episode14〜放たれる意図〜
本日も見て頂きありがとうございます。
最後まで読んで頂けると幸いです。
出発まであと1週間を切っていた。
その準備は、着々と進んでいた。
そして、アルネ自身の旅の準備は、知識を入れる事。
元々この国の者ではない為、持ち物などはほとんどなかった。
洋服など、本人の動きやすい物、数点。
そして、形見の写真1点に、歪な鍵のネックレス。
強いて言えば、まだ読んでいない膨大な量の本であったが、これは言わずもがな断られた。
よって、その間は、寝る事も食事を取ることも忘れ、本に没頭する宣言をしたのだった。
以上の事を踏まえ、アルネは本日も本の虫となっていた。
そして気分を変え、本日はピクニック気分で王宮内庭園に来ていたアルネ達。
もちろん、読書をする為である。
その手からは、放れることのない数冊の本があった。
木陰に敷いたマットの上に腰を下ろしながら、それらを声に出して読む。
「今の人類は悪に染まって、昼も夜も辛苦と悲哀で、心休まる時がないと言われている。正義は腕力の中にあり、恥の心は失われてしまった… それが現代か… 」
それを側の木の上で聞いていたデイルが、疑問を吹きかけた。
「なんか… 今のお前らって、そんなに乱れているのか?」
彼はアルネ自身が、その力によってタナマ村にて生み出したパストゥール族である。
木の上からその身を自由にさせ、器用に寝そべっている。
「どうなんだろうね? ふふ… わからないわ。全くわからないけど、まぁそれ程感情や思考回路が複雑になったって事よ」
「お前… どんどん賢くなってるな… アルネじゃないみたいだ… 」
「ふふふ… 何言ってるのよ! 私は簡単には変わらないわ!」
今は、ルクナも公務でこの場にはいない。
少し離れた所に、侍女が2人程待機しているが、声が微かに聞こえる距離くらいには離れていた。
「ねぇ… ノギジって絶対にルー… 」
アルネが何か言いかけたその時だった。
その身は一瞬にして、アルネのもとへと降り立っていた。
デイルのその手には、矢のようなものが握られていた。
背を向けていたデイルの顔を、背後から覗くアルネ。
その顔は険しく、警戒していた。
「… え? な、なにっ!? びっくりしたぁ!」
「誰かが、これを放って来たようだな」
そう言うと、デイルは手のひらを広げた。
声色から冷静にも思えるが、その気が殺気立っているのがわかる。
しかし、それ以上にアルネの動揺と混乱の方が、上回っていた。
「矢? え? 誰かが矢を放ったの? 一体どうして… 」
「推測しなくともわかる。お前だろ?」
「ん? 私?」
「明らかにお前を狙ったものだな。ほら… 」
「なんか付いてる? えと、 ‘立ち去れ‘ … え!? 何よこれ! これだけ!? こっわ! え? もしかして、この場所使いたかったのかな?」
その手は思わず、アルネの頭部を叩いていた。
「いたっ! 何すんのよ!」
「んなわけねぇだろうが! 明らかにこの国から出てけって事だろ?」
「え? そうなの? 何の為に? どうして? でも、もうすぐ旅立つのに?」
「知るかっ!」
アルネは、その不審な手紙をまじまじと見返した。
「とりあえず戻るぞ」
「へ? あ、そうだね」
「報告するんだろ? あの王子様に」
「そうね… というよりかは、お姫様っぽいけど」
(こいつ… 何でこんなにも危機感がないんだ… )
呑気なアルネに少しイラつきながらも、デイルは辺りに注意深く目を凝らしていた。
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そして、アルネ達はルクナがいるという公務室へと行く事にした。
先程の出来事を伝えると、ルクナはゆっくりと口を開いた。
「… そうか。2人とも怪我は?」
「えぇ、何事もないわ。デイルがその矢を止めてくれたから」
「そうか… アルネ、もうすぐ出立だ。それまでは外に出歩かない方がいいな。そうだ、父上が書いた書物を少し足しておいた。書庫室から部屋へと運ばせよう」
「えっ! ほんと!? やったぁ! ありがとうルクナ! でも、私書庫室で読みたいわ! あの部屋の匂いがとても好きなの」
「アルネ、今日からは王子様の言う通り、部屋にいた方がいいんじゃないのか?」
デイルは少し含みのある言い方をしながら、チラリとルクナの方を見た。
(ん? 何だ? デイルのやつ… なんか言いたげだな… )
「ヴィカ、書物を何点か運んでやれ。それと、警護の強化を」
「御意」
ルクナはそう命令すると、颯爽とその場を後にした。
残されたアルネは、ふと言葉を漏らした。
「なんか、あまり驚いてなかったわね?」
「そうお見えになられましたか?」
「えぇ。表情ひとつ変わってなかったじゃない?」
「… 堪えていたのでしょうね。私にはかなり動揺しているように見受けられましたよ?」
「えっ! どこが!?」
(この小娘… やはりルクナ様には… )
「ふふ、まだまだでございますね? いくら、毎晩床を共にしているとはいえ、私の方が付き合いは長いですからね。ルクナ様の事は何でも私に聞いて下さいな」
(言い方… てかなんか、敵対視されてないか? あぁ、そういうこと)
「あら? 何か焦ってる? あ、もしかして、 ’ルクナを私に取られる’ とか思ってる… とか? ふ、ふふ」
「いいえぇ、まさかっ! そんな事はないでしょう? ルクナ様にとっては、あなたはた・だ・の、大聖女様です。それ以下でも以上でもないでしょうから? 美貌は比べるよしもないでしょうし。大聖女という肩書きを取ったら、その辺の石ころ同然… ふっ」
「なっ! そりゃ! そうでしょうよ! そんなの私にだってわかるわ! でも私にはアレが付いてない! 女の子だからね! ルクナとは対になれるのよ!」
「なっ、何がですか! 付いてる付いてないは、今関係ないでしょうに!?」
「あら? あなたとは体の構造から違くってよ? ふっ… 」
「おい… 2人ともやめろ… 」
そう言って、デイルは2人の間に入った。
破廉恥な会話を周りの目も気にせずに、繰り広げる2人は少し頬を染めて反省していた。
(くっ… それにしてもなんか腹立つな! 何なのこの気持ちはっ)
(こんな小娘に、この長い時間を費やした俺の心がわかってたまるか!)
そして、運んでもらった書物を、夕餉の刻になるまで読み耽ったアルネ。
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就寝前、いつものようにベッドで本を読んでいると、ルクナが近くへと来た。
彼はいつも寝る時は8割がた、女性の装いをしている。
アルネはどちらのルクナも受け入れているので、特に気にする事はなかった。
もはや慣れとも言う。
しかし、疑問に思わないこともない。
ふと、今夜はそれを口にしたのだ。
「その女装って本当にただの趣味? 他に何か理由があるんじゃない?」
「まぁ今は趣味みたいなもんよね。今は… ほら、なんだ… 」
「ん?」
「あの格好だと、女が寄って来て仕方がないでしょ?」
「え… 」
淡々とそう言うルクナの顔は、本気だった。
(本気か… ? 本気で言っているのか… まぁ、否めないが… )
「だけどこの格好でも… 男が寄って来て、逆に大変な時もあるけどね」
(逆に… ね… )
「ふふ… そう… ルクナも色々大変なのね」
そう言って今夜は何も考えずに、早く眠りに就く事にした。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
またまた突っ走って書きたいように書いてしまっているので、文章が乱れていることもあるかと思います。
何かお気づきの点があれば、いつでもメッセージお待ちしております。
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