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国滅ぼしの魔女  作者: 29はるまき
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初めての危機

次の朝、テントをまとめて歩き出し、しばらくしたら川が見えた。木の吊り橋もかかっていて渡るのはちょっと怖いかもしれない。でも川との高さは二メートルくらいで落ちてもすぐ川だ。水深は底が見えないからまぁまぁ深いのかもしれない。

「よし! 魚を捕ってくる!」

 ヘンリーさんは服を脱ぎ始めて上半身裸になった。彼の身体は思っていた以上に筋肉で固められていて、そして沢山の傷跡があった。歴戦の戦士というような、沢山の傷があった。

「なんだ、どうかしたか?」

「い、え。気をつけて、ください」

 傷のことは聞かない方が良いかなと何でも無いふりして首を振った。

 ヘンリーさんは剣を片手に川に飛び込み潜り、そして十秒も経たずに剣で串刺しにした大きな魚を掲げた。その魚は一メートルはあるんじゃ無いかと思うくらい大きく、でもオレンジ色していて奇妙な斑点模様もある。たべられるのかなぁ。

 ――刹那、ヘンリーさんの背後に何か大きな黒い影が見えた。

「後ろ――!」

 私が叫ぶと同時にヘンリーさんは青いナマズのような魔物に飲み込まれた。私はいきなりのことに吸い込むような悲鳴を上げたが、その魔物の背中が裂けて二つに割れた。

 沈んでいく魔物の中からヘンリーさんは怪我一つせず出てきて、私は胸をなで下ろした。

「さすがにアレは食えなさそうだ」

 そんな冗談が言えるくらいだから本当に大丈夫らしい。そして捕まえていた魚も無事で、私のそばに投げてから川から上がってきたのだった。

 びしょびしょになってしまった彼だが、気にせず魚を持って先へ進む準備をした。

「乾くまで服は着られないな。済まないが持ってくれないか」

「はい、大丈夫です」

 彼の服を拾い上げ、畳んでぎゅっと抱えた。それから揺れる橋を渡り、半裸のヘンリーさんは出てくる魔物をいなし、食べられそうなら切って持って行く。

「食べられるかどうかってのも、旅していればわかってくるさ。この魔物は背中の方に良い脂があってな」

 足が六本ある牛のような魔物も食べられる部分はあるという。でも角や骨などは荷物になるから持って行かないそうだ。確かに何でも持って行くと重くなるし、大変だよね。

 そんなことしているうちに夜になり、魚料理を楽しんだ。そして次の日は牛の魔物で贅沢なステーキを食べて、あっという間に次の街へと到着しまったのだった。

 三日と言うのはあっという間だ。ヘンリーさんと一緒に居る約束もこれで終わりになる。私から街までと言った手前、やっぱりもう少しパーティを組んでいて欲しいと言うのは贅沢だろうし、戦闘も彼に任せることになるだろうから、完全に寄生虫。

「短い間でしたけど、ありがとうございました」

 私が頭を下げると、ヘンリーさんは待ったをかけた。

「良ければまだパーティを組んでいてくれないか。この街の近くにもダンジョンはあるし、一緒に行って欲しい」

 彼はそう言うが、私は正直役に立っていると思えない。

「私……ここまでの道だって何もしてないし……」

「いや、一緒に居てくれるからオレも男として見栄が張れるんだ。だからもう少し一緒に居て欲しいんだ」

 頼むとまた頭を下げられて、私からもお願いしますと頭を下げた。

「私も……ホントは、一人で居るのが心細くて……ヘンリーさんだったら、怖くないです」

 そういったらヘンリーさんはニコニコと微笑んで、よろしくと言った。

 それから一緒にギルドに行って、良さそうな依頼を探す。ダンジョンの依頼の方が報酬は高いし、ダンジョンの主は一定時間で復活するから狩りも安定している。なんで復活するのかというのも、ダンジョン自体がある程度内部の崩壊も直すらしく、それで倒した魔物も復活するという。これも古代の錬金術師が創った物だから、おそらくは素材を安定して手に入れるためなのだという説が強いらしい。

「これ良いんじゃないか? アイスミノタウロスの角の回収」

 報酬は金貨一枚。二人で半分で銀貨五枚! なんと美味しい!

