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国滅ぼしの魔女  作者: 29はるまき
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魔女の威力

 街に入るとき警備の人がいたけど、二人が「魔女様連れてきた!」って言ったらぎょっとして止めることも無く街に入ることをスルーしてくれた。止めなかったけどいいのかなぁ……。でも止められても困るしなぁなんて思いつつついて行けば、結構大きめな家に到着した。

 まず正門があって、庭には噴水ときれいな庭園。ドアは二枚観音開きでバルコニーが立派な三階建て。この子達結構いいとこの子供だったのか?

「おかーさんおとーさん! 魔女魔女! 魔女様だよー!」

「いたんだよホントだよー!」

 ドアを開けて中に入るやいなや大騒ぎ。貴族らしいコルセット付きのドレス姿の母もメイドさんも駆けつけ、そして私を見て少し顔が強ばっていた。チートと言われる魔女連れてきたとなれば普通はやったー! じゃなくて、害は無いかどうかが心配だよね。

「えっと、初めまして……稲葉美森と申します。旅の途中で迷子になっていたところこの子達に助けてもらいまして、無事にたどり着くことができました、ありがとうございます」

 お母様に深々と頭を下げれば、子供達は「稲葉美森っていうの? お名前きいてなかった!」とわいわい騒ぐ。

「稲葉が名字で美森が名前だよー」

「名字あるから魔女様は貴族なんだな!」

 どうやら貴族以外は名字が無いらしい。昔の日本みたいなもんだ。

「魔女様のお役に立てたなら光栄ですわ。わたくしはノフィラスと申します、クープベル家にようこそ」

 スカートをつまんで洋風の挨拶をし、こちらへの警戒心は薄れてくれたようだった。それからお茶まで出してもらって更にこの世界の話を聞いていく。今回は大人もいるから難しい質問もできるだろう。

この世界の魔女の立ち位置を教えてもらったが、チート故に国が自国を守る為に手中に収めたいのだとか。この世界には魔女は七人居て、そのうちの四人は国に属しているらしい。その他の魔女は好きに生きているらしく、どこに住んでいるのかも不明だが、世界を放浪している者や、たくさんの男を自分の城で飼っているとかの噂もあるし、魔女はわからないことが多いようだ。生まれる条件も不明だし、長寿なようで長年国を治めている魔女も居るという。それが最強と名高い北の魔女だというが、特にどこかへ攻め込む気も無いようで、おとなしい国だそうだ。

 だが、遙か昔には魔女の怒りで大陸が分裂してしまったこともあったらしく、天災として恐れられている地域もあるらしい。

 そして、このクロバハール王国は建国千年の歴史を持っているが、隣国のシークラック王国との争いが五百年もの間絶えないらしい。お互いに剣や魔法で戦ったり、魔物を誘導して襲わせたりと、段々戦火が激しくなっているらしい。でも、お互い永遠に戦争しているわけには行かないので、秋と冬は作物の収穫や冬への備えなど、両国でその季節は苦しいとのことで戦わないという条約を三百年前に交わしているそうだ。そして、今がその秋の季節で戦は止まっているのだ。良かったよ、戦争中に来なくて……でも、もしかしたら私巻き込まれるんじゃ……

 そう不安に思っていたとき、玄関の扉が勢いよく開き、ひげを蓄えた細身の男性と黒い甲冑の集団が家に入ってきた、

 私を狩りに来たのかもしれないと思って立ち上がり後ずされば、細身の男性はいやいやと攻撃の意思がないことを示し、後ろの甲冑の集団も武器を構えていないことを確認して私も動きを止めた。

「あなた、おかえりなさい」

「ただいまノフィラス。ああ、魔女様、魔女様がうちに来ていると聞いて飛んで帰って参りました。私はこの家の当主ツゼオンと申します。宮廷画家もしております」

 全員跪いて私は慌てた。こうも崇められるのはくすぐったいものがある……

「王が是非とも魔女様と良い関係を結ばれたいと申されておりまして、是非とも城まで来ていただけませんか。馬車も用意いたしました」

 ツゼオンさんはそう言ってパチンと指を鳴らし、そして背後の兵達がレッドカーペットを馬車まで引いていく。うわあああなんだこの待遇! こわい!

