episode1〜おネエさん〜
新たな物語り、始めました。
最後まで読んで頂けると幸いです。
「何も不安になることはない。アルネはアルネだから… いつか ’それ’ がわかる時が来る。その時になったら、話そう」
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それから数年が経った。
アルネはその言葉を胸に灯すことによって、今まで心豊かに生きてくる事が出来ていた。
しかし、 ’その時’ は来なかった。
数年前、祖母が他界したのだ。
その日の朝は、いつも以上に空気が冷たく、とても静かだった。
そのせいで、アルネはいつもより少し起きるのが遅くなってしまった。
目を覚ますと、隣に寝ていたはずの祖母は、永遠の眠りについていたのだ。
涙が静かに流れた。
しかし不思議な事に、大きく心が乱れる事はなかった。
横で眠る祖母の顔は、それはそれはとても穏やかに微笑んでいたのだから。
「ありがとう。おばあちゃん… 愛してる… 」
そう言って、アルネは祖母に最後のお別れをした。
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そして今。
大きな籠を背負い、その棘に目を向けているアルネ。
「今日も綺麗ね」
そう言いながら、美しく咲き誇る野薔薇達に微笑み、村までの道を通る。
齢16になったばかりのアルネは、いつもと変わらない日々を過ごしていた。
いや、少女だった頃とは変わった事もある。
この歳にもなれば、身体も成長し、できる事も増える。
通常の村娘以上に、体力と筋力が増えていたのだ。
そう、増え過ぎていたのだ。
遠くから、村人が話しかけてくる。
「アルネー! 朝っぱらから、もうそんなに収穫したのかー?」
「えぇそうよ! だって早く摂らないと、リモン達が全て摘んでいっちゃうんだもん!」
「それにしたってだな… さっきは、海岸で網を引いていただろう!?」
「そうね! それも既に村の市場へと、引き渡してきたわ! 後でちゃんと貰ってねー!」
そう言うと、アルネは、その肩に乗せた大きな籠を軽々と持ち上げて、村の中心へと向かった。
「なんて… なんて体力なんだ… やってる事が、まるで働き盛りの青年じゃ… 」
村人は清々しい程のその背に、手を振りながらもそう呟いた。
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それから数日後のある夜。
タナマ村はここ1番と言っていい程の、巨大な嵐に見舞われた。
翌朝、アルネは心躍る気持ちを抑えきれずに、近くの海岸へと来ていた。
そう、流れ着いた彼女の為の物資を拾う為に。
天候が荒れた次の日には、たくさんのモノが海岸へと流れ着く。
アルネはそれを知っていた。
上機嫌で海岸を彷徨く。
同じように何人かの村人が、海岸を歩いている姿も見えた。
アルネはその足を移動し、自分だけの穴場を物色していた。
今回も珍しいモノや謎のモノ、様々な心躍るモノがないかと歩いていた。
そして今、人生初めてとなるモノを拾う事となる。
「… え? 人… ?」
アルネは、その人に駆け寄って声を掛ける。
「あのっ… 大丈夫ですか!?」
アルネは、頬を優しくペチペチと叩いてみた。
(反応がない… )
自身の顔をその者の口へと近づけ、呼吸を確認した。
(息がある!)
そう思い、再度強めに頬を叩き、意識を確認した。
するとその目はゆっくりと開き、大きく空気を吸い込んだ。
(蒼い瞳… 綺麗)
アルネは、その者の瞳に吸い込まれそうになった。
「… っここは!? 他の皆はっ… ゲホッゴホッ… 」
「大丈夫!? あまり急に呼吸しない方がいいわ!」
そう言いながら、アルネはその者の状態をゆっくりと起こした。
「ここは私の住む島よ… あなた1人しか、いないように見えるけど… 」
「そう… ケホ… 昨日の嵐で… 皆… 」
「気の毒だけど… いや、でももしかしたら何処かに流れ着いて居るかもしれないわ! とりあえず、村へ行きましょう」
「村?」
「えぇ… 私の村、タナマ村よ」
「タナマ村… では、そこで少し休ませて頂きます」
(この女性… なんか… 声が… 低くない? 海水を飲んだせいだからかな?)
