episode10〜アルネの提案〜
たくさんの作品の中から、覗いて頂きありがとうございます。
最後まで読んで頂けると幸いです。
街外れにある工房 ’帷の裳’ で採寸をしてもらった翌日。
その日から、ルクナのルクナによる、アルネの為の読み聞かせが始まった。
文字が読めないアルネには、そうするのが1番だった。
… 1番だと思った。
「ねぇ、私達ユマン族って歴史がかなり長いのね。しかも節目には何度か、その名が変わっている… 面倒くさい種族ね」
「その面倒くさい俺らの種族が、更にややこしい事に1番厄介なんだ」
「げ… どう厄介なの?」
「知能や考え方が溢れ過ぎて、欲や暴力やらで戦争が起こったりしている。まぁ率直な種族だからこそ、欲望の赴くまま行動してしまうんだろうがな」
「率直… はぁ、難しいわね… んで、えぇと今の私達は…… 何族だ? てか全部で何種居るんだっけ?」
「…… おい。今… たった今、い、ま、説明したばかりだぞ? ちゃんと聞いていたのか!? この耳は、大聖女様の聖なる耳ではないのか? ん?」
そう言いながら、アルネの耳を引っ張るルクナ。
「いてててっ! ちょっと! その聖なるか弱い大聖女様を、ぞんざいに扱わないでよ! 暴力反対っ!」
「はぁあ… もう一度説明する。… 寝るなよっ!?」
アルネは、その苦々しい笑顔でニコリと頷いた。
「ユマン族の歴史は長いと言われている。5つの時代に応じて、その種族が変わっていったからな。
それぞれの時代には、それぞれの種族が存在していて、それがユマン5種族となった。
まず第1の種族だが、それがドレ族だ。彼らは全てのはじまりである種族でと言われていて、太陽を司っているとされている。
そして第2の種族、アルジャン族。これは月を司る。
第3の種族はブロン族。
更に第4の種族である、デュー族。この種族は風雲児として存在していた。
最後にフェール族。この種族がいわゆる現代の俺達の事だ。
これら5種族がユマン族であることが、この文献に記されてい…… 」
(… 今すぐつねり起こしたい… いや、一応大聖女なんだ… ここは我慢しろ… 俺)
その子守唄を聴いていたかのような、穏やかな寝顔を見て、ルクナはちょっぴり殺意が湧いた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そして、めげないルクナのその日々は続く事となる。
次の日も次の日も、毎日時間を作ってはアルネに読み聞かせた。
時には、他の者にも託すこともあった。
実際のところ、ルクナは公務が滞っていたこともあり、忙しさが尋常ではなかったのだ。
毎日寝る前に、読み聞かせしていた本。
しかし、思った以上に読み進めるのが遅くなっていたのだ。
なぜならルクナが読み始めると、アルネはすぐに眠りについてしまうからだ。
そして、遂には夜だけに限るのをやめた。
それではダメだと思い、昼間にも合間を縫っては読み聞かせを試みたルクナ。
その心地良い声がいけないのか、アルネの耳がいけないのか。
よって本来なら、2、3日もあれば読み終わる本に、1ヶ月半もの月日をかけてしまった。
そう… まだその1冊しか読み終えてなかったのだ。
その ’せい’ か… その ’おかげ’ かはわからないが、アルネはこの国の民や街の事に大変詳しくなっていた。
その屈託のない愛嬌を、今度は本物の人間に使ったのだ。
もし、彼女が大聖女でなかったとしても、それはきっと変わらないであろう。
本来の目的を忘れるほど、都に馴染んでしまっていたのだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
その影が覆う。
「あら? とても楽しそうね? 何を獲っているのかしら?」
その笑顔にはまさに、その本心ではないモノが塗りたくられていた。
いくら無理強いはしないと決めていたルクナだったが、あまりに進みが遅い為、痺れを通り越し、怒りへと変わり始めていた。
その圧に背筋が凍るアルネ。
