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episode15〜煌びやかな場所〜

本日2回目の投稿になります。

覗いてくださった方ありがとうございます。

最後まで読んで頂けると幸いです。


そうして、それから3日後の夜。


それは訪れた。


もちろん、事前には知っていた。

おそらく。


彼女にとってそれは、未経験な上に見たこともなかった。


更に詳しくも聞こうとは思わなかった。


いや、詳細は伝えられていたのかもしれない。


しかし、その耳には届いていなかったのだ。


彼女はここ数日間、文字が読める悦び、知る悦びを知ってしまったが故に、本達と引き篭もり、それらに没頭していたのだから。


その間にも色々なことがあった。


ただ静かに過ごした3日間。


そして今、その国1番と言われる会場内には、それはそれは煌びやかな装飾。

更には、優美な雰囲気に男女の楽しそうな笑い声が溢れかえっていた。


そう、誰もがこの時を楽しんでいた。


招待された人々は、思い思いの感情を持ち合わせ、一張羅の衣服を身に付けていた。


誰しもが、この国の第一王子の帰還を祝い、そして何年もかけて探し求めていた大聖女様を歓迎する為に集まっていたのだ。


その盛大な晩餐会が、今夜執り行われるのだ。


1週間ほど前に、ルクナと共に出発した従者や乗組員の弔いの儀を無事執り行い、それから昨日まで喪に服していたのだ。


もちろんアルネは戸惑っていた。


その表情と身体は、既に思う通りに動くことを拒否しようとしていた。


高らかに吊るされているその文字は、今ならはっきりと読めた。


’ルクナリオ様帰還、大聖女様歓迎’


他にも色々とお洒落に工夫されて書いてはいたけれど、きちんと読むほどには、目が向けられないでいたのだ。


何より気になったのは、おそらく、いや確実に国王の言葉であろうその文字だった。


’精霊様大歓迎 パストゥール族万歳’


しかし、アルネと王族以外の他の者には、精霊としてのデイルは普通の人間としてしか見えない。


その為誰を示しているのかは、わからなかった。


(こんなに堂々と曝け出して良いのかしら?)


彼女は気持ちが追いつけないでいた。


しかし、これもマクファ国王の意向である。


 ’民との共有は信頼の証’


それを今、自身の悦びと共に実行しているまでであった。


その場に似合わない表情をしている聖女がここにポツンと1人。


その姿に誰もが大聖女とは思ってもいないであろう。


それを少し遠くの方から見て、ニヤけている者も居た。


アルネは、その無理矢理着せられたドレスにとても不満且つ、とても恥ずかしい面持ちでいた。


使用人や従者など色んな人が宥め、煽て、囃し立てた事によって機嫌を取り、やっと今の姿に至ったのだ。


何よりある人物の意向であった。


ルクナはその人物に、無理に装いを仕立て上げる必要はないとも言ったのだが、周りの者達が断固として反対したのだった。


その理由は一つ。


ルクナのためであった。


大聖女との子を設ければ、この国は安泰。

出来るだけ他の虫を寄せ付けないためである。


従者達は、ルクナがまた女装をするのではないかと懸念していたが、そこは彼も常識を通していた。


その美しい容姿は、息を飲むほど爽やかで、誰しもを虜にさせる程の姿に変わっていた。


もちろん本人はアルネを娶ろうとも、誰か特定の女性を作ろうとも微塵も思っていない。


そして、ルクナは自身の姿に見慣れ過ぎて、気が付いていなかった。


アルネのその姿に。


何時間も言葉巧みに、手を尽くし念入りに仕上げた姿は、とても美しかった。


その姿に、長年共にしたデイルさえも頬を染める。


デイルだけではない。

会場にいたほとんどの者が、息を飲んだ。


そうただ1人を除いては…


その動揺の隠しきれていないアルネをある程度眺め終えると、ルクナは近づき声を掛けた。


「あら? 素敵じゃない」


「ドレスがね… 」


「そう? 似合ってるわよ? でもあなたが素直に言う事を聞くなんて… ふふ」


「… 無理矢理ね」


「でも着たんだ?」


「だって…  ’あの方’ が… とても似合うからって… 」


(なるほど、口車に乗せられたか? それにしてもさすがだな)


照れながらそう言うアルネの顔は、赤く染まっていた。


「ふ… 中々じゃないの。ま、私には当分及ばないけど」


「その格好でその言葉遣いは、気持ち悪いからやめて… てか! あなたにお姉さんがいたなんて知らなかったわ! それも… 瓜ふたつじゃないっ!! 間違えて恥かいちゃったわ!!」


アルネは自身の両手広げながら、ある感触を思い出すような仕草をし、見つめた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


数時間ほど前に遡る。


アルネの自室にて。


いつものように朝食を頬張りながら、片手に本を読んでいると、それは突然起こった。


その扉が突然開かれた時には、騒がしさが舞い込んできていた。


むせ返りそうになるアルネは、何事かとも聞ける状況ではなかった。


「さぁ! 並べてちょうだい!」


その一言で、何人もの使用人がルクナの部屋へと雪崩れ込んできた。


そして、ありとあらゆるドレスや装飾品を並べ始める。


「腕が鳴るわねぇ」


唖然としているアルネは、やっとの思いで口一杯だった食事を飲み込んだ。


「ちょっと! ルクナ!? いきなり何!? これは一体どういう… 」


(あれ? ルクナ?)