アルネはその者に、妙な違和感を感じていた。
村の者とは違う違和感を。
(この人… 何だろ? ちょっと周りと違うような… まぁいいか)
こうして、アルネは ’おネエさん’ らしきモノを拾ったのだ。
そのおネエさんとの出会いがこの先、歴史を変えるとは露知らず。
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それから、2日後の朝。
日課である朝の仕事を終えたアルネは、家へと戻った。
そこには、海岸拾ったあの ’おネエさん’ が着替えを済まして、座っていた。
その者は、自身を ’ルクナ’ と名乗った。
アルネはある事を伝えた。
「さっき、市場の人に聞いたんだけど、やっぱりこの島には、あなた以外の人間は流れ着いてなかったって… 残念だけど… 」
ルクナは少し暗い表情をしながら、こう応えた。
「そう… 」
「……… 」
「仕方がないわ… そう悲しまないで。アルネには感謝している。ありがとう」
そう言いながら、アルネの頭をそっと撫でた。
(あれ… 何だろ… おばあちゃんの時とは、違う… )
アルネは、そのじんわりと来る温かみを感じていた。
「ルクナ… この島に来てしまったら… 出る事はかなり難しいかも… だから、落ち着くまで… 何ならずっとこの家に居てもらっても構わないわ!」
「ふふ。 ありがとう… じゃあお言葉に甘えて」
「それにしても… 私の服じゃ、少し小さいわよね? ルクナはここの村の女の子達より、少し大きいから… 男性用の服しかなくてごめんね… こんな綺麗な容姿なのに」
「え? あら? 私、綺麗?」
「えぇ! とても! 羨ましいわ! 仕立て屋のおばちゃんに、新しい服を作ってもらわないと!」
「仕立て屋?」
「えぇ! 南の展望台の近くに住んでるのよ! 寸法とかあると思うから、後で一緒に行きましょう」
「え… えぇ、そうね… 私はこれでも別に構わないのだけれど… 」
(まぁ… 大丈夫か… )
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午後になり、村の南にあるという、展望台近くの仕立て屋へと来たアルネ達。
その古めかしい扉を開ける。
「こんにちわぁ! シシリーさんいるー?」
すると奥から、少しせっかちそうな者が出てきた。
アルネとシシリーは、淡々と話を進めていった。
そうして、あっという間にルクナの寸法も測り終え、その場を後にした。
「仕事が早いわね」
「そうでしょ? シシリーさんは、とてもせっかちだけど… あ、だからこそか! でも安心して! とても丁寧で心地の良い服が仕立て上がるから! ふふ」
自身を胸にそう言うアルネに、同じく笑顔で返すルクナ。
その違和感には、この村に着いた時から感じていた。
アルネだけではなかった。
しかし、それを口に出すことはしなかったのだ。
ルクナはとても心優しく、そして何と言っても、一緒に居ると何だか心強かった。
祖母が亡くなってからというもの、少し人恋しい気持ちがあったのだろう。
しかしルクナを見る度に、アルネは記憶の奥底が騒ついていた。
(何だろ… この感じ… )
彼女は無意識に、11年前の出来事が蘇っていた。
そして家の前に到着し、アルネがルクナの背を押しながら自宅へと入れようと、その扉に手を掛けた。
すると次の瞬間、背後から怒りの声が聞こえた。
「おい! アルネ! そいつをこの家に住まわせる気か!?」
その声は、デイルであった。
彼はアルネの幼い頃からの馴染みである。
同じように、この村で成長して来たのだ。
少年から青年になったデイルにも、色々と思う事があるのだろう。
「え? うん、だって行く当てないし」
「ダメだ」
「えー? 何でよ?」
「そいつは男だろ!? ダメに決まっ… 」
「何言ってんの? ルクナは女性よ! ちゃんと見なさいよ!」
そう言って、ルクナを家に押し込め、アルネはドアを勢いよく閉めた。
