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抱えられるもの、抱えられないこと 6



~シファル視点~




「禁書庫って知ってる?」


ランチの後、薬草園にいた俺の元にひなが来た。


「禁書庫? なんでまた」


薬草を収穫し、カゴに入れ、手につく土を払う。


「書庫にある文献じゃ調べられないことがあってね。そういう場所がもしかしたらあるんじゃないかと思って」


と話を続けるひなは、禁書庫があるのを知らずに当てずっぽうで聞いてきた様子だ。


「確かにあるけど、そこに入るには鍵の持ち主に頼まなきゃいけないんだよ」


鍵の権利者=王位継承権があることを匂わせざるを得なくなる。


聖女召喚と浄化の約束事の都合で、立場を明かせない俺たち。


「ジークとアレクなら、その権利があるはず。……ほら、俺たちの中で上の方だしね」


年齢的にその対象なんだという嘘を重ね、真実を隠す。


あの二人なら俺が話を取り次げば、察してくれるだろう。


「そっか。じゃあ、二人に聞いてみる。ありがとう」


感謝を伝えてそのままいなくなりそうだったので、あわてて止める。


「俺が話しておくよ。その…急ぎなのか?」


踵を返しかけたその肩をつかみ、ゆっくりと話しかける。


互いに会話が苦手な俺たちは、自然と相手を待てる距離感になれた気がして、たとえ時間がかかっても嫌じゃない。


少なくとも、俺は好ましいとすら思っている。


「うん、まあ、急ぎといえば?」


あいまいなそれに。


「なんだよ、それ」


と笑って返せるほど。


相手を知り自分も知ってもらうと、こんなにも気持ちに余裕が出来るもんなんだと教えてくれたのは。


「一緒に行こう、ひな」


ひなだけだ。


水で手を洗い、ハンカチで手を拭きながら一緒に歩き出す。


歩調も会話と一緒で、どっちも互いに合わせてのんびりと歩いていく。


急いでいるみたいなのに、だからってホラホラと手を引っ張っていかれることなんかない。


俺は振り回してくるような令嬢は苦手で、だから一人で黙々と研究をしている方が性に合うんだ。


「シファル、さ」


薬草園を出て、近くの使用人入り口から入っていく俺たち。


渡り廊下からみえる光景は、俺たちと違ってみんな(せわ)しなく仕事をしていて。


洗濯をしているメイドに、キッチンの裏口では山ほどのジャガイモを樽の上に腰かけて皮をむいている見習いコック。


「手、つなぎたいって言ったら、困るかな……」


遠慮がちに小さな声で、耳だけを赤くして俺から視線を外したまま告げてきた。


(そんなこと今まで言ってきたことなんかなかっただろ?)


カルナークとの訓練の後に、時々俺が部屋に送っていても、ただ並んで話すこともなく歩いていた時もある。


一緒にいるだけが心地いいと感じられる、そんな距離感だったのに。


でも、つなぎたくないわけじゃない。むしろ触れてみたかった、つなぎたかった。


カルナークが訓練でしょっちゅうつないでいるのを、何度も羨ましいと思っていたんだからさ。


「あ、ごめ……ん。いいの、言ってみただけだから。……えっと、二人はどこか……な」


気を使わせてしまった。俺が返事をためらっていたわずかな時間のせいで。


二人を捜すように窓の方にズレようとしたひなの手を、ななめ後ろからそっと握った。


「シファ…」


「い、今だったら、ジークの部屋だと、思う」


軽くキュッと手に力を込めて、一歩先を歩きだし手を引いた。


「そか」


「……ああ」


こんなに緊張することを、カルナークはしょっちゅうやってるのか。


(俺には毎日は無理だ)


顔が熱くなってきているのがわかる。女の子に免疫ないの、バレバレだよな。


(かっこつかないや)


別にジークみたいにどんな相手もサラッと相手が出来たらとは思うけど、あそこまでやれなくてもいい。


こういう時に、リードが出来る程度で十分なんだ。


やわらかくて小さな手。


つくづく、ひなが女の子なんだと思い知らされる。


「シファルの手、ペンだこ? これ」


そう言われて、つないだままで手をひなの目の高さまで持ち上げた。


「ああ、これか。まあ、そうだな」


「それと……これ、気づかなかったけど……」


そう言ってひなが見つめている先にある、手首の消えない傷は俺の心の傷でもあって。


「想像通りだと思う、よ。いろいろ嫌になって、それで……傷残るくらい、切ってさ」


戻らない魔力に、自分のバカさ加減に、何もかもを終わらせたくて切った傷の痕。


「もう、しないよね?」


目の高さに持ち上げていた手を下ろして、互いに相手を見るでもなくまっすぐに先を見ながら歩いていく。


ゆっくり、のんびりと。


「……しない。ひなに誓う」


絶対に破らない約束の形にして、つないだ手に力を込めたら。


「約束だよ? 生きてね?」


ひながわずかに握り返してくれた。


「約束だからね!」


「ああ」


「本当だよ?」


「わかったから」


「破ったらどうなると思う? シファル」


明るい声で、生きるための約束を交わす俺たち。


「なんかすっごい臭いものを食わされるとか? アレクの訓練に付き合わされるとか?」


「それ、絶対ヤダぁ」


くだらない罰を考えて、一緒に笑う。


瘴気のことがなきゃ出会えなかったこの子が、ずっとこうして笑っていられたらと切に願う。


「ひなだったら、されたくないことはなんだ?」


ひなの足が止まって、俺の方に顔を向けたのがわかるのに。


(逆光になってて、よく表情が見えない)


「…………ブクブク肥るくらい、スイーツ食べさせられることかも」


長い間の後に、明るい声色でそう返してくる。


「ふっ」


肥っていくひなを想像して思わず笑ってしまった俺を、ひなが見つめているような気がするのに。


「シファル。約束、守ってね」


見えないんだ、顔が。逆光で、顔が黒く見えて。


「わかった、わかった」


顔が見たくて手を引く。


見えたひなの顔は、いつもと同じ顔。


気にしすぎたかなと思いつつ、ジークの部屋へと急ぐ。


急ぐけど、まだつないでいたい。


ちょっとだけヒンヤリしたひなの手の感触を、ずっと忘れたくないと強く思った。


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