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抱えられるもの、抱えられないこと 7



~アレックス視点~



シファルと手をつないで、ジークの部屋に来た二人。


(お兄ちゃんは、そんなこと滅多にしていないのに!)


と内心、嫉妬して、シファルを睨みつける。


二人からの話は、陽向が禁書庫に行きたいという話で。


「これまでの聖女について書かれている本が、もしかしたらあるんじゃないかって」


この陽向の言葉を憶えておけばよかったと後悔するのは、数日先のこと。


建国史以外に普通の書庫にはないはずだと思い出し、小さくうなってからおぼろげな記憶を引っ張り出す。


「ああ、まあ。そうだな。確か、代々の聖女が浄化してきた方法についても書かれていた文献が確か」


といいながらジークへと視線を向ければ、ジークは驚いた表情で陽向を見つめている。


「……あるよ、確かに。でも貸し出しは出来ない。あの場所は……持ち出し禁止の本がある場所だから」


いつもよりも低めのトーンで、そう返す。


鑑定でもしたのか? ずっと陽向から視線が動かない。


「俺が一緒に行こう。同伴者ありだと、閲覧は可能だ。ましてや陽向が読むのなら、立場的に問題がないだろう」


ジークの肩を指先でトントンとして、鍵をよこせと示す俺。


「後で返しに来てね、ひな」


机の引き出しの裏側が二枚底になっていて、角度によってはそんなとこをいじっている風には見えないはずだ。


「閲覧のみで、メモを取るのも禁止になっているから」


と陽向に言っているようなその台詞の後に、「?」と違和感がある言葉をつけたジーク。


「…………気をつけてね」


なにを、だ? なにに、だ?


視線だけは俺に一瞬だけ向けて、顔は陽向に向けたままで。


「シファルは部屋に戻って、アレクはひなと一緒に部屋を出て? 俺もこの後は忙しいから」


俺たち3人にヒラヒラと手を振って、さっさと出ていけと追い出したジーク。


いや、確かにジークの部屋だけどな?


