夢の果てに求めしは③
文化祭。
クラス演劇の脚本を書いたから、後は何もしなくて良い。
その想いはアッサリと裏切られた。
「このクラスでの研究テーマは、五十年前の生活に決定しましたぁっ!」
放課後前のホームルーム
多数決の結果を角田さんが高らかに宣言した。
教室の隅々まで行き渡る声なので、司会としては適切な人選だろう。
演劇だけでは成果不足。
そんな事を、今日になってクラス担任の教師が言い出した。
言わんとする事は判らなくもない。
クラス全員が協力するとはいえ、負担の軽重が生徒によって大きく異なる。舞台で演技する役者は本番まで毎日練習だが、大道具なんかは一日仕事で終わり。
つまり、暇そうなヤツを集めて、もう一つ成果物を作れという事らしい。
「みんな面倒だと思うけどさぁ。家に帰ったら、家族の人に昔の話を聞いてみてよ。学校の生活とか、何が流行ったとか、何でも良いからっ!」
五十年前の事ねぇ。
携帯やスマホがなくて。
ネットやPC関連もなくて。
情報は新聞とテレビとラジオ。
コンビニはないけど、百貨店やスーパーマーケットはあった。
CDはないが、カセットテープは存在した気がする。
なんか俺一人で全部出来そう。
面倒だから、やらんけど。
「期限は三日。みんな~よろしくねぇっ! あと、栗田チャンは内緒の話があるから、後で校舎裏へ来るように♪」
壇上の角田さんより突然のご指名。
これ。
返答が必要なのだろうか。
呼ばれたら行くけどさぁ。
周囲のクラスメイトから突き刺さる視線。
最高に居心地が悪かった。
「栗田チャ~ン。何にする? 炭酸飲料? スポドリ? それともフルーツ系が好きだったりする?」
「角田さんと同じ物で良いよ」
校舎裏の手前。
渡り廊下横の自販機。
手渡される冷たいアルミ缶。
報酬先払いってヤツかな?
遠慮なく封を開けた。
「ごめんねぇ~。どうしても栗田チャンに相談事があってさぁ~」
「先日渡した脚本の件でしょ?」
演劇部用にと数日で書き上げた作品。
こういう事になるであろうと、完成した時点で予想済みだった。
「そうそうっ! それよっ! 最後、ちょこっとだけ直して欲しい箇所があんのよっ!」
「好きに変えて良いよ」
敢えて、ぶっきらぼうに言い放った。
「いいの?」
「良いよ」
「マジで、いいのっ!? 後から文句とか言わない? かなり変えちゃうよ?」
俺は首を真横に振ると、炭酸キツめの液体を喉の奥へと流し込んだ。
演じるは中学の文化祭。
楽しい内容でハッピーエンドが王道。
そう思い完結にまとめたのだが。
どうしても劇中、思い半ばで倒れる不幸なキャラが一人。話の根幹に関わるから削除や改変が不可能だった。
「角田さんが思う通りに改変して構わないよ」
脚本は劇を構成する一つの要素に過ぎない。
作品の趣旨に沿わないのなら、自らの手で改変すべきなのだが………。
俺も、宇垣さんと同じか。
「じゃぁ。私もう帰って良いよね?」
話していたら月経の痛みがぶり返して来た。
薬が切れたか?
「また明日」
さっさと帰宅して横に……。
「ちょっと待ってよ! まだアタシ話したい事があるんだからっ! もう少し付き合ってよぉ~」
逃がすまじと手首を強く掴まれた。
「明日じゃダメ?」
「今日が良いのっ!」
相変わらず押しの強さは天下一品だと思う。
「で? 何なの?」
溜息を吐きながら話を促した。
「実はチョー個人的な事なんだけど。もちろん栗田チャンについて何だけど。一応、確認した方がスッキリして、後腐れなくて、アタシ的にはハッピーって感じ何だけどぉ~」
早口で捲し立てるも、一向に本題へ入らない角田さん。
ほんのり頬が赤いような?
「いやぁ、栗田チャンが嫌なら答えなくても全然OKなんだけどさっ!」
「何でも回答するから、お題を早く頂戴」
今すぐ出せとばかりに、俺は右手を差し出した。
「栗田チャンってさ。その、三川クンと今、どんな感じなんよっ!?」
「………はぃ?」
よりによって、その話題?
「いやさ。そのさ。コクって来たのを振ったのは聞いてんのよ。でも、今の二人って良い感じだし。振った割りには良く話してるし」
「それは三川君から絡まれてるだけ。私から話し掛ける事はない」
「あぁ~そうなんだ。それ聞いてチョー安心した。付き合ってないんだ」
そういう確認をするという事は。
「角田さん。あの男と付き合いたいの?」
「当ったりぃ~♪ いやぁ、クチに出して言うの、やっぱ恥ずいねっ!!」
自覚症状はあるのか。
あと、これで一つ納得した。
今日、コンビの淵田さんが不在なのは、そういう理由か。
「あの男のドコが良いの? 背が高いから? それとも喧嘩に強いから?」
「もち、両方。やっぱ彼氏にするなら、男らしい方が良いっしょ? 見栄えもするしさぁっ!!」
「見栄えねぇ~」
一緒に歩いていると目立つとは思うが。
「それって、外見重視って事?」
「もちろんっ!」
「中身は? 本人の性格とかは?」
「別に。アタシその辺は気にしてないしぃ~」
キッパリと角田さんは涼しい顔で言い切った。
まぁ、外見から惚れるというのは良くある事だけど。
「アタシね。今まで彼氏を作った事がなくてさぁ~。一度くらい恋っていうのを経験したいんよ」
「それでアイツに白羽の矢を立てた………と?」
「そうっ! 見た目が最高だしさぁ~。正直、性格とか良く知らないけどっ!」
この話、三川君が聞いていたら憤慨すると思う。
ゴツイ体格だけどメンタル豆腐だから。
「性格、合わないかもよ?」
「そう? 付き合っていたら馴れるんじゃない? 男女の仲って、そういうもんでしょ?」
「どう……かなぁ~」
見合い結婚なら、あり得る話かもしれんけど。
「角田さんの好きにしたら? 私は邪魔するつもりないから」
「じゃぁ、アタシ頑張っちゃうねっ!」
「がんばれぇ~」
背中を押す気は更々ないけどな。
俺としては、三川君からアプローチが減るなら万々歳。
ただ、困惑するアイツの顔が、ありありと脳裏に浮かんだ。