視線を向けずに、そのまま舌を滑らしてしまう。
「活きの良いお魚さんを少々… 」
「そう… それは良かったわね… でももっとすべきことがあるんじゃなくって?」
その声は、更に耳元へと重く近づく。
「み… みんなぁ、ごめん急に大切な用を思い出したわ! ほんとごめん!」
都の子供達からは、大ブーイングが起こる。
「ごめんって! また来るから! ほらこれ、皆で食べて! ね! じゃっ!」
そう言うと、その場を足早に立ち去るアルネ。
子供達に微笑みを残して、ルクナもその後を追った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
自室へと着くと、早速そこには、大量の教材やら地図やらが用意されていた。
「ルクナ… なんか… 気合い入ってない? こんなのいつもじゃ… 」
「当たり… 前よね? ここに来てから、あの本を1冊読んだっきりじゃない! しかもひと月半もかけて! あのね、本はこれだけじゃないのよ? 知識もこれだけじゃない。あなた、本来の目的忘れてない?」
「えっとぉ… 広い世界を知る… 」
「そうね、確かにそう言ってたわね。でもその世界を知る前に、この世が失くなってしまったら意味なくて? その均衡を保つためには、あなたのその力が必要なの! 助言をするって言う約束をしたじゃない? つまりこの世を生かすのも、失く… 」
(いや、これじゃ重荷を背負わせてるのと一緒じゃないっ… ダメね… 私ったら… でもどうしたら… )
少しの反省を交えながら、言葉を制御したルクナは少し気まずそうな顔を見せた。
「それ、やっぱやめていい?」
「え? どういうこと?」
(まずい… )
「助言とかよくわからないし… うーん、思ったんだけど、助言がもし出来たとしたら、それを元に誰かが探しに行くって事よね?」
「そうだけど… ? でもこのままのペースじゃ、本当に時間がかかって仕方がないわよ?」
「そうっ! それ! 私も思ったの!」
「ん?」
「だから… 」
「だから? どうす… まさか… 」
「ふ、ふふふふふふ… 私が探しに行くわ! その都度、助言って言うものが出来れば手間も省けるし、とってもスムーズに… 」
「ダメだ」
思わず声色も変わるルクナ。
「えー何でよ!」
「言っただろう? この世界でお前の存在は、とても貴重だ。喉から手が出る程に欲している輩は山程いる。現に、この国に居ると知られてしまった今になっては、その身を狙う者が増えているという。更にだな… 」
(口調が素に戻ってますよ、ルクナ様… )
側近であるヴィカは、終始様子を伺っていた。
「でも、それはルクナが守ってくれるって… 」
「その通りだ。約束はした… しかし、全てを全て守ってあげられるとは限らない。その数は計り知れない… もし束になって襲いかかって来たとしたら、俺にも限界がある… それが懸念のひとつなんだ。お前はこの国に留まっていた方が、安全だ」
「そうなの… ? でも大聖女って、そんなに狙われるもんなの?」
「当たり前だ! お前はその存在の偉大さに、鈍感すぎるんだ! さっきだってな、無防備にも子供達と… 」
血管が歪み始めたルクナを心配して、その口を開いたヴィカ。
「アルネ様。ルクナ様はあなた様が心配でしょうがないのです。本来なら首輪をつけて、鳥籠の中にでもしまっておきたいところをグッと堪えてですね… 」
「おい」
「失礼… 致しました。しかし、そんな気持ちを抑え、出来るだけ自由にさせてあげているのです。現に都の門の外では、何度も怪しい者の襲撃や侵入が、ここひと月で数100にも上って来ております」
「え!? そんなに!? 知らなかった… だってそんな情報全く耳になんて、入ってこなかったから… 」
「はい… そうですね。全てはアルネ様への配慮の為でしたから。なので、出来るのであれば籠の中に… 」
(ん? 籠の中?)
その時、扉がゆっくりと開かれ、ルクナとは違った意味の美しい者が現れた。
(誰?)
