episode2〜島での生活〜
新連載始めました。
最後まで読んで頂けたら幸いです。
先程、衝撃的な事実が発覚したのだ。
女性だと思っていた漂流者は、男だったのだ。
あろうことか、アルネはその全ての姿も目に焼き付けてしまったのだ。
そう、産まれたままのその姿を。
少し心を落ち着かせるアルネ。
暫くして、リビングへと足を向けた。
窓際に立つルクナの姿を見て、アルネはそっと近くの椅子に座った。
気配に気が付いたルクナは、振り向くとゆっくり口を開いた。
「… さっきはすまなかったな」
その言葉に、静かに頷くアルネ。
「何で黙ってたの?」
「聞かれなかったから」
少し睨みを効かせるアルネ。
「ねぇ、そもそもルクナって本当の名なの?」
「まぁほぼ合ってる」
「ほぼ?」
「略称だ。他の者はそう呼んでる」
「そう… 女の子みたいな名前だったからてっきり… 」
アルネはひと呼吸すると、話を戻した。
「本当の名は?」
「ルク… ルクナリオ」
「そう… ねぇルクナリオ… その鍵どうしたの?」
「これは、祖母から受け継いだものだ。アルネは?」
「… 数年前におばあちゃんが亡くなって… その後、引き出しから見つけた。とても不思議な形で、これが何なのかも… わからなかったけど、何だかとても大切な気がして… それで、形見として常に首にかけてる」
「そう… 少し見比べさせてくれないか?」
アルネは頷くと、首から掛かっているそれを外した。
「ねぇ、少し形違くない? これ、似てるけど同じものではなさそうね?」
2人はそれぞれのものを見比べながら、疑問を掛け合う。
「そうだな… 全く同じものではなさそうだ」
「これ、何かの鍵なの?」
「いや、そもそも鍵なのかも分からない」
「え? どういうこと? だってさっき鍵って… 」
「何となく鍵っぽいから、そう呼んでいるだけだ」
淡々と応えるルクナ。
(何だろ… この気持ちは… すごく… 殴りたい)
アルネは、その拳を軽く握りしめた。
「で? どうする?」
「え? 何が?」
「今夜も一緒に寝るのか? 同じベッドで」
「んなっ! 寝るわけないでしょ!? あっちで寝て!」
そう言いながら、アルネはルクナの枕を投げた。
(やっぱり… 殴りたい!)
今度は強めに拳を握り直した。
(家から追い出すことはしないのか… )
ルクナはそう思いながら、部屋を後にした。
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翌朝、目が覚めると、既にルクナはいなかった。
「いない… 何処行った… 」
すると、外から楽しそうな声が聞こえてきた。
その声色に、まさかと思いアルネは窓の外を覗いた。
(ん?)
「というか、誰かと話してるし… 」
村の男性から、何かを受け取っていたルクナ。
(んんん?)
アルネは、両手いっぱいのパンを抱え、家に戻って来たルクナを見て驚愕した。
「え!? え!? 何でまたその格好してるのよ!? 髭も剃って? 化粧までして!?」
「あぁ、この方がしっくりくるし? その棚にあったから借りたわ。あなた、これ全然使ってないじゃない! 勿体無い! 私が上手に使ってあ・げ・る」
そう言いながら、ルクナはウィンクをぶちかました。
「えぇ… しっくりって… しかもそれ、私も初見なんだけど… まぁ私は使う事もないし… 別に良…… 」
「?」
「良… 」
「??」
「良くない! え!? 村の皆はその格好見て、どう思ってたの!? ちゃっかり朝食までもらって!」
「え? どうって? そりゃ、頬を染めて、私に見惚れてたわよ?」
「頬染めてって… てか、何その喋り方… だってあんたはどう見ても… どう見て… も… お、おお」
(っくぅ… 悔しいけど、めちゃくちゃ美人にしか見えん!)
アルネは、とてつもない敗北感に見舞われた。
両手両膝を床につきながら、心の中で嘆く。
そんなアルネを見ながら、ニヤリと笑い近づくルクナ。
「ふふふ… どう? ぐうの音も出ない?」
そう言いながら、アルネの顎をクイっとあげる。
唇を噛み締めるアルネを見て、ルクナはふと思った。
(あら… 可愛いじゃない… ふふ)
「… 行くよ」
「ん? 何処に?」
「決まってるじゃない! 朝の日課よ! 働かざる者食うべからず!」
「へ…?」
今度はアルネがニヤリと笑う。
彼女なりの反撃に出たのだ。
もらったパンを朝食にしながら、急いで支度をするアルネ。
「ねぇ… 朝の日課って?」
海岸へと向かいながら、ルクナはアルネに尋ねた。
「ふ… ’お嬢様’ には到底出来っこないようなことよ?」
そう言うアルネの顔には、ただただ意地悪な笑みが張り付いていた。
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海岸に到着すると、アルネは朝一番の笑顔を見せた。
美しい海面が一望出来たからだ。
現れたばかりの太陽が、キラキラと眩しく挨拶してきた。
「さぁ! やるわよ!」
アルネはそう言うと、おもむろに裸足になり、上着を脱いだ。
更には、両足の裾を捲り始めた。
「え?」
まだ水温の上がっていないその海に、飛び込んだアルネ。
沖の方に少し進むと、事前に仕掛けておいた網を外し、海岸へと押し寄せた。
そしてそれをゆっくりと、力強く海岸へと引き上げる。
網の中には、元気いっぱいの海の生き物達が、この先の運命を知らずに跳ねていた。
(漢か… ? 勇しすぎる… )
「どう!? すごいでしょ!?」
濡れた髪を掻き上げながら、満足そうに言い放つ。
「そう… だな… ふふ… 本当… ふふ、すごい」
アルネはその海の生物達に一言言葉を放つと、持って来ていた籠に入れた。
「これでよしっ! おちびちゃん達は海に返してっと… 」
「ん? どうしてだ?」
「だってまだ子供だもの。もう少しまるまる大きくなってから、捕まりにおいでぇ」
そう言って、海に手を振った。
「なるほど… 」
軽く服を絞ってから、荷物を持つアルネ。
そして、勢い良く振り返った。
「さぁ! 次よっ!」
(え… ? 次?)
