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聖女の色持ちではないんですがね 14



『ちなみに…なんだけど、髪の色ってどうして違うの? 目みたいにかぶせているんじゃないんでしょ?』


と質問が続く。


『脱色っていって、髪の色を抜く薬剤をかけて金髪にしたの。髪が伸びてきたら、元の黒髪にちょっとずつ戻ってしまうの』


そう念話で返せば「それはまずいな」とアレックスが呟くのが聞こえた。


なにがだろうと思いつつ、アレックスの方をジッと見ていると。


「見すぎだよ。陽向の可愛い目で見つめるのは、俺だけにしてほしいな」


なんて……低く響くいい声で、そんなことを言わないでほしいのに。


『陽向』


脳内で名前だけ呼ばれて視線を彼へと向ければ。


『聖女の色持ちじゃないけど、違う形での聖女だって、ステータスには出ているよ。ただ……』


新しい情報が飛び出した。


脳内で、“NEW!”とか付いていそう。


『ただ?』


最後の言葉を拾い、彼へと問う。


すると『一部の文字の上に邪魔がいる』と、不思議な状況を伝えてくる。


『邪魔……?』


そう聞き返しても、目の前の彼はへらりと笑ってみせるだけだ。


「陽向」


今度はハッキリと耳に入る声で呼ばれる。


「ん?」


同じように声に出して返せば、握っているあたしの手を強く握りなおしてからこういった。


「俺に落ちてよ」


笑顔のまま、囁くような声で。


囁きの瞬間だけ、顔を近づけて。


その手のことに免疫がないあたしは、冗談なんだろうと内心で思っていても反応してしまうんだ。


真っ赤になって視線をそらしたあたしに、アレックスの声で。


『ジークは冗談が好きだ』


と、真面目そうな声色で脳内に響く。


『アレク。邪魔しないでってば、もう』


まるで冗談みたいなやりとりが続く。ただし、脳内でのみ。


こっちでこのやりとりっていうことは、今の台詞はそのままにするっていうことなのかな。


二人が何を考えて動いているのかわからないけど、今は流されるがままにいた方がいい気がした。


『見えないステータスへの干渉は、俺には出来なさそうだな。試してみたけど』


話をしながら、いつの間にか試してくれていたジーク。


ステータスに干渉って、どうやってやるんだろう。


この世界の魔法について、あたしは何も知らないようなものだ。


彼らにはそれぞれに何らかのスキルがあるみたいなのはわかったけどね。


『……お前、そんな無茶するな。場合によっては、自分が喰われるぞ』


アレックスの、どこか心配げな声がして。


「俺、本気で陽向に好意を抱いてるから、覚悟してね」


言いながら、またへらりと笑っているのに。


『陽向のためだったら、無茶出来るよ。俺。結構、マジだから』


アレックスの心配なんか気にもせずに、表も裏もであたしへの好意を伝えてきた。


(どうしよう。さっきカルナークにも告白されたばかりなのに、耐性がなさ過ぎて体が勝手に過剰反応しちゃう)


告白のようなそれに、またドキドキが止まらない。


真っ赤になってうつむき、どこを見たらいいのかわからずに視線を彷徨わせていたら。


「はぁ? 俺より先に告白したの? カルのくせに」


と、思ったよりも怒らせてしまったよう。


思わずさっきされた告白を思い出してしまったばかりに、カルナークに飛び火させてしまったみたい。


「あ、あの……さ」


言っていいのか迷ったけれど、二人に詰め寄られているカルナークしか浮かばなくて。


「カルナーク、いじめないで? ……おねがい」


小首をかしげながら二人を交互に見つめる。


沈黙が続いた後に、アレックスがぽつりと。


「今の台詞、カルナークが聞いたら喜びそうだな」


と呟く。


するとジークが、右の口角だけを軽く上げてから。


「あいつは今、どっちも完全に閉じてる状態だから、聞いてもいないし喜んでもいない。絶対に教えてやらない。陽向がなんて言ったかなんて」


ざまあみろと最後につけて、顔をそむけた。


「それはそれとしてさ、陽向」


すぐに顔をまたこちらへと向け、手を離す。


カルナークのスキルが発動してないのがわかったからか。


「どんなものかわからないとしても、ひとまず聖女としての儀式のための勉強っていうのを受けてみない?」


ジークがそう言えば、横にいるアレックスも「そうだな」と同意する。


「髪の色はすぐにバレないとしても、目は? みんなにこのことを明かすの? それとも明かさずにさっきみたいにして嘘をつくの?」


そこまで数があるわけじゃないから、いつまでも騙せない。カラコンの使いまわしなんてしたくないし。


「どうしたら、使い続けられるのか。もしくは、似たようなものが出来ないかとか、目の色を変化させるアイテムを作る……だよね。さっきのは、ずっと使っていたらダメなの?」


ジークに指で×を作って見せて、「衛生的に無理」と返す。


リュックの中からカラコンのストックを取り出す。


「ピンクのが、残り9回分。薄い緑のが、10回分」


「……どうしたら、使いまわせるんだ」


アレックスに聞かれて「基本的に使い捨て仕様だよ」とだけ返す。


いろいろ劣化もするらしいし、なにより不衛生だ。場合によっては失明する可能性だってある。


「じゃあ、短期決戦……か」


アレックスが、こぶしを口元に持っていき小さく唸る。


短期決戦とはいうものの、聖女の勉強ってそんなに簡単に憶えられるものなのかな。


不安が胸の中にじくじくと傷のように広がっていく。


「あたしって、一体、何が出来る聖女なんだろう」


聖女は聖女らしいけど、望まれている聖女の能力じゃなかったら?


「うー……ん。言っていいのかわからないんだけどさ、能力が成長する早さに難ありって出てるんだよね」


「早さ?」


能力について悩んでいたら、別の悩みを増やされそうな予感がする。


「こっちの言葉にはないものなんだけど、意味わかる? “大器晩成型”って何?」


大器晩成かぁー……。


「それはないなー」


思ったよりも前途多難な現実を知らされてしまった。


「ごめんなさい。短期決戦は出来なさそうです」


「……え」


「は……」


二人の反応が、思いのほか驚きを隠せていなくて。


(一番ショックなのはあたしなんだけど)


内心そんなことを思いつつ、浄化自体が叶えられる気がしなかった。






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