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episode18〜出立の日〜

たくさんの作品から見ていただき、ありがとうございます。

最後まで読んで下さると嬉しいです。


「だから言っただろう?」


その重く低い声に、アルネは何も言い返すことができなかった。


地下の扉を開けた後、まだ時間があるからと言って、寝るという選択をしたのだ。


もちろん、ルクナは止めた。


しかし、そのほんのちょっとが…

その二度寝が… いけなかったのだ。


そう出立の時間に、遅刻をしてしまったのだ。


「大変申し訳ございません… 」


「この貸しは、後できっちり返してもらうからな?」


(おぉ… 怖っ… )


アルネは思わず身震いをした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


こうして、一同は旅路へとつくことになった。


馬車へと乗り込むルクナとアルネ。


まだ眠いアルネは、ぼぉっとしながら窓の外を眺めていた。


ルクナはというと、熱心に何かを読み込んでいた。


そして、小一時間ほど経った時、アルネがルクナの方を見て尋ねた。


「ねぇ… そういえば何処に向かっているの?」


「え… お前… 嘘だろ? この前の… いや、何度も説明したが、ちゃんと話聞いてなかったのか?」


「えぇと、確… 認、そう! 確認よ、確認! 再度ね… えへへ」


(絶対聞いてなかったな… )


「わかった… 一応の! 確認な… 」


「うんうん!」


「まず、ここから北西の方角へと進む。そこにある深い山。その奥の更に進んだ場所に、暗く生き物さえも住みつかないとされている谷があるという」


「生き物さえも? そんな危険な所に行くの?」


「あぁ… 目的はひとつだ。ある可能性を探しにな。その谷の名は ’狼の幽谷’ 」


「狼… ? て事は、ノギジの故郷?」


「ノギジはルー族に違いない。証拠が無くとも、俺は… いや、何よりも父上がそう言っているからな。そのルー族が、今もそこにいるとは限らないが… ノギジの遠い記憶に、暗く目に映る星達があったという」


「ん? どういう事? それって夜空の事?」


「違う。その星達は、上に見えるだけではないと言うんだ… それは… 」


(… もしかして)



「「まるで空中散歩のようだった」」



2人の声が揃うのに、笑みが溢れずにはいられなかった。


「ふふ… さすが、毎日読み漁っていたことだけはあるな」


「えぇ、当たり前よ。その情景はとても印象深かったもの。ある本に、そう書かれていた記述を鮮明に覚えているわ。国王が記した書物の中にね。おそらくノギジから聞いた事を書き残したのかしら?」


アルネはそう言うと、ゆっくりと目を瞑り、静かに息を吸った。

そして、その一節を言葉にする。



’空と海が混じり合ったようなその世界。

一面の星が散りばめられている。

それはまるで空中散歩のようだった。

そこでは星達が生きている。

星達の住処。

彼らは、共に生きていた’



(よくもまぁ。この短時間でそこまで覚えている事… )


そう思いながら、ルクナもゆっくりと頷いた。


「なるほど… 狼の幽谷か… でもそうなると、ルー族の住処というよりは… ん? 共に生きていた? … もしかして、他にもそこに他種族が住んでいたって事?」


「可能性はある」


今度は重く頷いたルクナ。


その一節に期待を込め、2人は顔を合わせて微笑んだ。


「そして何年か前、その近くでたった一度だけ、目撃情報があった。それは暗闇の奥に見えたという。遠くに見える光る道。しかし、それらは人の気配を感じると、すぐに光を失ってしまったという」


「何か… いそうね」


「だろ? しかし、何度か調査団を派遣したが、一度もその谷を見つける事ができなかった」


「え!? てか、詳しい場所わからないのに、一直線に行って大丈夫!?」


「あぁ、大体の目星はついているからな。ある種の消去法とも言えるがな」


(本当に大丈夫なのかしら?)


「しかし、そこからその道をどう開いていいのかがわからないんだ。おそらく… 」


そう言いながらルクナは、アルネの方をじっと見つめた。


「な、何?」


ジリジリと後退りをしようとするアルネ。

座っているので、身体を逸らす事しか出来ない。


「聖女の力が必要なのではないかと… それも偉大な大聖女様のな」


「大… 聖女様… 私に… 何が出来るんでしょうか?」


「ふふ、まぁあまり気負いせずに、まずは行ってみよう。世界を楽しむんだろ?」


「うん… そうね」


「という事で、まずはその谷を目指す。その為には、ある山脈を越える必要がある。そこまでは馬車や馬で移動するが、殺人的に険しいと言われているその山脈には入れない。だから、そこからは徒歩っで移動ということになる」


「山脈… 」


「しかし大丈夫か? その山は… 」


「ふふ… ふふふふふ… 私を誰だと思っているのよ? ふふ、自然の中は大の得意よ!」


「田舎育ちですからね」


馬車の外から間髪入れずに聞こえたその声に、過剰に反応したアルネ。


顔を窓から出し、その人物へと言葉を向けた。


「馬鹿にした? 今、馬鹿にしたっしょ? ヴィカ?」


「いいえ、そのような事は断じてございません」


(地獄耳… )


