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紡ぐ 3 ~本編end~

こちらで最終話になります。


※8/6更新

こちらが本編としてのエンディングですが、今後別なキャラとのエンディングをあげていきます。

他のキャラとのエンディングも読んでみたい方は、お付き合いお願いいたします。






~ナーヴ視点~





いくつかの季節を超え、シファルが愛情をもって育てたその花が咲いて、自然とみんなが笑顔になる。


「アレク……これ、さ」


「あの花か」


「そうだね」


アレクとジークが楽しげになんか話している。


(何の話だ?)


思いのほか陽射しがきつくて、メイドに言って日傘を持ってきてもらう。


それまでは、花のそばの木の下で陽射しをよけよう。


「陽向の花だな」


「……だね。ひまわりだ、たしか」


「鮮やかな黄色だ」


「うん。ひなの笑顔みたいにまぶしい」


「……そういう台詞が、呼吸をするように出るのはすごいよな」


「しょうがないじゃない。それも俺なんだから」


俺が知らない、二人だけが知るひなの秘密の話。


アレクとジークはあの日を振り返って、笑っていたらしい。後から聞いたけど。


「下手くそだったけど、似てるね」


「そうだな。俺の方が上手く描ける」


「うっそだー。アレクの絵も、かなり独創性がある絵なんだけど」


「……なら、勝負するか。画材は何でもありだ」


「いいね。負ける気はないよ」


最後の台詞だけが耳に入り、またくだらない勝負でもするのかと、日傘を差しながら花畑へと向かう。


まぶしい黄色の中、ひなの顔がふにゃりと笑った気がして。


「ひーなー。ほら、なんか黄色い花だぞー」


なんてテキトーなこといいながら、ひなの指先に花を触れさせようとする。


「おい、ナーヴ。教育がなってないぞ」


そうアレクがいうから、「うっ」と声を詰まらせてから「知らねえもん」と口を尖らせた。


ジークとアレクは互いに見合って、プハッと同時に笑う。


「じゃあ、教えてやるよ。この花の名前は」


俺がそこまで言いかけた瞬間。


「ひまーりね?」


舌ったらずな声がして、目の前で花が揺れた。


たった今、このタイミングでひなが目覚めた。


もしかしたら、永遠に目覚めないかもと思ってもいたのに。


嬉しそうにばんざいの格好に腕を上げ、ブンブンと勢いよく前後に振り回し。


「ひまーり! キレー!」


ひまわりよりもまぶしい笑顔を振りまく。


「そうだな。ひまわりだ!」


アレクがそう告げると、「アック」とひながアレクへと手を差し出す。


「え………、は?…なんだよ、陽向」


アレクの声が震えている。俺も、まさかねって感じでひなを見る。


「アックゥ」


アレクが手を差し出すまで待っているとでも言いたげに、ひなはまっすぐ腕を伸ばした。


「おいで? 陽向」


アレクがぼろぼろと涙をこぼして、陽向を腕に抱える。


「っかーい、ちて。っかーいの」


よくわからない言葉が出た。


アレクは混乱しはじめ、ジークに視線で助けを求めている。


ジークもわからないみたいで、話を振らないでほしそうに微笑んでいる。


そこに割り込んできたのは、どこから走ってきたのか汗だくで息を切らしたカルナーク。


「高い高いだ! 陽向は、高い高いを求めている!」


言いながら、両腕をまっすぐ伸ばしたまま同時に上下に動かして、そのやり方を見せてきた。


「……カルナーク? どういうこと? ひながこうなった以上、もう魔力のつながりはなくなっていたんじゃないのか?」


何故とジークたちが聞く前に、察した俺がカルナークを詰る。


「あんなに阻害の魔法かけといたのに、部屋を出たら無意味だな。ひなの魔力はもう、ほとんどないっていうのに」


と、最後まで明かすつもりのなかったことを、ポロッともらしてしまった。


「……あ」


カルナークより先に俺と目が合ったジークが「なーるほーどねー」と口角を上げる。


なんだよ、ダメじゃなかっただろ? カルナークの方が、実際やっちゃダメなことだったろう。


ひなはキョトンとした顔つきでアレクの腕の中から俺を見つめ、子どもの笑顔の破壊力を見せつける。


