episode29〜その矛先〜
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幽谷の奥深く。
そこには、陽の光りが入り込む場所があった。
それが1番当たる場所。
その大きな岩に座って、こちらを静かに見ている1人の男。
そう、あの時の狼の面の男だった。
(遠くからでもわかる… あいつ強いっ!)
アルネは放った殺気と共に、一滴の雫を流した。
嫌な汗だ。
それは、ルクナ達も感じていた。
(何だ? この異様な気配は… )
(まるで隙がない… )
アルネ達は、その場で立ち止まったまま、男の様子を伺っていた。
(先程はここまで感じなかったが、肌にピリピリと伝わってくる… どうするか… シュリさんとハルザさん… 3人同時に攻め込めばイケるか… ? ルクナ様、アルネ様、この2人を守るのが最優先だ…下手に動けば… )
そう思いながら、策を練ようとするヴィカ。
しかし、彼はまだ分かっていなかった。
アルネという人間を。
いや、頭の中では分かっていたのかもしれない。
でも彼の中の構想上のアルネは、あくまでもの話だった。
そしてそれは、これから一瞬にして崩れることとなる。
これから先、アルネという像は彼にとって、再建するの繰り返しとなるのだ。
アルネの身体がゆっくりと前に進む。
「え… ?」
ヴィカの声が思わず、漏れた。
(この殺気をいとも簡単に? それにしても、あの人はまた勝手な行動を… )
アルネは男を凝視しながら、言葉をかける。
「あなた… 何者? 何故、私達を襲ったの?」
「……… 」
男は微動だにせず、応答する気配すらない。
「私達と一緒にいた2人… ノギジとネネちゃんがどこにいるのか、知っているわよね? 答えて」
「……… 」
男はぴくりともしない。
(あれ? 何だろ… )
アルネは、僅かな男の視線に違和感を感じた。
「アルネ様… 」
ハルザが近づこうとしたその時、アルネは何かに気が付いた。
「ハルザッ! 待って!」
その声にビクリと身体が反応し、ハルザの足が思わず止まる。
(やっぱり… こいつ一瞬だけど、ハルザに対して物凄い殺気を放った… ?)
すると、面の男はゆっくりと立ち上がると、一瞬にしてアルネの背後に回り、その身を拘束した。
「… なっ!」
(速すぎて見えなかった!)
アルネはその力のせいで、身体をびくともすることが出来ない。
「… 安心しろ、お前には手荒にしない」
(いやもう、既に荒いんですけどっ!! てか、喋れるんじゃん!!)
アルネの目だけが左右に動く。
「アルネを離せっ! これ以上っ… !」
ルクナの殺気を帯びた声が、辺りに轟く。
しかし、男はその殺気を強めた。
男はアルネを拘束したまま、首だけを何故かハルザの方に強く向けた。
腰を抜かして怯えたゾルが、少し離れた所で身体を震わしている。
そして、次の瞬間鋭い衝撃と共に、アルネは目の前が真っ暗になった。
面の男が手刀によって、アルネを気絶させたのだ。
「アルネ!」
男はアルネを抱え、ゆっくりと岩の方へと横たわらせた。
その身体を、ぞんざいに扱う事はなかったのだ。
そして再び、ハルザの方へと向き替える面の男。
「お前… 何が目的だ? 何がしたいん… っ!?」
ルクナが男に怒号を放つ。
次の瞬間、男の身体がハルザの目の前に来ていた。
(速いっ… !!)