「見ての通り今夜の衣装よ。今から準備しないと間に合わないもの」


「今夜のって… あ… あれか… ねぇ、やっぱ出なきゃダメ?」


「当然でしょ!? あなた達の為のものだもの!」


「私達… ? ん? あれ?」


アルネはルクナのある違和感に、異常に反応した。


ゆっくりと近づく。


「ではまず、湯浴みから… 」


その瞬間、アルネの手には両手いっぱいの大きなマシュマロが、溢れ出ていた。


「え… ?」


「あら?」


「… えぇぇぇぇぇえっ!?」


「あらあら、まぁまぁ? どうしたのかしら?」


それを見ていた周りの侍女達は、非常に驚いていた。


「ア、アルネ様! リノア様に、な、なんて事をっ!」


「リノア… 様? え? 誰?」


「このお方は、この国の第2王女であらせられます、リノア様ですよ!? 王女のたおやかな部分を… っ」


「王女!? え! ごめんなさい!」 


(似過ぎでしょ!)


アルネはこともあろうか、ルクナの姉、つまりリノア王女の胸を鷲掴みにしてしまったのだ。


「ふふ、問題ないわ。それより早く準備に取り掛かりましょう」


「… はい」


アルネは、そのまま流れるように着飾られていく事となった。


(私、なんて事を… それにしても… 本当にたおやかだったわ… )


そう思いながら、自身の胸元の現実を知ったアルネは、ちょっぴり落ち込むこととなった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


そして今、その産物を目の当たりにしていた。


「さすが、姉上… 」


ルクナはそう言うと、ふとある事に気が付いた。


「アルネ、俺は色々と忙しいからな。一緒にいてやれないが、あまりウロチョ… え? … いない」


そこには既に、アルネの姿はなかった。


そして、彼女にもある者が目に入っていたのだ。




会場の隅の方に、置物のように固まっている彼のもとへと近寄る。


ひょこっと顔を前に突き出すアルネ。


「可愛いっ!」


「ぉわっ! な、何っ! アルネか! いきなり飛び出してくるなよ!」


「ごめんごめん! 素敵な装いね! それにしてもこんな端っこで何をしているの?」


「お前もな。はぁ… 見ての通りだ。俺は公の場が苦手だ。しかもこんな人が多い場所なんかに… それに、狼が喋ったら皆気味がるだろ?」


「そう? そんな事ないと思うけど… あぁ、でもわかるわぁ。仲間ね!」


「え?」


すると、アルネは指をバルコニーの方へと向けた。


「少し場所変えない?」




そして、2人はバルコニーへと向かい、人気が少ない所へと移動した。


「ふぅ… 落ち着く」


「… それより、身体はもう大丈夫なのか?」


「あ! うん! 1日中眠ったら、すぐに元気になったわ」


「そうか… 見舞いに行けなくてすまなかったな… 神殿から出るのがその… 」


「ふふ… 全然いいのよ! いきなり神殿の外に出ろって言われても、戸惑っちゃうわよね。それに会いたかったら私から行くもの!」


「アルネ… その… 俺の… 俺の為だったんだってな… ルクナリオから全て聞いた」


「まぁ、私の為でもあったからね!」


「アルネの?」


「そう! 私がこの世界を見る為、楽しむ為! その為には、ノギジが必要だと思ったまでよ! 種族達を探すのにもね! 何より一緒に行ったら、とっても楽しいと思うわ! 私達友達でしょ? だから一緒に行こう? ね!」


「友… 達? 俺とお前が? というか、俺が必要なのか… ? 旅を… 世界を見て回って良いのか? この俺が… 」


「当たり前じゃない! だって、その為にあの盃を満杯にしたんだもの。まぁ、溢れてたみたいだけど… ふふ、だからね… 」


「… っく… 」


「ふふ。イエスって言うまで、誘うわよ? ねぇ、一緒に… 」


「いぐっ… っく… 行くっ! 一緒に行きだいっ!」


「ふふふふふ! 決まりね! よろしく、ノギ… 」



「泣いてる… 」


(ん?)


アルネはその幼い声に顔を上げた。


じぃと見る子供。


それは、1人や2人ではなかった。


「え… ?」


2人はいつの間にか、ちびっ子貴族達に囲まれていたのだ。


「待って、その前に喋ってる… ?」


「犬が… 喋っ… 」


「おい! 犬ころが喋ってるぞ!」


次々と声を上げる子供達。


その声に震え始めるノギジ。


(あ… まずいな… 騒ぎになって、これがトラウマにでもなったら… 旅に出ないなんてことになりかねない)


「大きな声出したらかわいそうよ!」


「だって犬が喋っ… 」



「犬じゃない… 」



「へ? 今何て言ったの?」


「狼だ! 俺は正真正銘、狼だ!」


「嘘だぁ! だって狼って、もっとこう牙があって大きくて、かっちょいいんだろ?」


「嘘じゃない! ほら、立派な牙だって生えているだろ? 見ろ!」


「本当だ! 綺麗ね! この2本だけ金ピカだわ!」


(あれ? 何だか… )


アルネは守ろうとしたその手の行き場を、どうしたらいいのかわからずにいた。


「すっげぇ! かっけぇじゃんっ!」


「ふふん! 凄いだろう!」


「お前らも歯は大事にしろよ?」


「うんっ! ねぇ、今度犬掻き見せてよ!」


「おう! いいぜ! だが犬掻きじゃない… 狼泳ぎだっ!」


意外にも打ち解けている様子のノギジ達に、安堵したアルネ。


(ふふ、なんか大丈夫そうね。それにしても、ノギジの牙って… 金色だったんだ… )




最後まで読んで頂きありがとうございます。

またまた突っ走って書きたいように書いてしまっているので、文章が乱れていることもあるかと思います。

何かお気づきの点があれば、いつでもメッセージお待ちしております。


また、心ばかりの評価などして頂けると、励みになります。何卒よろしくお願いします。

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