その者は、銀色に伸びた長い髪を綺麗に束ね、それを纏うように綺麗な一礼をして魅せた。
「突然、失礼致します。ルクナリオ様、ご無事の帰還何よりでございます」
「あぁ。ハルザか。久しいな? 今戻ったのか?」
(ん? 何だろ? 目が… いや、それよりも… なんかこの人… 生気が感じられない。普通の人間なら、少しは光を感じるけど… なんだか… )
「屍人… 」
その言葉に、一同は驚いた。
何よりも言った本人が1番驚き、その口をこれでもかってくらいの強さで抑え込んだ。
「んなっ! アルネ様! なんてことを!」
「ごごごごめっ… 」
「いくらハルザ殿の顔色が悪く、血の気が無くて死にそうだからって! 彼は万年貧血なのですよ!」
(なんか、さらっと失礼なこと言ってるような… )
「ごめんなさい! 失礼しました! 私はアルネ… えっと… 」
「存じております。大聖女アルネ様。申し遅れました。わたくし、長年この国に仕えております、ハルザと申します。以後、お見知り置きを… 」
そう言って、その冷たい手は、アルネの手に触れ、その唇を軽く当てた。
その行為に慣れていないアルネは少し頬を染めながらも、ぎこちない笑顔を見せた。
(血の気も無いけど… ルクナとは違った青白い肌… 何より… )
「美しい… 」
「え?」
そして再び、本音を抑えられないその唇を抑えた。
「ふふふ… 女性にそう言われるのは、とても嬉しく思います。光栄です」
「ごめんなさい… もうこの緩い口を塞ぎます… 」
アルネはこれまでない以上に、顔が真っ赤になった。
(女性には… ? なら、男性にも言われているのか? まぁ、俺も然りだが… )
そう思いながら、ルクナは2人の方を複雑な感情を抱きながら見ていた。
「アルネ、ハルザが以前話していた種族に詳しい者だ。一度会ってみたいと言っていたよな?」
「えぇ! そう! ハルザさん、種族について少し聞きたい事があるんですけれど… 」
「はい、何なりと…それと、敬称も敬語も入りませんので、どうか自然に話して頂いて構いませんよ?」
「そう? じゃあ… ハルザはどうやって種族達の事を調べたの?」
アルネの問いに、簡潔に応えるハルザ。
「この国から行ける範囲のあらゆる街や村にて、聞き込みや文献を拝見させて頂きました」
「それは、とても時間や労力がかかったんじゃない?」
「はい、誠に… 」
「そう… じゃあその中に、今までに何かしらの種族に会った事、もしくは目撃した事はある?」
その問いに、何の迷いなく首を横に振った。
「そう… ねぇハルザ? ’パストゥール’ と言う精霊に聞き覚えは?」
「それは、そこにいる者のことでございましょうか?」
そう言いながら、ハルザはアルネ達の後方にいるはずのないデイルの姿に目線を向けてそう言った。
その言葉に、一同が振り向く。
「デイルッ!? あんた、いつの間に!」
「よっ! そいつ… 何なんだ?」
デイルは少し訝しげな表情をしながら、ハルザの方を向いていた。
「わたくしは、この城に仕えております… 」
「それはさっき聞いた。そういうことを言っているんじゃない」
(ん? デイル?)
しかし、デイルのその言葉に表情ひとつ変えずに、ハルザは微笑みを返した。
「長年仕えておりますハルザと申します。あなたがパストゥール族のデイル様ですね。国王陛下からお伺い申しております」
(何だ… 聞いてたのか… )
アルネはそう思ったが、デイルは何か引っ掛かっているようであった。
「 ’長年’ ねぇ。あとその ’様’ 付けやめろ」
デイルは含みのある言い方をしたが、ハルザは気にすることなく、その表情を変えないでいた。
「かしこまりました」
するとルクナは気を取り直して、ハルザに尋ねた。
「ハルザ。何か用があってきたんだろ?」
「はい。アルネ様の事なのですが、助言はもちろんの事、実際に探した方が早いかと… 」
「お前までそんな事を申すか!? 外がどんなに危険かっ… 」
「… それは重々承知の上でございます。しかし、彼女自身把握していないとはいえ、偉大な聖女であることに代わりない。それは、それを目撃した皆様が1番お分かりではないでしょうか? そう、その力は普通の聖女の比にならないと言う事が… 」
「何が… 言いたい?」
「おそらく、何かきっかけ、あるいは引き金となる何かがあるのではないですか?」
「… っ!?」
ルクナのその反応で確信したハルザは、更に続けた。
「その状況に陥らないと、彼女の力が発揮しないとは思いますが… 再度確認をしてみてはいかがでしょう?」
「確認? どうやってだ? その時までまだ何日も先だぞ?」
「それ以外にも、少々心当たりがあります。今から、そこに向かいましょう」
最後まで読んで頂きありがとうございます。
またまた突っ走って書きたいように書いてしまっているので、文章が乱れていることもあるかと思います。
何かお気づきの点があれば、いつでもメッセージお待ちしております。
また、心ばかりの評価などして頂けると、励みになります。何卒よろしくお願いします。




