episode26〜アンセクト族と待つ者〜
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ルー族の幽谷で出会ったアンセクト族。
彼らは、ルー族の生き残りがいる可能性の事実を知り、大いに喜び泣いた。
「っく… ひっ… ぐ… ねぇ… その… ノギジって人は、どのような容姿をしているの?」
「人… うーん、そうね。見た目は全く人感はないわ。狼そのものだから。てか、子犬みたいにもふもふでそれはそれは… 」
「可愛いです」
「そう! 可愛いの! ね! ハルザ」
「はい、誠に」
(ハルザ… ノギジをそのように思っていたのか… )
ルクナが、意外というその視線を送る。
意気投合する2人を見たライは更に、涙を溢しながら尋ねる。
「… ィッグ… ズズ… それは… 常に? 狼の姿… なの?」
その姿に、そっとハンカチを渡すシュリ。
しかし、その質問の意図がわかっていなかったアルネは、コクンと頷く事で応えた。
「そう… グスッ… でもその姿でも、君達と会話は成り立つんだよね?」
「うん! 何か力があるみたいで、ここから南東にある国で、神殿の長を務めていたわ」
涙が更に流れる。
「えと… ライ? 大丈夫?」
「うぅ… グスッ… ズビッ… それ… 確かに… 彼はルー族だね。その力はきっと… ルー族でしか、成し得ないから」
「ルー族しか? そうなの?」
「神の使い… それが古代ルー族に当てられた使命とも言われている。パストゥールが神に近い存在だとしたら、その力を受け取り、それを管理する者達だ」
「もしかして各種族って、それぞれ何かしらの使命を背負っているの?」
「おそらくだけど… 僕の知る限り、そうだと考えられているよ。神とはこの世界の創造主だ。僕達種族を創ったのも、彼だしね」
「なるほど… じゃあユマン族は、何の使命を担っているんだろう?」
「うーん、僕達にも全てはわからないからなぁ… ん? てか君達自身のことでしょ? 知らないの?」
「あーうん… えぇと」
「お恥ずかしながら、俺達は自身達のことをあまり知らない。特に今から100年以上前のことは… 」
「そうか… 君達は、寿命が短いんだったね」
「ん? そうか! さっきから思ってたのよね! 何でそんなに、色んなことに詳しいのかなって。ただ単に頭がいいとかそう言うんじゃなくて、実際にそれを見てきたからなのね! 長寿… だから?」
「うん、それぞれがそれぞれの寿命を持っていて、その中でもユマン族の寿命の短さは別格だ」
「え? そんなに? 他種族の寿命って、一体どんだけ長いのかしら?」
「ちなみに僕達アンセクト族の寿命は、約1000年」
「せっ、1000年!? 待って待って! 時間の間隔はちなみに同じ?」
「うん、その概念は同じだと思うよ。朝が来て、夜が来る。これで1日。そして、それを365日を1年と考えて、4年に一度の長い1年が来る。ね? 一緒じゃない?」
「そのようですね。アルネ様、この世には様々な種族がいます。様々な形態をしていて、生き方、考え方もそれぞれ違うのです。そして各々与えられた寿命を持っています。ユマン族の常識に捉われてはなりません」
ハルザのその言葉に、アルネは深く納得するように応える。
「本当その通りね。大きい声出してごめんなさい。神に与えられた命。私達はそれぞれの世界を生きている。じゃあ他の種族に会えば、更に歴史の奥深さが分かりそうね?」
「そうだね。でもアンセクト族の中の、僕達コクシネルの寿命は500年程ってだけだから… 彼らの方がそのほとんどの寿命を示しているから… 」
「え? 彼ら? それってどういう意味?」
「僕達アクセント族は、2つの種類に分かれるんだ。1つは僕達、コクシネル。もう1つはエルフ。性別はバラバラだけど、どのように交配しても、どちらが産まれるかはわからない」
「え? エルフって妖精… よね? 昆虫類に入るの?」
「そうだね。見た目は確かに妖精。だけど、その血と、羽根はアクセント族に属するんだ。とても… 綺麗だよ」
「エルフ… 会いたい… 会いたいわっ! 今どこにいるの? この場には… いないみたいだけど」
「… 今、月華山にいると思うけど… 僕達も長い間会えてないから… そうだ! 君達の探している仲間って、もしかしたらその月華山にいるんじゃないの?」
「月華山? さっき言ってた美しい山の事?」
「うん、そうだよ! いや、でもあの山に入るのはまだ… 」
(ノギジとネネちゃんはそこにいる?)
