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プロローグ〜幼少期〜

多くの中から見ていただきありがとうございます。

最後まで読んで頂けたら、幸いです。



それは、アルネが5歳の頃であった。


近所に住んでいた少年デイルとは、少し馬が合わなかった。

アルネの姿を目にしては、虫を投げつけたり、水を浴びせたりと、何かしらの悪戯をしかけてきた。


「おいっ! ちび! お前、そんな細っこくて、ちゃんと栄養摂っているのか!? お前が野菜なら絶対誰も食べないぞ! 売れ残りだ! 売れ残り!」


その言葉に、もちろん反論しないわけがない。

アルネは大人しい少女ではなかったからだ。


(バカだな… 考え方がバカすぎて、いちいち反応するの疲れる… けど、言われっぱなしも… むかつく!)


そう思いながら、素早さが自慢だったアルネは、その小さな身体を駆使して、反撃へと徹した。


もちろん勝者は、ひと回り大きいデイルの方であった。


この頃はお互い、思考も身体もまだ幼かったのだ。

当然のような子供の口喧嘩、手が出るのも日常茶飯事であった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


そんなある日、いつものように海岸に様々な物が流れ着いていた。


その中に、ある男が流れ着いたと村中が大騒ぎをしていた。

他の場所から、この場に来た息のある人間などここ何年もいなかったという。

あったとしても、それは既に息がない者ばかりだった。

言わずもがな、これは村でのここ1番の大事件となった。


もちろんその騒ぎに、好奇心に満ち溢れたアルネとデイルは真っ先に海岸へと走った。


2人はその男を見て驚いた。

その男の身なりは、海水や砂でまみれていたとはいえ、見た事もないような上質な服を纏っていた。


(何だろう… 何処かで… )


アルネはその男を見て、とても不思議な、そして懐かしい気持ちになった。


おそらく、その男は前日の嵐によって、乗ってきた船が転覆し、ここへ流れ着いたのだろう。


彼は衰弱しているようで、村の療養所で世話をする事となったのだ。


しかし何日か経つと、男はある程度回復し、人柄の良さなのかすぐに村にも馴染んでいった。


更には、容姿が非常に整っていた事もあり、村中の女性達が日々絶えず、その姿を見に来ていた。


そう、彼は一般的に言う男前だった。

その名もジール。

男は自身の事をそう名乗った。

もちろん老若男女問わず皆、彼に懐いていった。


しかし、その中でもアルネとデイルは違った。

普段なら興味本位が勝ち、率先して近寄って行く2人がだ。


互いがジールについて話した事はなかったが、それぞれが思うことがあり、同じような選択をしたのだ。


(… 様子を見よう)


デイルはそう思い、遠くから見るだけで話し掛けには行かなかった。

アルネも然り。


(何だろう… 初めて見たあの時から感じていたこの… 違和感… 懐かしい ’感じ‘ は、すごくするのに… 近寄りたくないこの… )


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


それから、1年の時が経ち、ジールという男はすっかりこの村に世話になっていた。


もちろんタダでとは言わなかった。

畑仕事や農場などの、力仕事を快く手伝っていた。


その間、1度だけアルネはジールに話しかけられた事があった。


「ねぇ、君、名前は?」


「…… 」


「あれ? 恥ずかしいのかな? これ、さっきそこの家の、イオという女性から貰ったものなんだけど… 」


そう言って、ジールはアルネに焼き菓子を渡した。


(イオさんが? え? あのイオさん… が?)


ジールの手にあるものを見て、アルネは疑念を抱いた。


(おかしいな… でも)


首を傾げながらも、そっと手を伸ばすアルネ。

すると、その手首を強く引っ張る手が伸びてきた。


「… っ!?」


アルネはその力に、恐怖を感じた。

すぐに手を引っ込める。


そして、その焼き菓子を受け取る事なく、走り去ったアルネ。


その後ろ姿を見つめるジール。


(やっぱり… やっぱりおかしい! だってイオさんは、とても不器用だから… )


アルネは以前、イオが花嫁修行の為に、村の女性の所に料理を教わっていたのを思い出した。


その際に、その家から黒い煙が出ていたのだ。


(確かあの時は、簡単な料理って… それなのに、失敗してた。お菓子作りはもっと繊細で、難しいんだって… おばあちゃんがそう言ってた。 あんなに美味しそうなお菓子を、イオさんが作れるはずないっ!)