シファルと廊下の途中で分かれ、陽向と禁書庫の場所へと向かう。


行くのにも、ある手順通りに進まなければとたどり着けないシステムだ。


無駄な行き方にみえて、実はちゃんとその道をなぞっている。


俺が腰につけている懐中時計のリューズに仕掛けられた魔石が、行くとこ行くとこを記憶しているんだ。


これは王族でなければ持てないモノだ。


そんな話まで陽向に明かすわけにはいかないので、どうやって行けているかは秘密だ。


城の中をグルグル回って、たどり着いたいつもの書庫。


「……へ」


禁書庫ではない書庫に、陽向が驚きを隠せなくなっている。


半べそをかき、眉尻を下げ、今にも泣きだしそうになった。


「大丈夫だ。この後、ちゃんとたどり着くから」


そう言いながら、陽向の背中に腕を回して部屋へと誘った。


本棚に向かい、決められた手順で本を取り出しては戻していく。


戻した時に、かすかにカチャリという音がしたら正解だ。


15冊の本を出し入れし、最後に陽向が最初に読んでいた建国史を手に取ってすこしだけ奥へと差し込む。


ガチャンと響く音の後に、本棚全体が光を帯びる。


いつ見てもキレイな光景だ。


建国史の前。最後の本の背表紙に、俺の指先をあてて魔力を込める。


静かに本棚が横にズレて、本棚一つ分の空間が現れた。


本は、これまでの国王に関係がある物を登録し、代替わりされた時には一冊追加するという仕組みだ。


ただ書庫に来ただけで、この仕組みは作動しない。


本棚の裏の方へと、陽向をエスコートする。


――――ドアを開き、禁書庫へ。


陽向が息を飲んだ気配がした。


本のすべてに、本と本棚をつなぐ鎖が光っている。淡いグリーンの魔法の鎖だ。


湿気ないようにと、風魔法を仕込んであると聞いたことがある。


「聖女について、だったよな」


入り口から入れずに立ち止まっている陽向に声をかけ、「あ、うん」と戸惑ったような返事に頭をポンポンしてやる。


兄としての特権ぽくていい。


「そっちに座っているといい。今持ってくる」


記憶の中の本の位置をなんとか思い出しながら、二冊ほど持っていく。


陽向が読んでいる間は、俺も久々に滅多に読めない本を流し読む。


どれくらいの時間が経過したのか、読書自体が苦手だからか飽きてきてしまう。


兄として、要・改善なところかもしれない。


陽向はよく読書をしている。カルナークから借りた本も、かなりの冊数読んだと聞いている。


パタンと本を閉じる音がして、これで終わりだなと思った時。


「もう一冊、いい?」


そう言って、俺の返事を待つでもなくある本棚へと向かった。


陽向はこの場所もここにある本も初めてのものばかりのはずなのに、と首をかしげる。


なんて思ったのに、陽向は読書家だから興味がわく本があったに違いないと、安易なことへと思考をスライドさせてしまった。


「読みたい本があったら、読んでいい。俺はあっちでウトウトしてくる」


「……うん。ありがとう」


この部屋は外から見えないようになっているけれど、禁書庫側からは普通に窓がある至って普通の部屋の造りになっているんだ。


窓際のあがりに腰かけて、窓枠に体を預けてすこしの仮眠をとる。


「この本があの夢の中に出てきた……」


陽向が手にした本は、俺たちが開けば表紙だけの白紙の本。印刷を忘れたのかと思えるような一冊だ。


『遠き場所から(いざな)われし聖女の心を、いざ紐解かん』


俺たちには聞き取れない言語で、呪文を唱えれば。


文字が浮かび上がり、陽向のオデコに吸い込まれるように消えていった。


頭を使い疲れた脳を、眠って癒していた俺。何があったのかなんて、知ることもなく。


本を閉じ、俺を揺り起こした陽向が「終わったよ」とかけてきた声の本当の意味も知らないで。


「そうか。読みたい本は読めたのか?」


とかなんとか兄のそれっぽい感じで声をかけると、短く「うん」と返すだけの陽向。


「それじゃあ、鍵を返しに行こうか」


手を差し出してエスコートをしようとした俺に、陽向はゆるく首を振った。


「鍵の返却、お願いしてもいいかな? アレックス」


可愛い笑顔でそんなことお願いされちゃ、任せろとばかりに胸を叩くばかりだ。


ジークが陽向に「返しに来てね」と告げたことなど、すっかり頭から抜けていた。


「どこか行くのか?」


行き先をたずねれば、カルナークのところに用があるという。


「訓練について話したいことがあってね」


訓練も佳境に入っていると耳にしている。打ち合わせは大事だ。


「それじゃあ、夕食にまた」


小さく手を振る仕草が、小動物のようで愛らしい。


「またな」


真似をして振り返す俺の姿を、クスクス笑って見送る陽向。


次を約束する言葉が、何度も胸にあたたかなモノを灯らせる。


浄化のタイミングは、まだ伝えられていない。


ナーヴが隔離される段階になる前に、どうにか浄化が出来ればと思う反面。


(それが終わったら、陽向はこれまでの聖女たちのようになるのか?)


思い返す。


過去の聖女たちは、選ばれた5人の誰かと添い遂げてきたということを。


力を使ったことで早くに亡くなった者もいたが、王城に留まったのがほとんどだ。


浄化が終われば、今度はまた100年後に向けて命をつないでいく。それが俺たちの務めでもある。


聖女に選ばれるのが誰なのかは、その時々の選抜方法で誰かが優位に立つ。


陽向がウエディングドレスを着て、誰かと誓いのキスをする。


(誰かが。陽向と。……誰か、が。誰だ?)


「……ダメだ。俺は許さん」


妄想して、お兄ちゃんポジションを抜けられない俺は、誰もを許せる気がしなく。


「陽向の結婚相手は、俺が選ぶ」


なんて、馬鹿げたことを呟きながらジークの元へと急いだ。


陽向の身に起きはじめたことなんて、何一つ知らずに。



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