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聖女の色持ちではないんですがね 13



「あー…面白かった」


ジークムントが涙を目じりに浮かべるほどに大笑いをして、あたしは恥ずかしさに真っ赤になって。


「ジーク。そろそろやめておけ。陽向が可哀想だろう?」


アレックスが哀れみの目であたしを見るけど、それはそれで傷つく。


「もういいもん。絵は二度と描きませんから!」


手を改めてつないだので、脳内でも笑っている声が響いてきてサラウンド状態になっているのがかなりやかましい感じ。


『って冗談はこれくらいにして』


不意に、真面目な声が脳内に響く。


『今だったら、盗撮も盗聴もされていないようだから、念のために手をつないだままで会話させてくれる?』


とジークムントがこれからの説明をしてくれる。


コクンとうなずくと「イイコだよねぇ、陽向は」ってジークムントもいきなり呼び捨ててくる。


「先に説明ね。アレックスには話してあるんだけど、俺のスキルは鑑定で、人物鑑定も可能。ここまでは、いい?」


うんうんと何度も頷くあたし。


「カルがやったことを把握していたのは、君を鑑定した時にステータスに出ていたから。ただし、それが有効な状態だと表示の色が変わるんだ。で、今は変化がないから、多分あいつが寝ている可能性が高い。悪いけど、話をしながらステータスは開きっぱなしにしておくから、会話に変化や念話が始まったら見られていると思ってね」


切り替えをしなきゃいけないっていうことかな。


(そんな器用なこと出来る自信ないよ……)


「ま、それはさておき。さっさと話を進めてしまおうか。えーと、アレックスは彼女の秘密について知っていることがある。……で、いい?」


「ああ。陽向から打ち明けられたからな、俺は」


そういいながら、あたしと目を合わせてくる。


『んと。今、手を離してその状態を見せても大丈夫?』


二人に向けて念話で話しかける。


ジークムントがあたしの肩のあたりに一瞬視線をズラして、「いいよ」と返してくる。


パッと手を離し、リュックを取りに行き、スマホを持ってくる。


コンタクトを両目とも外し、スマホの画像フォルダを開いて二人に見せる。


金髪にする前にお兄ちゃんたちと撮った、何枚かの写真。


友達とは、そうそう撮る機会なんかどこにあるのか教えてほしいくらいだったもの。


なんて残念なフォルダの内容だろう。


「見ての通りで、目の色は黒目で、髪の色は元はこの写真の通りで黒いの。だから、その……みんなが盛り上がっていたような、聖女の色持ちではないんですがね。どっちかでも合っていたらよかったかもだけど、残念ながらって感じ…で……」


アレックスには一回見せてあるとはいえ、両目ともそろった状態では見せていなかった。


「あたし、聖女じゃないんじゃないかな……と思っていて。その……今後をどうしたらいいのか……の、相談にのってほしくて」


あれだけ盛り上がっていたたくさんの人たち。


聖女っていうものに期待をしているのでしょう?


「昨日読んだ本によれば、召喚した人を帰せるかを試したことはないって書いてあった。それに、召喚には王家に連なる女の赤ちゃんを捧げたとも。あたしを帰しても、次にまた召喚ってなったら王家に連なるどこかの家の赤ちゃんが生け贄になる。そんなことが書かれていて、正直、どうしていいのかわからなくなって」


と、真剣にあたしが話しているのに、アレックスは途中で何度か相槌を打ちながら聞いてくれていたというのに。


「ジーク……ムントさん?」


あえて、“さん”呼びにしてみる。


「却下」


名前を呼んだだけなのに、何かを却下されたみたい。


「……なにを?」


「ジークでいい」


「え」


「それと、さっきの板っぽいのにあった絵。陽向と他の男が笑ってた。あれも却下」


「へ」


ずっと不機嫌そうに、あたしから視線を外すことなく告げていく。


「それと」


そういいかけたジークムント改めジークを止める。


とりあえず、一旦止めよう!


「待って待って! そんなに一気に言われても困る。そもそもお兄ちゃんたちとの写真が却下されるのもよくわかんない」


何とか止めようと写真についての説明をするけれど、「兄でも却下」と譲ってくれない。


「アレックス……、これってどうしたら」


困り果てて、アレックスに助けを求めてみたけれど。


「望むように呼んでやってほしい。それと、あの不思議な板の絵は、俺たちが見たことがない陽向の顔だから、すこし嫌といえば嫌なんだが。俺も」


望む反応を返してくれない。


「嫌って言われても……」


どうしたらいいのか、困った。


名前は呼ぼうと思ったら呼べる。それは大丈夫。本人から許可が出ているのなら、いわゆる不敬にはならないはずでしょ。


でも、だよ。


「もう会えないかもしれないから、消すのは嫌。却下って言われても、持っていたいよ」


消してくれと言われたようで、悲しくなる。


「兄妹なんだもん。大事にしてくれていたんだもん。そんな言い方しないでほしかった」


涙が、目じりにじわり。


お兄ちゃんの横にいる柊也兄ちゃんの姿を目に焼きつけ、ジークへと視線を動かした。


似てると思ったけど、ジークみたいなことは言わなかった。


似てるけど、似てるだけで別の人だ。やっぱり。


胸の奥がズキンと小さく痛む。


「こいつ。俺に似てる。だから余計に嫌なんだ」


写真を見た本人が認めるくらいに似ているみたいだ。


「まあ、似ているな。雰囲気も似ているんじゃないか?」


柊也兄ちゃんを思い出して、小さくうなずいた。


「…………い・や・だ・ね! 俺の方がいい男だ。俺なら陽向を守れるし」


と言い出したタイミングで、スマホをおもむろに取り上げられて、テーブルに置かれてしまう。


一瞬のことすぎて固まったあたしの手を、さっきのようにジークが握りはじめる。


『カルが起きたみたいだよ。ここからは、会話と念話の半々でね』


ステータスに色がついたと、暗に伝えてくれる。


「俺は、どんな陽向も可愛いと思う。初めて会った時から可愛いなって思ってた」


いきなりの褒め殺しみたいなのが、キター!


『これは、本音だよ。どんな陽向っていうのは、髪色や瞳の色が違っててもッてことね』


ああ、ややこしい。


「空気を吸うように褒めるんだね。……慣れてるっぽいよね、ジーク。からかわないでよ」


思いきって、ジーク呼びに挑戦してみると、思ったよりも喜んでくれていて顔をくしゃっと崩して笑う。


急に幼く見えるほどの笑顔。


その笑顔は、柊也兄ちゃんよりも幼くみえた。



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