episode22〜面の男〜
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こうして、少しの希望が見え始めたアルネ達。
それでも、ノギジとネネルトの2人と逸れてしまった不安は拭えない。
しかし、種族を探すという真の目的がある彼らにとっては、先へと進む他なかった。
ムナス山脈の精霊達に、随時2人の情報を教えてもらうように頼んではいるが、それもこの山脈内のみでのこと。
既にこの地帯にはいないという情報がある以上、あまり期待は望めなかった。
それでも信じることをやめないアルネは、僅かな情報でも待ち続けた。
そして更に2日が経ったある日、段々とその道の険しさが増していった。
しかし、進めど進めど景色はあまり変わらない。
今、自分達が何処を歩いているのか。
それは、各自が持ち歩いている方位磁石なるものを辿る事で、保っていた。
しかし、それも数時間後には信じられないものへと変化する事となる。
それに気が付いたのは、ある見晴らしのいい崖で休憩をしていた時のことだった。
「そろそろ参りましょうか」
ヴィカがそう一声、ルクナへとかけた。
「そうだな。まだ昼間とはいえ、この段々山脈内が薄暗くなってきている。本格的に日が暮れる前に、できるだけ進んで、寝床も確保しなければならないからな」
「うん、そうね。じゃあ行こう… 」
そう言いながら、アルネがその指差す方へと進もうとした。
しかし、その行動にヴィカが制するように、声を出した。
「ん? アルネ様? そちらは… 先ほど通ってきた道ですよ? まさか方向音痴まで持ち合わせていたとは… それとも、磁石の読み方がわからないとか?」
「んあっ! わかるわよ! だってこれがっ… 」
「ふっ、まぁ良いでしょう。では早く参りますよ」
そう言うと、全員が違う道へと進もうとした。
「え? 皆、何処へ行くの?」
アルネが、その方向の違う全員の背中を見て驚く。
「ん? … どういうことだ?」
ルクナは自身の磁石を見た。
そして、全員の物と見比べる。
「磁石がおかしいな?」
「磁場が狂ってるのかしらね… 」
「これでは、先へ進もうにも… 」
一同が困惑の言葉を漏らす。
しかし、その中に不気味な笑い声が、沸々と込み上がる者がいた。
「ふっ… ふふ、ふふふふふふふ… 今なら間に合うわよ?」
アルネはヴィカの方を向いて、そのニヒルな笑いを浮かべた。
「な、何がですか?」
「さっきの方向音痴発言を撤回すれば、私がその幽谷に導いてあげても良くてよ?」
(あんま自信はないけど… )
「何を仰っているのか… はっ! そうか… そういうことですか… 先ほどは… 勘違いとはいえ… し、失礼な物言いをしてしまい、大変申し訳ございませんでした… 」
「あら? 素直ね? ふふ、よろしくてよ… ふふふふふ」
その会話にルクナは、勘付いたように言葉を繋げた。
「ふっ… そうか、精霊に聞くんだな?」
「えぇ、使える力は使わないと… でしょ?」
「それなら、最初からそう願えばよろしかったのでは?」
ヴィカが突っかかる。
「ゔ… まだそこまでの図々しさはないわよ。それに彼らも、その場所にあまり近づきたくなようだったし… 」
「そうですよね? うーん、では確信はないと? あれ? 今の物言いだと、確実に案内してもらえるとお見受けできるのですが?」
ジリジリと泥粘土のようにねちっこく迫るヴィカ。
「ゔ… 」
「信じてよろしいのですよね?」
「ゔぅ… 」
その瞬間、アルネの前面に長い腕が伸びた。
後ろから、その身体を引き寄せ頭上から優しさが聞こえた。
「ヴィカ? あまり意地の悪い事を申すな… 今は本当にアルネの力が必要だろう?」
「む… はい… 言い過ぎました… 」
「ふふん」
アルネのその勝ち誇ったようなその笑みに、不満そうな表情を拭えないヴィカ。
(ルクナ様に味方に付かれては、何も言えないのを良いことに… )
そうして、ムナスの精霊を呼び寄せたアルネ。
自信があまりなかったが、意外にすんなりと案内を受け入れてくれた精霊達。
無事、道案内をしてもらうこととなったのだ。
「ふふ、よろしくね! 無理な場所があればすぐに言ってね?」
そして、変わるがわる案内をしていく精霊達。
