は… あの子をどうするかよね… 」
アルネは眠っているバジリスクの方を見て言った。
「それについてだが、考えがある。奴は普段は主人に対しては、従順であるはずだ。何故、あんなに気が荒くなっていたのかは… 分からないが、奴を従えさえすれば… バジリスクに乗って、月華山まで行ける。あの大きさなら、全員乗れ… 」
「えっ!? ちょっちょっと待って! まさかバジリス君に乗って行く気!?」
(何故、奴が雄だとわかるんだ?)
「たった今、そう言わなかったか?」
「正気なの!?」
アルネのその言葉にニヤリとして、アディが応える。
「あぁ」
最後まで読んで頂きありがとうございます。
またまた突っ走って書きたいように書いてしまっているので、文章が乱れていることもあるかと思います。
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