抱えられるもの、抱えられないこと 8
~カルナーク視点~
最近、おかしい。
陽向の声があまり聞こえてこないし、映像もうまく映らないことが増えた。
陽向にそのへんのことがバレているとはいえ、なにかあった? とか探りを入れるのは違うよな?
眠っているのかなと思う時もあるけれど、毎回そんなわけない。
訓練の影響で、陽向の魔力には俺の魔力が混じったままなのに。
コントロール不可なんて俺の魔力に限って、起きるはずがないんだよ。
魔法の属性の数が多いのも、コントロールも、魔力の量も、なにもかも俺が最高位なんだっての。
「何が起きてんだ、本当に」
最近の訓練の最中に、陽向の体の中で何度も嫌なモノを感じた。
でも陽向は気づいていないのか、知らんぷりしているのか、様子がおかしかったことはない。
焦れても仕方がないことを考えてもしょうがないのにな、ホントに。
ソファーに寝転がって、右手を開いて何もない宙へと手を伸ばした時にノックの音がした。
「誰?」
思ったよりも低い声が出て、ドアの向こうから聞こえた「あ」という陽向の声に焦って飛び起きた。
「陽向っ」
勢いつけてドアを開ける。
陽向がノックをした時の格好のまま、こぶしを握って固まってぎこちなく笑っている。
「ごめん。ちょっと考えごとしてたから、そっちに気がいっててさ」
「邪魔だった?」
「陽向は邪魔なんて思うことないから、いつでも大歓迎」
いつものように笑ってほしくて、なるべく明るく両腕を広げて“大歓迎”っぽさを演出。
わずかな沈黙の後に、陽向がうつむいてこぶしを口にあて、声を殺して笑ってしまう。
肩先がぷるぷる震えていて、そんなに面白かったのか? と驚くほど。
「……っはあー…。おかしかったー」
満足したのか、見慣れた笑顔に戻っている。
「お邪魔してもいい?」
「どーぞー」
いつもの流れに戻って、肩の力が抜けた。
「二人きりはダメって言われているから、手短に話すね」
と切り出した陽向からの話は、俺の楽しみがなくなる知らせ。
「個人練していて、自分の魔力だけの状態で感知できたし、巡らせることも可能になりつつあるの。だから、この後は自力で自分の力に向き合いたいの」
内心、嫌だ…とか、無理だから! …とか叫びたい気持ちしかない。
それでも、訓練の名目上がどんなものなのかを思えば、陽向からの提案は飲むべきなんだろう。
「そういってもさ、魔力の使い過ぎとかの兆候が見られたら、俺はすぐに関与しちゃうから」
陽向の中に混ぜ込んである魔力の影響で、いまだに陽向の体調の変化については、場合によっては警告音が鳴る仕様継続中。
「だから、集中して個人練したかったら、やりすぎに注意。それが守れるなら……いいよ」
いいよと言いたくない気持ちが先行し、その言葉が出るまでに間が空いてしまった。
見つめ合って、お互いになんとなくヘラっと笑ってるだけなんだけど、嬉しい気持ちが胸にたまっていく。
(ああ、好きだな。陽向のこんな顔も、訓練の時の真剣な顔も、紅潮してきた時の顔もみんなみんな)
目の前にいるのに、手が届きそうで届かない好きな子に、「俺だけの陽向になって」と本気で口説きにかかれたらいいのに。
それは、陽向が浄化をしたその先の話になるわけで。
(ガマンしろ、ガマン。もうすぐ浄化のタイミングになるから、陽向からこんな話があったんだし)
浄化の後の未来に思いを馳せて、今は陽向を信じて見送る。
部屋に戻ろうとした瞬間、ドアが閉まる直前に「カルナーク!」と俺を呼ぶ声がして。
勢いつけて振り返れば「明日、お菓子あげるね」と、大きく手を振って走り去っていく陽向がいた。
部屋に戻って、さっきの陽向を脳内で繰り返してはニヤニヤしまくって。
――浮かれすぎていた、俺は。
陽向が来るまでに考えていたことを思い出せばよかったのに。
違和感があったなら感じたままに動けと、召喚のサポートメンバーに選ばれる前にいた魔法師団の団長に言われていただろう?
心が思う方へと、思い至ったタイミングで動き出していたら。
俺の手は思ったよりも小さくて、なにもかもを知らないうちに取りこぼしてばっかりだ。