キョロキョロと何かをさがすように視線を動かした先、カルナークを指さし「エッチぃ」って名前で呼ぶ。


日頃の行いの悪さか。


さらにジークには「おにゃのこちゅき」とか言い出し、「違うよ! 好きだけど好きじゃない!」と言わせるほどに焦らせ。


シファルを「シハ」とものすごく短く呼んでシファルが泣き笑いをしてた。


今俺たちの前にある花はひまわりって花で、シファル曰く、浄化のためだけじゃなく、この国の特産品に出来るかもしれない加工品が作れるらしい。


花と種を使って、ひまわり油っていうのが取れるという話だ。


その手順と、どれくらいの収穫量があれば浄化に影響なく国を潤わすのに使えるかまでの説明付きで、16才の女の子の気づかいとは思えなくなってた。


国の心配までしてて、そりゃストレス溜まるよね。


加工して販売するための花を育てる人員、収穫後に加工する人員、販売する人員。


このために、瘴気のせいで仕事が出来なかった人たちが最優先で雇われることになった。


浄化だけでもいっぱいいっぱいだったくせに。


(まあ、そんなことよりもさ)


「ひな、こっち来な?」


アレクへ腕を伸ばして、ひなを取り返そうとする。


目を覚ましてほしかったけど、今じゃなかったな。


あっという間にみんなに抱きしめられて、高い高いをしてもらい、心の中に空いていた穴を埋める。


「ひなは俺のだから」


そう言い切ると、誰が決めたんだと一斉に口撃を受けまくる。


あまりにもやかましいので、ジークにちょいちょいと指先で呼び出して。


「あのさ」


と耳打ちする。


「俺とひな、鑑定してみて」


一番わかりやすい証明を示させようとした。


「俺、鑑定が出来るなんて一言も言ってないよな。…ま、いいけど」


俺の頼みを、心底どうでもよさげにため息をつきながら「同時鑑定」と呟いた。


呪文を呟いてから、ジークの目つきが変わっていく。


「なに? 何が書いてあるの? ジーク」


カルナークが聞いても、ジークは目をそらすばっかり。


「めんどくさっ。えー……っと、なんだっけな。たしか、こうして……」


ひなを左腕一本で抱きあげながら、右手の指先で光の文字から魔方陣までの動きを高速でやる。


「で、『発現』っと」


ひなから教わっていた、聖女だけの言語でそう唱えれば。


「ナーヴ! 面倒が起きるようなことをするな!」


隠したかったモノをみんなに晒した俺を、ジークが怒鳴りつけてくる。


俺とひなのステータス画面には、それぞれに互いの名前つきで“婚約者”と書かれていた。


幼くて、ぷにぷにしたひなの左手を取り、薬指にキスをして見せ。


同時にまた『発現』の呪文を呟けば、俺たちの左薬指には光の指輪が付いている。


普段は見えないように魔法で認識阻害をさせているから、知らなくて当然。


あの浄化が終わった直後は、“まだ”婚約者じゃなかった俺。


目を開けないとはいえ、一緒に寝起きをして、毎日ひなに話しかけ。


ひなが護って、新しく作りかえた仕組みの世界の話を伝える。


お前が心を削って、最後に浄化のために退魔の剣を突き刺したままその瞬間を迎えてからの話。


空気は美味くて、城の中を普通に歩けて、外出だってなにも気にしないで出来る日々への感謝も伝えて。


ただ、繰り返される日々の中にお前がいそうでいない。


俺が普通に呼吸が出来るようにと願ってくれたことも知ってるだけに、感謝してもしきれなくって。


剣を最後にどう使うのかまでは聞かされていなかったから、遠巻きにその光景を黙ってみていてねと言われていても。


自分に刺さったわけじゃないのに、同じ場所が酷く痛んだ。


全てが終わるまで手を出さないで見ててと聞かされていたのが俺だけだったと知った時、どんな気持ちだったと思う? ひな。


残酷なお願いをするんだなって思うのに、その願いは俺にしか叶えられないとも思えたんだよ。


まるで、新しく出来ていく国の成り行きを見守れと言われた気もしたんだよ。俺は。その瞬間を見ろ、と。


冷たく突き放していたのに、光属性だから俺が選ばれたんだろうって後で知った後でも、俺をお前自身の気持ちで選んでくれた気がして嬉しかったんだよ?


