騎士団の人たち
ようやく城に戻ったが謁見の間に通され、そこでは王の他に兵士も沢山居てなんだか雰囲気が怖い。赤と黄色の二色のスカーフ、それぞれ左右で分かれて並んでいて、黄色がローブや杖、赤が剣や槍を持っていた。恐らく魔法騎士団と騎士団なのだろう。一直線に引かれた広いレッドカーペットを踏まぬように並んでいる兵達の真ん中を歩いて王の下へと進めば、王は冠を取り深々と頭を下げた。
「魔女様のお力は凄まじいものだったと兵から聞きました。一瞬で焼け野原にし、魔物達を屠ったと。我が国は安泰です、本当に感謝している。これからも我が国をお守りください、何かあればすぐに付きの者に伝えれば何でも差し上げましょう」
王はニコニコと微笑み椅子に腰掛けた。無理に敵国を攻撃してくれと頼んでこないから、悪い人じゃ無いみたいだしホント安心した。欲しいものは何でもって言われても、正直欲しいものなんて特にないので、この国で自由に歩き回りたいと言えば、お好きにと頷かれた。
こうして今日は解散となったが、戻ろうとしたとき胸にこの国の紋章を付けている先頭の兵達の眼光がなんだか威圧的で、友好的には感じなくて早足で部屋を出た。
しばらく部屋にこもっていたが、夕方になりそうな時間になって外を歩きたくなり、フードをかぶってクワエプさんからお金をもらった。金貨一枚と銀貨五枚、銅貨十枚。物価とかさっぱりだから、外に出て屋台とかカフェなんかで覚えていこうと城を出た。
夕方の街は賑わっていて、夕飯の買い物をしている婦人が多く見られた。私はあちこち歩いたが、誰も私が魔女だと気がつかないのか声をかけてくることは無かった。
適当に少しきれいめなお店に入れば、紅茶のいい匂いとお肉の焼ける匂いがした。きゅうとお腹が鳴ったので、この店で食べることにした。メニューを開いてみたが、文字は異世界なのに不思議と読めた。まあ、言葉が通じていると言うのがもう異世界チートなのかもしれないが。
メニューには豚肉のキノコソテーとドマルにんじんのスープ。アスパラガスのグラタンなど、普通に私の世界の食べ物が書かれている。食材も似ているのはありがたい。
私は豚肉のキノコソテーとにんじんのスープ、そしてハーブティーを頼んだ。値段は銀貨二枚と銅貨五枚。
お茶をもらってハーブの香りを楽しんでいたら、少し乱暴にドアが開いて甲冑の音とやる気の無いうめき声のような者が聞こえ、大人数が来店したのか足音が多い。私はカウンター席に居るので店内に背を向けているから見えないが、店が小さいから声はしっかりと聞こえる。
兵士達が着席すると、オーダーはいつも同じらしく、店員にいつものでいいですか? と聞かれ、先に酒くれとテノールの声色の男がそう言った。
「ベルディ団長……いいんですかこのままで」
一人の男がそう訴え、団長らしき男が笑った。
「いいじゃ無いか、魔女がいたって。我々騎士団はお払い箱になろうがオレはかまわないさ。それに、魔女けっこうかわいい子だったじゃん。あーいうタイプの子って結構押しに弱いと思うし、オレちょっと押してきちゃおっかな、かわいかったし」
「団長は見境なさ過ぎます! 魔女ですよッ? しかも一帯を焼け野原にして魔物も一瞬で消し炭にしたって! やはり危険です!」
「でもよ、逆に刺激して魔女の機嫌を損ねたら、オレ達殺されるかもしれないじゃ無いか……」
「んー、彼女、シークラックとの戦争には加わらないって言っていたから、人に危害は加えないと思うよ?」
「そんなの信用できませんよ!」
「俺に任せておけって。オレならどんな女の子でも口説き落とせるからな」
「団長そう言ってますけど、この前女口説いてひっぱたかれてませんでした?」
「ぐわああ見てたのか! 違うんだモテるんだけど一人って決められないって言ったら怒らせちゃって!」
「団長……」
なんだか店内は私の話題で持ちきりになっている。しかもあんまりいい感じの印象では無い。私ここでばれたくない……でもまだご飯来てない逃げられない……
「コレマン団長だってそうでしょう! せっかく我々魔法すら使えぬ者が騎士団として戦っているのに、これまで沢山の犠牲を払ったというのにとって代えられるだなんて納得いきません!」
「いや、シークラックとの戦争には加わらないなら、オレ達はまだやれるってことだ、ねえ団長」
「…………」
「コレマン団長!」
「なあに、コレマンだって不服だが街が平和ならそれでいいんだよな。おいおい、そんなに一気に飲んだらすぐ潰れるぞー、誰がおぶって帰るんだ」
「お前」
「あいかわらずだなあ。あっはっはっは、いいよ飲もうぜ今日は!」
「ベルディ団長まで潰れないでくださいよ?」
背後はどんちゃんと騒がしくなり、みんな夕方から飲むんだなあなんて思いながら運ばれてきたお肉を口にする。うめえ。スープもにんじんがすりおろされててうめぇ。うめえ。
食事を終え、お金も払って足早に店を出る。その際にチラリと店内を見れば、金髪でポニーテールにしている顔立ちの整った青年とその部下であろう人たちが銀色の甲冑の男と肉を取り合っているのが見え、そして扉は閉められた。
赤と黄色のスカーフが一緒に飲んでいたので、とても仲がいいんだなって思った。団長同士も昔からの友みたいに接していたし、やっぱりこの国は良い国なんだなと実感した。
鼻歌交じりで城に戻り、今日を終えるのであった。