すごい言われようのイオ。

しかし、今回ばかりはそのお陰もあって、アルネ自身の身を守る事ができたのだ。


この時から、ジールへの疑念は更に強まった。


この件をアルネは他者に言うことはなかった。

何故なら、ここ数ヶ月でジールへの信頼は、非常に大きくなっていたからだ。


アルネは頭は悪くない方だ。


5歳にしてはよく考え、何より行動力があった。

今回はここ1番と言っていい程、それを最大限に駆使していた。

確たる証拠を掴む為に。


それからアルネは、時間がある時は毎日と言っていい程、ジールを観察した。


目が血走るくらいには。

おそらくその行動は、彼には全てお見通しであっただろう。


素性を明かさない。

決して隙を見せない。

アルネは途中、気のせいかさえとも思い始めた。


そんな時、ある事を耳にした。


それは村娘達のある会話からだった。


「ジールさん、もうすぐここに来てから、1年よね… 何だか最近、とても切なそうな顔をしているの… 」


「私も思ったわ。一体どうしたっていうのかしら?」


「はっ… もしかして、そろそろお迎えが… とか?」


「やだっ… そ、そんなはずないじゃない! だってこの島は… 」


「… そうだったわね! この島に来れる者は、誰1人いない」


彼女達は、手を握り合って何かを再確認した。


そう、この島は航路が閉ざされていたからだ。

昔からそう言われ続けてきた。

誰もそれを確認する術はなかったが、現にここ数100年はその航路を使って、誰もこの島へと辿り着いて居ないのだから。


まるで外部との接触を、拒んでいるかのように…


その夜、アルネは眠りに就こうとベッドに横たわりながら、昼間の村娘達の会話を思い出していた。


窓の外には、もうすぐそれを満たそうとしている月が浮かんでいた。


(もうすぐ満月か… )


隣で眠る祖母の姿を見て、ある事をふと思い出した。


『昔はもっと暗かった』


祖母はそう言っていた。


アルネはその意味がよく分からずに、月に1度の夜が1番明るい日は外に出ないようにと、言われ続けていた。


何故、その言葉が今、思い出されたのか。

それは、もうすぐ月が満ちる時がやってくるからであった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


それから数日後、ある晩アルネは夢の中で嫌なモノを見た気がした。


それによってうなされ、目が覚めた時には、物凄い汗と共に、その記憶は流されていた。


すっかり目が覚めたアルネは、この気持ちを少しでも紛らわす為に、家をそっと出た。


海岸近くの丘に着くと、満点の星空に、月明かりが海面へと光る光景に心が洗われた気がした。


しかし、先程の夢の事が気に掛かり過ぎていた為に、ある事をすっかり忘れていたのだ。


そう… 今宵が満月であるという事を。


そしてそれは、一瞬で過ぎ去った。


(ん? 何か… 聞こえる… ?)


アルネは、丘から繋がる海岸への道にそっと近づいた。


「… っ!?」


(あいつだ! ジール… !)


1人佇むその姿からは、耳を疑うような言葉が次々と出てきた。


「1年… やっとか… やっと… 手に入る… そろそろ迎えも来るはず… ここまでの航路を手に入れる為に、何年かかったと思ってるんだ。魔力を込めた物を、村中にばら撒いた。手は尽くした。ここまで来て、逃しはしない。絶対に手に入れてみせる!」


ジールの拳に力が入る。


「え… ?」


アルネは、少し声を漏らしてしまっていた。

ジールは気が付かずに、感情を言葉に出し続ける。


「しかし、この1年、村中の女達を… チッ、老若男女問わずに手中にしたはずなのに、そのような者はいなさそうだった。一体どこに… そういえば、あの娘は… 」


「あの娘… ? 誰?」


アルネは、その口を閉じるのを忘れていた。


その時、アルネの口元を誰かが、塞いだ。


「… っ!? ふぐ… 」


 ‘静かにしろ… ’


それは、同じくジールの怪しい行動を、遠くから見張っていたデイルであった。

デイルは、声を出さずに口の形で会話をする。

それに応えるように、アルネも口のみを動かした。


 ’デイル!? 何であんたがここに居るのよ!?’


