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国滅ぼしの魔女  作者: 29はるまき
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逃避行

王国を滅ぼしてから半年、遠い遠いどこかもわからない大陸で、私はローブで目元を、そして口元を隠すようにスカーフで覆い顔を隠してギルドの冒険者になった。

 なぜ冒険者をしているのかというと、お金を貯めて、帰る方法を探す依頼をするためだ。

 あの王国に居たときは帰る気が無かったので探していなかったが、大罪を犯してしまった私は元の世界に帰るしか安息の地は無いだろう。こんなに遠い地でも半年経ってようやく「とある王国が魔女によって滅ぼされた」と言う噂が流れてきたくらいだ。逃げ場は無い。

 幸い、私の顔を知っている人は少ないので、顔だけで発見されることは無いだろう。だが、もう怖くて顔を人前で出せなくなった。会話も殆どしていない。

 罪悪感で眠れない日もあるし、魔女だとばれないようにするのも大変だ。触れようとするだけで、触れない私を魔女だと認識されてしまうから、人混みでもぶつからないようにし、なるべく避けた。

 一つの街にずっと滞在するのも危険だと思い、すぐに移動している。野宿してお金を使わないようにしているけど、依頼を出す為のお金は思ったほどたまらない。なにせ、危険な魔物を討伐してギルドに出せば、私が強いと思われ、そこから魔女だと知られる可能性もあるから地道に薬草を採っているのだが……一日銀貨一枚くらいが平均……パンを買うのも銅貨五枚だから残るのは銅貨五枚……依頼は登録料金貨二枚、懸賞金に金貨三枚で合計金貨五枚。Aランクの冒険者向けの依頼を出すとなると、懸賞金は最低でも金貨三枚からになると言われた。異世界への道なんて、ちゃんとしたランクの人ですら見つけることが出来るかわからないので、どうしてもこの金額になってしまうのだ。

 このペースで働けば、一年半で目標金額に到達できる。もう半年で金貨一枚に銀貨四枚貯まったから順調だ。あと一年耐えれば依頼を出せる。

 私はそうやって節約しながら魔物も取って食べたし、生えているものも食べられそうなものは食べた。でもお腹を壊すことは無くなんとかやっている。

 風呂もお湯は作れるので寒くは無いが、石けんはないので身体は水洗い。でも誰とも会わないし、受付の人と話すくらいだから、大丈夫。

 こうして今日も日課の薬草取りをしている。この村の近くには岩山があり、その険しい山の上に薬草が生えているのだ。他の森の中だと魔物や野生動物に食べられていることが多いので、品質と密集率を考えてもこちらが一番穴場であった。

 薬草は採りすぎてしまうと増えないので、なるべく見える範囲二割くらい残すようにしている。このおかげでこの村で一日平均銀貨一枚と銅貨四枚もらえているのだ! なんて良い村なんだ。

「おい聞いたか、最近ロックウルフの群れが荒れ地に現れたらしいぞ」

「マジかよ。でもまあ、荒れ地って結構離れてるし、森には来ない個体だろ? 岩食うし」

「じゃねえって、はぐれた個体を狩りに行こうぜってことだよ!」

「おおいいじゃん、いこうぜ」

 いつもの薬草の依頼を受けていると、他の冒険者の会話が聞こえた。でも私には関係ない内容だからそのままギルドの外に出て森に入り、そして空を飛んでいつもの岩山に到着。

 私しか来ないので沢山とれるし品質はピカイチ。できる限りここでお金を貯めたいものだ。私はそう思いながら石に腰掛け、時間が経つのを待つ。あまりにも早く持って行くと変に思われるので、森の奥深くで穴場を見つけていると言うことにしている。でも本当に森の中に居ると魔物に出会ったり、冒険者と出会ったりするのでやはり避けるべきだ。

 日が大分傾き、ようやくギルドに薬草を持って行って報酬をもらう。今日も良い金額。だけどパン一個買うのが贅沢。あとは狩りをしたり生えてるものを食べるだけだ。

 今日も変わらない日常を終え、朝になってギルドで薬草の依頼を受けた。

「おい、ロックウルフが一匹も居なくなったそうだ」

「こんな田舎にそんな群れをやれるランクのやつなんていたか?」

「いやあ、なんだかんだここって人の入れ替わり激しいしわからんなあ」

「オレも昨日来たばっかで何もわかんないんだけど、なに?」

「昨日いたロックウルフの群れが――」

 興味が無いのでさっさと受付を終わらせてギルドを出る。いつもの道を進み、そこから飛ぶつもりだったが、なんだか少し変だ……森の薬草が一つも見当たらない。

 普段なら質の悪い薬草があちこちに生えているのだが……というか草が少ない。山羊でも増えたのだろうか。なんだか嫌な予感がして、急いで飛んで山の上に来たのだが……

「薬草が……食い荒らされてる……!」

 あちこち血だらけで、しかもいくつも魔物の死骸が落ちている。

 ――ロックウルフだ、ギルドの手配書の絵で見た。

 何かに襲われたロックウルフはなんとかこの岩山を上り、傷を癒やそうと薬草を食べたんだろう。だけど力尽きて息絶えている個体も多い……

 その死骸は岩の外皮に覆われているというのに、何かに大きく切り裂かれているようだった。風の魔法なのか、太刀なのか全くわからないが、私は穴場であるこの薬草を採ることは出来なくなった。

