episode16〜名もなき暗殺者〜
たくさんの作品の中から覗いて下さった方、ありがとうございます。
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そして、翌日。
旅立ちの準備は、着々と進んでいた。
ルクナやその従者達は忙しそうにしている反面、アルネは特にやることもなく、いつも通りに本を読んでいた。
いや、彼女は彼女なりに忙しかったのである。
ある選択を迫られていたのだ。
旅立ちには、本を大量には持って行っていけない。
「3冊まで」
ルクナがそう言ってくれたのだ。
これが、彼女の頭を更に悩ませる事となる。
よって、持ち出し可能な自身の愛読書を、厳選に厳選するのに、何日も何日も悩みに悩んでいた。
更にはその為にまだ読んでいない本を、時間の許す限り読み耽っていたのだ。
そして、虫の如く書庫室に入り浸っていた。
自室でと言われていたのにも関わらずだ。
そんなアルネの肩をふと誰かがつつく。
顔を上げるとそこには、今ではすっかり顔馴染みとなった書庫室の責任者ディランがいた。
「アルネ様? そろそろお部屋に戻られた方が宜しいかと… 」
「へ?」
そう言われ、アルネは辺りを見回した。
既に人の出入りはなく、アルネ1人のみとなっていた。
ふと、窓の外からは夕陽が差し込んでいるのが目に入る。
「まだ日が暮れてないじゃない? 閉館の時間には早くない?」
「それが… 本日は早めに閉館するようにと、仰せつかっておりますので… 」
「ルクナか… 」
「…… 」
「わかったわ。じゃあこの本全部、貸出し手続きしてちょうだい。部屋に持ってくから」
「これをっ… 全て? … でございますか?」
その机の上に、塔のように積み重なっている本を差し、そう言った。
そうしてアルネは、大量の本を読む為に、借りた本を受け取るとその場を後にした。
ディランは閉館作業など、他にも仕事が残っているという事なので、近くにいた衛兵に部屋まで送るようにと指示した。
その途中、書庫室に忘れ物をした事を思い出したアルネ。
「先に部屋に運んでてちょうだい。すぐに戻るから」
「あ、いや、しかし… 」
持たされていた大量の本で、両手が塞がっていた衛兵は仕方なく、アルネの言う事を聞いた。
書庫室を出てから、そんな距離は離れていない。
しかし、この瞬間を狙っていたかのように、それは再度訪れた。
アルネの脳裏にあの言葉が蘇る。
『アルネ、俺の言った事覚えているか?』
『大丈夫よ』
大丈夫ではなかった。
シュパン!
何かが、前髪を剃る音が聞こえた。
実際にはこめかみを狙ったのであろう。
彼女の反射力によって、それが回避されたまでであった。
「お… っと」
(またか… 今度こそ突き止めてやる)
アルネはその方向を睨んだ。
しかしその瞬間、聞き覚えのある声が聞こえたのだ。
「なに奴っ!」
ルクナの側近、ヴィカであった。
すぐ側には主人であるルクナの姿もあった。
そして、瞬く間にルクナはアルネを覆うようにして、身を屈めた。
「ルクナッ!? どうしてここに!」
「お前! 俺の言った事覚えているか!?」
「あ… はい」
(今さっきも思い出しておりました… )
「ネネ!」
(ん? ネネ? 初登場の名ね)
そう名を叫ぶと、黒く素早い影が、走っていくのが見えた気がした。
しかし、それと共に、アルネの足も動いた。
ルクナの腕を振り解き、その方向に、自慢の脚力を存分に活かした。
「待って! ネネちゃん!」
(え? ネネ… ちゃん?)
「あっ! おい!」
ルクナは一瞬そう思ったが、すぐにアルネを追いかけた。
アルネは、すぐに追いついたかと思った。
しかしその場所には、何者かもわからない者が、ぐるぐる巻きにされて、木に逆さ吊りにされていたのだ。
「え… ? あれ? こいつだけ? ネネちゃんは?」
アルネは辺りをキョロキョロと見渡した。
そして追いついたルクナと、ヴィカがその者に問いただす。
「誰からの支持だ!? 何故執拗にアルネを狙う?」
その者は、衛兵の姿をしていた。
アルネはその衛兵を見て、ふとある事を思い出したのだ。
「あれ? あなた… 」
その吊るされていた者は、先程書庫室から一緒に本を運んでいた者であった。
ルクナは更に詰め寄り、その者の胸ぐらを掴んだ。
「おい!」 「おい… 」
(え?)