 ’村から出て行くあいつの姿が見えたから、後を追って来た… そしたらお前が… てか、それより’


そう表すと、デイルはジールの方を指差した。


彼は2人の存在に気が付かず、まだ独り言を続けていた。


「そうだ… ふふ… この村の者達を 全て焼き殺せば、 ’彼女’ だけは生き残るな。いや、その前に必ず姿を現すはずだ… その力を使いに来る… 必ず」


2人は乾いた喉に、無理矢理唾を飲み込もうとした。


その瞬間、アルネにはジールの背後に真っ黒な、そしてとても邪悪な影が見えたのだ。


そして聞こえた。


『仲間が来たら… 村の者をまず皆殺しだ』


その耳を塞ぎたくなるような言葉を聞いた瞬間、身の毛の与奪ような感覚が身体中を覆った。


アルネは恐怖と怒りで、感情が制御できなくなってしまっていた。


それからの事は、覚えていなかった。


そして ’彼女’ は嵐を呼んだ。


正確には嵐を起こす ’精霊‘ を呼んでいたのだ。


この神聖な島に来るという者達を、全滅させるために。


更には、無意識のうちにある精霊を呼び起こしていたのだ。


精霊は、ジールに近づくと、その身体にそっと触れた。


その瞬間… ジールは静かに倒れ、息を引き取った。


アルネは知らなかった。


それは、決して呼んではいけない精霊だという事を。


仕方がなかった。


本人ですら、その能力に気が付いていなかったのだから。


アルネが目を覚ました時には、村中が嘆き悲しんでいた。


どうしてこんなことにと、そう思う者達ばかりだった。

彼を心から愛してしまった女性達は、彼の倒れていた場所に身を投げようとまでもしていた。


しかしただ1人、その出来事に身を震わせる者がいた。


その深く皺の刻まれた手は、優しくも自身を落ち着かせる為に、アルネの手を包んでいた。


「おばあ… ちゃん? 一体、何があったの? 私… 海岸の丘で… あれ? 何してたんだっけ… 」


「アルネ… 其方は… 何と… 何という… 事だ… 月が満ちる夜は… 決して外へ出てはならぬと… あれ程… 」


(あれっ!? 昨日は満月!? え!? 嘘!? でも一体何が… )


「な、何があったの?」


「ジールが… 死んだ… 」


「え…? 死ん… だ? どういう事!? そうだ! 私達、丘でジッ… 」


しかし、その先を言わせまいと、その温かい手が小さな口を塞いだ。


涙を浮かべながら、何かを堪えるその濁った瞳の為にも、アルネはその先を言うのをやめた。


それを知る者は、今はここには誰もいなかった。


デイルだけは、一部始終を見ていたはずだった。


しかし、あまりの出来事で彼自体も、意識無くその記憶を小さな脳にしまうという決断をした。


一過性の健忘症でも何でもない。


それは、彼と… 彼女の選択でもあった。


これにより、誰にも真相は分からずじまいであった。


しかし、アルネとデイルは悲しんだりなどしなかった。

アルネに至っては、安堵さえしていた。

もちろん、その時の記憶はない。

しかし、ジールの事を思い出すと、何故か恐怖と怒りが蘇る。

デイルはというと、アルネ程ではなかったが、何だか心が軽くなっていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


数日後、村中に巻き起こったジールの死の悲しみが少し落ち着いた頃。

アルネはその時の感情を、祖母に話す事にした。

それを聞いた祖母は、一瞬とても驚いた表情をしていたが、すぐにすんなりと受け入れ、こう言った。


それが ’自分’ であり、 ’個性’ であると。


しかし、この時のアルネは祖母から言われたその言葉の意味が、全く理解できなかった。


「何を言っているの… ? さっぱりよ、おばあちゃん」


祖母はアルネのその言葉に、ただただニコリと笑うだけだった。

しかし、アルネは説明になっていないその笑顔が、何よりも大好きであった。


最愛の祖母がそう言うのであれば、そうなのであろう。


「何も不安になることはない。アルネはアルネだから… いつか ’それ’ がわかる時が来る。その時になったら、話そう」


そう言うと、アルネの小さな頭を優しく撫でた。





最後まで読んで頂きありがとうございます。

またまた突っ走って書きたいように書いてしまっているので、文章が乱れていることもあるかと思います。

何かお気づきの点があれば、いつでもメッセージお待ちしております。


また、心ばかりの評価などして頂けると、励みになります。何卒よろしくお願いします。

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