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episode9〜華の工房〜

本日3回目の投稿です。

最後まで読んで頂ければ幸いです。


アルネの知識。


彼女は、この ’はじまりの書’ を読むところから始まった。


しかし、ここで大問題が起きた。

それは、アルネのあるひと言だった。


「読めない… 」


「え? 読めない? 全くか!?」


ぎこちなく頷くアルネ。


「そうか… 俺の考えが浅はかだった。そもそもあの村で育ったお前は、教養を受ける機会がなかったんだからな」


そしてその日は、帰還した初日ということもあり、話はここまでとなった。


気を張り詰めていた事もあり、気を利かせたルクナが、食事を自室へとアルネとの2人分を用意させた。


デイルの分もとルクナは言ったが、それよりも好物な物があると言い残し、彼は外に出て行ってしまった。


彼の為に用意させようとした部屋も、もちろん拒否された。


屋根のある場所は、窮屈だそうだ。


(今までそんな事ないと思っていたのに… 隠していたから? て事は、これからは存分に自由にさせてあげられるってことね!)


デイルは、アルネが望めばすぐに姿を現してくれるという。


彼にとっての創造主は、アルネなのだから。


その間は自由に世界を見て回るのだろう。

しかし、あまり離れるとその姿は精霊となるので注意が必要だった。

まだ種族になりたてである分、それは仕方がない事であった。


味わったことのない夕餉に舌鼓を打ちながら、満足そうな笑顔を漏らすアルネ。


その様子に、ルクナも自然に顔が綻ぶ。


「今日は疲れただろう? 遅くなる前に寝るとしよう」


「そうね! じゃあ着替えてくるわ!」


そう言って、すぐに部屋を後にしたアルネ。


「…… ん?」


その場には、ルクナの疑問だけが残っていた。




そして、ヴィカの指示のもと、使用人が夕餉を片付け程る傍らで、ルクナも就寝時の支度を済ませていた。


再びその扉は開かれた。


当たり前かのように、その部屋のベッドに腰を下ろしたアルネ。


「ん?」


「え?」


ルクナは意図してない事が起こり、困惑していた。


「ここで… 寝るのか?」


「え? うん、そうだけど?」


「お前用に、部屋を用意させたろう? ん? それともあの部屋は、気に入らなかったか?」


「そんな事ないわよ? とても気に入っているわ! でも、寝るのはここかと… え? 違った?」


「違… あ、いや、別にいいが… 」


(ここ何ヶ月間の癖が取れないのか?)


「じゃ、そゆことっでっ!」


ぼふんという音と共に、アルネがその大きなベッドへとダイヴしたのがわかった。


「んあぁぁぁ! ふかふかぁー! 私の部屋のベッドより大きいし、最高ね! 極上の眠りに就ける気がするぅ!」


(てか、アルネの部屋にあるベッドは、何の時に使うと思ったんだ?)


ルクナはまだ考えていた。


それを横目にしていたヴィカは、今回は口を出さなかったものの、引っ掛かりが拭えないでいた。


(このベッドにおいても、本当に何事も起こさないでいられるっていうのか? それともルクナ様は不能… なのか?)


しかし、今回はヴィカのその考えが、少しばかりルクナにも引っ掛かって来ていた。


(広いから、その分少し距離を取れば… まぁ… 大丈夫か… )


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


その心配も翌朝には、一瞬にして拭い取れていた。

アルネ特有の寝相の悪さが、爆発していたのだ。


ルクナが朝目覚めると、あるはずのアルネの上半身がそこになかった。

代わりに、踵が彼の腹部へとお見舞いされ、その重さによって起きざるを得なかったのだ。

彼女の上半身はというと、ベッドの下へと折り逸れていた。


「自由過ぎるだろ… 」


その足を退けたルクナは、自室の扉を開けた。


その瞬間、いつもならいないその数の使用人が、両側へと長い列を成していた。


そして、朝の挨拶と共に、いつもとは違う祝いの言葉と深いお辞儀をお見舞いされた。


「何事だ?」


「おはようございます。そして、誠におめでとうございます。遂にこの時が… 私共一同は、心から嬉しく… 」


「おい… 何か勘違いをしていないか?」


「へ? あの娘をお手付きにされたのでは… 」


「床を共にしたけだ… 」


「床を共に… しただけ?」


「あぁ、共にただ眠っただけだ。同じベッドでな」


「同じベッドで? 一晩中その同じベッドで、横になっていたのに? 何もなかったと? 誠に?」


「そうだ… が… 」


何故か複雑そうな顔の従者に、首を傾げるルクナ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


そして、しばらくした後、目が覚めたアルネは支度をする為に、一度自身の部屋へと戻った。


数分後。


その雄叫びと共に、アルネの部屋の前に人だかりができていた。


「いぃぃいやぁーー!!」


その騒ぎを聞きつけ、駆けつけたルクナが慌てて、近くにいた使用人に声をかける。


「何事!?」


「え、ええと、それが、猛じゅ… いえ、アルネ様が暴れて… その… ドレスがお気に召さないようで… 」


「はぁ… わかった」


(いきなりドレスはハードルが高すぎたか… )


