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episode11〜聖女の集う場所〜

たくさんの中から覗いてくださり、ありがとうございます。

最後まで読んで頂からと幸いです。


「ここは… そうか、なぜ今まで思いつかなかった… 」


「何ここ?」


その真っ白で陽の光に負けないほどの眩い造りが、アルネの目を刺した。


「眩しっ… 」


ニコリと笑うハルザは、その心地良い口調で話し始めた。


「ここは、神殿です。聖女が最も集まる場所。そして、その力を大いに発揮できる場所です」


「そんな所があったなんて… 何で今まで連れてき… 」


「すまない… 俺の意識がそこまで向かなかった。俺のミスだ」


ルクナは、申し訳なさそうにそう言う。


「えっ!? 何でそれが、ルクナのせいみたいになるのよ!?」


その真っ直ぐな瞳は、何の曇りもなくルクナを見つめていた。


「あ、いや… 」


「確かにこんな素敵な観光名所を、今の今まで紹介しなかったのは悔しいけど? まぁいいわ! さっ、早く中に入りましょ!」


そう言って、アルネはルクナの腕を心強く引っ張った。


(あのルクナ様が… )


そう思いながらも、ハルザは2人の後ろをついて行った。


神殿へと足を踏み入れたその瞬間、アルネは不思議な感覚に陥った。


その様子を見て、ルクナは少し心配そうに声をかけた。


「どうした?」


「なん… だろ? 不思議… 力が、みなぎってくる気がする! これがヒーリング効果ってやつかしら!?」


「えぇと、いえ、アルネ様の場合は少し異なるかと… 」


「ん? 違うの?」


ハルザのその言葉に、説明しろと言わんばかりの視線を向けるアルネ。


「そうですね… 近いと言えば、近いですが… 確かに身体に力が溢れてくるそれは、 ’回復‘ です。しかし、アルネ様の場合、それと共に ’力’ も放出しています。この神殿にあると言われている ’均衡の盃‘ にその ’力’ を注いでいるのです。それも無意識のうちに。そして、それを感じるということは、紛れもなくアルネ様は聖女であるということになります」


「待って待って… 均衡の盃? 何それ?」


頭の中が混乱に陥ろうとしていたアルネとは反対に、ルクナは何か思い当たるような様子だった。


「聞いたことあるな。しかし、何の為にあるのかは、誰もその用途を知らない。そこに聖女の力が注がれていたなんて… 今初めて知ったぞ」


「… わたくしもでございます。先日ある聖女にその真相を聞き、そこで初めて知ることができました。しかし最近は年々、神殿に訪れる度に力が多く使われている気がすると。聖女はこの場所に来ると、まずこの盃に祈りを捧げます。そしてその祈りにより、最近はその放出のせいか、疲れが次第に大きくなってきていると漏らしておりました」


(しかし、何故何年も… ? 父上はこの事を知っているのか? いや… 何かおかしい… 誰かが止めていた? 俺達の耳に入ってきてないという事は… 王族が何か関係しているのか? 何だこの引っ掛かりは… )


ルクナはそう思いながら、ひと言で返すのが精一杯であった。


「なるほど… 」


「それで私は、少しこの神殿について調べることにしました。ここは国の所有物でなければ、誰の物でもない神聖な場所。その善も悪も富も貧も、その何もかもを受け入れる姿勢はまさに神の宮。王族だからといって、その全てを曝け出す事は無いでしょう。全ては神のみぞ知る。聖女はその一部を知っているまでの話です」


(だから聖女って、あまり周りと関わりを持たないようにしていたんじゃないかしら?)


アルネは、その神聖な場所を見上げるようにしてそう思う。


「そして私はある事に気が付いたのです。その均衡の盃の中身が、以前より少し減っている事に」


「ん? 減っている? その超神聖器の中身を見たことがあるの? 凄くない!? その中身って何なの?」


(チョウシンセイキ?)


「わかりません… 」


「え? わからないの? じゃあ何で中身が減ってるって言えるの?」


「それは… 液体のような物かとは思うのですが、盃自体の奥が深いこともあり、何より神聖なものですので凝視することは出来なかったのです。私自身、その盃を覗くのも、これが2回目でして、それはもう… 神官達の厳重な… 監視のもと… 」


そう言いながら、ハルザは少しばかりの身震いを起こしていた。


(ん? どうしたんだろう? 何か、顔歪んでいない?)


それもそのはずであった。


ハルザはその神官達のとある監視という、その特殊な状況を思い出してしまっていたのだ。


思い出したくもないその ’監視’ を。


「そうか。それは俺も是非拝見したい。これからでも… 」


「いっ、いえ! それはっ… かなりの時間と疲労感を要するのでっ!」


(ハルザさんが動揺するなど、珍しいな?)