「でもランクBですよ……?」

「前回の討伐でオレはランクCに上がったから大丈夫!」

 私のランクは今まで魔物を討伐していないので、ラミアの討伐の貢献度を入れてもまだランクは最低のDのまま。だけどヘンリーさんはCになってたらしい。それなら一つ上のランクを受けることが出来るので、受理してもらった。

「アイスミノタウロスは最近だと一週間前の討伐が最後ですから、恐らく復活されていると思います。他の冒険者さんも受けていますので、討伐は早い者勝ちですから、がんばってください」

 受付の女性がそう説明してくれて、街周辺の地図を手に入れてダンジョンへと向かう。前のダンジョンと違い、今回は地面にドアがついていて、それを開けるとひんやりとした空気が足下を撫でた。

「氷系のダンジョンって感じだな、気をつけろよ」

「はい」

 そして中に入り、螺旋のような階段を降りていく。その先には凍った広間があり、ガラスのカマキリのような巨大な魔物の背後にぽつんと一つ扉がある。自分よりも三倍ほど大きいそれは、こちらを見て羽を広げて威嚇している。めちゃくちゃ強そうだけど……!

「グラスマンティスだな、大丈夫だ」

 任せておけと片手剣を握って彼は駆け出す。グラスマンティスは大きな鎌を振り下ろしてヘンリーさんを攻撃するが、彼が避けて鎌は氷を砕く。破片が飛び散ったがヘンリーさんはものともせず避けていき、魔物の足下に来たと思ったら勢いよく駆け上がり、頭の上まで飛んでいった。

 ヘンリーさんは片手剣で頭を串刺しにしようと突き立てたが、カキンと硬く高い音が響いた。

「硬いな……!」

 その頭の上の彼を落とそうと鎌が迫り、それを宙返りで避けたが、その鎌は魔物の頭に当たって高い衝突音が響き渡った。あの鎌ですら傷がつかないって、かなり硬いってことっ?

「手間がかかるな!」

 そう言ってヘンリーさんはめげずに片手剣で斬り付けていくと、すこし頭が欠けたのか、破片が飛び散った。ずっと同じところを攻撃していればいつかは壊れるんだな!

 だけどその痛みに魔物は暴れ出し、ヘンリーさんは鎌に引っかけられて吹き飛ばされてしまう。

「ヘンリーさん!」

 壁に叩き付けられ、少しめり込んだ。私は彼が大けがを負ったんじゃ無いかとパニックになった。大声を出したことで魔物は私を標的にし、逃げるより速く鎌が私を襲った。

 でも、魔女は何者にも触れることが出来ないという特性のおかげで、空気に押されて地面を転がるだけだった。凍っているせいで部屋の中央まで転がってしまい、立とうとしてもうまく立てない。今まで魔物からはとにかく逃げていたから、いざとなって対処が出来ない。王国で戦っていたときも、すでに居た相手に遠くから攻撃していたから、こんな至近距離で戦うことなんて無かった。

 怪我一つしていないと言っても、怖くてまともに頭が働かない。

 また鎌が迫ったその時、その腕は地面に落ちた。

「悪いな、油断した」

 ゆがんだ剣であの腕を切り落としたようだ。ヘンリーさんはそのまま走り、そして胴体を真っ二つに斬ってしまう。頭と違って胴体は硬くなかったってこと?

 訳もわからず座り込んだまま倒れた魔物を見つめていたら、ヘンリーさんが頭をさすりながらこちらに歩いてきた。

「あ、ヘンリーさっ、けが、けがは」

 まともに話せなくてつっかえながら彼を心配したが、彼は血も出てないし大丈夫だと言った。吹っ飛ばされてめり込んだけど平気なんだ……ってちょっと驚いている。

「剣が壊れるからと力を制御していたんだが、そのせいでこの体たらくだ。すまない」

 彼の手に握られていた剣はかなり変形してしまっていて、今にも折れそうだ……って言うか何で折れてないんだろう。柔らかい金属なのかな。

「代わりにこっちを使うか」

 そう言って彼は鎌の部分を拳で叩いて割った。剣いらないんじゃないかな。

 良い感じに砕けて、持ちやすい破片になった物の持ち手を布で巻き、大剣のようになった。

「あの……拳で砕けるなら、いらないんじゃ」

 突っ込んでみたが、剣で戦った方がかっこいいだろうと彼は言った。ロマンはわかるが……ええ?