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


そうして、数日の時が過ぎ、その東西に大きく連なる山脈の麓まで来た一行。


大き過ぎるが故に、その全体像が全くもってわからなかった。


馬車から降りるアルネとルクナ。


「ムナス山脈… そう呼ばれている」


「ムナス山脈? 地図上にそんな場所なんてあったかしら?」


「ないだろうな。何処にも。俺ら人間達が、勝手にそう呼んでいるだけだからな。真の名は誰も知らない。 ’脅威の山脈’ この意味は、足を踏み入れればわかると言われている。もちろん俺も入るのは初めてだ」


「なるほど… それで ’呼ばれている’ って言ったのね」


「あぁ… それでだが、ここからは歩く事になる」


その言葉に、アルネは周りを見渡した。


既に馬から降りていたヴィカやハルザ、そして神殿長こと狼のノギジの姿もあった。


「ん? 随分人数が少ないのね? 護衛とか大丈夫なの? 一応、一国の王子様なんでしょ?」


「心配には及ばん。俺が最も信頼し、そしてかなり腕の立つ者ばかりを厳選しているからな」


「精鋭された者達ってことね… 」


「あぁでは参るぞ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


そうして、山道を歩き始めた一行。


アルネは、すぐにその違和感に気が付いた。


その両脇にガッチリと佇む、大きな存在感。


右手にはその存在を隠したいのに、隠しきれていない黒ずくめの大男。


左手にはしなやかだが、ガタイの良さが隠しきれていない大男。


(え? 誰? 誰なの? 何で、真っ黒な被り物してるの? これで前、ちゃんと見えてるの? こっちの人なんて、歩き方めっちゃ上品! それより何より… 2人ともデカくない? めっちゃ… めぇっちゃ目立ってるよ!?)


その不安な様子に、気が付かないわけがなかった。


「そうだったな。一応紹介しておく」


そう言って、ルクナはまずその黒装束の者に目を向けて言った。


「ネネだ」


「え?」


「ん? 会いたがっていただろう? お礼が言… 」


「えっ!? えぇぇぇぇっ!?」


「やはり… 」


「ネ… ネ… ちゃん?」


「お前、ネネを女だと思っていただろう?」


「えっ!? 違うの!? だって名前が… 名、前… が… 」


(やっぱりな… )


「ネネルト。男だ」


「おと… こ… の子… それで、ネネ… だったのか」


「普段はあまり表には出ない。この通り目立つしな。それに影にいた方が、何かと動きやすい」


「え? いや… でもその格好… 逆に目立つんじゃ… うーん、でもまぁネネちゃんね」


アルネのその言葉に、ネネルトの目だけがこちらを向いていた。


やめろと言わんばかりの視線だ。


しかし、アルネは気にする素振りもなく話しかけた。


「ねぇねぇ何でそんな真っ黒な被り物してるの? 顔バレ防止?」


「……… 」


「あ、気が付いてないかもだけど、存在感すごいよ? ん? あれ? 聞こえてないかな? おーい」


「……… 」


「ふふ、懐くのには時間がかかりそうだな」


その様子を見ていたルクナは、意地悪な笑みを浮かべながらそう口を開いた。


(絶対に手懐けてやる)


アルネに新たな目標ができた。


そして、向きを改め直すと、今度はアルネの左側の人物を見た。


「そしてこちらが、シュリだ。俺の師匠でもある」


「ん? シュリ? えっと… 何処かで… 」


「あら? あなたのその身に付けているものは、全て私が見繕ったものよ? 大切に着てくれているようね」


「あ! もしかして! ’帷の裳’ の!?」


「そうだ。彼女には今回、護衛として来てもらった。それと、アルネのサポートも兼ねてな」


(彼… 女?)


「ふふ… やっと会えたわね」


「初めまして! あのっ、たくさんのお洋服ありがとうございました! 何より着心地が最高で、毎日着てます!」


「気に入ってもらえて光栄だわ。この短い人生の中で、大聖女様のお召し物を見繕える日が来るなんてね… それに… 」


そう言って、アルネの耳元にその強めの顔を近づけるシュリ。


「花嫁衣装も任せて欲しいわ」


「え?」


含みのあるその言葉を残して、満面な笑みを向けた。


「ふふふ… これから宜しくね!」


「は… い… 宜しくお願いします」


アルネは、理解が追いつかないまま返事をした。


一方、ルクナは王宮地下道の件について、ヴィカに尋ねていた。


「して、サルーンの方は?」


「滞りなく… と言いますか、非常に喜んでおりました」


「ふふ… まぁそうだろうな… 」


少し気まずそうな顔をするヴィカ。


「ルクナ様、我が弟ながら… たまに思うのです… あの豹変ぶりは、時に脅威となるのではないかと… そして今回もやり過ぎやしないだろうかと… 」


「そうだな、確実にそうなるだろうな。ふふ、サルーンはいつも俺達の想像以上の事をする。まぁ、腕と知識は確かだ。もちろん信頼もしている」


「恐れながら… 何か問題を起こした時は、何なりと私の首を… 」


「そんな事はせん。案ずるな。ヴィカもサルーンも俺の大切な従者だ」


「ルクナ様… 広いお心痛み入ります」


ヴィカはルクナのその言葉に、何とも言えない気持ちになった。


(この身が木っ端微塵になろうとも、一生お仕え致します)


ここに重い忠誠を誓った。




最後まで読んで頂きありがとうございます。

またまた突っ走って書きたいように書いてしまっているので、文章が乱れていることもあるかと思います。

何かお気づきの点があれば、いつでもメッセージお待ちしております。


また、心ばかりの評価などして頂けると、励みになります。何卒よろしくお願いします。


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