ヴィカはそう思いながら、ある事を提案した。


「では、アルネ様ならいかがでしょう? 大聖女であるアルネ様なら、その神官達の厳しい監視が無くとも、その盃を見る事ができるのではないでしょうか?」


「… そうか、確かにアルネなら。丁度いい。神殿長にも会わせたいしな。聖女はその盃に祈りを捧げるというのも… 早速、案内してもらおう」


(俺自身も神殿長の姿形は見た事がないのだがな… この機会に会いたいものだ)


そのルクナの想いは、すぐに形へとなるのであった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


広大な神殿の奥にある、小さな扉。

その場所に神殿長はいるという。


アルネは思わず本音を抑えきれずにいた。


「ちっさ! え? 何これ? ここ? この扉から入るの!? 絶対に無理だよね? まさか、何か変な薬を飲まされるとか、魔法を掛けられるとかそういう… 」


「… ? いえ、この扉は神殿長専用らしいのです」


「専用? 訳がわからない… どういうこっちゃ??」


アルネの目が回り始めたのに気が付いていたルクナは、その背中を優しく押すと促すように言った。


「とりあえず、中に入ればわかるんじゃないのか? その姿をめったに現すことのない神殿長の真の姿を… 」


「え? ルクナも会った事ないの?」


「非対面で話した事があるだけだ」


そして、小さな扉の数メートル先にある、これまた大きな扉が目に飛び込んできた。


その扉が重々しく開かれると共に、俊敏な生き物がアルネのもとへとひざまづいた。


「お初にお目にかかります。大聖女アルネ様。ご挨拶が遅れて申し訳ございません。わたくしこの神殿を治めております、長のノギジと申します。以後お見知り置きを」



(((え?)))



その場にいた全員が思った。


(喋った… 犬が?)


(このお方が神殿長… ? そんなまさか… )


(今、凄いものを目の当たりにしている気がする… )


そんな中、1人だけ違う想いを抱いていた者がいた。


「… ? アルネ様?」


アルネのその震える姿を不安に思いながら、恐る恐る見上げる神殿長ノギジ。


「か… っ」


「か?」


「かぁわいいっ!」


「へ? か、かわ… 」


先程の挨拶の言葉は、アルネの耳に全く入っていなかったのだ。


(全然聞いてない… 驚いてもいないし… てか意識が違う方へと向いてないか?)


「アルネ様、それは一体どういう… ん? アル… え… 」


彼のその身体は、アルネの腕の中にすっぽりと包まれていた。


「えぇ…!?」


(あちゃぁ… )


その様子を見ていた一同が、一斉に頭を抱えた。


「ア、アルネ様! そのお方が… 神殿長ですよ? … と言いますか、先程からそう言っておられま… す」


(聞く耳ないな… )


ハルザは少し諦め始めた。


「可愛い! 久しぶりに可愛いに出会えた! 抱き心地最高っ!」


「お、お離しに… おは、離し… はな、は、離せっ! 何!? 何なんだ!?」


(ん? 何だか、言葉使いが… )


ルクナはアルネのその奇行を見ながら、2人の会話を観察する事に徹した。


「はぁはぁっはぁあ… 全く、一体何なんだ?」


「うーん、残念… それにしてもあなた、神殿長ってさっきそう聞こえたけど? そうは全く見えないわね?」


(お前に言われたくない)


「そうだ。神殿長のノギジだ。まぁ俺は… 元々は野生で暮らしていたからな」


「野生? この国の生まれじゃないってこと?」


「そうだ。この国の更にもっと東の方にある森だ」


「何でそんな野生ワンちゃんが大出世を?」


「犬じゃない! 狼だ!」


「うんうん、可愛い狼ちゃんね!」


(こいつ… )


ノギジはそのイラつきが収まる事なく、話をしようとしていた。


しかしその言葉に、ルクナが反応を示した。


「ん? 今なんと?」


「だから俺はっ狼だっ!」


「それって… ルー族か? おま… いえ、ノギジ殿… あなたは、ルー族では?」



「知らない。俺は、生まれた時から… いや、物心ついた時から既に1人だった。危うく、人間に捕まり、売り飛ばされそうになった。しかしその時に、あいつが… 助けてくれたんだ」


(思い過ごしか… いや… 本当に違う可能性もあるな。本人でさえ知らないとなると… 何よりも父上が気が付かないはずない… それとも何かあるのか…?)