「そうとわかれば、望み有りねっ! 早速その山へと行きましょう! ねっ! 君達も一緒に! ライ達が居てくれれば、私達もとっても心強い! それに… そのエルフの家族にも、長い間会えてないんでしょ? それってどのくらいになるの?」
「最後に会ったのは、100年くらい前だったかな… 」
「えっ!? ひゃ、100年っ!? そっか、ずっとここにいたって… それからずっとなのね…その山にも行けてない。やっぱり… 例の大地震が関係あるの?」
「うん… それもあるんだけど… 」
「一体、その100年前に何があったの? 話せる?」
ライはゆっくり頷くと、息が詰まるような思いで話し始めた。
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「今から… 100年以上も前の事… あれは今でも忘れないっ… 最悪の日だ。僕達アンセクト族とルー族は、ムナス山脈の最西端で共に暮らしていたんだ。でもあの日、いつものように、ルー族の子達と木の実を獲っている時だった。大きな地震が起きたんだ。それはもう、立っていられないほどの… 僕達は、空を飛べるから無事だった。でも… ルー族達は… 皆、そのまま落ちたんだ… 」
(だからさっき、この谷にはルー族 ’も’ 住んでいたと言ったのか)
アルネはそう思いながら、その言葉の真意を聞いた。
「落ちた?」
「そう… この谷に… 地震によって大地が… 2つに割れて… この場所はその時に出来たものだから… 」
「山の地が割れた… ? それほどの大きな地震って一体… 」
アルネは信じられないような顔をしたまま、強張る。
「もちろん僕達はルー族が心配になって、その下の谷まで見に行ったよ。でも… で、でも… この深さに落下したんだ… 皆… 息が無かった… 無惨で… 無念で… 何も出来なかった。ぼ、僕達はたまたま羽根があった… ただそれだけだったのに… 僕達だけ生き残って… 皆… ついさっきまで一緒に… 」
ライの身体が、また震え出す。
アルネはその小さな身体を、さすった。
「あなた達が罪悪感に苛まれる必要はない。だって、そんな事、誰が予想できた? それに… その地震って、自然に起こったのものなのかしら… ?」
「ん? アルネ? どういうことだ? 誰かが故意に起こしたものかもしれない… ということか?」
「わからないけど… 昔、おばあちゃんが言ってた。雷や地震は神様が怒ってるんだって。その前の予兆が嵐なんだよって。だから、アルネも良い子にしてようねって… あれは私の言う事を聞かせるための、口実かとも思ってた… けど、今思う事がひとつある。それは… 神の存在」
「神が故意にあの大災害を起こした? しかし、いったい何のために?」
アルネは静かに首を振った。
(それは今の私達には到底わからない… )
「ねぇ、ライ? 何故エルフ達と別れてしまったの? その場に一緒にいたんだよね?」
「それは、また別の話になるんだけど… 呼ばれたんだ」
「呼ばれた? 一体誰に?」
「女王ロクサーヌ様だよ。アンセクト族の頂点に立つお方だ」
(また新たな登場人物出てきたな… あぁ… 混乱してきた)
アルネは、その顎を使い、勝手にルクナへとパスを回した。
一国の王子を顎で使う。
まさしく、アルネにしかできない所業だ。
「その… ロクサーヌ女王は、何故エルフ達だけを呼び寄せたんだ?」
「それは、エルフ達の為なんだ。エルフ達は自身の羽根を自分の力では、動かす事ができない。その為には、ロクサーヌ様の持つ鱗粉が必要になる。それを定期的につけてもらうんだ」
「では何故、その時にコクシネル達も一緒に行かなかったんだ?」
「さすがにロクサーヌ様の力を持ってしても、全員は無理だよ」
「そんなに遠い場所なのか? それに一度では無理でも、何回かに分ければ… 」
「僕達もそう思った。けど… ダメだった… 」
「何か理由が?」
「 ’月華蝶’ そう呼ばれる事もあるロクサーヌ様は、その名の通り、月に一度の満月の夜にしか姿を見せない。だから僕達も次の満月まで待とうと試みた。だけど、奴が… この谷に僕達までも引き摺り込んだんだ! そのせいで、満月がいつなのかわからなくなってしまった」
悔しさ溢れるその言葉に、ルクナはアルネの方を見て頷いた。
「そういう事だったのね… でも、満月がわからなかったとしても、そこから出て会いに行ったり、来てくれたりとかは… あれ? もしかして、出れなくなったから?」
するとライが俯いた顔を少し上げ、重々しく口を開く。
「そう、行きたくても… この深い谷が… 奴がそうさせてくれないから。唯一の出入り口からは、いつの間にか滝が流れていたし」
「あの滝か… でも奴って? この谷に、何かいるの?」
「待つ者だ」
「待つ者… ? 何を?」
「そう… そいつは… その男は… 何かを待っている」
すると、その場にいたコクシネル達が一斉に震え出した。
その光も段々と弱々しくなっていく。