夜には一度、その姿を消す。
精霊にも体力のようなものがあるようで、交代して休まないといけないらしい。
「今日もありがとう」
そう言って、精霊にお礼を言うと、アルネも床についた。
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そして翌日、更に西の方へと進んでいた一行。
それは突然起こった。
「ん? 何だ? 何か…… 」
ハルザは何かを感じ、少し… いや、ずっと遠くの方に目を凝らしながら、そう呟いた。
「… っは!! お逃げ下さいっ!」
すぐ隣を歩いていたハルザがそう叫ぶと、重い荷を背負ったままアルネごと担いだ。
そしてそのまま近くの浅い崖から飛び降りる。
「… っんな!! ハル… 」
アルネは担がれながら、後方を見た。
何者かが、ものすごい勢いで追いかけてくる。
先程までいた崖の上には、先日襲撃されたのと同じような煙が立っていた。
(誰!? 1人? あれは人なの!? それにしても何だか… )
アルネがその姿を捉えた瞬間だった。
「お、狼人間!? いや違う! あれは… 」
その者は狼の面を被っていたのだ。
しかしそれ以外は、人間の容姿をしていた。
その者は、アルネ達を狙うかのように、一直線に2人の後を追ってきていた。
(何者? それにしても、華奢に見えてたけど、意外と力あるのね、ハルザ)
アルネは担がれたままのその状況で、ハルザの耳元に言葉を発した。
「敵は1人みたいね。狼の面を被ってるわ… もんのすんごい速い! ねぇ、もしかして彼、ルー族なんじゃ?」
「ルー族? 誠ですか?」
「うん。どうする? 話しかけてみる? でも、そう簡単にうま… グギャッ!」
アルネはその反動で首が持っていかれ、舌を噛みそうになった。
ハルザが急にその脚を止め、方向転換をしたのだ。
そしてゆっくりアルネを下ろすと、今にでも襲いかかってきそうな、狼の面の男の前に立ちはだかった。
「… っ、ルー族の方とお見受けすっ… 」
ハルザが声を張り上げて、接触を試みた。
しかし、その言葉は皆無に近かった。
面の男はその脚を止めることもなく、そのままの勢いでハルザへと何かを振り翳した。
「っく… 」
それを即座に受け止め、跳ね返すハルザ。
(違うな… こいつはルー族じゃないっ… じゃあ何故… )
何の躊躇もなく斧を振り翳す男。
しかし、ハルザの方がうわ手であった。
その重々しく振り降ろされる斧を交わすとともに、天高く弾き飛ばし、そのまま男の身体を捉えた。
(つ、強ぇ! ハルザいいぞ!)
そして、首に腕を回し、息の根を止めるギリギリのところまで力を強めていた。
少しずつ、男の面が外れていく。
その目が現れ始めた瞬間、アルネはまずいと思った。
「ハッ、ハルザ! やめいっ!」
アルネは思わず、ハルザの脳天へ、強めの手刀をお見舞いした。
その瞬間、男の首元からハルザの腕が緩んだ。
男が自身の首元を押さえながら、激しく咽せ返る。
それと共に、逝きそうになった男の魂も戻ってきた。
アルネが男に問いかける。
「ねぇ! あなた一体… 」
しかし、次の瞬間、男は人間とは思えないほどの跳躍力で、一回転すると、木の上に身を飛ばした。
「なっ! ちょっ… 」
その男は、外れかけた面をつけ直すと、そのまま向きを変え、逃げ去ってしまった。
「ちょっと待って! ねぇ! 待っ… 」
アルネは冷静さを失った。
元々冷静さの薄いその気を、失うのは容易であった。
一瞬にしてタガが外れたのだ。
その到底追いつけるとは思えない男の後を、今まで抑えていた筋力を駆使して、追いかけ始めた。
島育ちの賜物だ。
そして瞬く間に、横並びになるほどまでに追いついたのだ。
「…… っ!?」
男は非常に驚いていた。
「ねぇ… あなた… あの子達が何処にいるんだか知ってるんでしょ!?」
「……… 」
「ノギジとネネちゃんを返して… この間の襲撃… あなたなんでしょ?」
「……… 」
「ねぇ! 聞こえてるわよね!? 答えっ… て、え?」
その瞬間、アルネの足は絶たれた。
アルネが進もうとしていたその木の枝を、何十メートル先も見越して、その男は切り落としたのだ。
アルネはそのまま、真っ逆様に落ちた。
(うっわぁ… やられたっ!!)
