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紡ぐ 2



~ジークムント視点~



俺は何も出来なかった。情報だけ持ってて、何一つ理解(わか)ってやれなかったんだ。


第一王子、王位継承権第一位、そんな肩書だけあったって何も叶えられなかった。


浄化の日の数日前から、カルから相談を受けていたことがある。


魔力操作の訓練をするキッカケになったはずの、カルがひなに仕掛けたいろんなものが反応しなくなっている気がするという内容。


声もほとんど聞こえなくなったって。


映像もノイズがかかったような時もあれば、部屋にいるはずなのに丸1日何も映らない時もあったって。


仕掛けが消えた形跡はなかったようなんだけど、どうしてか無反応。


ひなにそういったものを消せるような能力はなさそうで、時々コッソリ鑑定しては首をひねっていた。


日に日に見える範囲が減っていったひなのステータス。


前日には、どこの文字かわからない表示になってて、数字すら読めない状態だった。


何が起きているのかつかめず、せっかくひなが焼いてくれた玉子焼きっていうのも、パクパク食べながら味がよくわからなかったんだよね。


心ここにあらずだった俺。


朝食前に軽く散歩でもしようかって、軽い気持ちで外に出ただけだったのに。


カルが出した「陽向ぁーーー!!!!」という叫びにも近い声に、カルの視線の先を追う。


空高く浮いて、腕を伸ばして、何かを呟いて。


(今日が浄化だなんて、相談してくれてもよかったのに!)


