episode30〜バジリスク〜
たくさんの作品の中から見ていただき、ありがとうございます。
最後まで読んで下さると嬉しいです!
バジリスクはその大きな身体を畝らせ、面の男の方へと向かって行った。
「全員、奴と目を合わせてはなりませんっ!」
ハルザの咄嗟の声に、一同が頷く。
しかし男だけは、バジリスクに慣れているのか、淡々とその攻撃を交わしていく。
(怖わぁ… なんかめっちゃ荒れてない? ご機嫌斜めなのかしら? … あ、そういえば… )
アルネはそう思いながら、以前読んだ本の内容を思い出していた。
(バジリスクか… ! 一度見たきりだ… あの時はこんなにも身体は大きくなかったはず… これが成長した姿か? それに… 何故、アルネ様があんなに近くに… ん? 何をっ… !?)
ハルザはそのアルネの異様な行動に、緊張を更に強めた。
アルネがその足を、ゆっくりとバジリスクの頭部の方へと忍ばせていたからだ。
隙を狙うかのように、横にしていたその身を既に起こしていた。
面の男は未だに、バジリスクと格闘中であった。
さすがに体力を使うのか、男の息が上がってきていた。
(ガンバレーガンバレー… もうちょいだから、そのまま気を逸らしといてくれ)
アルネは、面の男をチラチラと見ながら身を屈め、着々とバジリスクに近づいていた。
もちろん男も、そのアルネの怪しい行動に気が付いていた。
察しているのか、いないのかは別として、男はその手を止めないでいてくれた。
(牙と爪か… そこだけは気を付けないと… )
アルネは注意深くその動きを目で追っていた。
そして、次の瞬間。
アルネは精一杯の脚力を駆使して、その身をバジリスクの目の前に…
そう顔面の前へと繰り出したのだ。
そして思いっきし自身の腕を振り上げた。
何かに合図を送るかのように。
しかしバジリスクの視線は目の前のアルネではなく、すぐ横を見ていた。
いや、何処を見ればいいのかわからなかったのだ。
キラキラと反射するその光る板は、バジリスクの周りを散らばるように、舞っていた。
その板にはバジリスク自身の姿、そしてアルネとデイルの姿が至る所に映し出されていた。
その瞬間、視点が定まらなくなったバジリスクは、その大きな身体を地面へと叩きつけるように横たわってしまった。
そう、気絶してしまったのだ。
その上に、パラパラと光の破片達が落ちていく。
アルネのもとへと来たデイルが、満足そうな笑みを浮かべ、そして2人は大きな音を弾けさせてハイタッチをした。
他の者達は、一瞬何が起こったのかわからないでいた。
その早まる足を、バジリスクの方へと近づけるハルザ。
「冷たい… これは、氷の破片… ?」
その言葉にルクナは勘付いたように、声を上げた。
「… っ! そうか!」
「どういう事だ?」
訳がわからないというような表情のまま、ゾルが聞き返す。
「以前読んだ事がある。バジリスクは雄鶏の上半身をしている反面、大蛇のような身体も持ち合わせている。そして、2本の大きな牙と爪には猛毒が仕込まれているという。何より脳が2つある事で、機転を利かせる脳と状況を飲み込む脳が備わっている。その為、とても頭が良く、先読みができるとも言われているんだ。アルネはそこを逆手についたんだ」
「??」
「簡単に言うと脳が2つあるため、同時に同じ事をされると、少しだけ先に動いた方に反応してしまうんだ。そしてその数が多い程、どれが本物かわからなくなってしまう。つまり、脳が混乱するんだ。しかもそれが鏡写しになったとしたら、更に大混乱の渦だ。それがこの氷の板だった。洞窟内は非常に冷えていて、至る所に氷が張っているからな」
「あいつ… そんな事ができるのか? そんなに頭良さそうには見えないがな… 」
「ゾールー? 聞こえてるわよぉ」
アルネの地獄耳は、何処までも地獄耳だった。
アルネの側へと近づくルクナ。
「アルネ! 大事ないか? どこか怪我は… 」
「ふふ、大丈夫大丈夫! 心配ご無用よ! 皆は?」
「あぁ、特に怪我をした者はいないようだ」
「そう、良かった」
アルネは皆の無事を確認するかのように、周りを見渡した。
しかし、そこに見慣れない顔があったのだ。
先程の光景を見た狼の面を被っていた男は、驚きのあまりそれをゆっくりと外していたのだ。
再度付けるのを忘れるほど、肝を抜かれていた。
「 ん? あら? そのお面、取ったの?」
アルネは、男の顔を見ながら言った。
「お前… あの一瞬であれを思いついたっていうのか? あいつとやりあった事があるのか? だから対処法が… 」
「ないわよ! 本で読んだことはあったけど、見たのは初めて! まさか本当に実在するとは思わなかったくらいよ! あれ、バジリスクでしょ? 悪魔の象徴。まさにって感じね! はぁぁ… 超怖かったぁ!」
「「「え?」」」
周りの従者達は、一斉に声を漏らした。
「何よ?」
「全くそうは見えませんでしたよ? もはや、少し笑っているようにも見えましたが… 」
ヴィカが、少し引いたように言う。
「え? 私… 笑ってた?」
「はい… まるで、悪魔を手懐けるのが心躍るかのように… 」
「そ、そんな事… 」
「… ?」
「ん?」
(あるんだな)
「たまたまそう見えたのよ… うん。それよりあなた、そのお面、何のためにつけてたの? 顔バレが嫌だったんじゃ… あ、あれ?」
そう言いながら、緊張感の緩んだその足が一気に男の方へと詰め寄る。
「なっ… 」
男はたじろぐように、その身を逸らした。
「へぇ… お面、外した方が素敵よ! イケメン隠すの勿体無いっ! 世の女子のためにも公表しとこ?」
「え? あ… なっ… 」
(何を言ってるんだ!? イケメンって何だ? 何なんだこの女… )
男は動揺し、何故か顔が赤くなった。
そして、咄嗟に面を再び装着した。
「あーぁ」
アルネは謎に残念がった。
そして、ハルザがすかさず2人のもとへと駆け寄る。
アルネを守るかのように、男の前に立ちはだかる。
「アルネ様… バジリスクを倒したとはいえ、この者の素性は未だわかっておりません。もう少し警戒を… 」
それに対し、再び男の殺気が立ち戻ろうとした。
しかし、アルネがそうはさせなかった。
「2人ともやめいっ! ちょっと、その無駄な殺気一旦やめて! 話をしましょ! あ、ゾルッ!? ゾールー? ここへ来てくれない?」
アルネは、その緊張感のない声を再び発した。
その場にいた全員と話し合う為に、遠くに身を隠していたゾルを呼び寄せたのだ。
全員が不自然な距離を保ちつつ、警戒を残す。
「皆、勝手に手を出したら、許さないからね! ではでは… 」
そう言いながら、アルネは全員の間に入った。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
またまた突っ走って書きたいように書いてしまっているので、文章が乱れていることもあるかと思います。
何かお気づきの点があれば、いつでもメッセージお待ちしております。
また、心ばかりの評価などして頂けると、励みになります。何卒よろしくお願いします。




