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栗田さんの憂鬱な美少女生活  作者: 黒田如風


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『第1話 憂鬱な美少女生活 補足話』

『第1話 憂鬱な美少女生活 補足話』


 本来、第1話に組み込む予定だった内容です。

 話が一旦完結したので、第1話を再編集する予定でしたが、どうしても冗長気味になるので断念。

 そのまま未公開にするには惜しいので、公開する事にしました。


 第1話の中間。

 学校内『君が抱く甘い想いは全て、最悪のトラウマへと変わるだろう』


 から


 自宅内『「ただいま」』


 までの出来事です。

 お楽しみ戴けると幸いです。



================================



 校舎裏から駐車場へ。

 渡り廊下を抜け、グラウンド脇の街路樹へ。

 走っていた。

 いつの間にか。

 後ろめたい気持ちを振り切るように。

 脚力のバネは絶好調。

 体がとても軽い。

 スカートなので全力とはいかないが。

 見えた。

 正門の近くで見知った女子が数人。

 その中の一人がコチラに気付くなり手を振ってくれた。


「由喜ちゃん、走って来たの?」

「うん。待たせると悪いから」


 首を捻る宇垣さんに、額の汗を拭いながら答えた。


「木村さん。栗田さんに、どういうメッセージを入れたの?」

「栗ちゃんには先に帰るって、送信しただけだよぉ~」


 詰問を含んだ伊藤さんの視線に、木村さんは慌てふためきながら手を振った。


「私、少し離れた所にいたからさ。追いつくために走って来ただけ」


 あらぬ嫌疑を晴らすため、念のためコチラからも一声添えた。


「ねぇ、栗ちゃん。走った理由は、()()だけかにゃ~?」


 思惑を含んだ笑みを口元に浮かべながら、木村さんが顔を寄せて来た。


「また男子に告られたんでしょ?」

「………なんで知ってんの?」


 周囲に気取られないよう、細心の注意を払った筈なのに。


「木村ちゃんの情報網を舐めてもらっちゃ困るねぇ。今月に入って既に二人轟沈。もしかして戦果更新……かにゃ?」


 好奇心で尻尾を振るが如く、早く教えるが良いと迫るクラスメート。

 その脳天へ、背後から何かが振り下ろされた。


「ひゃいっ!?」

「あなた個人情報、詮索し過ぎ」

「痛ったぁ~いっ!! スマホで殴んなくても良いじゃんっ!」

「手で殴ったら私が痛いでしょ?」


 涙目の抗議に、伊藤さんは飄々《ひょうひょう》と答えた。


「それで、あの、その、栗田さんは、どうなされたんです?」


 恐る恐る上目使いな宇垣さん。

 丁寧な口調とは裏腹に、興味津々ですとばかりに頬がうっすら上気していた。


「歩きながらで良いかな?」


 どこで聞き耳を立てられてるか判ったもんじゃないから。


「では、行きませうっ!」


 皆さん付いて来てくださいよと、先陣を切る木村さん。

 はいはいと、眼鏡のつるを持ち上げながら後に続く伊藤さん。

 じゃぁ行きましょうと、なぜか並んで歩きたがる宇垣さん。

 ここ最近、気付くとこの面子めんつで行動していた。

 不思議な縁だなと思いながら。編入した時は、友達なんて出来ないだろうと思っていたから。


「結論から言うと、振った」


 学校の長い壁の端。角を曲がったと所でさっさと告げた。もったいぶっても何一つ得にならないから。


「ですよねぇ♪」


 予想的中と、先頭が笑顔で振り向いた。


「木村さん。他の人には言わないように」

「判ってます。判ってますよぉ~」


 そう言いながら『メールなら良いですよねぇ』とか、思っていそうだな。コイツは。


「今回の人は、何がいけなかったのですか?」


 さらりと深掘りして来る宇垣さん。ゴシップ好きなのではと内心疑っていた。


「私、単純で頭の悪い人は苦手だから」

「すると。告白されたの、嫌でした?」


 大人しい顔でグイグイ迫るな、この子。


「それが嫌じゃなかった。不覚にも胸が時めいた」


 本当に不覚にも、だ。


「栗ちゃん。それって相性が良いって事ではないのかにゃ?」


 それは聞き捨てなりませんねぇ、木村さんから鋭い突っ込み。


「肉体的にはね」


 ポツリと返した一言に、約二名の表情が凍り付いた。