「ささ! どうぞ!」

 仕方が無いんで馬車に乗って城に行くことを決めた。お金も何も持ってないし、王様保護下にあった方が私もうごきやすいだろうから、会ってみよう。

「魔女様いってらっしゃい!」

「またねー!」

 子供達は無邪気に手を振り、私も馬車の窓から手を振り返して、馬車は城へと走り出した。

「いやあ驚きましたよ、魔女様がうちにいらしているなんて。王はこの国のためにずっと魔女様をお捜しでした」

 この国のためって、多分戦争関連だろうけど……私人殺しとかしたくない。

「私……戦いとかは、困ります……」

 するとツゼオンさんは困ったような顔をして、「そうですか……」と唸り、「まあ、王や大臣とお話してください。私はただの宮廷画家ですから……」とそれからは口を閉ざしてしまった。

 窓から街の風景を眺めていると、中世のヨーロッパに来ているような感じで、映画の中に入ってしまったかのような気分を味わいながら城へと到着するのであった。

 城の中へと入れば、沢山の兵士が縦に並んで道を作っている。なにこれこわい。

「魔女様、あの奥の扉が謁見の間です、参りましょう」

 ツゼオンさんがそう言って前を歩き、重苦しく、そしてきらびやかな金と宝石の装飾の扉を開けば、国王が王座に座っている。そして私を見るやいなや立ち上がり、大臣と一緒にこちらまで歩いてきた。

「魔女様、お目にかかれて光栄です。我が国へようこそ、我が国は魔女様を歓迎いたします。私は国王、メノドギオスと申します」

 王様まで頭を下げる魔女の存在ってとんでもないんだなって思った。確かに歴史の中で大陸を分裂させた怖い魔女も居るくらいだから、下手に刺激したくないんだと思う。

「魔女様の望むモノはできる限り用意いたします、なので、その代わりにこの国を守って欲しいのです」

 大臣とともに深々と頭を下げられて、慌てながらも私は了承することにした。

「おお! この国に残ってくださいますか! では新たな城を建てましょう! それまでこの城の一番大きな部屋を差し上げます。おい、魔女様の部屋を用意だ! そして食事の準備を!」

「し、城はいらないです。お部屋も大きいモノじゃ無くていいので……」

「なんと慈悲深い!」

 どうやら何言ってもプラスになる気がしたので、そのままおとなしく口を閉じて、そして燕尾服の中年な使用人、クワエプに案内された部屋は金銀財宝宝石ギラギラの室内……家具やらもキラキラ輝いてる。王様の部屋というか成金の部屋というか。

「王宮中の最高の家具を集めました、ご覧くださいこちらの姿見も銀製で、縁にはあらゆる宝石をちりばめ、ベッドも金で作られており、シーツは最高級のグッムシルクを……」

「あの、もういいです、ありがとうございます」

「ああでは魔女様に似合うように御洋服を仕立てますので、仕立屋を呼びましょう。私は外で待っております」

 パンパンと手を叩けば、仕立屋さんが入ってくる。全員女性で、どのデザインにしましょうかと見せてくれたデザインはほぼ全部中世のドレスで、コルセットでぎゅっと引き締めそうな感じだし、パニエとか何だの入れてスカートを膨らませている感じのと、ロングワンピースドレスで横に長めのスリットが入っていた。似合わねーよ。

「あの……今着てる服みたいなの作ってもらえませんか」

「仰せのままに」

 結局そのほかは私が自分で服の絵を描いて、ミニスカートとカーディガン、パーカー付きロング丈のシンプルなワンピースを頼んだ。

 そして今度は食事の準備がされて、音楽隊と一緒に部屋まで豪華な料理が運ばれてきた。肉も大きくローストビーフみたいだし、グラタンのようなものや、新鮮そうなサラダと、オレンジ色のスープはエビの香りがし、奥にはぷるんと水色のゼリーみたいなものもある。全部食べられる気がしません。