「え… ? ちょっ! 何っ!? 大丈夫!? 落ちっ、お、お、落ち着いて! ね! ね! 落ちっ落ち着っ… 」
動揺の連鎖に引き摺られていたアルネの肩を、優しい手が包む。
「アルネ… 落ち着け。お前まで引き摺られてどうするんだ?」
ルクナがすぐに、その動揺を鎮めた。
「はい… すみません… でもっ… この子達がこんなに怯えてるなんて… 一体何が… 」
「コクシネル達のこの怯えよう… 待つ者… 恐らく、人か… もしくは何らかの種族の可能性がありますね」
「そうだな。一度その場へ行って確認する必要がある。もしかすると… 」
ハルザの言葉に、ルクナが決断をした。
ここで、ある1つの考えが浮かんだのだ。
「ライ、俺達がここへ来る途中、何者かに襲撃され、それによって仲間と逸れたと言ったのを覚えているか?」
「あ、うん… 」
「その者は、狼の面を被っていた。人数は2人以上。一人はおそらく男。人間のような容姿をしていた。この者に心当たりは? 先程言っていた ’待つ者’ … そして、君達をそんなにも脅かす存在… それがこの面を被った者なんじゃないのか?」
(やっぱり… ルクナ様もかわかっていたのか… 勘が鋭いな)
その言葉に再び、コクシネル達が震え出す。
「大丈夫だ。俺達がついている。ゆっくりでいい、話してくれ」
ライはゆっくり頷くと、その小さな身体から声を絞り出した。
「そうだよ… 彼は、まさに君達の言う通り、狼の面を被っている… 」
「それは2人か?」
「ううん、僕達が見たのは1人。あ、でも君達の言う通り、狼の面を被っているから、完全に1人だとは言い切れないけどね… 」
「そうか… 」
「ねぇ、その狼の面の者は、あなた達に一体何をしてくるの?」
「何も… してこない」
「え? 何もしてこない? それなら… 」
「何もしないから怖いんだ… 」
「ん? どういうこと?」
「ただこっちを見てるんだ。その面を取って、ずっと見ている。その圧が凄くて… まるで、そこから一歩も動くなと、一歩でも入るなら、身体を握り潰す… そう言っている目だ… あれを見たらきっとわかる… 思い出すだけで震えが止まらない」
「会話は交わしたの?」
顔を横に振るライ。
その姿を見てアルネは考えに耽った。
(うーん… 何で気迫だけなんだろ? あの素早さなら、コクシネルを捉えることはできるはず… でも、それをせずに目で訴える… 訴える? 何かを訴えてるのか? もしくは言葉がわからない… とか?)
その間、ルクナもある違和感を感じていた。
(おかしい… 何か変だな。何もしないなら、何故彼らコクシネル達を、この谷へと引き摺り込んだ? 他に何か理由があるのか? 奴は一体何を待っている?)
そして、コクシネル達に言葉を告げるハルザ。
「コクシネル達、落ち着きなさい。我々は、それなりに腕が立つ。この、アルネ様は知っての通り大聖女で有らせられる。そしてその力は信じられない程強力だ。だから案ずるな… 大丈夫だ」
(えっ!!? ちょっ… 確かに… 大聖女よ? でも私も最近知ったばかりで… この力の使い方をまだ全然把握してないし… 持ち上げすぎでは!?)
アルネの動揺は、更に広がっていた。
(え? だ、大丈夫かな? 本当に大聖女… なんだよね?)
彼らがそう思うのも、無理はなかった。
アルネのその動揺し切った顔は、この世の者とは思えないほど、無惨だった。
モザイク有りきでお願いしたい。
しかし、一瞬たじろいだコクシネル達だったが、ハルザのその言葉で落ち着きを取り戻し、少し安堵した表情になった。
「そ、そうだよね! 大聖女様だっていうの、す、すっかり忘れてたよ。でもそれならきっと… 」
(えぇー忘れてたってどういう事!? 会ったのついさっきだよね? 忘れるの早くない?)
ルクナはというと、口元を隠しながら肩が小刻みに震えていた。
そして、堪えるようにその感情を身体に抑え込んだ。
アルネは、ある決断と強い意志を示した。
「ライ… この先に進みたい。私達は逸れた仲間を探しに、月華山に行かなきゃならないの。そして、必ずあなた達家族、エルフ達も連れ戻してくる。その為にまずは、その狼の面の奴の所に行く必要がある。だから… 」
アルネの言葉にゆっくりと顔を上げるライ。
その表情は先程の、不安ではなく、強く前に進もうとしている勇気だった。
「うん! わかってる! そして、これが僕達からのお願いだよ… ここから出して欲しいんだ!」
アルネ達は、その強く希望溢れる意思をしっかりと受け取った。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
またまた突っ走って書きたいように書いてしまっているので、文章が乱れていることもあるかと思います。
何かお気づきの点があれば、いつでもメッセージお待ちしております。
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