 すべて食い荒らされてるとなると、復活するまで一ヶ月は必要だ。そんなに待てない……

 私は森に戻って薬草を探すも、ほぼ見つけることが出来ず、今日は銅貨二枚しかもらえなかった。これじゃあ無理だ……

「何落ち込んでんだ?」

 急に誰かが後ろから話しかけてきて、とっさに振り向いて横にずれて壁に背中をつけた。そしたらダークグリーンのオールバックで、顎にひげを蓄えた四十代くらいの男性がキョトンとしてこちらを見ている。オレンジ色の瞳は不思議そうに私を見つめていて、それから「ああごめんな」と謝った。

「急に話しかけてすまない、昨日くらいからこの辺に来たばっかで土地勘わかんなくってさ、誰かとパーティ組みたいなって思ってたらなんか落ち込んだ背中見えて、話しかけたってわけ」

「パーティ組みません、さようなら」

 小声で足早に去ろうとするが、長い足で私の前に滑り込んできて行く手を阻まれる。男性は依頼書をもって銀貨八枚の報酬だと言った。半分に分けても銀貨四枚はおいしすぎるけど……!

「オレは魔法が使えないんだが、背中を守ってくれさえすれば良いから、魔法使いについてきて欲しいんだ。キミは魔法使いだろう? オレの分の報酬は銀貨一枚で良いからさ、頼むよ」

 男性はそう言うが私は全部ノーで答える。でも男性は困ったなあと頬をかいて、辺りを見渡す。今日はギルドに誰も居ない。なぜかは知らないけど誰も居ない。

「ああ、いつもの皆さんは大型の依頼を受けて南の湖に行かれましたよ。確かヌッシーがいるとかなんとかで、どこかの貴族が生け捕りにしろと依頼を出されて」

 ヌッシーてなんだよヌッシーて。そんなくだらないもののためにみんないなくなってしまうなんて……

「その依頼にあなたも行けば良いじゃないですか」

「依頼はもう定員オーバーだ、だから困ってるんだ。オレはまだDランクだからソロで討伐もキツいし、今はダンジョンの依頼しか無いんだ」

 確かに、依頼の張り紙をみるとすべてダンジョンの依頼になっている。薬草もあるけど、食い荒らされてるので進行不可だし、今はこれしか無いと言えばそうだ。他の街に行くというのも手だけど……この男性は助けてくれよおと嘆きはじめてしまったから、仕方なくパーティを組むことにした。

「でも条件があります、私に三メートル以内に近付かないでください、絶対に触らないでください、男性は嫌いなんです」

「嫌いなのにパーティ組んでくれるって優しいなあ、オレはヘンリー! よろしくな」

 ヘンリーさんはニコニコと微笑み、片手剣を見せてこれがオレの武器だ! という。正直ぼろっちくてなんかちょっと剣が曲がってる。多分安物だと思う。装飾も剥がれてるし……彼の服もちょっとボロくて、あちこち小さな穴があった。最低限の鎧も着けているけど、穴が開いていたりへこんでいたりと見てくれが悪い。服も買えないとなると結構弱い人かもしれない、私が守るってなったら本当に困るんだけど……

「あの、ダンジョンに入って、危険だと感じたら私は抜けますから!」

「わかったよ、リーダーは任せるよ。で、お嬢さんは何属性?」

「……風」

「いいねえ風! じゃあいこうか!」

 依頼を受けてダンジョンの入り口へと進む。岩肌に扉があり、その中にダンジョンがあるのだという。

 私はそういうのを受ける気は無かったので、基本的な知識があんまり無いと言っても良いだろう。それなのにこんな頼りない人と一緒にダンジョンとか……心配だ。

「そういえば名前聞いてないな、なんて言うのかな?」

 扉の前で思い出したように名を聞いてきたヘンリーさん。私は目を合わせること無く小さく言う。

「……ミモ」

 ミモリと全部言う気になれず、ミモで止めた。情報はあまり漏らさないほうがいいだろうし。

「ミモ、よろしくな! じゃあ出発だ!」

 元気よく扉を開き、中へと進んでいく。中は洞窟なのだがとても広く、石で組まれた城のような建造物が佇んでいた。

 入り口と思われる大きな扉があり、そこに入ると青白い炎が篝火となっている長い廊下につながる。そして奥からは何かのうなり声がして、縄張りに入ってきた我々に威嚇をしているのだろうか。

「うーん、大きな魔物がいるみたいだな、オレが先頭に立つからついてきてくれ」

 ヘンリーさんがそう言って剣を抜き、そしてスタスタと恐れること無く進んで行ってしまう。私は彼が怪我をしないかヒヤヒヤしながらあとを追う。するとアイアンパンサーという鉄の身体をもつ豹が一体見えた。狭い通路での戦闘だから、前だけを見ていれば大丈夫かな……?