しかし、その瞬間、アルネがその手から胸ぐらを奪ったのだ。
その怒りに満ちた声はとても低かった。
「お前… 本はどうした?」
(え? 本… ? 気にするところ… そこなのか?)
「……… 」
男は何も応えようとしない。
「場合によっちゃ、命はないと思え… 」
アルネの低く重いその言葉に反して、男はニヤリと笑った。
その瞬間、何か鈍い音と共に、男の表情が一変した。
突然もがき、苦しみ始めたのだ。
間も無くして、男の動きは止まり、口からは泡のような物が垂れ始めた。
首元に指をそっと当てると、ヴィカは首を横に振り、息がない事を示した。
「事切れております」
「チッ… 自害か… 誰の指示か、徹底されているな… 仕方ない。全身を調べておけ」
(まぁ… 何も出ては来んだろうな… しかし、出発の直前だというのに… それにしても気味が悪いな)
そして、安否確認をする為、アルネの方を振り向いたルクナ。
「アルネ、怪我は…… いない… 」
アルネは男の死を確認する前に、既に走っていたのだ。
そう、奴と別れたあの場所に。
本の安否を確認する為に。
「はぁはぁはぁはぁ… んっ… はあぁ… 良かった… あった。破れてもなさそう… 良かった… 本当に」
すぐに、その場に追いついたルクナ。
「はぁ… アルネ… 心配させるな… また狙われたりでもしたら… 」
そんな心配をよそに、アルネは本を胸に抱えたまま、重く言葉を発した。
「人はいずれ死ぬ… でも、本は… 書物は手を加えない限り死なない。一生の大切な産物だ」
「あぁ、気持ちはわかる。しかし… 」
「わかってない… この本は… いや、この ‘日記‘ は… 」
「日記… ? まさか… それは… どこで?」
「そう… これは、何故かあの書庫室にあった日記。これはおそらく… いや、まだわからない文字があるから、そうとは言い切れないけど… 」
(誰が書いた物だ?)
「しかし、何故そんな物が… 」
「わからないけど… 情報が必要。文字、言語… 何でもいい。これに繋がる何か… それを探しに」
(だからこんなにも… 色んな本を読み漁っていたのか… )
「それにしても、本を投げ捨ててくなんて! くっそ。あの男、戻って、息の根を… 」
「その事だが、奴は既にあの世へいる」
「え!? あの世って… 死んだの!?」
こくんと頷くルクナ。
「なんて事なの… そう… それにしても、一体何者だったの? ここの衛兵の格好してたけど… 」
「わからない… 何も応えずに自害したからな。真相は闇のままだ。しかし、何かしらの手掛かりはあるはずだ。必ず黒幕を突き止めるから、安心しろ」
「黒幕… 」
アルネは、表情を少しだけ歪ませた。
その様子を感じ取ったルクナは、言葉を選んだ。
「予定通り明日の朝、出発するが大丈夫か? 何なら… 」
「全然大丈夫よ! あんな奴のせいで、旅立ちが遅れるとか冗談じゃない! それに私は全くビビってなんかないんだから!」
「ふふ… そうか… 頼もしいな。というか! それにしてもだぞ! お前! 俺の言った事っ… 」
「はい… すみません。肝に銘じます… 」
「はぁ… 全く。貸せ。持ってやるから。早く部屋へ戻るぞ。明日は朝が早い」
「ふふ… ありがと!」
ここは従者として荷を持つべきなのだが、ルクナのその ‘想い‘ を無駄にしないため、手は出さないでいた。
しかし、そんなヴィカもやはり思うことはある。
(ルクナ様を荷運びに使うなんて… )
部屋へ着くとアルネの身体を労わるように、ルクナは再度尋ねた。
「本当に怪我はないのか?」
「うん。大丈夫。それよりネネちゃんは?」
「ネネ… ? 気になるのか? 従者の1人だが、あまり人前には姿を現さないように指示している。動きにくいからな」
「そうなんだ… あの脚力… 凄いわね。会って、ちゃんとお礼も言いたかったんだけど… 」
(まぁいずれは会う可能性もあるだろうが… それにしても… )
ルクナは、少し違和感を感じていた。
2人は夕餉を終えると、すぐに床に就こうとした。
しかし、旅の支度がまだ出来ていなかったアルネは、ルクナからのお叱りを受け、口を尖らせながら準備を終えたのだった。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
またまた突っ走って書きたいように書いてしまっているので、文章が乱れていることもあるかと思います。
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