 そのまま先に進み、ダンジョンは下へ下へと下がっている。

 出会った魔物……氷のカエルのような魔物や、水晶の角をもつサイ、氷塊を投げてくる大猿などとも戦い、すべて大剣の餌食となった。ほぼ一発で仕留めてる。恐らくいい武器を持たせたら更に強くなるんだと思う。

 そして最後の部屋となり、中に入れば以来のアイスミノタウロスがそこにいた。そして、その足下には冒険者だったであろう何かがいくつも転がっていて、真っ赤な血が凍った床を彩っていた。

「ひっ、うえ」

 他にもこの依頼を受けた冒険者がいたと聞いたけど、ここまで来て死んでいるとは思わなかった。手前の魔物がいたから、誰も来ていないと思ったけど、魔物の復活が早かったのか、それともかいくぐってきたのかはわからない。だけど、私は死体なんて見たこと無いから、恐ろしさと気持ち悪さに胸を押さえた。

「ミモは下がっていろ、踏み潰されたら一巻の終わりだ」

 彼は駆け出し、また脳天めがけて大剣を振り下ろすが、ミノタウロスの氷の斧と打ち合った。弾かれて背後に飛ばされた彼めがけてミノタウロスは大きな角で突進する。その角を大剣で防ぐが、壁まで押されて大きな音とともにミノタウロスは頭ごと壁にめり込んだ。

 ミノタウロスは頭を抜いて、荒い息を吐きながら辺りを見回しているが、ヘンリーさんはどこかに逃げられたのかと私も見回したが、見当たらない。逃げられなかったのか、と思ったら、ミノタウロスは穴に手をいれ、ぐったりとしているヘンリーさんを引きずり出した。

「ヘンリーさんッ!」

 大丈夫じゃない、全然大丈夫じゃない!

「ミノタウロスよ、縦に割れろ!」

 私は叫び、ミノタウロスは言葉の通り真っ二つに裂けた。おびただしい血が辺りを塗らし、私はミノタウロスの手から落ちていく彼を受け止めようとしたが、弾かれヘンリーさんは血溜まりに落ち、私は血で滑って尻餅をついた。血が邪魔をする、ふざけるな。

「ミノタウロスの血よ消えろ!」

 すると地面を彩っていたミノタウロスの血は無くなり、凍った床が現れた。なんとか立ち上がり、ヘンリーさんに駆け寄り呼びかける。出血も無いみたいだが、あれだけ大きなモノに突進されたから、怪我をしていないとは言い切れなかった。

「ヘンリーさん! ヘンリーさん!」

 何度呼んでも目覚めない。どうしよう、どうしよう。

「ミモ……」

 小さくヘンリーさんは私の名をつぶやいて、そして目を開けた。

「すまん、また油断した」

 横になったままニコッと笑い、無事だったとわかって私は泣いた。死んじゃうかもって思った……

「オレは身体が丈夫なんだ、これくらいなんてことない」

 よっこらと身体を起き上がらせ、なんともないと笑ったけど、本当に心配して涙が止まらなかった。

「しかし、ミノタウロスが何でこんなことになってるんだ?」

 ヘンリーさんは起き上がってミイラのようになってしまったミノタウロスを見下ろす。血よ消えろと言ったから身体の中の血液もすべて消えてしまったみたいだ。

「ウィンドカッターで、斬った」

 通常ウィンドカッターはかまいたちのようなモノで、こんな大きなモノは切れないんだけど、使用者によっては切れる。例えば魔法騎士団長のベルディさんとかなら、恐らく出来ると思う。

「ミモは強いんだな! いつもオレが先走るから出番が無かったが、すごいな!」

 彼は大きく笑い、大剣を拾ってきてミノタウロスの角を切り落とした。これで任務完了だ。

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