アルネが着地の体勢を直そうとした瞬間、柔らかい何かに包まれた。
「ハルザッ! ナイスキャッチ!」
(こんなに無謀だったとは… )
「… はい。アルネ様、本当に… 無茶はおやめ下さい。困ります。勝手に追いかけたりなど」
(しかもめちゃくちゃ速い… あんなの俺でも追いつけない)
「ブヒュッピュゥウ〜ヒュッヒュゥ〜」
「出来ない口笛で、無理やり誤魔化すのも、おやめ下さい」
「あーはいはい。スイマセンネ」
(心が込もってない… )
「それよりあいつ… 何者?」
「わかりませんが、おそらくルー族ではありませんね」
「えっ!? そーなの!? なんでわか… 」
「なんとなくです」
「なんと… なく?」
(なんとなくでわかるもんじゃないだろ?)
アルネはハルザに詰め寄る。
「随分勘が働く頭だこと」
「え? あぁ、そうですか?」
「ねぇ… あなた… 何者なの?」
「………… 何故、突然そのようなことを?」
「うーん、気になったのよねぇ。こんなに知られていなかった種族の存在を、この短期間で人間の他、4種も見つける事ができたなんて… それは何故かなって… それにあなたは5種の生存者がいるとわかってるって言った」
「… 調べればわかる事です」
「そうね、確かに王宮の書庫室でも調べられるわ。でも、それも極一部。国で一番情報が集まるその場所で極一部よ?」
「……… 」
「… あなたが言ってた存在する5種族。それは、ドレ族とデュー族、シレーヌ族、ルー族、アンセクト族の5種かと思ったんだけど… ドレ族とデュー族を同じユマン族の種としたら、あともう1種類わかっている種族があるんじゃないかなって。そのもう1種… かなり身近にいるんじゃないかしら? そうね… 例えば、あなた… とか?」
(知識を得たせいか? 鋭いな… かなり核心をついてきている)
ハルザは珍しく、変な冷や汗を掻き始めた。
「……… チョット、ナニイッテルカ、ワカリカネマス」
(嘘つくの下手だな… )
アルネは、ジトジトとその逸らす顔を見て言った。
「ふぅ… まぁいいわ。新参者の私には、まだ話せない内容もあるだろうし…それにしてもまぁた逸れちゃったわね… 精霊達に頼んで、ルクナ達を探さないと… 」
しかしその瞬間、遠くの方から彼らの気配がした。
「アルネ!」
その表情は心配をあらわにしていた。
「無事か!?」
「ルクナ! それに皆も! 良かった! 怪我はない!? 私達はこの通り大丈夫よ」
「そうか… 本当に良かった。先ほどの男は… 狼の面を被っているように見えたが… 」
「えぇ、接触を試みたけど、何にも答えてくれなかったわ」
「何!? 接触しただと? 何故そんな危険な事をっ… はぁ… 危うすぎる… それで?」
「顔は見れなかったわ… それに声も… 」
「そうか… しかし何故こちらには見向きもせず、真っ先にアルネ達の方に… まさか… 大聖女だからか?」
「そうなのかしら? まぁでも、この先もさっきみたいな事が、たくさん起こると思うのよねぇ。だから、自分の身は自分で守らないとっ! それに、ふふ、ルクナが… 」
「あぁちゃんと守ってやるから… 」
「今回はハルザだったけどね! でも、約束約束〜」
(ルクナ様に守ってもらうだなんて… その手を煩わせないようにしなければ… )
ヴィカは、ルクナとアルネの護衛に力を注ぐ事に、更に力を入れることを決心した。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
またまた突っ走って書きたいように書いてしまっているので、文章が乱れていることもあるかと思います。
何かお気づきの点があれば、いつでもメッセージお待ちしております。
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