その部屋の扉を、ノックも無しに開けようとするルクナ。


「あっ! ル、ルクナリオ様っ!」


しかし、その遮る使用人の口元に人差し指を当て、微笑みを投げた。


使用人は頬を真っ赤に染めた。

彼女は数秒後に、失神する事になる。


「入るわよ! 全く! 折角の召物が可哀想じゃない!」


その場にいた使用人は、ルクナの登場に驚いた。


歳若き娘の部屋に、そして着替えているその最中に何事もないかのように入ってくる彼… いや、彼女の姿に。


肌着姿のアルネも然り。


そこに関しては、何でもないかのように話しかける。


「ルクナ! この人達に言ってよ! こんなブリンブリンな服なんて、着たくないって! 嫌だ!」


「待って待って… 落ち着いて頂戴。服に罪はないわ」


そのくしゃくしゃに破れそうになっている服達を、優しく手に取るルクナ。


「そうねぇ… 確かに、この服達はアルネにはちょぉっと、似合わないかも… 後で買い付けにでも行かないと。とりあえずこれでも着たら?」


そう言いながら、後から入って来たデイルの身体の方を指しながら、そう提案した。


その姿を見たアルネの表情は、一気に明るくなった。


(ルクナリオ様… いつ猛獣使いに… ?)


失礼とは思う余地のない従者達は、誰もがそう思わざるを得なかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ふふんっ」


デイルとお揃いのものを着たアルネ。


その装いは、少し従者に近いようではあったが、立派な物だった。


ルクナはその日、1日中はじまりの書を読み聞かせ… ようと思っていた。


しかし、元々は田舎育ちの野生児であるアルネ。

その生態は、とても落ち着きのないものであった。


仕方がないのだ。

彼女には、見たことのないものばかりなのだから。

とりあえず、この土地に慣れてもらう事を最優先にしたルクナ。




そして、都へと行きたいと言い出したアルネ。


約束もあってか、快く承諾したルクナは、他所行き用の服へと着替えた。

もちろんその装いは美しい。


しかし、都に出るや否や、予想外の声があちらこちらから聞こえた。


「大聖女様よ! それに、ルクナリオ様までいらっしゃるわ!」」


「聖女様ー! ルクナリオ様ー!」


「きゃー! 今日も素敵ー!」


「大聖女様ー! 光りの国へようこそ!」


「… な、これは一体… 」


予想外の展開に、ルクナはその自のある声を、抑えられずにはいられなかった。


至る所、都中に大聖女様歓迎の文字が広がっていた。

その声援に、笑顔で手を振るアルネ。


「ルクナ? どういう事?」


「… こっちが聞きたいわ」


(あんの… お喋りじじい)


ルクナがそう思うのも、無理はない。


国王は口が軽かった。

しかし、ちゃんと肝心なことは言わない… と思う。

自身が本当に重要だとは、感じていない事以外はすぐに国中へと伝わってしまう。


本人としては、 ’民との共有は信頼の証’ という事らしい。


「ルクナ様… 一応申しておきますが、国王ではございませんよ? 多分… 」


(多分?)


「あ、いや、その後嬉しすぎてポロリした可能性もございますが… 」


「その後とはどういう事だ?」


「国王がまだ教壇に立つ前、既に国民へと話が漏れていました。誰かが… 」


「内部か?」


「おそらく… 」


「ネネを… 」


「御意」


その言葉と共に、ヴィカは少し離れた所に居たもう1人の従者に声をかけた。

その影はアルネには捉える事が出来なかった。


(ネネちゃん?)


そう思いながらも、アルネ達は大歓声の中、都を歩く。


時には握手を求められることもあった。

しかし、いつ何処に危険が潜んでいるかもしれないと、アルネには触れさせないようにした。


「え? えぇ… と」


アルネ自身も慣れない事に、どう反応していいかわからなかった。


「ふふ、まぁ普通にしてれば良いわよ」


「普通に… ? その格好で言われてもな… また戻ってるし… おネエさんに… 」


都を探索する予定が、人だかりの予想外の多さに、今回はルクナの目的の場所へと一直線に行くこととなった。


しかし、アルネだけはその行先を知らない。


(それにしても、凄い人だったな… )


進めば進む程、人だかりは収っていった。


そして、ついに人っ子1人いなくなったのだ。




ここは、都町のはずれにある道。


人の気配はしないものの、その道はとても美しく補装されていた。

花で綺麗に彩られ、心地よい香りが何処を嗅いでも脳内へと入り込んできた。


「ルクナ? 何処に向かっているの? 随分綺麗にされた道だけど… ここは私有地ではないのよね?」


「もちろん私有地ではないわ。でも、ここを利用する人達はとても綺麗好きなの。そして、何より乙女なのよ。まぁ行けばわかるわ」


そう言いながら、嬉しそうに鼻唄を流すルクナ。


(何だろう… 変な予感がする… 気のせいかしら?)


