episode12〜溢れるモノ〜
少しずつ更新してまいります。
最後まで読んで頂けたら幸いです。
それから数日後。
月に1度の月が満ちる夜が来た。
いつものように、部屋の中に篭っていると思っていたルクナ。
アルネの姿が見えない事に、小さく波打つざわめきが、段々と近づくのを感じた。
部屋中に煌々とした光が入り込み、外からの風が吹き通っていた。
バルコニーの扉が開いている事に気が付くルクナ。
しかし、そこにアルネの姿はなかった。
ふと遠くの方には、足早に揺れている橙色の小さな灯りが見えた。
「あいつっ… ! まさか!」
そう言いながら、その灯りを追いかけるように、ある場所へと向かった。
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そこは先日訪れた神殿だった。
この場所にいる事はすぐにわかった。
その続く道には、灯りから滴り落ちた蝋の跡が、迷う事なく印されていたからだ。
(アルネ… 一体何をしようとしているんだ?)
そう思いながら、足を進めるルクナ。
そして、先日初めて来たその場所に、彼女は静かに佇んでいた。
その姿は、溢れんばかりの力を抑え切れずにいた。
(何だ… ? あの時とは比べ物にならない… 制御がまるでできていない)
その姿に、少しずつ恐怖が込み上げてきたルクナ。
「アルネ! どうしてここにっ!? 一体何を… !?」
その焦るようなルクナとは裏腹に、アルネはとても落ち着いた様子で口を開いた。
「ルクナ? 見つかっちゃった… ねぇルクナ… もし、またもしね、神殿長が不在になったらどうなるの?」
「急にどうし… それは、またこの国が少し傾くだろうな… 」
「そう… それはこの盃を管理する者がいなくなるから?」
「そうだと思うが… 」
「じゃあ、これならどう?」
そう言って、アルネは月灯りが溢れる場所まで移動した。
力を更に呼び起こさせるその姿は、輝かんばかりに美しい。
そして、その灯りを糧に最大限の力を集中させた。
アルネは両手を広げ、溢れんばかりの力を盃の方へと放出させた。
目を開けていられない程の眩い光。
その光が落ち着いた頃には、盃は光る何かで溢れていた。
少し汗を滴らせるアルネ。
その姿を見ている事しかできなかったルクナ。
「そ… んな、アルネ、まさか… 」
「ふふ… これで当分持つわね… だから… 私も… そしてノギジもいっ… しょに… 」
そう言いかけた時、アルネの身体は力なく崩れ落ちた。
その異変に気が付いたルクナが、間一髪支える。
「アルネ! おい! … 無理しやがったな… 」
アルネを抱えて、その部屋を出るルクナは、これまでにないこの気持ちをどうしたらいいのか分からなかった。
扉の外には、ノギジやヴィカ達の姿があった。
その姿にノギジは慌わてふためく。
「なっ… アルネっ!? 何があった!? 無事なのか!?」
「… 力を使い過ぎたようだ… ノギジ、お前の為にな」
「俺の為? どういう事だ?」
「説明は後だ… とりあえず、王宮へと戻るぞ」
それを見ていたある者は思った。
(これで、大聖女としての力を確認する事ができましたね… ルクナリオ様)
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朝の眩しい光。
それは、夜のものとは、また違った心地良さであった。
ゆっくりと目が覚めると、そこには心配そうに見つめる憂う青い目があった。
「ん… ? ルクナ? おはよう… どうしたの? そんなに見て… 」
「アルネ! 大丈夫か?」
「あぁ… うん、少し力を使い過ぎちゃったのかな? あんなに使ったのは… てか自分でコントロールするのは初めてだったから」
「いや、全然制御出来てないだろう… 随分無茶したようだな? もう… 平気なのか?」
その心配する手は、アルネのを優しく覆っていた。
「あ、うん。十分寝たからね… 」
「そうか… 」
その手が、微かに握り締めるのがわかった。
「これで… 」
「ん?」
「これで、一緒に行ってもいい… わよね?」
「おまっ! ……… っはぁ… わかった」
「え? 本当に!? やったぁ! ありがっ… 」
「だぁが! 約束だ。昨日みたいな無茶は二度としないこと! 少しでも大きな力を使う時は、必ず前もって言うこと! あとは例の本を完読すること! もちろん暗記するつもりでな! それから… 」
「わっ、わかったわかった! 全部飲み込む! 約束します! 多分… ふふ… ありがとっルクナ!」
そう言うと、アルネはルクナに、盛大なハグをお見舞いした。
その突然の行動に、言葉を失うと共に、表情が強張るルクナ。
(あらら? ルクナ様? これはひょっとして… ?)