「精神的には嫌いでも、体は別って事」

「そ、そ、そ、それって、どどどどういう意味でしょうかっ!?」


 多少は狙ったけど。一本釣りが如く、お隣が激しく食い付いた。


「はい、はい。宇垣さん、ちょっと落ち着こうね」


 もしかしたら、コイツが性格的に一番アレかもしれない。


「恋愛って何のためにすると思う?」

「へ?」


 教師に突然質問された生徒のように、宇垣さんは目を丸くした。


「栗ちゃんは、たまに哲学的な事を言いますにゃぁ~」


 器用に後ろ歩きをしながら、首を捻る木村さん。

 それらを興味深げに、そしてどこか楽しそうに伊藤さんは眺めていた。


「えっと。恋愛とは、その、生涯の伴侶を見付ける……ため?」


 お隣が赤面しながらのご回答。

 さすがに子作りとは、口に出せなかった模様。


「あぁ、そういう事ね」


 今まで黙っていた伊藤さんが、突然口火を切った。


「たとえ相手が好みじゃなくとも、子孫を残すのに相応ふさわしい場合、本人の意思とは無関係に肉体が反応する。精神的な思考は、うつわである肉体の都合によって幾らでも左右される。栗田さんは、そう言いたいのかしら?」

「ご名答」


 考察していた内容を見事に言い当てられ、苦笑しながら頷いた。

 男子から告白されて胸が熱くなる。

 理由があるとしたら、それしか考えられなかった。


「伊藤さんは、いつも指摘が鋭いね」


 他の女子とは別格というか、精神年齢が大人に近い気がした。


「あら。栗田さんには負けると思うけど。私よりも色々な経験をしていそうだし」


 微笑みながら探りを入れるような視線。この子が最も油断ならない。

 何か気付いているのではと、いつも冷や冷やしてしまう。


「ところで皆さん、このお時間はありますか? わたくし、カラオケで歌いたいのですが」

「この間、二人で行ったばかりでしょ?」


 木村さんの提案を、伊藤さんがたしなめた。


「いやぁ、あの時は喉の具合がいまいちでして。本日は絶好超ゆえ、リベンジでありますっ!」


 そういう問題じゃないと、深い溜息が漏れ聞こえた。

 カラオケか。

 良いなぁ。たまにはストレス解消に、心ゆくまで歌いたいけど。


「ゴメン、私は行けない」


 一抜けと頭を下げた。


「今晩の夕飯を作らなきゃ、いけないから」


 きっとマイクを握ったら、二時間くらいは止まらないだろう。


「進んで家の手伝いですか。栗ちゃんは良い子ですにゃぁ」

「いや、私ってお荷物だからさ」


 含みなしに答えたつもりだが、気まずそうな顔で木村さんは目を逸らした。


「あの、栗田さん。お買い物くらいのお時間はございますか?」


 宇垣さんが下から目線でお伺い。


「先週に教えて戴いた珈琲豆、とても美味しかったです。もし他にもお勧めがあれば買ってみたいのですが」

「買い物くらいなら大丈夫」


 我が家の備蓄もそろそろ底を突く頃だった。


「栗ちゃん、それって商店街のお店です?」

「うん。そこの角を曲がった先のね」


 対向車線側、遠くに見える通りの入り口を指差した。


「では、車がいない内に渡っちゃいましょうっ!」


 そう言うやいなや、木村さんは歩道から車道へ。


「待った」


 咄嗟に手を掴み、小柄な体を力付くで引き戻した。


「もう少し先に、横断歩道があるでしょうが」

「あそこ? 信号ないから、すぐに渡れないのでは?」


 市内を東西へ横断する道路だけに、通行量は格段に多いのだが。


「車なら止まる。絶対に」

「本当に?」


 首を捻る友人の手を引き、歩く事、約一分。

 四人が横断歩道へ立つと同時に、走行中の車が行儀良く白線の手前でピタリと停車した。


「止まりますねぇ」


 あら不思議と驚きの声。


「横断歩道で人が待っている場合、自動車は止まらないと交通違反になる」


 道路を渡りながら種を明かした。


「栗ちゃんは物知りですにゃぁ~」

「まぁ、勉強する機会があったから」


 約数ヶ月ほど、みっちりと。


「何か理由があったの?」


 私とても気になりますと、伊藤さんからの問い掛け。


「別に。役に立つかなと思って憶えた」


 あの時の知識や技術。有効に使う機会は今後暫くないだろう。


年明けに『エピローグ』を追加予定です。

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