「見えてきたわ。あそこよ」


ルクナはそう言うと、先の方に見えた、レンガ造りの屋敷を指差した。


近くまで来ると、その大きさはかなりのものであった。


「ここは?」


「天才のいる工房よ。ここに滞在する間、その服だけじゃ到底足りないでしょ? だから今回はその為の訪問よ。あぁでも、突然来たから、追い出されちゃうかしら?」


「え? 追い出され… ?」


(そんな、一国の王子を追い出すような事、する人なんているのかしら?)


「でも… 私これだけでも十分… 」


「いいえ、そうはいかないわ。あなたが今いる場所は王宮よ、王宮。色々と入り用なこともあるわ。だって貴方は大聖女だもの。こちらが無理矢理、崇めているだけだとしても… うーん、そうね… 私が何より、綺麗にしてあげたいって気持ちじゃダメかしら? それとも… あのドレス達を着る?」


アルネは、その言葉に思いっきり首を横に振った。


「ふふ、ありがとう。さぁ入りましょうか」


そして、その年季の入った扉を開ける。


カランという、これまた美しい鈴の音色と共に、その光景がアルネの目に飛び込んできた。



(え… 何ここ? 私殺されるの?)



アルネがそう思うのも無理はない。


そこには、船乗りなのか、山の住人なのか、はたまた猛獣なのかと思うくらいの、いかつい男達がこちらを一斉に見ていたからだ。


その手には、様々な器具を華麗な手捌きで丁寧に使用されていた。


しかし、その場は男臭い匂いは一切せず、むしろとても華やかな香りで溢れていた。


(あ… あの花道と同じ匂いだわ… でも… )


アルネは飛びそうだった意識を徐々に戻しながら、ゆっくりと辺りを観察し始めた。


ある者は大きなハサミを両手に持ち、ある者は人型の木彫りのようなものに布をぐるぐるに巻き付けていた。


(殺し屋の訓練場かなんか!?)


そしてルクナの姿を見ると、美しい髪と美しい髭の職人が近づいて来た。


しかし、その前にルクナがひと言申し出た。


「あら? またなの? 皆、目つきからって言ったじゃない。師匠にそう言われなかった?」


(師匠? 何の師匠かしら? ん? よく見ると、これって… )


彼らのその手には、色とりどりの布生地やボタン、糸やレースが握られていた。


(そうだ、さっき確か工房って… え? ここはもしかして… )


「ルクナ様じゃない! いきなりどうされたんですか?」


「ふふ、サラン、それに皆久しぶり。師匠はいるかしら?」


「ごめんなさい。あいにく、お師匠様は今、席を外しているんです」


(何だろ… この、どうしようもない違和感)


そしてその職人は、アルネを横目に見つけると顔を近づけ、まじまじと見ながら口を開いた。


「なるほど… もしかしてこの子が例の… 」


(あぁ、顔と… 言葉遣いが合間ってないこの感じ… )


「えぇ、そうよ。何点か見繕ってもらいたくてね。それで採寸を… 」


「きゃー可愛いじゃない! でも、何でこんな格好しているの? 勿体無いわね!」


職人サランは、アルネの頬を骨張ったその手で、優しく覆いながら言った。


「まぁ… 本人の希望ってところかしら。サラン、お願いできる?」


「もちろんです! デザインはシュリさんにお願いしますけど、採寸はこのわたくしに是非やらせて下さい」


「もちろんよ。それにシュリなら間違いないから、ふふ。では私は久しぶりに工房を楽しんじゃおうかしら」


そう言って、ルクナはその場をふらっと離れてしまった。


(少し胃もたれしてきた… でも、ここ… 本当すごく良い匂いがする… まるで、そうだ! 女の花園!)


「さぁ! あなた… えぇと名前は?」


「アルネです。よ、よろしくお願いします」


「よろしくね、アルネ。ふふ、大丈夫よ? 私達に任せて! 何てったってここは、シュリの仕立て屋、別名 ’帷の裳’ よ」


「とばりのも?」


「えぇ、縫い目のない服の事よ。最初は腰から下の服だけの、仕立てから始まった小さな工房だった。けど… あの日、幼きルクナ様に出会えたことで私達のこの工房は都、いや、今や国一番の仕立て屋になったのよ!」


その一点の曇りもない瞳に、真実を見たアルネは、これまでの心のざわめきが嘘のように消えた。


「そう… ふふ、改めてよろしく! サラン!」 


そして、身を全て預けたアルネは、採寸をしてもらった。



後日、趣味のいい洋服がわんさかと届くこととなる。






最後まで読んで頂きありがとうございます。

またまた突っ走って書きたいように書いてしまっているので、文章が乱れていることもあるかと思います。

何かお気づきの点があれば、いつでもメッセージお待ちしております。


また、心ばかりの評価などして頂けると、励みになります。何卒よろしくお願いします。


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