最初にあんな言葉で傷つけたのに、ショックを受けた表情をしていたはずなのに。


他にも支えようと差し出されていた手があったのに、どれもを選ばず、一番遠かった俺の手をつかんでくれた。


幼くなったひなが、俺が眠っている間に消えちゃうんじゃないかって不安になった時もあってさ。


ひなを抱きしめながら眠る俺を、幼く小さな手がまるで当たり前みたいにイイコイイコってさすってきた。


その手に俺の手を重ねて、重ねたまんまでその手のひらにキスをして。


これくらいなら許してくれるよな? なんて呟いた時、ひなの目尻から涙がこぼれた。


その刹那、指が光ったんだ。


なんの魔法もかけていなかったのに。


俺とひなの、左薬指が光って紐でつながれたようになった。


その糸がシュルッと互いの指に巻きついて、指輪へと形を変えた。


ひなの世界の、愛しているの形。一生一緒の証。


求めてくれている、ひなが。俺のことを。唯一だって言ってくれた気がして、胸の奥があたたかくなった。


「俺も好きだよ、ひな」


ひなに告白されたわけじゃないのに、“俺も”とかつけて、愛を囁いた。


いつから好きだったかなんて、わかんない。それでもこれは恋で、愛だ。


助けられたから、じゃない。


あんな風に俺が生きられる世界を作ってくれた女の子を、好きにならずにいられる方法があるのなら知りたいくらいだ。


好きにならないなんて、無理だ。


きっと俺は……誰かを愛せないだろう。その前に死ぬかもしれない。ずっとその気持ちばっか抱えてたのに。


モノクロに見えていた世界だったのが、ひながカラフルな世界に変えてくれたんだ。


でかすぎな贈り物をくれた()を、愛さないなんて無理だ。


指輪が付いて以降、感覚で理解していた。


俺たちは、そういう関係になったんだと。ただ、面倒くさいから認識阻害させていたけどね。


「あー、そうだ。……カルが勝手にひなに無許可で付けていた左小指の指輪は、とっくにないよ」


恋を引き寄せるとかいう、左手小指の指輪。


悪いけど、もう誰にも引き寄せさせないからね。


「ってことで、じゃ。そろそろお昼寝の時間なんで」


ひなと一緒に、俺の部屋へ。……ったら、邪魔者ばっか。


「そんな簡単にあきらめないからね」


ジークが俺の襟をつかんで、威圧してきて。


「二人きりにさせない」


アレクが父か兄っぽい空気感を出して、仁王立ちをし。


「薬草で指輪作って渡したい」


なんて、控えめなのに大胆な宣戦布告をシファルがしてきて。


「もっかい! もっかい、魔力を馴染ませるチャンスをくれよ」


と、ひなから嫌われそうな提案しか出来ないカルが、俺の袖を引く。


全員を目だけ動かして見まわしたら、右腕をL字に曲げて胸元で指を鳴らす。


パチンと高い音が空気に混ざって消えていく。


「テレポート! …じゃあな」


これ以上ない高速移動で部屋まで。


その後みんなが部屋に来たけど、認識阻害の魔法のおかげで昼寝は邪魔されず。


「これからはずっと一緒にいてやるよ」


なんて、あの日交わした約束の言葉を、気持ちよさげに眠るひなへと囁いた。


走り書きして順番に叶えてきた願いのいくつかは、“今は”叶えられない。


「早くデカくなれ。じゃなきゃ出来ないだろ? ……キス。今ならロリコンって言われちまうから」


いつか叶える予定の、ひなの憧れ。好きな人とするキス。


いやんなるくらいしてやろうな。この俺が。


スヤスヤ眠るひなの、ぷにゅっとした唇に人差し指をあてて、俺の唇に間接キスをする。


やってて地味に照れくさいけど。


「あー……楽しみは取っておいた方がいいって、よくいったもんだ」


と、本音と嘘を混ぜて呟いた。


「ひなんとこの言葉で、果報は寝て待てっていうんだろ? ぐっすり寝て、早く大きくなれ。きっといいことがそのうち起きるから」


そういいながら、ひなの手にのひらに指を乗せると、小さい手がギュッと握ってきた。


瘴気のことばかり考えていた日々を、ひなのことだけ考える日々へ。


「しあわせだ……」


ひなと一緒に夢の世界へ。


夢の中で会おう、ひな。夢の中ならきっとロリコン扱いされるようなことはないはずだ。


俺の指を握る小さな手の甲に、ちゅ…っとキスをして。そっと囁く誓い。


「早く本当の誓いをひなに伝えさせてくれ。……夢の中ばっかじゃ、物足りない」


俺も目を閉じて、ひなと寄り添って眠る。


夢の中へ。


それが現実になるようにと願うように、落ちていく。






end






最終話ですが、SSなど書きたくなるかもしれないので、連載中扱いにします。


全44話、長らくお付き合いいただきありがとうございました。


コンテスト終了までに書き終えられてよかった。楽しかったです。


感想に誤字脱字などございましたら、お手柔らかにお願いいたしますw

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