「んな! … お前の為を… 思って… 言ってん… だろうが… 」
その場には、デイルの呟きだけが残った。
「全く! 本当、失礼な奴! 少し身体が大きいってだけじゃない! それにルクナはこんなにも美しいのに! ね!」
ルクナはその言葉に、微笑みのみで応えた。
「そうだわ! 先に湯浴みでもして来たら? ルクナ」
「あ、えぇ。じゃあお言葉に甘えて」
そう言って、浴室に入るルクナを見届けたアルネ。
すぐに夕食の準備に取り掛かろうとした。
その時に、ふと思い出したのだ。
(あ、着替え渡すの忘れてたわ)
そう思い、部屋着用の服を抱え、浴室へと入るアルネ。
浴室と着替え場との間には、薄い掛け布が1枚あるのみだった。
同性だからといって、他人同士であるのに変わりはない。
なので、そっとその場所へと着替えだけを置いて、すぐにその場から出ようとした。
しかし、これがいけなかった。
(そうだ、ついでに洗濯物も… )
汚れた服を洗濯しようと、ルクナの服を持ちあげた。
その時、何かが床に落ちる音がしたのだ。
それをまじまじと見るアルネ。
(何これ… 鍵?)
それは歪な形をしていた。
(… ん? 待って… これ、何処かで… )
「あっ!!」
見覚えのあるそれは、自身の首元にある物と同じような形をしていた。
その声に驚いたルクナは、薄い掛け布を除けた。
「どうした!?」
「あ、うん。勝手にごめん。これなんだけ… ど… 」
アルネはその鍵を手に持ちながら、ゆっくりと振り向いた。
そう、振り向いて見たのだ。
’彼’ のありのままの姿を。
「ぎ… ぎぃゃぁぁぁぁぁあ!!」
更に驚いたルクナは、思わずその口を塞いだ。
「ちょっ… ! 何っ! びっくりするじゃん!」
「おぼっ… おぼごばん!! … ぶは! お、男!? 男じゃんっ! え!? え? 嘘! 何で!? 変態か!?」
「あぁぁ… いや… まさかとは思ってたけど… やっぱり気が付いていなかったのね… うーんと、でもどう見ても、男だったでしょ? 髭も伸びてきてたし、それに声だって… 」
「た、確かに普通の女性とは、何か違うなと思ってたわよ! でも、外の世界の人は皆そうなのかと思って… いいい、言ってくんなきゃわかんない! 自己申告大事! て、てか! 普通女の子の家に来る!? はっ! まさか私の身体を狙って… !?」
すると、ルクナの表情は一瞬にして、冷たいモノへと変わった。
「そんな貧相な身体に興味はない」
「んなっ… 貧… 相っ!? わ、私だってね! まだ成長途中! この先、ボインのバインってなるんだからっ! 今に見てなさい!」
「見たくない」
「っくゎぁあーーはっらったっつ!」
「それで?」
「んぁ?」
「で、その鍵がどうしたって?」
ルクナは、用意してもらった服を着ながら、気になる事だけを淡々と聞く。
「鍵… そう! 鍵! 私が持ってるこの… 」
その瞬間、ルクナの手がその胸元へと伸びた。
「これをっ… 何処で!?」
「ちょっ! 何すんのよ! 変態!」
「いいから答え… 」
しかし、アルネのその拒む手が震えているのに気が付き、ルクナはこれ以上強く聞くのをやめた。
「… すまない。その話は、落ち着いたら聞くとする」
そう言うと、ルクナはリビングへと戻って行った。
(男の人の手… 怖かった… 何でだろ… 今までそんな事なかったのに… あ、いや、一度だけ… )
アルネは11年前の漂流者である、ジールに手首を引っ張られた事を思い出していた。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
またまた突っ走って書きたいように書いてしまっているので、文章が乱れていることもあるかと思います。
何かお気づきの点があれば、いつでもメッセージお待ちしております。
また、心ばかりの評価などして頂けると、励みになります。何卒よろしくお願いします。