そして、それと共に大きなナタが、ハルザ目掛けて振り翳される。
「… っく… 何が目的だ… 」
ハルザはその素速い攻撃を、自身の剣で受け止めながら問いた。
しかし、男はその言葉に応えない。
(なんだ? あいつ… 明らかにハルザだけを狙っているような… 見知った顔か? いや、しかしまだハルザの方は… )
ルクナはそう思いながらも、アルネの方に近づこうとしていた。
ハルザの方に間髪入れずに、男の攻撃が次々と降ってくる。
その全ての攻撃を交わし、今度はハルザが仕掛けた。
それは、男の動きを上回る速さだった。
そして感情も思考も無にする事によって、予想だにしない攻撃を仕掛ける。
ハルザの足下からは、更に武器が出てきた。
それによって、男の両腕から血が飛び散った。
谷の隙間から、陽の光がハルザの顔を差したその時だ。
「… やはり… お前だったか」
男はハルザのその薄らと浮き出た首元の傷を見て、言葉を放つ。
その焼けたような傷跡を。
「お前、話せたのか?」
2人は、距離を開けたまま睨み合う。
「… 何か… 知っているな? 何者だ、お前」
「… まだ足りないか? あんな事をしておいて、それでも尚… 残った者達を狙うのか?」
「は?」
「お前のせいで… この世が狂い始めた」
「何を言っている? 言っている意味がわからない」
「お前… あの時の残虐の血腫… その膜を破ったのは… 」
(こいつ… どこまで知っている… )
その言葉に、ハルザの緊張が更に強くなった。
そしてその会話を、その近くでしかと耳に入れていた者がいた。
(残虐の血腫? えぇ? 何その怖い異名… 初めて聞いたわ。それよりもあの男は、ハルザの事を以前から知っている? その上で過去に何かの因縁があって、ハルザを狙っていたんだ。最初からハルザだけを… ? てことは、ノギジとネネちゃんは無事? それとも、ただの人質? どちらにせよ、確かめる必要があるわね。それに私にだって… こぉんな軽い手刀じゃ、すぐに起きちゃう… 全然痛み残ってないし)
そう、アルネは気絶させられていた事に、すぐに気が付いていたのだ。
いつからか。
気絶させられた事は、させられていた。
しかしそれは、ほんの一時のこと。
彼女はすぐに目が覚めていたのだ。
そんな素振りを一切せずに、遠くで死闘を繰り広げる2人を、その場で観察していた。
気絶したふりをしながら。
そして、この場にいる者達以外の、ある存在にも気が付いていた。
その存在をアルネは知っていた。
王宮にて、ある本の一節に出てきたソレは、アルネの脳の隅に少しだけ残っていた。
ソレを今、現実に目の当たりにしていた。
(それよりも… こいつの方がやばいんじゃね? え? 本物? 伝説上の生き物なんじゃ… でも、コクシネル達はそんな事ひと言も… ん? 待てよ、彼らも知らなかった… とか? )
そんな存在も露知らず、ハルザ達は緊張を張り巡らせながら、未だ話を続けていた。
「人違いじゃないのか?」
「その傷、間違いない… お前は… 」
面の男が何かを言いかけたその時、陽の光を遮るような大きな影が2人を覆った。
(え? え? う、動いた!? どどどどどうしよう! 食べられる!? とりあえず死んだふりに限る)
アルネは非情にも、気絶しているふりを続けた。
しかし、汗が尋常じゃない。
「なっ… 何だこいつは!?」
ルクナは、目を見開いてその大きな生き物を見た。
「ルクナ様… 以前… 読んだ事があります… 鳥のような見た目。そして、それは大蛇とも呼べる… いや、しかし本当に存在していたとは… これは… 」
「バジリスクだ」
その核心的な名を発したのは、面の男だった。
そう、その存在とは、この世に存在しているのかもいないのかも分からない伝説上の生き物。
悪魔の象徴、バジリスクであった。
その姿は、この洞窟が小さく見えるほどだった。
そして、鳥のような上半身に加え、大蛇のような身体も兼ねている。
何より、その口元から生えている大きな長い牙。
その先からは、何やら粘着質な液体が垂れている。
それが地面へと垂れると、ジュワリという音を立てながら、岩をも溶かしていた。
(うわぁ… こりゃ手強いぞ… )
アルネはその身体を伏せながら、どうしたもんかと考えていた。
(はっ! アルネ!)
ルクナは驚きから、すぐに我に返った。
「う、わ… あ、うわぁぁぁぁぁぁあ!!」
それと同時に、ゾルが泣き叫ぶ声が轟く。
その声に反応し、見た目とは思えないほどの速さで、ゾルの方へと勢いよく向かい出すバジリスク。
その中でもいち早く反応したのは、狼の面の男だった。
ゾルの身体をその腕に抱え、バジリスクから離れた所に立っていた。
(なんって速さなの!?)
アルネは、目で追うので精一杯であった。
地面に頬を付けながら、その眼球のみを動かす。
男は怯えるゾルを、岩場の陰に下ろすと、すぐにバジリスクの方へと向き直した。
(え? 今… ゾルを助けたわよね? あいつ… もしかして… )
アルネには、ある1つの考えが浮かんだ。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
またまた突っ走って書きたいように書いてしまっているので、文章が乱れていることもあるかと思います。
何かお気づきの点があれば、いつでもメッセージお待ちしております。
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