 そう思ったと同時に、アイアンパンサーは壁へと走りヘンリーさんに横から襲いかかった。まずい! と思ったが、ヘンリーさんは曲がった剣で顎の下から脳天にめがけて一突きにする。一発で絶命させ、剣を引き抜きこびりついている血を振るい、遠心力で地面に落とした。

 ――この人、思っている以上に強い?

「いやー、まさか横から来るなんて驚いたよ! 一撃で仕留められて良かった!」

 鉄の身体であるそれの脳天を突けるってかなりすごいことなんじゃ無いか……? いや、でも確か魔法なしって身体能力が高いって聞いたから、すごい怪力なのかもしれない。

「さあいこう、まだ奥に道はあるよ」

 ヘンリーさんはニコッと微笑み、そして先へと進んだ。その先には階段があって、上ってみると左右に道が分かれていた。

「どっちだと思う?」

 ヘンリーさんが聞いてくるけどそんなの知るわけも無い。

「じゃじゃーん、ダンジョンマップ! 更に上に行くには左だそうだ!」

 地図を持っていたらしく、それをハイと渡された。道案内よろしく! といって彼は進んでいく。

 進んでいけば今度はコウモリの羽の生えたワニが天井に張り付いている。キメェ。それが落下してきてすごい早さで突進してくるが、ヘンリーさんはぴょんと跳んで避けてその背に乗ったら、難なく首を切り落とした。

 早すぎる。彼がDランクっておかしいんじゃ無いか? いくらDランクの依頼が最低限といえども、ダンジョンはまた勝手が違うはずだ。ほぼ必ず魔物と出会うし、強さも奥に行くにつれて上がっていく。ホントにDランクの人?

「どうした? 怖いのか?」

「え、いや、なんでもない、です」

 いや、今は依頼を終わらせることを考えよう。彼が強いなら逆に良いじゃ無いか。

 そして地図を見ながら上へと進んでいき、道中に出会う魔物もすべてヘンリーさんが倒してくれたので、私は何もしていない。これ本当に私必要だった?

「あ、この扉の奥が最後です」

「ダンジョンの主がいるぞ、さすがにオレ一人じゃ危険だから、今回は補佐を頼むよ」

 中に何が居るのかは知らないが、ゆっくり鉄の扉を開けば、玉座のような石の椅子に下半身は蛇、上半身は女性のようで目玉一つの口の裂けた魔物が休んでいた。

「ラミアか。アレはすばしっこいし噛まれると毒でやられるやっかいな相手だ。いくぞ!」

 ヘンリーさんは駆け出し、ラミアに斬りかかるが、ラミアはするりと横へと逃げていく。だが、長い胴体が逃げるさまにヘンリーさんを弾き、彼が受け身を取って着地したと同時にラミアは飛びかかる。

「ラミアよ上に吹き飛べッ」

 小さく素早くそう言えば、ラミアは高い天井へと飛ばされて叩きつけられる。そして落下してくるラミアへ、ヘンリーさんが剣を振るい、首を切り落として戦いは終わった。

「任務完了だな! 依頼主はラミアの瞳が欲しいと言っていたから、この頭を持って行こう。さっきは助けてくれてありがとうな」

 彼は笑い、麻袋のようなものにラミアの頭を突っ込んで私達はダンジョンを出た。ギルドに行けば状態の良いラミアの頭を買い取って銀貨八枚を手に入れた。彼は最初に言ったとおり一枚だけ受け取り、私の手元には七枚の銀貨がきた。

「あの、半分で良いです……わたし、あんまり何もしてないし」

 受け取れない。殆どヘンリーさんが戦っていたというのに、私が殆どの報酬をもらうなんておかしい。

「そんなこといわないでくれ、最初の約束がそうじゃないか」

「でも」

「じゃあ、次の街に行こうと思ってんだけど一緒に行ってくれないか? その付き添い代ってことで」

 そんなこと言われるけどやっぱり返したいし、なんでそんなにパーティ組みたいのかわからない。この人強いからラミアも一人で十分だったと思うし……

「……実を言うとさ、一人旅ってさみしくてさ、しかも女の子と一緒なんて最高だろ? だからミモに頼んでるんだよ、お願いだ!」

 下心がありますと正直に言うところ、この人はなんだか頼れるのか情けないのかさっぱりわからない。しかもいい年のおっさんがさあ……いや、元の世界でもこういう人いっぱい居るような。

 ……元の世界に戻るためにも、お金を貯めないと行けないのもあるし、この銀貨は受け取ろう。

「わかりました、次の街まで一緒に行きましょう」

 どのみち、私一人で出来る依頼はもうない。


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