ヴィカはそれを見た瞬間、ある事に勘付いてしまったのだ。
本人すら、まだ気が付いていないそれを。
その身を慌てて引き剥がすと共に、顔を背けながらルクナは、『仮眠をとる』 と一言だけ言って、その場を後にしてしまった。
わけのわからない様子のアルネ。
側にいたヴィカの方を向いて、尋ねた。
「尿意かしら?」
「違うかと… 」
「そう? まっ! これで一緒に旅に出れるぅ!」
そう喜ぶアルネを横目に、ヴィカはひとつ言葉を残した。
「アルネ様… ルクナ様のお気持ちを、よぉくお考えになられて下さいね。それはもう、心配で心配で一晩中あなた様のお側に付いていたのですよ… 」
「えっ!? じゃあルクナは一睡もしてないの!?」
重く頷くヴィカ。
「そう… なんだ。後でちゃんとお礼を言わなきゃね」
「いや、お礼は… うーむ、そうですね」
(先程の抱擁で十分だったかと… しかしもう少し確信を得たい。場合によっては… まぁ存分に仕掛けてもらいましょうか… しかし、アルネ様か… 心配だ)
「?」
アルネはその薄い笑みの意図が、全く分からないでいた。
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それから。
十分に身体を休めたアルネは、次の日から早速ルクナの鬼のような再指導が始まった。
「最低限、この本は理解してもらう必要があるからな? これだけは絶対条件だ」
そんな言葉に、反発の声が上がる。
「… い」
「あ? 今何て言った?」
「眠いっ! 眠くなるっ! ルクナの話は眠くなるのよ!」
「んなっ! 何だその言い草はっ! どぉれだけ、お前に時間を費やしてやったと思ってるんだ!? 返せっ! 俺の時間を返っ… 」
すると、その様子を見兼ねたハルザが、2人のもとへと近づいて来た。
アルネは即座に、ハルザの後ろに隠れるように身を寄せた。
「… ルクナ様、ひとつご提案がございます」
「何だ?」
「ここはこのハルザに、一旦お預けになられては頂けないでしょうか?」
「… っ!? お前がこのチンチクリンに教えるって言うのか?」
(なっ… ! チンチクリンって言った!)
「はい… 3日… いえ、半日あれば十分です」
「すごい自信だな? … わかった。この件はハルザに任そう。言っておくが、かなりの難題だぞ?」
「ふふ、お任せ下さい」
その余裕の笑みを見せるつけるかのように、ハルザは真っ直ぐな一礼をした。
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それから、アルネはハルザの教授のもと、始まりの書を一直線へと学ぶ事となった。
そうそれは、本当に言葉の通りとなった。
恐るべき速さで、事を終える事となる。
数時間後に現れたアルネのその顔は、それはそれは鼻に付くような満面な笑顔であった。
「ふ、ふふふふふふ… ルクナ、もうこれまでの私ではないわ。大聖女アルネ様と呼んでもい… 」
「2番目… 」
「へ?」
「2番目のユマンは?」
「アルジャン族よ! 月を司る種ね! この大聖女ア… 」
「ユマン族以外に存在したと言われている種族は、全部で何種だ?」
「あ、えっと… シレーヌ族とルー族、アンセクト族の3種ね。でも私が創り上げたというパストゥール族を含めたら、全部で4種よ。つまり、ユマン族を入れて、5種になるわね… これで… 」
それからも、怒涛の質問が何点か続いた。
それに対しても、全て躊躇なく答える事が出来たアルネ。
その返答に、今までのアルネを見てきた周りの者達が、思わず一斉に拍手を送った。
ルクナただ1人を除いては…
(ルクナ? 何でちょっと怒ってるのかしら? こんなに早く覚えたっていうのに… 何で? え? 本当に何で?)
隠す気がないのか、どうしたら良いのか分からないのか、不機嫌そうに頷くだけのルクナ。
彼は複雑な思いを抱え始めていた。
その事実に未だ気が付かない。
(何故… 何故だ? 何故こんなにもイラつくんだ? アルネが真っ直ぐに学んできたと言うだけなのに… )
認めざるを得ないこの状況に、ルクナはハルザに対しても、 ‘よくやった‘ とそうひと言、添えるので精一杯だった。
その初めて抱くその気持ちに、追いつけないでいたのだ。
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その晩、夜床に就くと、ひとつの想いがついに言葉に出てしまったルクナ。
「… んなに… そんなに良かったのか?」
「え? 何?」
「ハルザの教え方は俺より… その… 良かったのか?」
「うんうん! すごくわかりやすくて、それに声がしっかり頭の中に入っ… あれ? もしかして、何か気にしてらっしゃいます?」
「…… 」
「ふふ、違うの違うの! ルクナの教え方が悪いとかじゃないの!」
「じゃあ… 何だ?」
「うーん、何て言うんだろう… ルクナの声って、すごい心地良いんだよね。だから、集中して聞いてると眠くなっちゃって」
「そうなのか… ? 初めて言われたな… そういえばタナマ村にいた時も、船で過ごしていた時も、床の上で話しているとすぐに眠りに就いていたような… 」
「ふふ… そうだった? まぁ… そういうことよ! ね? だから、感謝してるの! そんな中でも、根気強く教えてくれてありがとね!」
そう言いながら、アルネはルクナのの肩をポンと叩いた。
その手をそっと覆おうと思った次の瞬間、その手は肩からするりと滑り落ちた。
アルネが眠りに就いてしまったのだ。
「ふっ… おやすみ」
そう言いながら、今までの心に引っかかっていた灰色の何かが、一気に晴れた気がした。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
またまた突っ走って書きたいように書いてしまっているので、文章が乱れていることもあるかと思います。
何かお気づきの点があれば、いつでもメッセージお待ちしております。
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