 ナイフとフォークが置かれているけど、テーブルマナーとかはあんまりわからないからビクビクしながら食べるが、音楽隊の流す音色以外、誰一人音も発することは無かった。こわい。

 とりあえず食べ終わり、おなかは膨れて満足である。しかも水色のゼリーみたいなもの、バニラ味だった……ふしぎ。

 満腹でおなかをさすっている居ると、ソファでおくつろぎくださいと案内されて、ふかふかの大きなソファーに身体を沈める。ああ、至れり尽くせり。そしてメイドさんがしばらくしたら仕立てた服と湯浴みの準備が整うと言ってきて、服早くね? ってびっくりしたら、王家御用達の仕立屋は一着に総出でかかるため、半日もかからず服を作るらしい。あと魔法も使いながらだから早いんだとか。確かに物を浮かせられる魔法や切る魔法があれば楽だよな、と納得。

 それから湯浴みの時間になったのだが、メイド総出で身体を洗われそうになり、私に触れようとしたメイドの手が軽くはじかれ、私は触れられないと言うことを思い出した。全員を追い出し、なんとか一人でお風呂に入ってる。

 そうだよな、貴族や王族って自分で身体洗わないんだよね……

 バスタブから出てふかふかのタオルで身体を拭いて、用意してもらっていた下着を身につける。胸は紐ブラか……しかたない。そして仕立てほやほやのロングパーカーを着てベッドにダイブした。なんとかシルクというこの布生地は本当に肌さわりがよく、心地よくてそのまま眠ってしまった。

 

 目が覚めたらシーツにくるまってベッドの下に落ちていた。異世界に着たのが夢じゃ無かったんだなと思うと同時に大きなあくびをしたら、メイドが私を起こしにやってきた。ぬるま湯で顔を洗って、カーディガンとスカートを履いて髪も整えられ、食事の時間になる。パンと魚のソテー、サラダとスープ……高級感あふれる食事だ。

 食事を進めていると、コンコンとドアがノックされ、昨日の使用人クワエプさんが顔を出した。

「魔女様、この後の予定なのですが、王が大臣とともに先の話をしたいと申されております」

 先の話……まあ、私の仕事よね。ここまで至れり尽くせりしてもらったんだから、何かしないとね。

「わかりました」

 そう言うと一礼してクワエプさんは去って行った。それから食事を終えて会議室に通され、騎士とお偉いさんが沢山居るので空気だけでなんだか圧倒されそうだ。

 大臣達は次々と挨拶をしてきて、それを返しつつ私も椅子に腰をかけると、王がコホンと咳払いをする。

「魔女様はシークラック王国のことはご存じですかな」

「あ、はい。確かこの国とはあまり関係が良くないとか……」

 恐らく戦って欲しいと言ってくるかもしれないけど、それは断る。人を殺すのだけは嫌だ。

「できれば私達のために戦って欲しいのです」

「やっぱり……」

 思っていたとおりだったから思わず声が漏れてしまった。

「……申し訳ないのですが、私は人を傷付けることはしたくないので……」

 ……そういえば私はどれだけのことができるのだろうか。子供達の濡れた服は乾かしたりできたし、結構こう細かい願いが効きそうだが。

「そうですか……では、魔物の退治をお願いできませんか。最近魔物の群れがこの周辺を通り道にしているんです。シークラック王国が魔物をこちらへと誘導させている可能性があるのです」

 魔物……森で出会った感じのだよね。後は話だけだけど、山みたいにでっかい熊とか……

「それなら、がんばります」

 と、いうことで騎士達と一緒に山の麓にある駐屯地にやってきた。東のはずれのこの場所は、広大な大草原が広がっていてとてもきれいだ。遠くの方には森のようなものも見えるが、民家はこの街以外には見当たらない。