「それはもしかして… 父上の事か?」


「あぁ、そうだ… ここからは少し… 遠い話になるが… 」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


数十年前。


あの時はまだ子供だった。

互いに。


罠に掛かったこの身を解いてくれたのが、現国王、お前の父マクファだった。


そしてその場から俺を連れ出し、怪我の手当てをしてくれた。


その時、あいつは言ったんだ。


『ごめん… ごめんね』


とな…


泣いていた。

あいつが仕掛けた罠でもないのに。


だから、俺は聞いたんだ…

何故お前が謝るんだって…


あいつはすぐにこう答えた。


『僕達人間が… 君達の居場所を奪っている… 』


その背に弓を背負いながらそう言うんだ。

俺はおかしくなり、何故か笑いが溢れたよ。

あいつは呆気に取られたような顔をしたが、すぐに一緒になって笑った。


それから、この俺を連れて帰ると必死に前王に頼み込んでいた。

その時は狩りに来ていたと後から聞いた。


それが、友達を連れて帰って来たもんだから、流石に怒鳴られていたな…

それも野生の狼を、だからな…

それよりもこの俺を友達とそう呼んでくれた事が何よりも嬉しかったよ。

罠を外す時に、警戒してあいつの腕に怪我までさせちまったっていうのにな…

ほんと… バカだ… バカで… とても優しい。

マクファめ…


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ノギジの話に聞き入る一同。


(父上の腕の傷は、その時にできたものだったんだな… )


「… 昔聞かされたことがある。父上が幼い頃、とても大切な友達ができたと。同じ姿形でなくとも… その時の俺は意味がよく分からなかったが… ノギジ殿の事だったんだな。しかし、ある事を阻止することができなかったって… 」


「そうか… そしてあいつは更に、俺の事を驚きも、気味がることもなく接してくれた。

見ての通りだからな。俺はどの言葉もある程度ならわかった。

しかし、マクファ以外信じる事ができなかった俺は、奴の前以外ではユマンの言葉を話さないように警戒をしていた。

ある時、2人の会話を聞かれちまったんだ。

それからだ、全てが一変したのは。俺は民達に神の使いと拝められ、望んでいない姿にさせられた。

長い間不在だった神殿長の座に無理矢理置かれ、毎日よくもわからない祈りを捧げられた。本当に苦痛でならなかったよ。

マクファにも会えない。不安で仕方なかった。しかし、ある時、マクファが俺に一度だけ会いに来たことがあった。あいつ… 抜け道を作ったって… ふふ… 神聖な神殿に穴を開けやがったんだ」


「ふっ、そうか… 父上らしいな」


(国王、意外とやんちゃだったのね… )


「久しぶりに会ったマクファは、とても大人びていた。それもそうだ、ユマンの一生は短い。彼は既に大人になり、家族を成していた。そして、王宮の地下へと連れ出された俺は、涙が止まらなかった。目の前にそれはそれは素晴らしいものがあったからな」


「素晴らしいものとは… ?」


「お前だよ。ルクナリオ、お前がいたんだ。小さな命が、静かに目を瞑っていて… 俺が指を差し出すと、握り返したんだ。あの時は久しぶりに笑った。そして泣いたよ」


ルクナはその言葉を聞いて、奥から込み上げる何かを堪えるように拳を握った。


「そして、マクファは俺に泣きながら謝ってきた。すまなかったって… そしてある場所へと案内された。都に続く地下だ。そこから見たユマン達は、何かに感謝をしていた。そして耳に飛び込んできたその名は… 俺の名だった。ノギジ様に感謝。ノギジ様が来てくれたから… ノギジ様… ノギ… ジ様と… 」


涙を浮かべるノギジの小さな手を、ゆっくりと覆うアルネ。


「マクファは言った。この国が豊かになったのは、ノギジ… お前が来てくれたからだと。それまで不作だった作物も、豊かになり、貿易も盛んになった。それまで、周りに圧力をかけていた危ない輩や凶暴な動物達も、この国から離れていった。

そうして、他の国からも段々と人が集まるようになった。お前のその力のおかげだと…

それを聞いて俺は決めたんだ。俺を助けてくれたマクファ… この国のために神殿長としてやり切ろうと。それに、実際かなり良い暮らしをさせてもらっているしな。あの頃に比べて天と地だ」


その貼り付けたような笑みは、アルネ達の心を揺さぶった。


「…… 」


(アルネ… ? 何を考えている?)


ルクナは珍しく考え込むアルネに、心がざわついていた。





最後まで読んで頂きありがとうございます。

またまた突っ走って書きたいように書いてしまっているので、文章が乱れていることもあるかと思います。

何かお気づきの点があれば、いつでもメッセージお待ちしております。


また、心ばかりの評価などして頂けると、励みになります。何卒よろしくお願いします。


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