「ひな! ひーなぁああああっ!」


『そこは危ないよ、降りておいでよ、話をしようよ、一緒にお茶を飲みながら』


そう吐き出したいのを飲み込み、焦れる気持ちを乗せて叫んだ。


アレクもこっちにおいでと言わんばかりに、名前を叫ぶ。


シファルはどこか茫然とした感じで、かろうじて名前を呼ぶだけだった。


カルとの訓練についての報告をシファルから受け取り続け、ひなから個人練への移行の話も聞き。


そのうちその時が来るんだろうってくらいで、のんびり構えすぎていた。


“俺たち”は、きっと他人事のようだったんじゃないか。


ひなとの日々が楽しくて、ひなを愛おしいと思うと嬉しくて、笑ってくれると心が弾んで。


「ひながここに来たのは、浄化のためだったのに」


ひなが父親に吐いていた文句を思い出す。


たった16才の女の子が、自分の意思は通じない場所で願ってもいないことを強要されていたようなもの。


俺たちの国のことだったのに。


目の前で手を差し伸べることも出来ないまま、ひながその身に瘴気を集めてナーヴに浄化をしてもらうのを傍観しただけ。


それに、なに? 16? 今日がそうだって、どういうことなんだよ。内緒にしないでよ。


今日、16になったって知ったのが、こんな時にだなんて。


祝ってあげたかったのに。抱きしめて、照れるだろうひなを見て、頬にキスをして。


一緒に買い物にだって行きたかったんだ。行った先でひなが目に留めたものは、全部買っておいて驚かせたかったのにさ。


ひなへの好意をどんどん伝えていったのには理由があって、ステータスを見るたびにひなが死んでしまうという事実ばかりが目について。


もしもの話で、未来がほんのちょっと変えられたならひながここに残ってくれたりしてと思った。


それでも、こっちの勝手で喚ばれて、命の危機にさらされ続けて。ちっとも嬉しくない環境と状況のままだ。


残りたい、ここにいたい。そう思ってくれる理由がなかったら、消えてしまうかもしれないだろう? とも思えて。


何度も心の中で呟いた「こっちむいてよ、ひな」の言葉を、意外とガキな自分の性格のせいで思いを込められず。


驕っていた自分に気づきはじめたタイミングで、逆に何も言えなくなった。


5人の中で俺ならひなを落とせるって、きっとどこかで思ってたんだ。次期国王だし顔も性格も悪くないはずでしょ? とかなんとか。


すこしずつ一緒にいる時間が減っていくたびに、部屋のドア前まで行って声をかけられない日が続いて。


「俺に執着してよ」


「俺に触れたいって思って?」


「俺がいなきゃ死んじゃうよって言って?」


こぶしを握って、ノックしかけてため息と一緒にそのこぶしを下ろした。


言いたかった言葉は全部……俺がひなに思っていることなのに。


『執着しているよ』


『触れたいよ』


『ひながいなくなったら死んじゃうよ』


どれもこれも、ガキみたいな俺の独りよがりな想いばっかりだ。


いつからつながりが出来ていたのかもわからなかった。


「ナーヴに浄化の手助けを頼めるほどに、密な関係だったの?」


ひなに直接聞きたかったのに聞けないから、後からナーヴに聞けば「別に?」とそっけない返しだけ。


あんなに聖女として喚んだ直後に、失望したみたいな態度を取っていたのに。


浄化後から、ナーヴは幼くなったひなを抱っこしながら城内を歩いていく。


時々深呼吸をして、空を見上げて。


まだ目覚めないままの幼いひなに、散歩をしながら本当に妹か娘のように愛おしげに話しかけている。


ナーヴの首には、あの日の剣が小さくなったままぶら下がっている。


翌日にナーヴ経由で手渡された、国王=父親と俺たちへの手紙。


俺に対して書かれていた手紙を読むと、勝手に顔がゆるんでしまった。ひなは、すごいな。


『ジークは、元いた世界で初めて好きになった人に似ていて。でも、ジークはその人じゃないって思えて。気づいたらその人の顔を思い出せなくなったのに、ジークの顔だけはずっと消えないままだったんだ。かるくて、どこか怖くて。怒らせちゃダメだなって思ったりもしたけど、いつも大切に思ってくれていたのをわかっていたよ。ジークが好きになる人は、きっとずっと大事にしてもらえるような気がしたの。幸せになれそうだなって思えたの。だから、ジークが好きなあたしは、何かがあってもきっと幸せなんだよ。なんちゃって。ありがとう。大好きだよ。もっと自分を大事にして、もっと本音をたくさん伝えて、いっぱい笑ってください。ジークが笑った顔が大好き。ひな』


ちなみに国王たる父親への手紙には、一行だけ。


『酷いこと言ったかと思うけど、ワザとです。ごめんなさい。悪意ゼロです。陽向』


違う意味で、何も言えなくなってたな。


俺かアレクの嫁に来てくれたらとかほざいていたくらいだから、それなりに可愛く思っていたのかもだ。


欲しかったけどね、嫁に。あんなことやこんなことを仕込みまくって、俺なしじゃいられなくもしたかったのに。


女の子の顔は一つじゃない。


母親から聞かされたことがある言葉だ。


出会った時にはたった15才だったひなが、どんな思いや痛みを抱えていても笑顔で隠しきった。


すごいよね、ホント。そういう訓練を受けてきたわけでもないのに。


カルの手紙には、下着姿を何回も見られたことへの文句が書かれていたらしい。


それと、いつも持って行った水分補給の水のレシピが知りたかったこと。


『甘いものが好きな男の子は可愛くて好きだよ』とかも書かれていたとかさ。


ほっといてもバラしてくれるから、カルはチョロい。


シファルには、例の種についての育て方とお願いが書かれていたって。


ひなが幼くなってからの一番の協力者が、まさかのシファルか。なんか悔しいや。


“コミュ障仲間”っていうのがよくわからないけど、その仲間だったみたい。


『シファルのまわりにいる人たちは、シファルを待ってくれるから大丈夫だよ。シファルはシファルでいいの。シファルなんだから』


って言葉が、あれ以降のシファルを変えるキッカケになった。


窓の下には、シファルがひなに託された種を植えて育てている庭があって。


そこにナーヴがひなを抱いて遊びに行っている。


その花には、ひなが施した浄化の魔法が永続的にかかるようになっているとか。


すごいじゃん、ひな。


花が咲いて、種が残り、また芽吹いて花を咲かす。


そんなこと誰も考えなかったのにね。


ひなのステータスに最後の最後に残っていた解読可能な言葉。


『破壊の聖女』


って称号があってさ。


その項目は、文字の上からぐちゃぐちゃな線で見えなかったやつ。最後に見せてくれるなんてね。


いろんなものをぶっ壊してくれて、俺の心にあったこだわりなんかもどっかにやってしまった。


ピッタリじゃん、その称号。


多分だけど、本人は嫌がりそうだけどね。


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