「ここから先は誰も住んでいないのですか?」

 隣に立っていた兵士に聞いたら、魔物に襲われる恐れがあるので、街以外には家を建てられないそうだ。ここの城壁は人だけじゃなく魔物対策にもなってるんだな。

「この平原を定期的に魔物の群れが通るのですが、その群れは街へ入ろうとこの駐屯地に攻め入るのです。ですが、ここだけでなく他の場所も同じ時期に魔物の群れが通るのです。騎士団も数を割って守りに入りますが、分散されているとやはり凌げども被害は出ます」

 そう話していると、なんだか地響きが聞こえてきた。兵達は魔物の群れが来たことを笛を鳴らして知らせた。遠くの駐屯地からも魔物の襲撃ありと、空を飛べる兵士が伝えてくれた。

「やはり同時に来ましたね。魔女様、お力添えをどうか……」

 私に色々教えてくれた兵士が頭を垂れ、続いて他の兵も頭を垂れた。やるっきゃない。遠くから聞こえる獣のうなり声を聞きながらぎゅっと拳を握る。

「恐らくあの鳴き声は真っ黒な三つ目のサーベルタイガーです。飛行兵が偵察して数も知らせてくれます」

 空を飛べる兵士は飛行兵というらしい。そして群れの居る空から一人飛んできて、数は二百と教えてくれた。

「二百だとッ? 更に増えやがったか……やはり群れを一掃せねばならん。魔女様、根絶やしにしてください」

 さらっと怖いこと言うけど、ここは戦場だ。私もどれだけ力があるのか試さないと。

 いよいよ群れがはっきりと見えてきた。距離は一キロくらいか。

 私は奴らを一掃するためにその文章を考えて、そして口にした。

「魔物の群れよ、宙に浮かび上がれ」

 その言葉とともに地響きは止まり、魔物達は宙に浮いた。これだけ離れていても十メートルほどは浮いているのがわかる。そしてそのまま言葉を続ける。

「燃えて塵になれ」

 ――刹那、私の目の前のものがすべて燃え上がった。魔物だけじゃない、目に入った草木、山も燃えている。

「ひっ、火よ消えろ!」

 塵になる前に火は消え失せ、魔物の群れはボトボトと地面へと落ちていった。だがあれだけ緑豊かだった大地が私のせいで真っ黒に燃え尽きてしまった。どの範囲まで燃やしてしまったのか怖くて仕方が無い。あまりの怖さに震え上がってカチカチと歯がぶつかり合った。

「な……なんて威力だ! ひ、飛行兵! 状況を確認しろ!」

「は、はい!」

 飛行兵は飛んでいき、魔物は全滅しそして五キロほど先まで燃えてしまったと知らせてくれた。

 横の山も半分ほど焼けてしまっていて、範囲を決めないと大変なことになると思い知った。今回は誰も居なかったけど、もし街などで間違えて何か言ってしまえば大惨事になるだろう。言葉は考えて言わないといけない。

「く、草木、大地、山よ、燃える前に戻れ」

 緑を戻す力は無かったようで、何も変化は起きなかった。もしかしたらけがや病気も治せないのかもしれない。魔女って主に破壊するだけの存在なのか。

「魔女様、お見事です。ここまで焼き払われたのは驚きましたが、魔物は全滅です。街は救われました」

 周りの兵達は恐れて後ずさるものもいたが、跪いてくれる兵の方が多くてちょっとほっとした。

「さあ、魔物の後片付けは我々にお任せを、城へとお帰りください」

 馬車に乗ろうとしたが、先ほどの炎で馬がずっと興奮状態らしく乗れなかった。仕方ないので兵達と一緒に歩いて城へ戻ることにした。

 先の炎のこともあり街は騒ぎになっていたが、魔物が倒され魔女様の凱旋と言うことで街の人々が歓声を上げていた。こんなに注目されるのは初めてだから緊張してしまって、胸元をぎゅっと握りながら唇をちょっと噛んだ。



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