ルクナは疑問を抱きながらも、次第に湧き上がる好奇心をアルネに向けていた。
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2人は海岸沿いにある村の市場へと、獲れたての魚介類を届けると森の方へと向かった。
そこには既に、デイルの姿があった。
「やぁやぁやぁ! やってる!? デイル、おはよう!」
その声に振り向くデイル。
無表情だが、嬉しさが滲み隠せないでいた。
しかし、すぐ後ろにいたルクナの姿を見ると、舌打ちを送りつけた。
(この子… わかりやすいわね… )
ルクナは気にせずニコリと微笑み返す。
「どう? かかってた?」
「… いや、今日は1頭も… 」
(1頭? 1匹ではなくて?)
デイルの言葉に、何かが引っ掛かったルクナ。
「そう… じゃあ、直接やるしかないわね」
アルネは、まだ乾き切っていないその服を少し引っ張り、風を送った。
「はぁ… 最近は少し寒くなって来たからな… 活動範囲が狭くなってきたか… アルネ、俺がや… あれ?」
わけがわからないと言う顔のルクナが、気まずそうに遠くを指差して言った。
「アルネなら、とっくにどっかへ行ったわよ」
「チッ… 」
「直接やるって何を?」
「獲物だ」
「獲物? 兎とか鳥とか?」
「いや… それよりももっと… 」
デイルが何かを口にしようとしたその瞬間、遠くからアルネの声が聞こえた。
「おーい! 収穫収穫っ」
そう言う彼女の背には、隠しきれない程の大きく、黒いそれが背負われていた。
軽々しく、それを彼らの前に下ろす。
それを見たルクナは、驚きを隠せない声を漏らした。
「く… 熊… ?」
(それもかなり巨大な… )
「随分と早かったな」
「そう? この子、雄っぽいわね… いつもより少し小さい… 」
(え? 小さい? こんな大きさの熊、俺の国では見たこともないぞ? それにしても… この娘… やるな… )
「まぁいっか」
そう言うと、アルネは海岸と同じような行為を、その熊にもした。
「ん? アルネ、先程も海岸でしていたわよね? それは一体何なの?」
「あぁ… これね。お礼を言っていたの」
「お礼?」
「そう… 彼らの下に私達が居るから。私達が今生きているのは、この子達のおかげ。その為の感謝の言葉をかけていたの」
「そう… とても立派な行為ね。私も今後、そう思いながら、命を頂く事にするわ」
その理解を込めた言葉に、ニコリと微笑み返すアルネ。
帰り支度をしている間、デイルが嫉妬の心を開いた。
「お前… 絶対男だろ?」
「あら? 男でも女でも美しいのなら、別にどっちでも良くない?」
「は? 良いわけないだろ? あいつには… アルネにだけは、絶対に手を出すなよ?」
「ふーん… そう言う事… でもあなた… 」
「なんだ?」
「いや、何でもない… 」
ルクナは、その言葉を今ではないと思いながら飲み込んだ。
その後、そのまま家に帰ると思っていたルクナの考えとは裏腹に、森の中を彷徨う事になる。
そして、秋の収穫とも言われる大量の木の実を獲り、帰路に着いた。
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ルクナはいつもよりも重く感じる、その家の扉を開いた。
その様子に顔を覗かせるアルネ。
「あれ? どうしたの? なんか疲れてる?」
「そっちは随分と元気そうね… 朝からあんなに… あんなに」
「ふふん… ふふ… ふっ、まだまだよ? じゃあお昼ご飯にしよっか」
アルネはとても満足そうに、勝ち誇った笑顔を見せた。
彼女は勝手に掴んだ勝利の手を、ルクナの肩に乗せた。
そう、ずっしりと乗せてやったのだ。
ルクナが身体と頭を休めていると、何かが倒れる音がした。
その場に近づき、それを拾う。
「これは… 写真?」
「あ、うん。多分、お母さんとお父さん… 」
「多分?」
「これも… おばあちゃんが亡くなってから、見つけたものだから… 真実は知らないの… でも、本当にそうだったらいいなって、勝手にそう思ってる… 」
「そうか… 」
「これね、お父さんの顔は擦れちゃってて、ほぼわからないんだけど、お母さんはとても綺麗な人よ
ね。似てるかな? 私… 」
「えと… 似て… ん? この… 」
「え? この2人に見覚えがあるの?」
「えぇ、あるわ。でもこの者達が誰なのかは知らない。知っているのはこの服ね」
「服… ?」
「この服の造りは、おそらく私が生まれ育った国と同じものよ」
「そう… なの!? え!? えぇ!? じゃあ私は… ルクナと同じ国の血が? え? 待って、どういう事? それならどうやってここに? あぁ… 頭が混乱して来たぁ」
しかしその時、調理場の方から何かが溢れ出るような音が聞こえてきた。
慌てて止めに行くアルネ。
何かを思いながら、その考えを口にする事の出来ないルクナ。
この真実は数ヶ月後の2人の決断を大きく動かす事になる。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
またまた突っ走って書きたいように書いてしまっているので、文章が乱れていることもあるかと思います。
何かお気づきの点があれば、いつでもメッセージお待ちしております。
また、心ばかりの評価などして頂けると、励みになります。何卒よろしくお願いします。